『人生上々』



「君は、僕が居なくても生きていけるね」

 ふと。
 何の前触れもなく。
 そんなことを、呟けば。
 棚から取り出した皿を、思わず落としてしまいそうに
なるから。
 ギリギリのところで、手を伸ばし押しとどめて。
 危ないなぁ、と溜息をつきながら。
 彼の手からそれを奪い、運んでいこうとするのに。
「ちょっ・・・待てよ、どういう意味だよ」
「何が」
「紅葉がいなくても、って・・・」
「そのまんまの意味だよ、龍麻」
 そう言って微笑う自分は。
 奇妙な程、落ち着いていて。
 だから。
 かえって、きっと彼の不安を掻き立てるのに。
「違うかい?」
「・・・・・そう、かもしれない・・・だけど」
 どうして。
 今。
 そんな、言葉をと。
「明日にでも、死ぬみたいな台詞・・・」
「人なんて、死ぬ時はあっけないものだよ」
 僕だって。
 例外ではない、と。
 しかも、常に死と隣り合わせである任務を。
 そういう仕事を、しているのだから。
「違うかい、龍麻」
 そうだけれど。
 だけど。
「確かに、明日紅葉が死んでも・・・俺は、生きていくん
だろうけど」
 でも。
 それは。
「・・・・・紅葉が、いない人生なんて」
「・・・・・」
「そんなの、つまらない」
 そう。
 告げるから。
 一瞬、言うなれば。
 鳩が、豆鉄砲を喰らったような。
 おそらくそんな、顔で。
 見つめ返してしまって。
「・・・・・そういう言葉が返って来るとは思わなかったよ」
「だって、つまんないもん」
 龍麻はといえば。
 少し。
 不貞腐れたような。
 様子で。
「そんな、つまんない人生、俺に歩ませるつもりか」
「・・・・・いや」
「だったら、勝手に死ぬな」
 あっさりと。
 その言葉で。
 言霊で。
「紅葉?」
「・・・・・迂闊に死ねないね」
 苦笑と共に、呟けば。
 目の前には。
 満足げに。
 微笑む。
 愛しい、人。
「今頃、分かった?」
 そんな、こと。
 本当は。
 とっくに、気付いていたけれども。
 時折。
 過る、闇に。
 どうしようもなく。
「・・・・・有難う」
「・・・なんで、そこで御礼になるわけ?」
 きょとんとして。
 見上げてくる、その。
 顔に。
 頬に、触れれば。
 温もりに。
 心の翳りが。
 消えていく。
「紅葉、御飯・・・・・」
 ふたりで。
 用意し始めた、夕食。
 これから、野菜を切って。
 それから。
 やることは、沢山あるけれど。
「・・・・・ごめん」
 でも。
 まず、は。
「・・・・・ッ」
 目の前の。
 甘い。
 さくらんぼのような。
「・・・・・紅葉、ッ」
 唇を。
 食べさせて。
「・・・・・困ったことになったよ、龍麻」
「な、に・・・」
 そして。
「足りない・・・・・全部、食べたい」
 多分、至極真面目な顔で。
 告げれば。
 まさか、という顔で。
 後ずさろうとするのを、絡め取って。
 抱き締めれば。
 すぐに。
 伝わる、熱に。
 コクリと、喉がなって。
「・・・・・お腹、すいたんだけど・・・」
「僕もだよ、だから」
 お預けは、なしだよと。
 囁いて。
 皿を並べる前で良かったと、こっそりと思いながら。
 テーブルに、押し付けるようにすれば。
「・・・・・死にそうな台詞、ほざいてた奴とは思えない」
「全くだね」
 零した溜息も。
 何処か。
 楽しげ、だから。
「生きている歓びを、味わうよ・・・存分にね」
 僕も。
 笑って。
 トクトクと脈打つ鼓動を。
 それを、確かめるように。
 首筋に、口付けて。

 生きている。
 生きていく。
 これからも。
 彼と。

 でないと。

 つまらない、からね。





壬生紅葉くん、御誕生日おめでとう記念SS(愛)。
いちゃいちゃ度が、ちと低めでアレですが(項垂れ)。
3度の飯より、龍麻。寝ても覚めても、龍麻なカンジで(悦)。
台所えっちはイイですね。小道具も揃ってるし、
トッピング(何)も色々と(微笑)。
おまけ(笑)♪