お約束なセリフだと、自分でも思ったけど。




「京一。お前、来週誕生日なんだって?」
 頭のすぐ上から降って来た声に、のろのろと
顔を上げる。
 そこには、ちょっと悪戯っぽく微笑む、綺麗な顔。
 好きで好きでたまんねぇ、龍麻の顔。
「あー・・・」
「もしもしー? ちゃんと起きてる?」
 つい見とれてしまって。惚けてしまったのを、まだ
寝ぼけていると取ったのか。
 ペチペチと頬を叩かれて。その触れる手の感触にさえ
鼓動が速くなる。
 我ながら、これは。
 かなりの、重症だと。
「今、小蒔ちゃんに聞いたんだ。で、月並みだけど
お前、何か欲しいものある?」
 欲しいものなら。
 目の前の。
「・・・・・ひーちゃん」
 ボソリと呟いた言葉に。
 龍麻の形の良い眉が、片方。微かに上がるのを、
ぼんやりと見つめながら。
「欲しいっつったら・・・くれんのか?」
 冗談っぽく。でも、しっかり本気で。
「・・・・・・・何だって?」
 やや自嘲気味に、口元は笑みの形に歪めながらも、
おそらく瞳は。真剣な光を帯びて、見つめていたから。
 そして、俺の呟きを頭の中で反芻したのだろう。
「俺が・・・・・欲しいのか?」
 確信。
 聞き返しながらも、きっと答えなんて分かり切って
いるのだろう。
「欲しい」
 そして、俺も直球で。
 そう、告げれば。
「・・・・・・・・・・今更・・・」
「何で」
「・・・ッだって」

   俺たち、一応「付き合ってる」のに?

 ちょっと動揺したように、大きな瞳を更にでっかく
見開いて。
 小声で、問うてくるから。
「・・・・・『清いお付き合い』だよな」
 そう言って。側に立つ龍麻を下から、探るように
見遣れば。
「・・・・・ッな、にを・・・・・」
 微かに、朱に染まる頬。
 ああもう。
 それだけで、もう無性に抱き締めたくなるのに。
 ここが、教室でさえなければ。
「・・・キ、ス・・・・・したじゃないか」
 周囲を気にしながら。尚も声を潜めつつ。
「そうだな・・・・・いっぱい、したな」
 キスだけなら。もう、数え切れないくらい。 
 だけど。
「でも、全然足りねぇ」
 キスだけじゃ。
 満たし切れない、それを。
「・・・・・俺じゃ、満足出来ないんだ・・・?」
 ふと。声も、その温度も低くなったような気がして。
「ひー・・・」
「だったら、前みたいにオネエチャンにでも、して
貰えば!?」
 慌てて立ち上がって。咄嗟に捕らえようと伸ばした
俺の手を擦り抜けて。
「・・キャ・・・・ッ龍麻・・・!?」
 教室の扉の所で、入って来た美里とぶつかりそうに
なりながらも、一瞬済まなそうに軽く手を挙げて見せた
だけで、そのまま走り去っていく。
 それを。
 茫然と、見送って。
「京一君、一体どう・・・・・」
「・・・・・何で、こうなるかなー・・・」
 追うことも出来ずに。
 机に突っ伏して。

 どうして分からないのだろう。
 どうして伝わらないのだろう。

 好きなヤツと、もっと触れ合いたい、のに。
 カラダだけじゃ、ないのに。

 どうして。
 同じ気持ちには、なれないのだろうか。

                       ◇Next◇