『共犯者』





 蔵が、ある。
 骨董品の店を営む者にとっては、大切な品物を保管
しておくには、やはり必要なもので。
 ここ、如月骨董品店にも、裏に大きな蔵を構えている。
 美術品から刀剣、様々な逸品が収められた、そこは。
 一種独特の空間で。
 家のもの以外は、立ち入ることさえ許されていない。
 そう。
 店主と、その妹以外には。
 彼、しか。


「・・・・ん、ッ・・・ふ・・・・」
 蔵の片付けを手伝って欲しいと。
 訊ねて来た、龍斗に請うて。
 快諾した彼を伴って、奈涸が蔵に入ってから、半刻。
 その、扉は。
 きっちりと、閉じられていて。
 外から様子を伺い知ることは、出来ぬよう。
 この、刻を。
 邪魔、されぬよう。
「・・・あァ・・・・ッ奈、涸・・・・」
 高い明かり取りからの、僅かな光だけが頼りの、薄暗闇の中。
 濃密な空気が。
 揺れる。
「ふふ・・・・もう、欲しいのか・・・?」
 闇に慣れ過ぎた、目に。
 その手によって乱された龍斗の肢体は、鮮やかに映って。
 仰け反る首筋にも、はだけた胸元にも既に。
 紅い所有印が、散って。
「も、・・・早、く・・・・ッ」
 幾度となく、繋げた身体。
 煽られた熱はあっという間に全身を支配して。
 あとは、もう。
 ただ、ひたすらに。
 快楽を追い求める、従順な躯が。
「早く・・・・どうして欲しいのか」
 言ってごらん、と。
 耳元で囁けば。
 ヒクリと。
 既に3本、奈涸の長い指を飲み込んだ蕾が、震えて。
「ほら・・・・こっちの、口で・・・」
 その様に。
 喉の奥で、笑いを忍ばせて。
 戦慄く唇を、促すように舐めてやれば。
 目尻に溜まった涙が、一筋。
 頬を伝って。
「・・・・・奈涸、の・・・が・・・・欲しい」
 震える手を伸ばし、殆ど乱れぬ奈涸の着物の。
 その、隙間から。
 張り詰めた肉剣を、誘うように握って。
「・・・・・これ、を・・・挿れ、て・・・」
 濡れた瞳で、そう強請れば。
 満足げに、笑んで。
「上出来だ」
 額に、口付けを落とし。
 散々弄んでいた指を引き抜けば。
 名残惜し気に、秘肉が絡んで。
「・・・・・ッ」
 喪失感に、震えるそこに。
 望みのままに。
 熱い塊を、ゆっくりと。
「んッ・・・・・あ、ァ・・・・」
 突き立てて。
 誘う内壁に導かれるままに、その奥へと。
 埋めて。
「・・・・・く、ッ・・・」
 何度、穿っても。
 挿入に慣れて、傷付くことはなくなった、今でも。
 初心の時と、殆ど変わらぬ狭さに。
 収めただけで、強烈に射精を促されるのを、堪えながら。
 そろりと、身を引いて。
 また、濡れた音を立てて、沈る。
 その間隔や角度を変えて、擦り上げてやれば。
 初めて抱いた時から、恐ろしく敏感な躯は、すぐに。
「い、・・・・あ・・ッ奈涸、・・・ッあァ・・」
 縋り付いて。
 そして、貪欲に。
 更に深い繋がりを強請る。
 それに、いつものように。
 応えようと、して。
「・・・・・何用だ」
 その動きを、止めて。
 ゆるりと、頭を巡らし。
 微かに、開いた扉。
 逆光で、その貌は見えなかったけれど。
「御愉しみのところ、申し訳ございませんが・・・・・
長沼様と仰る御方がお見えです」
 声は。
 紛れもなく、奈涸の妹・凉浬のもので。
 自分の下で身体を強張らせた龍斗を、宥めるように髪を撫で。
「今日、来るとは・・・厄介だが、しょうがない」
「あ、・・・・・・・ッ」
 ズルリと。
 龍斗の内に収めていたものを、事も無げに抜き出し。
 手早く、着物を整えて。
 つい今しがたまで龍斗を組み敷き、その躯を貪っていた雄の貌を
消し。
 涼しい顔で、何事もなかったように立ち上がり。
「あァ、君は・・・そのままで」
 慌てて身を起こそうとした龍斗を、制し。
 そして。
「な、・・・・」
 ふと。
 足元に落ちていた、龍斗の帯に目を止め。
 拾い上げると、それを。
 呆然と見遣る、龍斗の手に絡めて。
「奈涸・・・ッ」
「ここで、待っているんだ」
 傍らの、梯子の木枠へと。
 器用に、括りつけ。
「や・・・・嫌だ・・・解いて・・・ッ」
 請う声を、背に。
 扉のすぐ外で待つ、凉浬の元へと歩み寄り。
「夕刻まで、留守にする」
「はい」
 そして、ゆっくりと。
 乱れた着衣のままの、龍斗を振り返り。
 さも、優し気に。
 微笑みかけて。
「それまで・・・・・お前に、任せる」
 その、言葉の。
 真意を、すぐには計りかねたのか。
「それ、は」
 やや、躊躇いがちに。
 それでも、真直ぐに兄を見上げて。
「私の好きにさせて頂けるということですか」
 探るような、問いに。
 奈涸は、唇の端を吊り上げて。
「・・・・・満足させてやってくれ」
「・・・はい」
 軋んだ音を立てて。
 扉が、閉じられる。
 再び訪れる、薄闇の中。
 変わったのは。
 強張った表情で、身を小刻みに震わせる龍斗を、見下ろして
微笑みかけているのが。
 兄から、妹へと。
 その役割を、手渡したという、こと。
「龍斗さん・・・」
 愛おし気に、名を呼んで。
 傍らに、跪き。
 やや蒼白な頬に伝った涙の後を、そっと辿りながら。
「やっと・・・・貴方をこの手に」
 その微笑みは。
 壮絶なまでに。
 龍斗を捕らえて。

「私が、貴方を抱く」

 それは、どこか。
 血の繋がりを、強く感じさせた。