ずっと、こうしたかった。
 彼を。
 この手に、抱きたかった。


「・・・・凉、浬・・・ッ」
 覗き込めば。
 怯えたように、まだ余韻に濡れた瞳を揺らして。
「・・・私が、怖いのですか・・?」
 肌を曝し、手を戒められた無防備な状態で。
 羞恥からか、それとも知らず怯えているのか。
 微かに震える身体が。
 ひどく。
 そそる、のに。
「酷い人ですね、兄は・・・・貴方を、こんなにして
そのまま放っておくだなんて・・・」
 本当に。
 龍斗を煽るだけ、煽って。
 上り詰める、途中の。
 こんな、ままで。
「ッや、・・・」
 半ば、放心状態の。
 しどけなく伸ばされた、脚をスルリと撫でて。
 ハッとして、閉じようとするのを滑り込ませた下肢で
阻んで。
「・・・・・安心、して下さい」
 笑んで。
 胸元から、取り出したのは。
 先刻、すれ違い真際に。
 奈涸から、手渡された、それは。
「すぐに、気持ち良くさせてあげますから」
 はまぐりの、小さな器。
 その中の半透明の軟膏は。
 奈涸が、密かに取り寄せた。
 龍斗の、ために。
「・・・私、が」
「・・・・や、・・・・凉浬・・ッ」
 封じられていない脚を使えば。
 この状況を、変えることが出来たかもしれないけれど。
 それでも、彼女を。
 傷つけてしまうかもしれない、そのことに龍斗は。
 躊躇、するから。
「龍斗、さん・・・・」
 ねっとりとした薬膏を掬い取って。
 絡めた指を、躊躇いもなく。
 先刻まで、奈涸を銜え込んでいた。
 そこ、へと。
 中指と人さし指を、揃えるようにして、突き入れれば。
「ひ、ッ・・・やァ・・・ッ」
 中途半端な行為に冷めやらぬ熱を燻らせていた、場所は。
 その刺激に、あからさまに反応を示して。
「や、・・・ッ・・・あ、あァ・・・」
 残された体液と、混ざりあって。
 濡れた音を立てて、指を抜き差しすれば。
 戸惑ったように、それでも堪え切れずに嬌声をあげるのを。
 うっとりと、見下ろしながら。
「・・・・・可愛い・・・」
 尚も、激しく突き込んで。
 その行為に、萎えかけていた龍斗自身が、やおら勃ち上がる
のを。
 視線の端で、捕らえながら。
「ここに触れなくとも・・・達してしまいそうですね」
 あくまで、穏やかに微笑みながら。
 それでも、その瞳の奥に揺らめく情欲の炎は。
 まさしく、奈涸と同じもので。
「・・・・凉、浬・・・も、・・・・やめ・・・・」
「・・・ふふ」
 ポロポロと涙を流して許しを請うのを。
 慈しむような貌で眺めながら。
「そろそろ・・・効いてきたのではありませんか?」
 何かを含んだ、その笑いに。
 その意味を、問おうとして。
「・・・・・ッ」
 ドクリと。
 擦り上げられる内壁を伝って。
 そこから駆け昇ってくる。
 痺れるような。
「な、に・・・ッこれ・・・」
「兄が、龍斗さんのためにと・・・・」
 摺り込まれた薬が。
 粘膜から、じわりと沁み入って。
「こん、な・・・あ、あ・ァ・・・ッ嫌、ァ・・・」
 ただ、強烈な快感が。
 激しく体内を巡る血流に乗って。
 全身を、いつしか。
「んッ・・・・は、・・・あァ、ん・・・・ふ・・・」
 帯びる、熱に。
 もどかしげに身を捩って。
 その快楽の中心である、紅い肉壁に。
 意識は、集中して。
 蠢く、指が。
 絶えまなく、絶頂へと誘いかけるのに。
「・・・・も、・・・凉浬、・・・ッ・・や・・・」
 張り詰めて天を仰ぐ、龍斗自身は。
 未だ、解放されずに。
 ヒクヒクと、涙を零して。
「・・・・・そういうことですか」
 身悶える龍斗を眺めつつ、ふと。
 得心したように、呟いて。
「ッ・・・・」
 ズルリと。
 糸を引かせて、抜いた指にチラリと視線を向け。
 そして、おもむろに立ち上がると、すぐ近くに有る箪笥を。
 探って。
「・・・・・やはり、ここに・・・」
 何か、目当ての物を見つけたのか。
 笑みを濃くしたまま、小刻みに身を震わせる龍斗の元へと
戻り、覗き込むようにして。
「指だけでは、足りないのでしょう・・・?」
 告げて。
 目の前に、翳したものは。
「な、・・・・ッ」
 おそらく、木製の。
 表面を滑らかに仕上げられた、それは。
「使うのは、初めてですか・・・?」
 明らかに。
 男性器を象った。
「兄のものには、到底及ばないでしょうが・・・・」
 その、玩具を。
 龍斗の口元へと、近付け。
「このままでは、貴方を傷つけてしまうかもしれません、から」
 唇に押し当てて。
 促せば。
 顔を背けて、それを拒むのを。
「では、このまま挿れますか?」
 サラリと告げて。
 投げ出された脚を、開こうとするのに。
「・・ッや・・・」
 抵抗すら出来ぬほどに。
 甘い痺れが、下肢を支配していて。
「しっかり、濡らして下さいね」
 諦めたように、薄く開きかけた唇に。
 冷たい塊を押し入れれば。
 慣れた仕種で。
 内に招き入れ、舌を這わせるのに。
 こんなことも、龍斗に教え込んでいるのだと。
 思い浮かべた兄の顔に、苦々しいものを感じながら。
 太い男根を模したそれを、無心にしゃぶる、その様を。
 見下ろし、無言で。
「・・・・あ、・・ッ」
 唾液にしとどに濡れた、それを。
 引き抜いて。
 そのまま。
 前触れも、なしに。
「い、やァァ・・・・ッ」
 一気に、その殆どを中に。
 捩じ込めば。
 その衝撃に、一層高い嬌声を上げながら。
 一気に絶頂へと昇りつめて。
「・・・・・やっぱり」
 腹から胸元にかけて吐き出した白濁を。
 凉浬の細い指が、散らした肌に塗り込めるように、這って。
「・・・あ、あ・・・・ァ・・・ッ」
 その滑りのまま、固くなった胸の飾りを撫でてやれば。
 もはや隠そうともしない喘ぎを、漏らして。
 そして。
 その乱暴な挿入にも、傷付くことなく。
 そこは寧ろ、待ち望んでいたかのように。
 嬉しげに、収縮を繰り返して。
 更に奥へ奥へと。
 貪欲に、飲み込もうとさえするから。
「・・・・・いやらしい人」
 冷たい言葉とは裏腹に。
 痴態を繰り広げる龍斗を見つめる瞳は。
 愛おしげに、細められて。
「こんな淫らな姿を、いつも・・・・・兄の前で曝している
なんて・・・・」
 その狂おしい感情は。
 紛れもなく、嫉妬という名のもので。
 龍斗が選んだのは、兄である奈涸で。
 そして、自分は己の恋う心を、伝えようともしなかったから。
 凉浬は、選ばれなかったのではなく。
 その前に、立とうともしなかったのだと。
 分かってはいても。
 それでも。
 この想いを止める術など。
 どこにも、ないから。
「・・・ふ、・・・ッ・・んん・・・ッ」
 突き入れたまま、動かそうとしない凉浬に、焦れたのか。
 ゆるりと、自ら。
 腰を揺り動かし、快楽を貪る姿を。
 狂おしげに、見つめながら。
「・・・・・貴方が、好き・・・・」
 声は。
 届かないかもしれないけれど。
「貴方を、愛してる・・・・」
 女の、身で。
 男である、彼を。
 抱きたいと。
 それは。
 歪んだ想いだと、例えそうであっても。
 偽りのない、真実だから。
 誰にも。
 否定なんて、させない。
「龍斗、さん・・・」
 浅い呼吸を紡ぐ唇に、自分のそれを重ねて。
 すぐに反応して自ら舌を絡める、その仕種に。
 彼の、目には。
 映っているのは、おそらくは。
 自分ではなく。
「・・・・・ッ」
 このまま、舌を噛み切ってしまえば。
 この人は、私だけのものになるだろうか。
 ふと、心を過った昏い考えを。
 追い払うように。
 激しく、貪って。
「・・・・・貴方が好き、だから・・・」
 貴方を苦しめるものは。
 兄、であろうと。
 自分自身であろうと。
 許さないと。
 誓って。

 貴方を、護る。

 それが。
 全て。



「・・・・・あそこで待てと言ったはずだが」
 数刻の後。
 帰宅した奈涸を、凉浬は常と変わらぬ様子で出迎えて。
「気をやってしまわれましたので・・・冷たい蔵では、身体に
障りますから」
 奥の間に。
 敷かれた布団に横たわる、龍斗の元に案内して。
「・・・・・容赦がないな」
「龍斗さん、も・・・・私も愉しませて頂きました」
 有難うございます、と涼しげに微笑む妹の後ろを見遣れば。
 身じろぎもせず、昏々と眠っている龍斗の姿があって。
「・・・・・本当に、可愛い人・・・」
 まだ、情欲の炎を瞳に燻らせたままに、呟くのに。
 自分が許したとはいえ、この妹に龍斗を思うままにさせた
ことに、やや苦いものを感じながら。
「兄上は、本当に果報者ですね」
 その、言葉にも。
 チラリと含まれた、棘に肩を竦めながら。
「・・・・・大事にするさ」
「当然です」
 応えれば。
 すぐさま、きっぱりと。
「怖いな」
 返すのに。
 しみじみと、呟けば。
「龍斗さんは、私の・・・・私達の、大切な人ですから」
 一瞬。
 見せた、切なげな表情を。
 見なかった、振りをして。
「そうだな」
 踵を返し、部屋を出ていくのを。
 背で、見送って。

「・・・・・似ているな、俺達は・・・」
 血の繋がりが故か。
 それは、甘くほろ苦さを伴うもので。

「だからこそ・・・・」

 共有する想いも。
 譲れない、想いも。

 それぞれに。
 ふたり。

 彼を。
 
 愛している、ことを。



愉しかったーーーーーッ(悦連打)!!!!!!
兄妹×龍斗なのですが、一応個別に(笑)・・うふ。
凉浬ちゃんは、とても一途だと思うのです、はい。
兄妹×龍斗・・・激萌えカプなのでございます(愛)。