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ホラー苦手な方。現実と虚構見分けられない方は読まないで下さいね
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数ヶ月前の…ある静かな家…
「クソ…」
だがそこには異質な静けさと異質な物があった…
膨大なたくさんの…箱…
そうしてその脇には…
無造作に散らばった、過去には動いていたであろう幾つもの干からびた黒い物体…
そうして異臭と血の匂い…
「クソ…俺はもっと生きたい…死にたくない…もっと実験を続けたい」
自らに言い聞かせるように告げて男は実験体だったそれらを見る…
目は完全に狂気の色を交えていた…雨と息遣いだけが響く……
そうしてその傍らにはこときれた少女…
恐怖ではなく…
悲しみの表情と共に涙を流して事切れた少女の手には包丁…
そうして男の手にはナイフ…
断続的に降る雨の音だけが、その少女の死を痛むかのように降り続き響いている…
そんな中…生存していた方は。
うめきと共に憎憎しげに…視線を横たわる事その切れた女に向けていた…
「くそ…実験にこんな女攫ってなかったぞ…?」
実験に耐えれそうにもない…実験にすら向かない女…
だが現実にこの女は家の中にいた…二階にいたパジャマを着た賢く転機のきく女…
追い詰め…まだ子供だと甘く見ていた結果が相打ち…
逃げたふりをして隠れていて襲ってきた…
いや…本当に攫って来たただの女だっただろうか?
何か引っかかっていたが…
何の為に実験をしていたかすらも忘れてしまった…
もう実験のことしか頭に無い…もはや狂気に取り付かれ、心を病んだその男はその思考を一蹴する…
そうして雨の掛からぬその室内で、もはや男の息と雨の音だけが響く中…
そう…今まさに…一人の心を病んだ男が異様な最期の生を終えようとしていたその時…
コツン…コツンと…男の息遣い雨の音に混ざって異質な物音がした…
そうしてそれは男に影を落とし…立ち止まる…
「生キタイカ…?…永遠ノ命が欲シイカ?」
人の声で無いような…しわがれた声…
「生きたい…実験を続けたい…」
狂気をはらんだままの男の目の光は衰えず…
だが声は力なく男が告げると、笑う声と共にその人物はつぶやいた…
「ククク…叶えようぞ…その願い…わが願いと引き換えに……」
「!?」
そうしてその声と同時…
男は不意に持ち上げられて男はその声の主を認めることになる…
そこにいたのは…頭に角の生えた異形の存在…
鬼と…無表情の紅い学生服の人物…
そうしてそれが…死にかけている男が今持っている肉体で最期に見た光景だった…
「グアアアアアアッ!」
同時に男の身体がみしみしと歪む…そうして男の絶叫……

そうして…数ヶ月…
ある事件が次々と表沙汰に引きだされることになる……
そしてそれは確実に真神学園の彼らの元へじわじわと押し寄せてきていた……
そう…2人の少年の元へじわじわと…………


封償慈恋〜huusyouziren〜  広也瑠菜


静かな暖かい室内…そうして火曜の朝…そうして何かが打ちつける音……
「ひーちゃん?どうしたんだ?」
腕の中の存在が身じろいたことで僅か目を覚ました赤茶の髪の少年が尋ねると…
「ん…外見る…」
告げるなりそのひーちゃんと呼ばれた…
寝ぼけた表情の黒髪の少年はベットから降りて外を見て息をついた…
「雨…」
静かに降り続く雨をそう一言告げるとじっと見ている……
黒髪の"可愛い"といった部類に入るであろう優しげな面立ちをした少年。
そうしてベットの上には対照的に青年としてでも通じる茶の髪の少年がそこにはいた…
黒髪の方の少年はなおも外を見続けている…
薄暗い空…そうして断続的に降り続く雨は、部屋の気温を確実に低めている…
そうして窓によっていたために…
外気の寒さにか、小さく身震いしたひーちゃんと呼ばれた少年、緋勇龍麻。
そうして龍麻の身震いに気づいた京一と呼ばれた少年、蓬莱寺京一は…
無理やり自らの目を覚まさせて、そうしてため息をついて起き上がる…
「風邪引くぜ?」
告げるなり京一は息をつくと毛布を片手に…ベットから降りて大またで近寄り龍麻に毛布をかぶせる。
「わっ京一?」
頭から被されて視界が見えなくなったことに、ワタワタとしている龍麻は。
だが、直後京一に抱きしめられる。
そうして毛布を肩から着せ掛け直されて…京一と呼ばれた茶髪の少年の腕の中にいた…
「まだ降ってるみたいだな…」
ブラインドから見える外の曇った景色をのぞきこんだ京一。
龍麻は京一の腕の中でコクリと頷く…
「うん…今日も雨…あ…きょういちごめんね、学校帰りに昨日から泊り込んじゃって…」
京一が抱きしめているために、顔だけ振り返らせて告げた龍麻に京一は肩をすくめる…
「傘なくてあんな土砂降りじゃ…仕方なかっただろ?」
告げて京一は腕の中の存在にそっと額にキスを落とすと…
「うん……」
くすぐったそうに…けれど小さく身を竦めながらも嬉しそうに笑んだ…
そうして申し訳なさそうに呟く…
「京一…おなかすかない?」と…
告げられて京一は苦笑を返す…
「それじゃ…とりあえず飯でも食うか…?ひーちゃん?」
問うと…
「うん」
嬉しそうに京一の腕の中笑みを浮かべてくる……
「それじゃ…後から来いよな…」
告げるなり京一は龍麻を腕の中から開放し…そうして京一は朝食の支度をする為に台所に向かい…
そうして10分後、簡単に作り終わって隣室に目を向けた京一は…
まだ龍麻が出てこないことにいぶかしげな表情になる…
「ひーちゃんどうしたんだ?二度寝してるのか?」
とうと同時に京一は部屋をのぞいて龍麻がテレビを見ているのに気づいた…
アナウンサーがせわしなく状況を伝えている…
”行方不明の…は依然見つかっておらず…近郊だけでも数十件に………”
流れる声とともにやけに熱心に龍麻はテレビを見ていた…
京一は息をつく…
「ひーちゃん、メシにしようぜ?」
傍らに立ち告げると、ようやく龍麻は顔をあげた…
「あ…うん…。ね、この失踪って…」
言いかけた龍麻の言葉を阻むように京一は言葉をつむぐ…
「ひーちゃん…その話はまたな…」
そうして何かいいたげな龍麻を残して…京一はゆっくりと台所に戻った…
そうして残された龍麻はポツリと呟く…
「忘れてた…」
行ってしまった京一に龍麻は小さく息をつく…
京一は龍麻が事件に首を突っ込むのを良しとしなかった…
そう…付き合い始めてからは特にそれがひどくなり…
龍麻が事件の話をすることすらも京一はそれを嫌っていた…
これでしばらく京一の機嫌は悪いだろう…
心でため息をついて…龍麻はゆっくりと京一の後を追うように台所へと向かった…

そうして…きまずいまま食事を終えての…連れ立っての登校…
「大変ッ大変よッ!!」
そうしてその登校を待っていたかのように…飛び込んできた少女に何事かと2人は目を向ける…
そこにいたのは遠野…肩で息をしている少女は二人の前でまくし立てた…
「龍麻君ッ一緒に探してくれない!?友達が失踪しちゃったのよ…ッ」
開口一番…告げられて二人は目を見開いた…そうして龍麻は答えを返す…
「失踪って…?」
「連絡がぜんぜんつかないからッ家の人も二日間必死で探してるみたいなのよッ…失踪のうわさのある場所の近くにいたらしくて…ここのところ行方不明者が次々にでてるでしょ?だから…心配になっちゃって…龍麻君たちも手伝ってくれないかなって…」
そこまで遠野が告げた時…傍にいた京一は、一言答えを返す。
「駄目だ、わりいけど手伝えねぇ…それに遠野もその件は忘れろよ…」
「!?」
告げられて龍麻と遠野はいっせいに京一のほうを向く。
「な…京一ッ、だって遠野の友達がさらわれたのかもしれないんだよッ!?」
思わず告げた龍麻に京一は一蹴する。
「とにかく…ひーちゃんはとにかく関わるなッ、遠野ッ、お前も事件に首突っ込むなよッ!」
いつになくまじめな京一に、遠野は僅かにひるむ…
「な…何よッ友達の心配しちゃいけないって言うの!?」
「そうはいってねぇだろうがッ!」
「何よッもう良いわよッ一人で調べるからッ!!」
「アン子ちゃんッ」
告げるなり遠野は踵を返して行ってしまう…
「京一…」
そうして何かいいたげな龍麻に…京一はもう一度繰り返す。
「ひーちゃん、絶対関わるなよ?」
低く一言告げられた龍麻は口篭もる…そうしてしばらくしてようやく龍麻は頷いた…

そうしてその日の放課後…
午後6時あたりは暗い…そうして校門前の2つの影があった…
龍麻と遠野…そうしてその二人の声が辺りに響く…
「僕が調べるからアン子ちゃんはもう関わらずに帰って…京一の言うように危険だよ?」
「分かったわよ…」
告げられて…しばらくして頷いた遠野に。
「それじゃまたね、あ…京一にはこのこと…内緒だよ?」
そうして承諾した遠野の言葉に安心したかのように笑って龍麻は踵を返す…
そう…遠野から入手した情報を元に、
失踪している人物が多い付近の場所に向かうために…


それから1時間30分…細い路地…教えてもらった最期の場所にたどり着き龍麻は息をつく…
これだけ探しているのに手がかりは出てこない…
「ふう…やっぱり闇雲に探すだけじゃだめかな…」
そうして息をついたとき声をかけられた…
「あ…あの…ここらにこの住所の場所ってないですかね?」
問われて龍麻はとっさに振りかえる。
薄暗闇の中…いたのはあまり力の無いような中年の男…邪悪な念は感じない…
龍麻は息をつく…
「どれですか?」
告げると男は紙を見せてくる…その場所はすぐ近くで龍麻は息をつく…
多分送っていった方が早いだろうと……
「ついでですし…それじゃ案内しますよ…」
「ありがとうございます…」
そうして一礼した男に…
わずかに笑って龍麻が先に立って歩きだろうとしたとき、背後から手が伸びた…
殺意の無い気配だった為に…龍麻の反応は一瞬遅れた…
そう…男に背後から睡眠薬入りのガーゼを嗅がされて…ゆっくりと龍麻は地に昏倒する…
そうしてそれを見た男の顔はゆっくりとゆがんだ笑みをうかべ。
そうして気配を感じたらしく後方を見る…だが後方には何もない…
「気のせいか…ま、どちらにしてもどうすることもできまい…」
男はゆっくりとまた前方を見た…
いつのまにか道の真中に現れた廃墟と呼ぶにふさわしい建物…
それと同時にあたりの景色は館以外に無くなる…
男は龍麻の身体を引きずるように…ゆっくりと龍麻の身体をその中へ引きづっていった…

そうしてどれくらいだろうか…
龍麻は呼ばれたような気がしてゆっくりと目を開く…
見えたのは…廃墟のような…いや…廃墟といえるべきその場所…
そうして明かりの灯っている薄闇と人影…と、その人物が近づいてくる…
そう…龍麻に道を尋ねたその人物に何か嗅がされて……
「!?」
龍麻は慌てて起き上がろうとしたがそれはかなわなかった……
腕をきつく縛られて壁にくくりつけられている…
そうするうちにその男はキラリと鈍く光るナイフを取り出した…
「クククク…黄龍とて人間…クククク…切り裂くその血と赤…さぞかし綺麗だろうな…クククク…ククグググェエエエ!!」
そうしてニタリと笑う…
決して走ってはいけない禁忌の欲望に走った…人外のものの醜悪な笑み……
ナイフを持つ男の手が震えて男の顔が笑みから醜く歪む…そうして男は変化した…
(鬼…お…に?!)
鬼に変化を追えたその男は一歩一歩近寄ってくる…
「ダガソレハ叶ワヌ…永遠ノ命手ニ入レタ…永遠ニ研究ガ続ケラレル身体ヲアノ方ニ作ッテ頂イタ。アノ方ガ求メルハ…完全に何ヲモ求メヌ意思ノナイ器……」
腕を捕らえられて手首を後ろ手で縛られているために…技を打つことすらも出来ない…
鬼の前…逃れようと身をよじる龍麻の前、そうして更に鬼の背後に突如それらが現れた…
膨大な数の念…
「や…やだ…」
醜悪な息の止まりそうなくらいの念の負の思考…
恨みと苦しみの念が一気に膨れ上がり龍麻めがけて押し寄せる……
そう…思考すらも食いつくしてしまうように…
「やだあああっ……!!」
残るのは龍麻の悲鳴…そうして数秒後静寂が訪れた…
そう、最後に小さく龍麻の口から漏れた京一の名前を残して……

そうして…後に残るは動かぬ龍麻とそれを見ていた鬼…
そうして鬼は…龍麻が怯えたように目を見開いたまま、何処か宙を仰いだまま動かないのを確認すると。
鬼は唇を吊り上げる……
「ククク…コノ場所デ命ヲ落トシタ者ノ恐怖ハドウダ…?ソレラハジワジワと目ヲ閉ジテイテモ幻覚ヲ見セ…ヤガテ見ルモノ全テガ恐怖ニ陥イル…」
そうしてつぶやきながらゆっくりと鬼は…
龍麻が目を見開いたままのそれを確認すると鬼はゆっくりと龍麻の戒めを取り去った…
「……ッ」
そうして口元には笑みを浮かべたままゆっくりと言葉をつむぐ…
「ククク…我ニ返リ…正気ニ返ッタ時大切ナ骸ヲカカエテ…壊レルガイイ…クククク…コレハオマエガ意思ヲ持タヌ者ヘトカワル一歩ダ…恐怖ト絶望ノ淵ヘト落チルガイイ…」
だがその一言は龍麻には聞こえておらず…
いつまでも意識のない龍麻の傍ら…鬼の笑い声が響いていた……


そうして龍麻が攫われたのと大差無い時間…
京一の家に突然電話が入る…
「ちょっと京一ッ」
開口一番の叫び声…電話を取ったまま京一は耳を押さえる……
「なんだよ…」
告げると…遠野が電話の向こうまくし立ててきた…
「落ち着いてる場合じゃないわよッ龍麻君が…ッ」
告げられて一気に京一は目を見開く。
「ひーちゃんがどうしたんだよッ!?」
叫びに京一は叫び返すと遠野は答えを返してくる…
「攫われちゃったのよッ!!!とにかく今から言う場所に来てッ」
告げられて…京一は取るものもとりあえず木刀を引っつかんでその場所に向かった…

そうして30分後…
「あの馬鹿ヤロウッ」
呟くなり京一は唇をかみ締める…
詳細はこうだった…
”僕が調べるからアン子ちゃんは危険だから帰って…”
遠野は告げられたにも関わらず遠野は後をつけたらしい……
結果的にはそれがよかったのだろうけれど…誉められた出来事ではない…
そうして遭遇したらしい出来事…
龍麻は拉致され…そうして…不意に龍麻は男ごと姿が消えたらしい…
「分かった…ひーちゃんは俺が探す、だからもう深入りするなよ…」
低く告げた京一に、頷いた遠野。
「わ…分かってるわよ…もうこれ以上突っ込まないわよッ…でも絶対見つけてよねッ」
告げられて京一は頷いて…そうして遠野から場所を書いた地図を受け取り…
遠野を京一は家まで送ったあと、京一はそうして再度手がかりがないだろうか、と…
その場所へと向かう…人通りの無い路地…
やや薄暗い路地を見回して京一は息をつく…やはり何も無い…。
戦闘の後すらも無い……
「…ッ」
ギリ…と京一は木刀を握り締める…
「畜生…ッ」
龍麻の性格からして放っておかないというのは分かっていたが…
こうも早く行動に移すとは思わなかった…

あの時京一が反対した理由は…危険な目に合わせたくないというのもあったが…
もうひとつ…
そう…無意識だろうが…龍麻は敵を倒すとき…こちらが見ていて辛い表情をしながら戦っている……
害なすものであれば命を奪わねばならない…
だから…そんな表情をさせたくなかったから…
危険な目や悲しい表情をさせたくなかったから…
だから関わるなと告げたのに…
「何でわからねぇんだよッ」
吐き捨てると同時にもう一度手がかりを探そうと京一は視線を上げたとき…
ありえないものを見て…京一はギョッと目を見開く…
帰り道の細い路地…道の真ん中…そこにいたのは少女。
けれども…身体は透けている…そうしてその少女の背後、半透明に透けた屋敷…
「お…おい…冗談だろ?」
一瞬回れ右をして逃げだしたい気分に京一は駆られる…
だが…背後を振り返り今日一は目を見開く…背後には景色がなかった…
「なッ!?」
どうやら別次元に連れてこられたらしい…
(……て…)
同時にその少女は言葉をつげて手の中のそれを差し出す…
そうしてその服を京一の前にパサリと落としてゆっくりと口を開いた…
〜開放して…お願い…鬼を倒して………〜
そうしてその少女はくるりと回れ右をして走って背後の屋敷に入っていった…
「な!?」
一瞬遅れて京一は屈みこみ、その服をガッと掴む。内の胸元にある刺繍は緋勇…
それは見間違えもなく龍麻のものだった…
「ッ!?」
即決だった…
京一は制服をそのままに自らもまたその少女の姿を追うように…
その屋敷に向かって駆けドアを勢いよく開くと共に中に飛び込んだ…
だがもうその少女はいない…静かな静まり返った屋敷だけ…
「へっ…上等だぜ…」
ゴクリと息を呑むとゆっくりと屋敷に足を踏み入れた……
そうして奥へと足をふみいれる…
つんと…かび臭い…廃墟と化しているらしい場所…
さながらお化け屋敷を連想させるその場所…
だが不思議なことに電灯は灯っている…いや…それが更に不気味さをかもし出していたが…
一階は…かなり薄暗いもののどうやら廊下だけらしい…
ゆっくりと慎重に歩を進めつつ京一は歩を進める…
そうしてぶち当たった突き当たりの階段…
2階と…地下への入り口…
(……)
迷いあぐねたとき…それと同時聞こえた絶叫…
確かに緋勇龍麻その人物の悲鳴…そうして聞こえたのは…地下…
「ひーちゃん!?」
そうして京一は一気に階段を駆け下りた…

そうして…同時にその足音を聞きつけた者が一人…
場所は二階…
「ククク…誰かが呼び寄せたらしいな…少し予定が早まったが計算済みだ……」
だが動じることはせず…
そう告げるとクククと笑みを浮かべ…
そうしてまた二階の一室で…目の前の研究器具に目を走らせ始めた…

降りた場所…
そうして一列に廊下に並ぶ扉…
一階よりも明るいそこは…8個ほどの部屋が連なっていた……
人の気配はない…
慎重に歩を進めて京一は…そのうちの一つをバタンッと開き木刀を構える……
やはり動くものはない…電灯が辺りを照らす中…
見えたのは中央にある無造作に置かれている2、3の鉄の箱…
京一は慎重に近寄ってその箱に手をかけて開く…
見えたのは…
「ぐ…っ!?」
咄嗟に京一は目をそむけて蓋を閉じる…
そこにあったのは生存反応はもうない…かつて生きていたものらしい一部…
そこに点々とある箱。恐らく全てがそうなのだろう…
(もしかして行方不明とか騒がれてる奴の…ちくしょうッひーちゃん…っ!)
龍麻は力を使える…
けれどそれ以外は至って普通の人間だ…まして精神面は至って弱い…
「畜生ッ悪趣味すぎるぜッ!!!!」
はきすてるように告げたとたん奥で何かが動いた…
そうして見えたものは既にこの世の生を終えた筈のもの…
「じ…冗談だろ…?」
其れと同時に来た入り口の扉がバタンとしまる…
地下一階…ぼんやりと光があるせいで薄明るいその部屋…
カーテンの近く…ムクリと起き上がってくるのは1体だけではない。
数体のゾンビ…もはや人としての思考のない、それ。多量の其れに咄嗟に京一は技を振るう…
地摺り青眼…フェイントで足元を狙った為にそれはバランスを崩してうめきと共によろめいた…
同時に京一は全力で技を振るって鬼剄で吹き飛ばす…
どうやらそんなに強くないらしい、京一の二度の技でそれは激破されて崩れ落ちて砂塵と化した……
京一は再度鬼剄で入ってきたドアを吹き飛ばして廊下に飛び出る…
そこにいたのはやはりゾンビ……
くず折れた廃墟のような部屋、おそらく裏密の言うところの結界の中とやらだろう……
明かりがついていることで誰かはいるのは分かる…しかし住んでいるのは人ならざるものばかり……
それ以外にはまるきり人の気配のない無人の廃屋…
廊下のこの世のものでない者を次々に倒しながら…部屋を次々に立ち入り…
出てくるこの世のものでない襲ってくる者を全て倒しながら、京一は奥へと向かう…
「畜生!!きりがねえッ!!どこにいるんだよッひーちゃん!」
叫ぶが返事はない…だが引き返しは出来なかった…
京一は次々に部屋を見て回る…
そうするうちに敵は出てこなくなり…京一は行き止まりの突き当りまできてしまった…
そうして京一はそれを発見する…
ひっそりとそこにある地下への階段…廃墟としか言いようのないそこは不思議なことに電気が灯っている…
地下一階…僅かに明かりがともる中、その地下2階への階段の入り口は照明がまた更に格段に暗くなっている…
そうして眼を凝らした先に見えたのは、閉ざされた木の扉…
「……」
京一は静かにその階段を降り、そうして取っ手を回す…
ガチャ…
やはり内からか外からか錠が下りていた…だが扉は木の扉…
一息つくと京一は息をついて木刀を構え一閃する…
鬼剄…京一の技で木の扉の錠は脆く、一気に吹き飛ばされる…
轟音と共にその瞬間吹っ飛ぶ取っ手…其れと同時にドアに体当たりして京一は中に転がり込んだ…
静かな一室…かなりの広さのある…薄暗い光のささない場所…
だが僅かに手前の光でぼんやりとみえるその廃墟の中の部屋……
そうして京一はそこに何かがいるのに気づいた…それと捜し求めていた"気"に思わず京一は叫ぶ。
「ひーちゃん…!?ひーちゃんそこにいるのか?!」
近寄りかけて京一は目を見開く…
そう…龍麻の声に…
「やだ…来ないでッ僕に技を打たせないでっ!!!」
「!?」
確かにひーちゃんの声だ…
「ひーちゃん!?」
広いホールのようになっている廃墟のその場所、薄闇の中…
目を凝らせばそう遠くない場所に間違いなく龍麻はいた…
「ひーちゃん!!!」
だが京一は駆け寄ろうとして…悲痛な声に思わず京一は足をとめた…
「ひっ…や…やだ!!やだぁ!!…京一…京一助けてッ…!」
「ひーちゃん…?」
そうして違和感に気づく…
薄暗闇…目がなれて凝らして僅かに見えた龍麻…そうして心底おびえている泣き声交じりの恐怖の声…
「やだ…来ないで…僕に技打たせないでぇッ…」
幻覚でもみているのか…?
京一の声すらも聞くことができず、京一の姿が見えていないらしい。
近寄ろうとすると、それ以上近寄られるのを恐れて震え京一の名前を幾度も呼び。
泣きじゃくって怯える龍麻に、京一は眉を顰める…
それ以上怯えさせたくは無くて、京一はポケットからそれを取り出す。
「ひーちゃん…早く来てやれなくてごめんな……」
幾度自らの名前を呼んでくれたのだろう?
混乱か呪詛か…取り付かれているのか…
其れすらもわからない状態で効く物…万が一何かあるといけないと持っていたそれ…
全ての状態を回復させるアイテム、少彦の酒…
だが法螺と違って、この遠距離では効力は届かない。行使するには近寄らないとどうしようもない…
再度近寄ろうとしたとき…龍麻の目に更に恐怖の色が浮かぶ…
「やだ…やだっ来ないで…やだぁ!!!」
悲鳴と共に放たれる龍麻の最高技…黄龍…
「なっ…!?くっ!」
咄嗟に京一は避けて木刀を手に京一は眉を顰める…
パニックになっているといえども、威力はあまり変わらない……
だが広いホールのようになっている地下の部屋だけあって、部屋自体が崩壊することはなく…
代わりに京一の傍らにあった中くらいの石が粉々になる…
普段龍麻は黄龍を打たない…
そう…敵といえども生あるものを一瞬で消しとばすその力を普段龍麻は恐れ。
余程のとき以外は黄龍を使うことはない…
龍麻が黄龍を使う…
そう、其れだけ…その恐れよりも今の恐怖が強いのだろう…
いったいどんな悪夢をみているのか…京一は息をついてチラと手の中の木刀を見る…
気絶させてしまえば話は早い…
だが…木刀を使ってひーちゃんに怪我を負わせたくはない……
でも万が一もし…技を使わないことにより自らが倒れれば…?
万が一自らが落ちて…京一自身が死に至れば、今、助けを求めて自らの名前を呼んでくれているひーちゃんはどうなる…?
一瞬で考えめぐらし京一は吐き捨てる。
「それでも…出来ねぇッ!ひーちゃんに木刀を向けるなんて…できねぇッ…」
そうして顔を上げた京一は木刀を離した。
カランと落ちた木刀…龍麻を抑える為にできることは後ひとつ…
「いくぜッ!!」
残る方法は…機会は一瞬。
そうして近寄る気配を見せた京一に…怯えた龍麻が再度技を打った瞬間、京一は目を眇める…
とっさに避けると同時に走った京一…
「や…やだぁ!!!!」
悲痛な悲鳴と共に再度打たれた技…
「グッ」
龍麻の二重攻撃、八雲…黄龍ではなかったが…急所を咄嗟に避けたものの右腕に痛みが走った…
だが構わず、京一は龍麻と距離を詰めて。木刀を放り出した状態で飛び掛り、押さえつける…
龍麻が放った技がかすめた為に京一の右腕がジクジクと痛んだ。が、泣き言は言っていられない…
暴れる龍麻を逃さないように京一は強く龍麻を押さえつける………
「や…やあああっ!!やだ…やだ…助けて…っ京一!!」
羽交い絞めにして龍麻の動きを封じると…
泣きじゃくって京一の腕の中でもがく…そうして京一の右腕に爪を立ててきた……
技すらもう打てないほどに恐怖に混乱しきっているらしい…
京一が目の前にいるのが分からないほどに、幻覚と恐怖に嵌っている…
「……っ」
そうして切りそろえてはいても、龍麻に爪で、受けた傷の上を思い切り引っかかれて。
痛みに京一は眉を顰めながらも、それでも何とか龍麻の手の動きを左腕で封じる…
早く正気に戻してやりたくて…
そうして自らの体重をかけて龍麻を押さえ込むことに成功するが…
酒を口に持っていっても泣きじゃくって、少彦の酒は飲んではくれない……
再度逃げ出して暴れそうな龍麻に京一は眉を顰めると…
自らがその酒を煽り、それを口に含んで負傷した方の片手で…龍麻の顎を掴んで、京一は龍麻に口付けた…
「!?」
吐き出せないようにして顎を強く持ったまま、唇を割って無理に流しいれられることにか…
小さな抵抗と悲鳴と共に小さく声をあげた龍麻。
だがもがいていたのは数分だった………
徐々に龍麻の目が正気を取り戻し。そうして…ゆっくりと龍麻は京一を見る…
目の前にいる人物がいることに信じられないとでも言うように…
「…きょういち…?」
そうして正気を取り戻した龍麻に、京一は漸くほっとして笑いかけ…
京一はゆっくりと龍麻から退き、起き上がらせて京一は龍麻を抱きしめる…
「ひーちゃん遅くなってゴメンな?」
そうして…京一が告げた言葉……背をポンポンと宥めるように叩くと小さく身体が震える…
「京一…ほんとにきょう…いち…?」
そっと震える声で龍麻に名前を告げられて。
「ああ…」
京一は安心させるかのように返答を返してやり目を細め……
「だから…もう怖くないだろ?」
抱きしめたまま暗闇の中そっと問うと……
「きょう…いち……」
龍麻は京一の服を掴んだまま泣きじゃくり…
そうして…漸く強くしがみ付いたまま安心したように暗闇の中、龍麻は幾度も京一の名前を呼んだ…

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