アウト・ザ・ブルー(番外編)




パピルスをかたどった燭台に浮かべられていた灯芯はとうのむかしに燃え尽きてしまった。
替わってうすぼんやりとした白い光を床に落とすのは、高く取った窓から差し込む月の光。

カリムはシャダの紫水晶に似た瞳を覗き込んだ時、心臓の鼓動がまるでヌビア人の打ち鳴らす太鼓の音のように耳の奥へと響いてきて思わず右手で胸を押さえた。
シャダはカリムの孔雀石を思わせる瞳に覗き込まれた時、頭がくらくらして何度も目をしばたたかせた。
それはデヘネトの峰のいただき。足元の灰褐色の断崖をみおろしてから、頭を上げて左手で大きく蛇行しながら天と地の狭間に消えゆくナイルに視線を移した時のめまいに似ていて、シャダはあの時と同じようにカリムの手をぎゅっと握りしめた。
大きな、夢にまで見た手。

すると「まだ気分悪い?水、もってこようか?」と深く優しい声が降ってきて、心の底から安堵を覚えたシャダは、がっしりした首にしがみついてつぶやいた。「ああカリム・・・カリム・・・!」
その拍子に硬い髪の毛の先が頭に触れた。背筋がぞくぞくする・・・

「あの・・・一緒に寝てもいいかな?」
そのとき遠慮がちに発された問い。シャダは無言でうなずいて、カリムが寝台に膝を上げてきた。
ミシ、と微かな音をたてて揺らいだアカシア材の寝台は、腕利きの家具職人が頑丈に作ったとはいえ二人用には小さすぎる。
「うわあっ!狭いっ!」
カリムは照れ隠しのように朗らかな笑い声を上げた。
「ほんとに狭いなぁ。おいっ、シャダ。もっと隅に寄ってくれよ!」
「お前が大きすぎるんだよ!」
思わず頬をほころばせたシャダはふざけてカリムの体を押し出そうとした。「ええいっ!落ちちゃえっ!」
だがカリムも負けじと「俺のベッドだから俺に権利があるぞ!」と応戦してくる。
「やめてえよおっ!僕のほうが先に寝てたんだからあっ!」
大げさな悲鳴をあげたシャダは腕を突っ張らせてけらけらと笑った。


狭い寝台をきしませながら夢中になって陣地確保の押し合いっこをするカリムとシャダ。
だが、やがて少年たちはほぼ同時に動きを止めた。
じっと見つめ合ったままの二人の間に流れる、何とも形容しがたい奇妙な空気。

気まずい沈黙の後、カリムは無言のまま重たいロータスの蕾のような頭を抱きかかえると、薄い唇にくっきりした輪郭を描く自分の唇を寄せた。
一瞬、どこに向かって伸ばせばいいのか迷うように宙を掻くシャダの腕。

だがすぐにファイアンスの腕輪で飾られた優雅な両腕は、筋肉が美しい陰影を描く暗褐色の背中に回された。
そして長い口づけ。相手が今そこにいることを確かめるように、しっかり抱き合ったまま。
それは二人がずっと幼かったあの日にしたのと同じ行為だったけれども、今、目の前にいるのはまるで今日初めて出会った相手のように思えて、二人の胸は震えた。


息が止まるような口づけのあと、はにかみがちにシャダがつぶやく。
「・・・なんか、ぜんぜんちがう・・・」
「・・・なにが?」とカリム。
「マンドラゴラ食べた時のと、ぜんぜん違うかんじがする」(※)
だが、カリムは遙か彼方に広がる風景にじっと目を凝らしているかのように目をすがめた。
「・・・いや、俺には・・・同じだな・・・」
それは年の割に老成して、どこか隠された世界の秘密を知る賢者にも似たまなざしだった。
彼は一言一言噛みしめるように言った。
「シャダ、俺、自分がどうしたかったのかやっと分かったみたいだ」

シャダを強く抱き締めたカリムは、もう一度深く口づけるとこの上なくおだやかに微笑んだのだった。
「・・・本当のところ、俺はずっとこうしたかったんだよ」


狭い寝台の上、二人の少年はしっかりと抱き合ったまま互いの心臓のどこか懐かしい響きに耳を澄ませている。
そのとき不意に少し怒ったような調子でシャダの名を呼んだカリム。
「・・・・・・シャダ!」
「・・・・・・・・ん?」
「・・・いや・・・なんでもない」
だが、シャダの無言の瞳に先を促されて、ごくりと唾を飲み込んだ浅黒い肌の少年は勢いをつけて言った。

「シャダ・・・お、女にするみたいなことしていい?」
一瞬口をつぐんだシャダは、ほんの少し眉間に皺を寄せた。
「・・・『女にすること』って・・・どういうこと?」
「どういうことって・・・ああいうことさ」
「・・・ああいうことってそういうこと?」
こっくりとうなずくカリム。
「・・・じゃ、お前、もうやったことあるんだ!」

小さな卵形の顔にじわじわ広がる悲しみを目にしたとたん、しまった!と思ったもののすでに時遅し、渋々うなずくカリム。
そのとたん、引き絞った弓が元に戻るような勢いではね起きたシャダは、大柄な少年にのしかかって声を震わせた。
「そ、そんなのひどいな・・・だ、誰とやったんだよぉ?」
「誰と、って・・・名前なんか知らないけどあそこの・・・」
「いいっ!やっぱり言わなくていいっ!でも・・・ずるい!」
何がずるいのか自分でもよく分からなかったが、胸がくしゃくしゃしてたまらない。

「ぼ、僕だって・・・僕だって・・・」
ひ弱な少年は一瞬口ごもると、山猫のように輝く紫の瞳で頬骨の高い野性的な顔をにらみつけながら、声を裏返らせて言い放った。
「僕だってそのくらいやったことあるもん!」

じっさい今までにも可愛いシャダは、どこかの神官や神殿お抱えの宝石職人や軍の将校といった男たちに誘われては、好奇心から物陰でちょっとしたいけない遊びをしたことくらいはある。
だが、カリムの瞳に驚きと疑念が入りまじった色が広がったのを見て取ったとたんに、ますますくしゃくしゃすると同時に激しい動揺に襲われた。
言わなきゃよかった・・・シャダは後悔した。だが、もう遅い。今さらもうあとには引けない。

シャダは自分の経験の豊かさを証明すべく、やおらカリムの腰布をたくしあげると奥の方へと手を伸ばす。 ごくりとつばを呑み込む音が耳の底で反響した。


「おいっ!何するんだ!やめろよっ!おいっ!おいっ!」
慌てたのはカリムである。股間にはりついた丸い頭を懸命に引きはがそうする。
だが悲しいかな、若い体は正直なもの。言葉とは裏腹に、ひんやり冷たく小さな手のひらの中で一気に頭をもたげた太い幹。
その大きさを目にしたとき、シャダはおもわず絶句した。
・・・なにこれ?どういうこと?!・・・こんなの・・・顎がはずれちゃうよ!

だがようやく意を決してあんぐりと口を開けると、シャダは今までやっていたのと同じように、大きなものを喉深く一気にくわえ込んだ。
「うっ!やめろっ!・・・うぅっ・・・」
頭上から聞こえてくる低いうめきに励まされるように懸命に頭を上下させる。
「・・・おい、シャ、シャダ!おいっ!」
だがもちろん返事はない・・・返ってくるのはただ唇と陰茎が擦れあう淫猥な音ばかり。

「・・・シャダぁ!やめろっ!」
カリムはやっとの思いで滑らかな頭を股間からひきはがすと苦しそうにうめいた。
「・・・やめてくれ。いきなりそんなことして欲しくない」
緑に燃える瞳に睨みつけられて、シャダは反射的に体をこわばらせた。
「・・・い、イヤなの?」
「イヤじゃないよ。イヤじゃないけど・・・」

カリムは表情をゆるめると、困惑に大きく見開かれた瞳を覗き込んだ。
「誰と、とかどうして、なんて聞かないけど・・・とにかくね、今はそんなことしなくたっていいんだ」
そして骨が音を立てて折れるかと思うほどに華奢な体を強く抱き締めて彼はささやいた。
「とにかく今日は俺の好きにしたいんだ。ね、いいだろ?」
急に背筋がぞくぞくするほど恥ずかしくなってきたシャダは、顔を真っ赤にして小さくうなずいた。



寝台の傍らにひざまずいだ大柄な少年の震える指先は、美しく染め上げられた帯の結び目をつまみ上げた。
明るい青を背景に金茶の繊細な花模様が踊っているそれは、服飾にうるさいシャダがいかにも好みそうな色柄で、思わず笑みが漏れてしまう。

軽い衣擦れの音を立ててするりと帯を引き抜くと、無骨な手は薄い亜麻のチュニックを脱がしにかかった。
シャダは衣服がはぎ取られるときぴくりと体をこわばらせたものの、 顔をそむけて花崗岩の石像のように固くなったまま。
カリムは自分の腰布の結び目にも手をかけると、すとんとそれを床に落として再び寝台に横たわった。

もうふざけて狭い寝台の上で押し合いっこなんかはしない。
背中を向けたままのシャダにぴったりと寄り添ったカリムは、喉から胸、腹から腰・・・雪花石膏のように滑らかな肌にゆっくりと熱い手のひらを這わせた。

手のひらを上下させるたびに耐えかねたような喘ぎを漏らして小刻みに震える体。
胸も腰もたっぷりと豊かな女とはまったく違ったその裸は、あちこち骨ばって肉が薄くて・・・どこか寂しい。
その寂しさにカリムの胸はなぜかひどく締め付けられた。
同じ姿をした男同士がこうやって抱き合うこと、それは確実に尋常なことじゃないんだろうな・・・とふと思ったものの、こうなることがずっと前から決まっていたような気がするのもまた事実だったのだ。


カリムはシャダの薄い胸に唇をつけると、貧弱な胸の突起をおそるおそる口に含んだ。
「・・・ひゃっ!」
そのとたん白い喉から小さな獣のような悲鳴が飛び出して、あわてて両手で口を押さえるシャダ。
「どうしてそんなことするの?」
不思議そうにカリムは問うた。
「だって変な声が出たら嫌なんだもの・・・」
「馬鹿だなぁ!」とカリムはにっこり笑った。「俺、お前の声大好きなのに!」
「・・・え?・・・そうなの?」
「そうだ。今だから言えるけど俺、お前の声聞くといっつも勃っちゃってたんだよ・・・そう、すっごく不謹慎なんだけど・・・神殿の奥ででも!」
そう告白したカリムは、すでに先端から露を漏らしたシャダのものを固く握りしめると魔除けの金環が輝く耳元に囁きかけた。
「・・・だから、今日は思いっきり声、聞かせてほしい・・・」
「あっ!ああんっダメ・・・っ!・・・はああぁあぁんっ!」
そのとたんにシャダは情けない声と共にあっけなく果ててしまい、カリムは甘い嬌声に背中を押されるように淡褐色の体にのしかかった。


弓やレスリングで鍛えた筋肉質の腕でシャダの両足を軽々と抱え上げたカリムは、勢い込んで股間のものを双丘の間にあてがうと一気に進もうとした・・・が、そこで急に止まった動き。緑の目はシャダの顔を不安げに覗き込む。

「ねえ・・・シャダ・・・」
体をこわばらせ固く目を閉じたままだったシャダは薄目を開く。
「シャダ、こ・・・ここに入れてもいいんだよね?」
「そっ!そんなこと今になって聞かないでよっ!」
本当はせいぜい指を入れられたことがあるにすぎない、なんて今さら告白するわけにもいかない。
自分が本当の意味ではまだ童貞なのだと悟られてはならぬとばかりに、シャダはとっさに百戦錬磨の娼妓のようなしなを作ってごまかした。「もう、やんなっちゃう!・・・雰囲気壊れちゃうじゃないか」
だがカリムは「でも・・・お前のここ、女みたいに濡れてないけど・・・このままでいいのかなぁ」としどろもどろ。
いつもはきりりと一点を見つめる強い瞳も、今はうろうろと自信なげに宙をさまよっている。

その時シャダの脳裏におぼろげに甦ったのは、「ラクダのウインク」で耳にしたあの言葉。
『男とやるってのはなぁ、これを突っ込んだり色々してお互い気持ちよく・・・』
そういえばあの時、男のものは油かなにかで濡れたようにてらてらと光ってたっけ。
シャダは小さな声で提案した。 「こ、香油かなにか塗ったらどうかな」
「あっ!そっ、そうか!」
居眠りを教師に見つかった小さな子供のようにあわてたカリムは、寝台を揺らして荒々しく立ちあがった。
彼はしばらく広い背中を丸めて部屋の隅に置いた物入れをごそごそやっていたが、間もなく「あったあった!」と兎をかたどった淡い緑の香油入れを掲げてみせる。

「ほら、クレタ大使がお土産にもってきてくれた香油。匂ってごらんよ。いい匂いだろ?」
そう言いながらカリムが兎の耳を取って鼻先に持ってきたとたん、シャダの目の前に広がったのは、青い海に浮かぶ島で咲きほこる色鮮やかな花々の姿。

ああ、なんて素敵なんだろう、シャダは大きく息を吸い込んだ。
でも・・・その素敵な香油を使ってこれからカリムとやらしい事をするんだ・・・
そう思うとなんだか急に恥ずかしさでつま先までしびれてくる。そして恥ずかしさがつのればつのるほど、シャダの股間のものはなぜかもっと固くなるのだった。

「この香油でもいいよね?」とカリム。
「うん。それでだいじょうぶ」シャダは神妙な顔でうなずいた。
「さあ、それをいっぱい垂らして・・・そう、そこに入れるんだよ。そう・・・もうっ!遠慮なんかいらないから一気にいっちゃってくれ!」
それは精一杯の強がりだったが、大きな異物に進入されたとたんにシャダの体はびくん!と派手に跳ね上がってカリムを驚かせた。
「ほ、ほんとに大丈夫?」とおろおろするカリム。
「ば、馬鹿っ!そんなこと今さら聞かないでっ!なんともないから!」
だが、ほんのもう少し進まれただけで体を引き裂かれそうな痛みが襲ってきて、シャダの喉からは殺されそうな悲鳴が上がった。

「痛いっ!痛いよおっ!」
「ハァ、ハァ・・・もうちょっと我慢してくれ」
「やっぱり止めてえっ!止まってよおカリムぅ!」
「ハァ、ハァ・・・今さらやめろって言われても・・・」
「痛いっ!痛いよぉカリム!お願いやめてっ!」
「ハァ・・・嫌だ・・・やめない」
「お願いだよおっ!死んじゃう、死んじゃうよ!」
「・・・このくらいじゃ死なないよ・・・」
「ダメっ!そんなおっきいの絶対無理っ!」
「じゃあどうしろって言うんだよっ!お前、馬鹿にしてるのか!?」

さすがのカリムも本気で怒り初めているのを敏感に察したシャダは、息を大きく吸うと相手の首に腕を巻きつけてなだめるような上目遣いに見あげた。
「お前のやつ、大きすぎるからすぐには入らないみたいだ・・・お願いだからはじめは指で慣らしてよ、ねっ?そしたらきっとするっと入るから・・・」

股間の物は狂おしいほどに猛り狂っているというのにおあずけを食らうのは何とも辛いこと。だが、そこまで言われてはいたしかたない。
苦しげな溜息を漏らして両脇に抱えていた足をおろしたカリムは、シャダの立てた膝の間にぺたりと座り込んだ。
「じゃ、どうすればいいんだ?」
「香油を手に垂らして、そう・・・さいしょは指を一本だけ入れてよ」
言われるとおりにしたカリムは、初めて味わう指先の感覚に妙な表情を浮かべた。「入ったよ。どう?」
「指、二本に増やしてみて」

今度はぬるり・・・と指がすべり込むときにシャダは少し眉をしかめたけれども、熱い吐息を漏らしながら言った。
「もっと奥まで・・・一番奥まで入れて動かして・・・」
言われるがままにカリムは太い指を思い切り深く押し込んだ。
指を動かすと同時に小さな卵型の顔に浮かぶ苦しげな表情。 だが、シャダは荒い息の間からさらに先をうながした。
「あと一本だけ指、増やして・・・あっ・・・あぁあんっ!」
今にも涙をこぼしそうな悩ましい表情に、さっき張りを失いかけたカリムのものも一気に固さを増す。
「すごい・・・お前のここ、こんなんなんだ」カリムは感極まったように熱い溜息を漏らした。「ねぇ、シャダ。どう?気持ちいい?」
「・・・う、うん・・・あうぅんっ!」
「じゃ、こっちもいっしょに・・・・」
そう言うなりカリムは指を奥深く埋め込んだまま、シャダの足の間で震えているものに左手を添えてぎごちなく上下させ始めた。
「・・・あっ!ダメっ!ダメえっカリム・・・そんなの・・・あぁん!僕もう・・・ダメだってば!・・・はぁあぁぁうんっ!」

前と後ろを同時に責められてはたまらない。
シャダははしたない声を上げて体をこわばらせたかと思ったとたん、あっという間に白い飛沫をまき散らしてしまった。



かたわらの布を手に取ったカリムは、汚れた平らな腹の上をぬぐいながらわざと意地悪い口調で言った。
「意外といやらしいんだなあ、お前。俺はまだ一回もイッてないのにお前だけ二回も出しちゃってさ!」
その途端に真っ赤になって困ったように目をぱちぱちさせるシャダ。
その表情はあまりにも愛らしくてカリムの胸はひどく締めつけられた。それと同時に股間のものも再び腹を打つほどに猛り立って、思わず前のめりになったカリムは心の中で叫んだ。
ダメだ、もうこれ以上我慢できない!

「入れるよ、シャダ」
彼はもう一度香油を手のひらにたらすと、そそり立ったものをひとこすりして軽い足を抱え上げた。
「はぁっ!はぁあんんっ・・・」
今度は指で慣らしてあったおかげか、入り口あたりまではさして抵抗なくぬるりと滑り込む。
だが、それから先にはどうしても進めない。シャダもさっきのような殺されそうな大騒ぎはしないものの、犬のように口で息をしていかにも辛そうな様子。

「シャダ、シャダ・・・お願いだからもっと力抜いて・・・」カリムは哀願した。額からしたたり落ちた汗が目にしみる。「そんなに力入れちゃ入らない!」
シャダも懸命に体の力を抜こうとしているものの、少し進むたびに痛みに体を固くしてしまうのだ。

だが、余りに辛そうな様子に胸が痛んで「やっぱり辛い?・・・もう、やめとこうか?」とささやくと、シャダは目をうるませた。
「ハァ・・・大丈夫だから。心配いらない」
そして心を落ち着かせるように何度か深呼吸をしてみせる。
「ちょっと待って、今から息、吐くから・・・それに合わせて来て・・・」
だからカリムは言われるがまま、一気に体を進めた。背中にシャダの指先が食い込むのを意識の端で捕らえながら。


「ああ・・・シャダ・・・シャダ、シャダ・・・」
おぼろげな月光の底、 夢中で腰を揺らしながらカリムはまるで熱病にうなされる人のように何度も愛しい名を唱えた。
シャダ、シャダ。ああ、なんて綺麗な名前。
深く体を沈めるたびに空気を震わせる、神殿の奥で耳にしたあの美しい声。
初めての交わりの苦しみに耐えきれず時折漏らす苦しげな吐息すら、甘い響きをもってカリムの耳に響く。

カリムは熱い内奥に杭を打ち込んだまま息をはずませた。
「ハァ、ハァ・・・シャダ・・・まだ・・・つらい?」
いまにも泣き出しそうな顔をしたシャダは返事の代わりに広い背中に両腕を伸ばすと、おもいきり力を入れてしがみついた。
「・・・カリム・・・好き。大好きだ」
そのとたん背筋がぞくぞくして、カリムはもっと強くシャダを抱きしめた。
「俺も、シャダ・・・大好き。ホントに大好きだ・・・」
「・・・カリム、ぼ、ぼくら・・・とうとうやっちゃっ・・・たんだね」とシャダが力無い微笑みを浮かべた。
「・・・うん。いま、入ってる・・・」カリムも流れる汗で黒髪を額にはりつけたまま微笑みかえす。

「ハァ、ハァ・・・ねえ・・・カリム・・・もう僕・・・限界だ・・・」
「・・・あっ!やめ・・・急に締めないで!」大きな波に呑み込まれそうになってカリムはあわてた。
「・・・ダメ、もうイッちゃって・・・あぁああんっ!」
「・・・ううっ!で、出ちゃう、出ちゃうよシャダあ!」
次の瞬間、カリムはぶるっと腰を震わせると、シャダの体の奥に大量の精液を吐き出していた。




おぼろげな月光の底、カリムとシャダは全裸で寝転がったまま無言で宙に視線をさまよわせていた。
やがて先に沈黙を破ったのはシャダ。
「ねぇカリム・・・」
「・・・・なんだ?」
「お尻が気持ち悪い。何かはさまったままみたい」
「・・・しようがないだろ」
「お前のが大きすぎるせいだ」
「・・・だからしようがないだろ」
「そのうち慣れるのかな」
「・・・きっとそうだろ」
「・・・ねぇカリム・・・」
「・・・なんだ?」
「一発やったら急に不愛想になったね」
「・・・馬鹿っ!」

ふざけてシャダにのしかかったカリムの股間は、可愛い喘ぎ声にまたしても熱くなる。
カリムは息をはずませながらシャダに口づけるとおそるおそる言った。
「ねぇシャダ・・・」
「・・・・・・なぁに?」
「俺・・・また固くなってきた」
「・・・・・・・」とたんにひくひくと引きつるシャダの口元。
「ねぇシャダ・・・」
「・・・なんだよ」
「・・・もう一回やっていい?」

カリムは悲鳴を上げて逃げようとするシャダに襲いかかると、浅黒く力強い腕で押さえつけた。
そして間もなく、もういいかげんに勘弁してくれとでも言いたげな寝台のきしみに混じって、あの甘い嬌声が聞こえてきたのだった。

<了>


※・・・「マンドラゴラを食べて初キッス」というのは、オフラインの子供本で書いた当家のカリシャダ設定です。
エッチへの好奇心あふるる耳年増な少年たちが、「エロい食べ物」という知識を仕入れて盗み食いしたマンドラゴラ。ムラムラきたいきおいあまって友達同志てキスしたはいいが、そのあと一ヶ月ほど気まずさをぬぐえない二人・・・というようなトホホなお話。


カリムとシャダの初体験話、「アウト・オブ・ブルー」ですが、迷ったあげく「やってるシーン」はカットしたんですよね。ところが有り難いことに「エロシーンもぜひ!」というリクをけっこう頂きましたので、渋々上げてみた次第でございます。

私、エッチシーンは人が書いてくれたのを読むのは好きなのですが、自分で書くのはものすごく苦手。どうも「キレのあるエッチ」(なんじゃそりゃ)を書けなくって・・・でもなんとかがんばってみました。

私はカリムとシャダはべつに奪い合ったり傷つけ合ったりすれちがいまくったりするようなドラマチックなカップルではなくて、互いをいたわり合うごく普通の仲のいいカップルーただ同性同士であるという一点を除いてーだと思っていますので、すべてが日常的な話になってしまうのにけっこう困ったりします。
マンネリズム打開のためには、ぼちぼちヒッタイトに登場してもらわなきゃならないかな。ヒッタイトの荒くれ者たちに陵辱されるカリムと、恋人の救出に向かう雄々しいシャダの話でも・・・(笑)