明日、あなたに手紙を書こう



カモのひなが一匹、カモのひなが二匹、カモのひなが三匹・・・
大きいやつ、小さいやつ、不細工なやつ、あげくはカモにすら見えないやつ・・・
羽をばたつかせたひなたちがピィピィ鳴いているのは白い陶器のかけらの上。(※1)

陶片の上で大騒ぎしている鳥たちをのぞき込んだ瞬間、 赤ら顎をてらてらと光らせた小太りの老人の顔にはうんざりしたような表情が浮かんだ。

「うーむ・・・・・・」
老人はぴしっとのりのきいたハンカチーフで額の汗をぬぐいながら言いよどむ。
「・・・うーむ・・・れ・・・練習の甲斐あってかなり上達なさいましたなぁ」
「そうですかな?イアフメス殿」

鷹に似た黄色い瞳を輝かせて教師を見上げたのは、葦ペンを折れるほどに強く握りしめた逞しい男。
「え、ええ、そうですとも!確実に進歩されておりますぞ」とお追従を言うイアフメス。
「二週間前と比べると雲泥の差です。今だから言えるがあれはひど・・・ゴホンゴホン・・・いやまったく、ホルエムヘブ殿はなかなか筋の良い生徒でいらっしゃる」

「それは嬉しいお言葉。まったく先生はお世辞がお上手だ!わはははははは」
「いやいや、私は歯に衣着せぬ男だと言われておりますぞ!ははははははは」
乾いた笑い声を上げながら、イアフメスは新しい陶片を差し出した。
「では次にウズラのひなとツバメとスズメを書いて頂けますかな」

だが、年中汗をかいている彼の額は、陶片に出現した「トリのようなもの」を目にしたとたんに一瞬で冷たくなった。
冷や汗をぬぐった老人は、割のいいバイトの口に易々と乗ってしまった愚かしい自分を呪った。
ああ!正直なところをずばっと言ってしまいたい。
今さらなにがヒエログリフだ、軍人に葦ペンは似合わない、弓矢や戦車を操っておればよいのだ!と。

だが、世知に長けた老人は、下手なことを言って気が荒いので有名なこの生徒を怒らせるほど馬鹿ではない。
そうして、自分の描いた鳥たちへの評価をにこにことして待ち受ける男の視線に焼かれそうになりながらも、老人は真実を伝えかつ生徒の機嫌をも損ねないような、最大公約数の冴えた台詞をひねり出そうとするのであった。



「なんで戦士が書記のまねごとをせにゃならんのだ!」
それは今から二週間前のこと、ホルエムヘブは砂の詰まった革袋を思いっきり殴りつけた。
そのままふっ飛んで行きそうな革袋の勢いに耐えかねて、ミシミシと悲痛な叫びを上げる軒。兵営の運動場で鍛錬していた兵士一同も、上官の大声に驚いて動きを止めて振り返る。

だが、部下達の視線に気付かない彼は、ゆらゆら揺れている革袋をじっと見つめながら考えた。
・・・けれど、あいつを驚かせるのもけっこう面白いかもしれない。何もホルス神に捧げる長大な讃歌を書けというわけじゃない、ちょっとした文章でこと足りるんだからな。
それにしても今さら毛も生えてないようなガキの真似かよ!でも・・・まぁそういうのもたまにはいいかもしれんな、ふふふふふっ・・・

自分の思いつきに照れくさくなったホルエムヘブは、砂袋にさらに一発、思い切り強烈なパンチを食らわせた。
鬼のような上官の形相を見守る兵士たちはぶるっ、と身を震わせる。
「お、おい・・・隊長、何かあったんか?」
「ああ、なんだかすごく機嫌が悪いみてぇだな。」
「どうせまたマザコン将軍に何か言われたんだろ」
「でも時々にやにやしてるぜ」
「・・・なんか怖いな」
「ああ、隊長の笑顔にゃ裏があるからな」
「ほっとくが吉だな」
「そうだそうだ。下手言って砂袋みてえに殴られちゃあ損だぜ」
口々にそう言いながら、兵士一同はなにも見なかったふりをしてまたレスリングや弓術の練習に戻ったのだ。



ヒエログリフの読み書きができないのは、エジプト軍モントゥ師団の戦車隊長、勇者の名高いホルエムヘブの唯一のコンプレックスであった。

もちろん、上流階級の人間ですら読み書きをこなせる者はほんの一握り。
文字の習得はごく一部のエリート層に限られており、文字を操れる者は神の言葉の代弁者として尊敬を集めるほどの特殊能力。
読み書きができないのは、普通のエジプト人としてべつだん恥じることではない。
それどころか、ろくな教育も受けていないというのに、ホルエムヘブはヒエログリフの崩し文字であるヒエラティックならばなんとか読むだけならできた。
これだけでも平均的エジプト人からすると立派なことなのだが・・・

だが彼はそうは思わなかった。
人からどう言われようとも、ひそかに抱いたコンプレックスをどうしてもぬぐい去ることができないホルエムヘブ。
なぜならば彼の行く手には大きな障害が・・・カリムという男が、まるでアスワンから切り出されたオベリスク石のごとくどっしりと横たわっていたからである。

相手が学問はあるが体力ゼロのなまっちろい書記や学者ならば、あらゆる武芸に秀でた肉体派のこの軍人は鼻息一つで笑い飛ばして気にも留めていなかっただろう。
だが彼の最大のライバルはあまりに手強かった。


ヒエラティックもヒエログリフも自在に操り、クフ王の昔の計算式をひもといては神殿やら王の永遠の家やらの設計を手がけるカリム。
それだけでも十分な才能だというのに、一体どういう気まぐれだか!
神々の王たるアメン・ラーはカリムに二物を与えたのだ。
雄牛のように大きく逞しい体を持ったカリムは、レスリングに弓術、棒術・・・あらゆるスポーツをそつなくこなし、そのレベルも年に一度のレスリング御前大会で、ここ数年ホルエムヘブと優勝を争ってきたほどである。

とはいえ、水泳や短距離走や、新しもの好きのアクナムカノン王の治世になってから急速に広まった馬術。(※2)
さらには軍事や実戦における判断力において言うならば、ホルエムヘブは他よりも遙かに秀でていたからには、人はそれぞれ得手不得手があるもの、自分は軍人なのだから読み書きが出来なくてもべつにかまわないと思うべきだったろう。

じっさい、今まではそうだった。
呼べばすぐさま飛んでくる代書屋にちょっとした手数料を払えば、手紙や契約書の用はこと足りる。
ならば戦士が文字なんぞ書く必要はない、とひょろひょろした文官達をあからさまに馬鹿にしていたホルエムヘブであったが・・・

まさか自分がそのひょろひょろした文官に心奪われるとは!

事態が一変したはあの、王主催の宴会のこと。
古風な女物のワンピースを身にまとい、ラピスラズリに飾られた指先で小さな竪琴をつまびいてみせた青白い法官シャダに、ホルエムヘブは一目惚れしてしまったのだ。
さらには歯噛みするほどついていないことに、シャダが今やよりによってあのカリムの恋人であるときては!

「申し訳ないけれど・・・」
今でも覚えている。金環輝く細い腕をつかんだ時、卵形の綺麗な顔に浮かんだ引きつった笑顔を。
素っ気なく手をふりほどきながら彼は言ったものだ。
「正直なところ武官は苦手なんだ。こう言うのは何だが・・・聖なる文字を扱えない人とはちょっと・・・」

ああそうか。ホルエムヘブはがっかりした。
だが、がっかりはしたものの、転んでもただでは起きぬこの男は諦めという言葉を知らなかったのだ。

気分屋なことではその筋で名高い青年のこと、守りはさして堅くはなかろう。
獣並みに鋭い勘に頼って今まで幾多の死線をくぐり抜けてきた軍人は、顔を真っ赤にしてそそくさと去ってゆくシャダの華奢な後ろ姿を眺めながら、その城壁は押しの一手で打ち崩せる可能性大だと確信したのである。

折しも来月はシャダの誕生日。
何か気の利いた贈り物に直筆ヒエログリフで書いた誕生日カードでも添えれば・・・
珍しいもの好きなあいつはきっと大喜びして、自分の方を向いてくれるかもしれない!

冴えたアイデアに有頂天になった強面は、すぐさま愛馬メンチュホテプを厩から引っぱり出すと「生命の家」の元教師である隠居老人イアフメスの元に超特急で馬を駆ったのである。

だが、ホルエムヘブの勘も途中までは冴えていたものの・・・
彼はすっかり忘れていたのだ。
この聖なる文字の習得は若年の髪房(※3)を下げた年齢から、下手すると成人するまでの長い時間がかかるほど難儀なものであることを・・・



ホルエムヘブがイアフメスの私塾の扉を叩いてから二週間がたち、今や教える方も教えられる方も、陶片で行列する下手くそなアヒルや牛の耳やオタマジャクシとにらめっこすることに内心飽き飽きしていた。

「イアフメス殿」
ある日ホルエムヘブが切り出した。
「そもそも聖なる文字を習得するのが容易ならざるものであるのは、私にも分かっておりました」

それに対してイアフメスの喉からは、我が意を得たりとばかりに嬉しそうな声があがる。
「確かにそうですなぁ!いくら隊長が優秀な生徒とはいえ、基本のウズラのヒナ習得ですら大変なものだとお分かりでございましょう?」

トウの立ちすぎた生徒がヒエログリフ習得を諦めてくれるのかと思った老人は、自分のあげた嬉しげな声色に驚いてあわてて己の口をふさいだ。
だが、気を悪くした様子もない軍人は、白髪まじりの黒髪をぼりぼりと掻きながら「ならこういうのはどうですかな、イアフメス殿」と提案したのだ。
「私が読み上げる文章をヒエログリフで書いていただき、私がそれを手本に清書するという方法は?」

「も・・・もちろん貴公がそれでいいと仰るならば、なぜ私がお断りすることがありましょうか!」
イアフメスはおおげさに両手を広げてみせた。
「私はそれだけでもお相手に十分誠意は伝わると思いますぞ!」
「ならば話は早い。私が必要なのは取りあえず誕生日に送る手紙一通だけでしてね。それが必要な日がもうあとわずかに迫っているので、いささかあせっているのですよ」
「それは大変!間に合わなければ意味がない!どういう内容ですかな?それにしてもお誕生日のその方は幸せ者ですなぁ」老人はふざけたようにウインクしてみせた。
「今読み上げて頂ければ、すぐにでも書取りいたしますぞ、ははははっ」


だが、急にまじめな顔になったホルエムヘブは声を低くする。
「ただ、そうするにあたって一つだけ条件があるのです」
黄色い瞳に浮かんだ鋭い色を見て取った瞬間、この軍人にまつわる数々の噂を思い出した老人はぞっと寒気がして笑いを止める。

「この手紙の内容をけして他言しないということを約束して頂けますかな?」
戦車隊長は念を押した
「いや、けして恥ずべき内容ではないとはいえ、これがもし部下の耳に入りでもすれば私もいささか照れくさく思いますのでなぁ。はははははは」

そう言って朗らかな笑い声を上げるホルエムヘブ。
だが、その目はけして笑っていないのを見逃さなかったイアフメスは、書記の神トトに百度誓って手紙の内容はけして口外しないと繰り返した。

おびえ切った鼠のような老人を目にして苦笑したホルエムヘブは「ではよろしくお願いいたします」と一礼すると、朗々たる声で恐るべき恋文の原稿を読み上げ始めたのだった。

戦場では情け知らずの鬼神と化し、たとえ部下であろうとも臆病者や軍規を乱す者には容赦なく鞭を振りおろすホルエムヘブ。
だが今、その口から繰り出されているのはハチミツ漬けの菓子よりもはるかに甘ったるい、聞くだけで虫歯になりそうな言葉の数々!
それらを聞き取り、パピルスに書き付ける作業の何という苦しいこと!

老いた元教師は、吹き出しそうになったり目を白黒させたり窒息寸前になったり・・・
やっとのことで手紙が「貴方の下僕・ホルエムヘブ」で結ばれた時には、来世へ至る道程の最期の難所・オシリスの法廷から解放されたばかりの哀れな死者のような安堵の溜息をもらしたのである。


「それではこちらがヒエログリフ版の原稿です」イアフメスは言った。
「ご自分でこれと一寸違わないように書写なされば、お望みの『直筆ヒエログリフ恋文』の一丁上がりでございますわな。
さあ、この新しい紙とインク壺と葦ペンセットは『イアフメス塾』の最年長の生徒への贈り物でございます。これで思う存分に羨ましいお相手の心を揺るがす手紙をお書き下され!」

一方、ホルエムヘブは逞しい二の腕から銀の腕輪を抜き取ると、必死で辞退する老人の手にそれを無理やり握らせながら言った。
「28年間生きてきて今さらヒエログリフの手ほどきを受けるとは、ホルス神に誓って思ってもみませんでしたぞ。いずれにせよ、こんなできの悪い生徒に対する忍耐の心を持っていただき深く感謝しております、イアフメス殿。
このペンセットは大切に使わせて頂くことにして、ここはおいとまいたします。・・・では貴方にアメン・ラーのご加護あらんことを!」

なんという慌ただしい男だ・・・
二週間前に突然訪ねてきた時と同じように、砂煙を立てて走り去る馬上の戦士。

ずっしりと重い銀の腕輪をぶら下げたままホルエムヘブの後ろ姿を見つめながら、老人はやっと厄介払いができたとばかりに大きな溜息をついた。
だがそれと同時に、あの下手くそなカモのヒナの行列が頭の隅に浮かんだとき、なぜだかほんの少しだけ寂しいような気持ちになるイアフメスであった。



さて、それから三日ののち。
「郵便どぇ〜す!」
真っ白な出っ歯を陽の光に照り返らせたヌビア人郵便配達夫によって届けられた一通の手紙。

「ん?誰からだろう?」
不審そうに差出人の名前を確かめたシャダは思わず眉間にしわを寄せた。
「・・・ホルエムヘブ?」

断っても断っても口説きを止めないホルエムヘブ。押しが強くてどうも苦手なタイプの野蛮な男が自分に寄越す手紙の内容なんぞ、開かなくても予想がつく。
これだけぶ厚い手紙を書かせるには、さぞ代書屋にぼったくられたんだろうねえ!
そう思いながら泥と藁とで封印された最上質のパピルスを開いた瞬間、シャダのアーモンド型の目はまん丸くなった。

「お誕生日おめでとうございます」
そう書き出された手紙はなんと、ヒエログリフの読み書きなんぞ夢の中ですらできなかったはずの男の直筆。
確かにこれは代書屋の手によるものではない、とシャダは確信した。
どんなに不真面目な書記であっても、こんなに下手っくそな文字はおいそれと書けるもんじゃない!

「良いモノ」を表す言葉につくツバメの線が多すぎて、正反対の「悪いモノ」を表すスズメになっていたり、オタマジャクシがフグに見えたりカモのひながヒヒみたいだったり・・・
ヒエログリフというよりはむしろ異国の暗号に近い想像力を要求する手紙を、つっかえつっかえ・・・ときどき頬を赤らめながらも何とか読み進めるシャダ。


「はぁああああああぁ・・・」
読み終わった手紙を元どおりに折り曲げた青年は、 知らない内に熱くなっていた頬に手をやりながら長い溜息をついた。
・・・まぁ、努力だけは認めてあげるよ、ホルエムヘブ。
とシャダは呟く。
でも、君は根本的な間違いをしてるね・・・
・・・僕の誕生日は来月の今日なんだよね。

それにしても手紙の最後に書かれていた「この手紙が届いた後すぐに、素敵な誕生日の贈り物をお届けします」 という文章が気になってたまらない。
雅なんぞ死んでも解さない荒くれ者からの贈り物・・・どんなものだか予想もつかない。
ありふれたアクセサリーならまだいいが、敵の頭蓋骨で作った酒杯なんかだったらどうしよう!

それにしてもヒエログリフ文盲の男が、自分のためだけに習った文字で下手っぴな手紙を・・・ねえ・・・
そう考えると何ともいえずもやもやした気持ちになってくる。

シャダは金で生命の鍵が象眼されたトルコ石色の箱のふたを開けると、すぐさま破り捨てるつもりだった手紙を大切そうにしまい込んだ。
こうして今日もまたシャダの心の小箱には、カリムに言えない秘密が増えていくのである。




「ヒョホホホホォホホォォ〜〜〜!」
手紙を受け取った次の朝、シャダは恐ろしい笑い声に驚いて飛び起きた。
ベッドの足元ですやすやと眠っていた白いサルーキも、はじかれたように戸口に駈けてゆく。

「な、なんだこれはっ!?」
召使いのイネトやセンレスが困ったように見つめている先には大きな檻。
その中で犬に吠えられ歯をむき出しているのは、さっきの笑い声の主。

「シャダ様、ホルエムヘブ様からのお便りでございます」
ひざまづいた輸送人がうやうやしく差し出した手紙には、もう書くことに飽きたのか、今度は代書屋による達筆なヒエラティクでこう記されていた。

他のいずれの女性よりも麗しい
比肩する者のない 唯一無二の我が愛するシャダ様へ

先日お約束しましたお誕生日の贈り物をお送りいたします。
私が先だって訪れたヌビアで捕らえてきたものです。
なんでもクフ王の昔にはこの生き物(ハイエナといいます)を餌付けして食用に供したとのことで、当時の大臣の墓壁画にも「ハイエナ餌付けの図」が描かれているそうです。
貴方のお口が肥えていることは存じ上げておりますが、さすがにハイエナはお召し上がりになったことはないのではと思いお贈りすることにいたしました。
煮るなり焼くなりお好きなように調理なさって下さい。

また、お世辞にも愛くるしいとはいえない生き物ですが、お気に召せばペットとして飼ってみるのも一興かと存じます。もちろんご愛犬リイリイ君と喧嘩しないならば、の話ですが。

何でもお持ちの貴方様ですが、ここまで珍奇な贈り物ならばきっと喜んでいただけると確信しております。
また味の感想などお知らせ下さいませ。楽しみにお待ちしております。
(もしハイエナ料理をご一緒してよろしければ、このまま輸送人に手紙を言付け下さい。弓の名手の射る矢よりも早くおそばに飛んで参りますゆえ!)

それでは貴方の18回目の誕生日がアメン・ラー神とプタハ神に祝福されること、心よりお祈り申し上げております。

貴方の下僕・ホルエムヘブより愛を込めて

「ワンッ!ワンッ!ギャワーンッ!ワンワンッ!」
「ヒョホホホホホーーッツ!!」
「ギャワワワーン!アウアウアウワワーーン!!」

手紙を読んでいる間にも犬とハイエナは威嚇しあって恐ろしい鳴き声を上げている。

人の誕生日を一ヶ月間違ったあげくこんなゲテモノを送ってくるなんて・・・
やっぱりホルエムヘブなんか大嫌いだ!

両手で耳を塞いで心の中でそう叫ぶシャダの背後では、いつ止むともしれぬケダモノの叫び声が響き渡っていた。


※1・・・当時パピルスは贅沢品だったので、さして大切ではないメモや落描きは石灰岩や陶器の破片(オストラコン、複数形オストラカ)に書かれました。

左は書記見習いの子供が書いたと思われるオストラコンのヒエログリフ練習帳。やっぱり「カモ(またはアヒル)のひな」には苦労したみたいですね。

※2・・・原作ではみな派手に馬を乗り回していましたが、18王朝頃にはまだ乗馬は全く一般的ではありませんでした。乗馬するのは一部の軍人や急ぎの文書を届ける配達夫に限られ、一般的に馬は馬車や戦車を引かせるために使っていたようです。

※3・・・思春期前の古代エジプトの子供の髪型。頭の右サイドから編んだ三つ編みを垂らして、あとは剃ってしまうヘアスタイル。リシドの弁髪がサイドに移動したカンジをご想像ください。


他にはキツイがシャダには弱い粗暴な男の純情(笑)
夏コミ本でカリムとシャダを取り合うイケイケ戦車隊長に再登場して頂きました。
オリジナルっぷりもえーかげんにせぇよ!というカンジですが、涼しい気候のせいか何となくホルシャダ気分だったので書いてみた次第でございます。

押しの一手の男の思わぬフェイントにグラッとくる意志薄弱なダメットさん。大丈夫かシャダ?!あと一押しで貞操の危機みたいなカンジだぞシャダ!!
そしてキリッと強面のはずが戦車隊長もけっこうダメなかんじ。私が書くとエジプト人総間抜けかも・・・

ちなみに、文中の「ハイエナの鳴き声」ですが、ハイエナが笑い声のような不気味な声を立てるというのは有名なものの、それがどういうカンジの鳴き声だったかは、ハイエナ番組(なんじゃそりゃ・・・)を見たのが相当な昔なもので、私の記憶からはすっかり欠落しております。
よって文中の鳴き声は表現としてズバリそのものではないかもしれませんが、また声を聞く機会があれば訂正しときますので、取りあえず今は
「ヒョホホホホホォオーーッ!」なんていう「喜んでジャンプする釣りキチ三平」「アラレちゃん」のような表現でお見逃しください。