メモリーズ その壱 芥子が咲くと想い出す 

春になると咲き始める鮮やかなオレンジ色の花、ひなげし(↑)

「ひなげし」と聞くと、私と同年輩の方は真っ先にアグネス・チャンの「♪おっかのう〜え ひっなげしのは〜なが〜♪」というキンキン声を思い起こされることでしょう。

しかし、ひなげしを見るたびに私の脳裏には、アグネスの歌とはまた違った懐かしい記憶が蘇ってくるのです。


そのきっかけは、小学校低学年の頃たまたま連れて行かれた近所の銭湯でした。 

当時の銭湯には警察の「大阪港から上がった腐乱死体の復元人型」(骨格に粘土で肉付けしていって、生前の顔かたちを推測するというあれね)や「連続殺人犯の指名手配写真」「腕だけ見つかった死体のはめていた指輪」など、見る人の感性にじつにダイレクトに訴えかけるポスターが掲示されていました。 そんなポスター群の中で、少女三木の心を強烈に引きつけた一枚のポスター。

それは警察からのおしらせ「栽培してはならないケシ一覧表」。 死体復元人形の無表情な写真の横に貼られたそのポスター、植物図鑑の一ページのように、色とりどりの綺麗なケシの花で彩られています。

「どうして植えちゃならないんだろう」 とても不思議に思いました。 こんな綺麗な花なのに・・・でもけーさつがダメというには何かわけがあるんだ・・・

その日から私のケシ狩りが始まったのです。

今から思えば私の集めていたケシは、ポスターの中で「植えてもいいケシ」のカテゴリーに入れられていたのです。 しかし子供の私はそこまで気づきませんでした。 

とにかくなにかいけないもの→すなわち、なにかとてもいいもの、というぼんやりとした(当たらずとも遠からずな)勘によって、私は野原に咲くケシの花を摘んで積んで摘みまくりました。 そして摘んだケシは種をほぐして乾かして、将来のため綺麗な箱にためていたのです。 

もちろん、ケシから気持ちよくなれるいけないアシッドが出来るなんてことは、少女の私が知る由もありません。 ましてやどうやって気持ちいいクスリを作るかなんて!

ただ確実に分かるのは、「私の家の周りでは、次の年からは確実にケシの生息数が減っていた」という事です。だって種からそれこそ根絶やしにしちゃったんだもんね。

その数年後、もう少し成長した私は、今度は「インコのえさに時々大麻の種が混じってる」というネタを耳にしたものですから、インコの餌を横取りして検閲したりしていました。 昔からマメだったということですね!


・・・ただ話題が微妙なので誤解ないように言っときますが、私は大麻やヘロインなんかした事ないですからね! アシッドの助けなしでも”デイドリーマー”なのに、これ以上いらん刺激に後押しされるとそれこそ病院入りです。 ピンクの象に出会う時は、すなわちこれ人生も終幕ということですから。 もちろんカーテンコール無しのね。


【追記】この話を友人にすると、彼女は実にあっさりと「あんパンの上にかけてあるケシの実もまれに発芽するらしいよ」と教えてくれました。 こうして”素敵な奥さん”的「生活のマメ知識」だけはどんどん増えてくるのです。