テーベ西岸
シェイド・アブド・エル・クルナ

メンナの墓

メンナ
18王朝(前1400年頃)
上下エジプトの二つの土地を統治する
主人(トトメス四世)の土地台帳の書記

ルクソールのナイル西岸ではいくつかの王墓や貴族墓、職人墓が公開されていますが、その中でナクトの墓と並んで私が一番好きなのがこのメンナの墓。

王墓の壁に描かれているのは「冥界の書」や「門の書」など、神の審判や復活再生に関する呪文集、理想化された王の姿ばかりで、それらは確かに素晴らしい美しさなんですが、定型的で飽きてくるんですよ。

しかしナクトやメンナといったいわば中級官吏の墓には、当時の絵描きがある程度好きなように絵筆をふるった跡が見られて、なんだか心が暖まります。

これらの絵は色々な文献に引用されているのですが、どれも線画で示されておりオリジナルの写真はほぼ皆無でしたので、実物を見ることができた時には感激で気が遠くなりました・・・

「アタシが見つけたのよっ?!」「アタシの方が先よ!」
「何よ!このスベタ!」「キーッ!髪ひっぱんないでよぉ!」

落ち穂をめぐってつかみ合いの喧嘩をする女の子たち。

かたやこちらは仲よしさん。

友人の足に刺さったとげを抜いてやっている。
わざわざこういうシーンを依頼主の墓癖に描く職人の心やいかに。

すごく好きな絵。お母さんが赤ちゃんを胸にくくりつけてあやしながら、イナゴマメまたはアカシアの木の下で作業している。

古代エジプト人の90数パーセントが農民だったが、
女性もまた貴重な働き手であった。
籾をふるい分ける女性達。
籾殻が髪にもぐりこまないように布を被っている。

「農作業後に何かガメてないかチェックしている」という説と「ちゃんと納税したのでほめてもらっている」という説のあるシーン。

その下にはこの絵が描かれている。
「作業中に盗みを働いた」又は「納税できなかった」のでぶたれている可哀想なビンボー人と必死で許しを請う友達または家族。

一方こちらは人生の勝者、古代エジプトのエリートである書記。
収穫物の上に腰掛けて悠々と収穫高の記録を取っている。

右手に葦ペン、左手に赤と黒のインクの入ったパレットを持っているのに注目。衣装も左のビンボー人に比べて凝っている。

ついでながら六神官はこういう書記のはるか頭上の雲の上の人たち、ファラオはさらにそのまたはるか上・・・と考えるとハゲだのオカッパだのとあんましナメちゃいかんな。

上掲の母と乳飲み子の絵と並んで私が一番好きな壁画部分。
農作業中に木陰で一休み、つい居眠りしてしまう男。

メンナの墓の絵を見ていると、今から3400年前に生きた人々の喜怒哀楽が伝わってくる気がして何となく切ない気分になる。

家族で水鳥猟に来たシーンに描かれたメンナの愛娘。

左手にはパピルス、右手には父親の捕った水鳥を下げた愛くるしい姿でパピルス船に乗っている。

来世で愛する家族とともに今世と同じ生活を繰り返すことを願って、墓主の壁には妻や子供達の姿が描き入れられた。

メンナはあちらの世界で無事に娘と再会できただろうか。