ファラオの犬舎で狩猟用のサルーキが春仔を産んだ。

「好きなのを一匹持って行くがよい」と気前のいいところを見せるファラオ。

白いやつ、茶色いやつ、ブチのやつ・・・七匹の仔犬はどれも愛くるしくて迷ってしまう。

はしゃぎ回ってマハードにじゃれついたり、兄弟で相撲を取る仔犬たちの向こうで、一匹だけ一心不乱に小枝をかじっている黒いのがいた。

無愛想な黒い犬。「おいでおいで」と口笛を吹いてみる。

すると仔犬、じろりと肩越しに振り返るとやおら小枝をくわえたまま立ち上がり、とことこと歩いてきてマハードの足元でぽとりと枝を落として尻尾を振った。

「こいつに決めます」

大喜びで大事に抱いて連れ帰ったところへカリムとシャダやって来て仔犬をなでながら尋ねる。「名前は何にするんだ?」

マハードしばらく考え込んで「・・・ケム、にします」

“ケム”とは“黒”という意味。

「まんまだなぁ!」という言葉を必死で押し殺す二人。

犬ならチビ、猫ならミケ、とか平気で名付けそうなひねりの無いそんな男マハード。