「お手とチンチンと撃たれて死んだマネと10分間のおあずけをさせられた結果もらったものは小型犬用のジャーキー一本」だったドーベルマンのような物足りなさを味わった前日のツアーコースのカイロ博物館鑑賞は約2時間。 限られた時間でガイドが案内してくれるのは、当然ながらみんな大好きツタンカーメンの秘宝であって、「下々の者の生活用具」なんか見せてもらえるわけない。まぁそれもツアーなので当然と言えば当然。はるばるエジプトくんだりまで来て、百姓のクワとかカツラとかフンドシなんか誰も見とうないわなフツー。 「博物館は何時から開いてるの?」 それじゃちょっと早めに行って開館まで門の前で待つことにしようかね、というわけで、ホテル前からタクシーに乗って、いざ!カイロ博物館へレッツラゴン!! ・・・ところが。 タクシーを降りると、博物館の門は死んだアサリの口よりも固く閉じたまま。その回りを警官(※)が十重二十重に取り巻くさまは、テロ直後のどこぞの国の大使館の趣である。 おそるおそる近づいてみると、門には私の一縷の望みを打ち砕くがごとき「OPEN・9:00」の文字。
(←)エジプトには積載重量という観念は存在しない。 その後の開館までの約1時間半、通勤客が溢れる地下鉄駅や、博物館をガードするシェパード犬の脱糞シーンや、20年前から軒先に下がったままのムームーを並べている熱海の土産物屋にも似た、趣深い洋品店を鑑賞・・・ そんなあんまし楽しくないカイロ散策でヒマを潰し、最後は時間を持てあましてしょぼい公園の、今にも土に還りそうな崩壊寸前のベンチから、道行く人を観察する不気味な東洋人を演じたりしていた。 でもそんなに長いことウロウロしていた割に、5分おきに絨毯売りに声を掛けられるイスタンブールと違って、カイロはほとんど声を掛けてくる人間がいなかったのにはちょっとびっくり。まぁ時間的なものもあったのだろうが・・・ 声を掛けてくる人といえば、人数が多すぎてヒマを持て余している若い警官たちのみ。"Can
you speak Arabic?"って、話されへんっちゅーに!(怒) さて、そうこうする内に8時半。 9時に開くというチケット売り場にはコミケ並みの行列が出来ている。しまった!10時にはここから出なくちゃならないのに!烈作ってたら時間がないよ!(泣) (→)旗がハタハタとはためくカイロ博物館正門。オープンは9時ですのでお間違えなきよう。 するとその時、呆然とする私の傍らに、氷上のプリマドンナのようななめらかな動きで近寄ってきた血糖値が高そうなオヤジ。 「ガイドいらんかね?」「・・・」「所蔵品が多いからガイド無しではキツイよ」「・・・いくら?」「10ドルでいいよ」「オッサン、この博物館の所蔵品のこと全部知ってるの?」「おう!モチよ!何でも聞いてくれ!」「1時間しか時間がないから、的を得たガイドをして欲しいねん」「おぅ!任せとけ!」・・・というわけであっさり交渉成立。 するとチケット売り場の裏口に消えゆくオヤジ。体格の割に動きがやたらと軽快だね。 私の懐疑のまなざしにはお構いなしに、タヌキ腹のオヤジは私を引率して戸外ゲートをさっさと通り抜け、X線ゲートの警備者に親しげに挨拶、ノーチェックで館内にずんずんと進んで行く。 「キミ、いいガイドを雇ったね!彼はこの博物館のガイドナンバーワンだよ!」 とはいえ、それと同時に余りにも押しの強いオヤジのトッパぶりに、なお一抹の不安を拭い切れないのも確かであった・・・(3へつづく)
(←)とある高級ホテルのロビーにディスプレイされていた「ラムセス二世像」(のつもり) いっそ飾らない方がいいんじゃあ・・・と言うとマネージャーは傷つくだろうか。 |