2017年2月16日(木)
草木も眠る丑三つ時、ちょっとした拍子に後悔モードにスイッチが入ってしまったらもういけない。カナがもうこの世にいないことが悲しくて残念でたまらなくて、朝の4時まで布団の中で悶々としていた。こんなことを繰り返していると気力がごっそり奪われて、夜明けと共に肉体が灰になって飛んで行っちゃいそうだ。
しかし眠りに落ちる直前まで悲しいことを考えていたからといって、夢まで悲しいとは限らない。昨日は先っぽに恐竜の頭の骨がついたスコップを手に、命を駆けた闘いを繰り広げる格闘家と警官を見物しながら腹を抱えて大爆笑してたよ……。 闘いの先に待つものはDEATH 一択だというのに、爆笑するだなんてお前は剣闘士の殺し合いを見物するローマ市民か。パンとサーカスか。でも、真剣そのものの男二人が握りしめたスコップの先で、恐竜の骨がカチッ……カチッ……と歯を鳴らして威嚇している絵がマヌケすぎて、ついつい笑っちゃったんだ。
死にゆく者に敬意を払わない、けしからん私が次に飛ばされた舞台は、純白のロン毛、鷹に似た容貌の、映画的にありがちルックスの爺さんが主催するリッチマンの秘密パーティー。
シャンデリアの下を熱帯魚のようにたゆたう人々の背後では、古いフランス歌謡めいた甘ったるい声で歌うレコードが、発狂しそうなくらいのエンドレスっぷりで流れている。♪ネコちゃん〜 ネコちゃん〜 ネコちゃんを抱きしめて チューしちゃうの〜 ネコちゃんはめいわく顔〜 ネコちゃん〜 ネコちゃん〜♪ ちなみにネコちゃんの歌は現実世界に存在する曲ではない。私の脳内オリジナルだ。
洗練されたパーティーにどうしてこんな変てこな曲?といぶかしく思いながらも、いっけなーい!時間に遅れちゃう!と向かった先はこの秘密クラブのバックヤード。そう、今日からこの施設でサービス係として働くのだ。
先に来ていた美少年たちは、すでに制服──水兵帽子に水兵ルックのヒラヒラがついたへそ出しピチT、そしてビキニパンツorホットパンツというエロウェアで勢揃いしている。どうやらここはゲイ限定の歓楽施設らしい。 そしていつの間にやら美少年と化した私は先輩に導かれるままに大きな姿見の前に立ち、口と尻にミステリアスなプラスチック製の何か(現実世界では見たことのないもの)をくわえて、日課である体操を始めるのだ。
「パラップルップ ピー! パラップルップ ピー!」 かけ声に合わせてしなを作り、思いっきり寄り目にして全身をクネクネさせる私たち。 「ダメよおっ!もっと腰をひねって!」「唇はもっと突きだしてっ!」 先輩に叱咤激励されながら、何かに憑依されたように体を揺らす私たち。パラップルップ ピー! パラップルップ ピー! パラップルップ ピー! パラップルップ ピー!
そうこうするうちに突然体操は終了。私は人目を盗んでなにかよからぬことをやっている。持ち出し禁止の、とある秘密の道具の写真を写そうとしているらしい。 その道具というのは形状はエアコンのリモコンにそっくり。でもその正体は風俗産業に革命をもたらす、詳細はぜんぜん分からないけど危険を冒してでも情報を得たい、とんでもない発明品なのであーる!……と用途も使用方法も不明で設定があやふやなあたり、機械音痴の見る夢の限界を感じるのだが。
早くしないと誰か来る!あせればあせるほどガラケーのカメラは上手くフォーカスしてくれなくて、撮っても撮ってもブレブレ。もーガラケーカメラ、イヤッ!とキーッとなったところで目が覚めた。折しも隣の布団ではヘボピーが「……ううっ……うっ、うっ……うえぇええぇん……(ふごふごっ)」と眠りながら泣いていた。またしてもマヤが中国製ウズラ卵を食べて死ぬ夢でも見ているのかもしれない。
……とまあそんなわけで、眠れない夜を過ごしたことが馬鹿馬鹿しくなるような脱力夢だった。それでも「これは夢である」ことを認識しながら見るせいか、細部の設定まで鮮明なことには我ながらびっくりする。才能あるのかな。「自ら構築した夢にダイブする」ストーリーの映画「インセプション」のサブキャラで活躍できるかな。
ただ残念なのは、♪ネコちゃん〜 ネコちゃん〜♪の歌詞&メロディーや、パラップルップ ピー体操のポーズを必死で覚えようとしても、記憶は波に洗われる浜辺の文字のように徐々に薄くなってやがて消えてしまった点である。
特に気になるのが、秘密倶楽部でピチピチのホットパンツのポケットにクネクネ・スタッフが突っ込んでいたメモ帳(客のオーダーを書き込むためのものと思われる)の表紙──パープル地に散らされたバラの花のイラストの横に書き添えられた言葉である。
「○○は薔薇にして甘露 アナルに天の声をもたらす」
夢を見ながら「○○」何かすごく大切な言葉だ!と思って、夢を見ながら必死で覚えたのだが、目覚めてメモしようとペンを持った瞬間に記憶から飛び立ってしまった。 固有名詞ではあったけれど、人名か物の名前か、それすら覚えていないんだ……。まあ分かってみたらどうせパラップルップ ピー!並みに死ぬほどどうでもいいことなんだろうけど。
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