2014年10月29日(水)

インド・スリナガルのナギーン湖。
ボートハウスの舳先に座り、酒を飲みながらオレンジ色から青紫、そして濃紺へと色を変える湖を眺めていた。

5月に初めて訪れたスリナガルが素晴らしかったので、再訪するつもりで飛行機やホテルまで取っていたのだが、
直前にカシミール地方を襲った大洪水により、街は壊滅的な打撃を受けて旅行は取りやめざるを得なかった。

街が平和で美しかった頃に撮影した写真、その中ではにかんだように微笑む人たちを眺めると、
家を破壊され家族や財産を失った彼らが、直面しているであろう現状を思って胸が痛む。

来年5月にまた行きたいと思っているけれど、その頃ならあの美しい風景は多少なりとも取り戻されているだろうか。
これまでも隣国やインド中央政府との軋轢で苦しんできた地域が、これ以上の苦難を抱えないことを心から祈っている。

「鏡のような湖面」という表現はしばしば目にするが、それをここで初めて見た。
水面に夕暮れの空を映してこの世のものとも思えないほど美しい。

ツバメがひらひらと宙返りしながら湖面の虫を捕っていた。

ナギーン湖を眺めながら涼しい風に吹かれていた時、私は「完璧な充足」というものがあるならこれがそうなのだろう、としみじみ感じていた。
悲しくてたまらなかった両親との別れも、大きな時の流れの中ではほんのささいな出来事であって、自分もいずれ父母のいるところへ帰ってゆくなら、あまり悲しむべきではないのだろうと思えた。

でも、私の胸は再び死に接した悲しみで一杯になっている。あの時はまだ三人姉妹がそろっていた。でも、その内の一人が去った今、何かとてつもなく大きな欠損感があるのだ。
あの日感じた完全な充足を、これから先の人生で再び抱くことがあるのだろうか?と、ツバメたちが飛ぶ姿を思い出しながらぼんやり考える。

2014年10月28日(火)

一昨日、阪神間の住民を恐れおののかせた雷、すごかったスね!
このところ眠くて眠くて体がついてこない私は、8時半にはすでに布団に入って眠りこけていたところへ、マンションが揺れるほどの「ドーン!」という巨大な音。「地震?!」と飛び起きた。
阪神大震災の時には間をおかずして、家をつかんだ巨人に揺さぶられているような揺れがきたから、真っ暗な部屋で体を固くしながら揺れに備えていると、「グラグラッ」が来ない。

次に思い浮かんだのが「飛行機の墜落」。脳内に浮かび上がるのは、燃える機体が放つ炎で真っ赤に染まった空。でも、すぐに雷だと分かってホッとした。あんなものすごい雷鳴、生まれて初めて聞いたわ……。

その時マヤが示したのは、「なんだなんだ?」と部屋を走り回るという、地震の時と同じ反応。でも人間の様子を見て安心したのか、すぐに探索モードに入って、野次馬ドッグの面目躍如。

ゴロゴロっ!どーん!おなかの底にひびいて、おしりが寒くなるような大きな音が窓のそとから聞こえてきます。
ピカピカッ!どーん!まやちゃんは音と光の正体をたしかめたくて、こたつの上に飛びのりました。

でも、こたつの上からだと、体が小さいまやちゃんにはよく見えません。するとおねえちゃんがだっこしてくれたので、窓わくにかじりついておそとをながめました。
ピカッ!ごろごろっ!あれれ?だれかが空の明かりをつけたり消したりしているみたいです。

ふしぎでふしぎでたまらないまやちゃんは、サッシのところに走っていきました。いつもならここに立つと、おねえちゃんがサッシを開けてベランダに出してくれるのです。
でも、この日は「おそとは雨だからだめだよ」と開けてもらえませんでした。ざんねん!

もっと見たいのにつまらないなあと思っていると「ぐんかばー」の「ぐんそうさい」から帰ってきたヘボピーねえちゃんが寝巻きに着がえてだっこしてくれました。
そうするうちに外の音と光もだんだん弱まってきて、まやちゃんはうとうとして……やがて眠りに落ちたのでした。何て不思議でおもしろい夜だったんでしょう!

2014年10月18日(土)

デリーの手工芸博物館でちょろちょろしていた野良犬の子。
カメラを向けられていることに気付くと、あわてておかあさんの足元に駆け寄ったよ。

おかあさんといっしょだと急に強気になったようです。

ご無沙汰しております。みなさまお変わりありませんか?爽やかな季節を満喫していらっしゃいますか?

私は元気にやっています。もちろん、涼しい風がそよ吹くたびに、ああ、カナが生きていればなあ!と胸を締め付ける思いはそう易々とは消え去るものではありません。
しかし今は、世間に対する言いしれぬ怒り、己に対する嫌悪と後悔、何をする気力もない抑うつの時期は過ぎて、思い出を静かに振り返り、妹の魂の安らかならんことを祈る「受容」の段階に差しかかったようです。

妹が世を去ってから今日で73日目。この間にはそこそこイベントがありました。そりゃあ人間が一人、突然いなくなったんですから後片づけだって色々ありますよね。
不動産屋に家を明け渡すための作業は2ヶ月近くを要して未だに腕が痛みますし、想像もしなかった借金が飛び出してきて、弁護士事務所と市役所と家庭裁判所を行ったり来たりもしました。

でも、ちょうど四十九日を迎えた日に家の明け渡しは完了し、金銭問題は相続放棄によってあっさり解決。消費者金融とのバトルも覚悟していた私としては肩すかしなくらい。
正直言って生前は家族にけっこう迷惑かけてくれたカナは、最後くらいは姉たちをわずらわせたくなかったのでしょう。あらゆることが予想外に綺麗に片づいて、ヘボピーいわく「最後はすーっと去っていったなあ」という印象です。

そんなこんなでそろそろ平常運転に戻らなくてはなりません。このサイトの手入れも再開するつもりです。
とは言ってもまだ気力も体力も万全ではありません。特に筋肉痛のような全身の痛みには辟易しています。これは多分、遺体を発見した際のものすごいショックが全身の筋肉を一気に収縮させたためでしょう。ストレスすげぇ!さすが万病の元!と妙に感心したりして。

それでも、悲しみの中で無理矢理決行したインド旅行のことや、カナの死の状況を知りたくて霊能者のもとを訪ねた話など、こちらを留守にしていた間のできごとを、ぼつぼつ書かせていただきたいと思います。

それにつけてもこの二ヶ間、ご心配をおかけしました。想っていただけることは本当に、何にもまさる宝です。どうもありがとうございました。

皆様には心よりの愛と感謝を捧げます。では、近いうちにまたお会いしましょう。

仕事をしている間は妹のことを考えずに済むからよかった。だがつい最近までは、休日になるたびに押し寄せる後悔の波間で溺死寸前。
癒しを求めて近場の公園に行ってぼんやり池をながめたりしていた。

人気のない夕暮れの水面を渡る寂しい風に、故人をしのぶ思いも五割り増し。ううう……もうタヒにたい……。
こりゃロケーションが悪かったか?と思いながらもベンチに座ってチューハイの缶をプシューッ!と開けると、人の気配に気付いたカメ公(超でかい)がすぅ──っと近づいてきた。

すぅぅう──────っとな。

はっ!!?見られている!それも熱視線!!?

目が合ったとたんキッパリした感じで近づいてきた。

そして流れるようなモーションで上陸!
こいつは何を求めているのだろう?なぜ私が菓子パンを持っていると分かったのだろう?

かわいいやん(=´ω`=)とパンくずをやると、池のあちこちからカメどもがすぅ──っと集結してこんな感じの事態に発展。パンはほとんどカメのエサ。(写真はイメージです)

今日の仕事を終えて係留された足こぎボートたちが、ひょうたん池のにごった水面に姿を映しながら、カメと私を静かに見つめていた……。