第一章・流されて、関空

有給休暇・・・それは法的に保証されたいわゆるひとつの労働者の権利である。

だが人件費削減のため、リストラという名の死神が大鎌をふるう昨今、この制度なぞ多くの企業ではあってなきがごとしであることは、リーマン経験のある方ならば痛いほどお分かりであろう。

もしも首尾よく仕事の段取りがついたとしても、苦虫をかみつぶしたような上司の渋面、冷ややかな視線を向ける先輩への遠慮、ちくちくする同僚の羨望の眼差し・・・いっそ縄うたれて針のむしろに石抱いて座る方がマシというもの。

アジア以外に位置する遙か彼方の国へ行こうと決めたリーマンの戦いは、このように、上司の机上に休暇届を遠慮がちに差し出す瞬間からはじまっているのだ。

・・・だが、今年のゴールデンウィークは、土日が休みのリーマンならば二日間の有休を取るだけで9日間の連休になる、というスーパースペシャルウルトラMAXデラックスなカレンダー並びであった。

リーマンはみな行きたがるこの時期は、市場原理がはたらいて航空料金は普段の5割増し・・・と聞くだけで腹に差し込みが来そうなボリ価格ではあるものの、気を遣わず海外へ行けるこのチャンスを逃す手はないというもの。

・・・というわけでまたまた行ってきた。
2ヶ月半前に行ったばかりの
「埃」「土」という漢字をあてる、国名まんまのあの国へ・・・シャダ萌えエジプト旅行(またまた)。

エジプト初体験の観光客がまずびびるのは紙幣の悪魔的な汚さであろう。

額面は25ピアストルから100エジプトポンド(1ポンド約20円)まで8種類。硬貨もあるにはあるが、物乞いにすらせせら笑われるような小さな金額なので存在しないに等しい。そしてどの店でも日本みたいに一円単位まで釣りは出してくれない。

これらの紙幣は、貧乏人の財布にはあまり入っていない100ポンド以外はまず例外なく下の写真のような恐怖のレベル9である。

ダーティー、ウエット、スメリー・・・汚・湿・臭という三者揃い踏みで、トイレの便座すら消毒してしまう清潔好きの日本人が嫌がるすべてのファクターを兼ね備えている、まさに紙幣のリーサルウエポン。

新札(上)が手元に回ってくるのは稀、それ以外はほぼ全てがオヤジの尻ポケットで持ち主の汗をたっぷりと吸い込んだ下のレベル。だけどこの程度じゃあまだまだ甘いんですぜ奥さん・・・


私がエジプトへ行くようになったのは、意外に思われるかもしれないが遊戯王古代編にはまってからのことである。

直接会ったことのない人から私は、その理由は謎ではあるが「イモムシの丸焼きでも大喜びで食べるようなさすらいのバックパッカー」と勘違いされることがたいそう多い。
ひょっとするとこのサイト見てる人からも、かなりの高確率で「インドに行ったままイリーガルなハッパに溺れて安宿に沈没するタイプ」とか思われているかもしれないが・・・己の名誉のために主張しておくが、
それは違う。まぁ頭ツルツルに剃るような女だし当たらずとも遠からずかも・・・

そういうキャラのせいかエジプトにも、遊戯王を知る以前からすでにバリバリ行っていたように思われがち。
そういえばマハ萌え旅行の直前、当時トップ絵にあった
マハードの乳首に光を慕う蛾のように吸い寄せられてきたのをきっかけに、お友達にならせて頂いたRさんも「ミキさんがエジプト行き初めてとは信じられない!何度も行ってて今度は『ちょっと神官絵の資料を取りに』ってカンジだと思ってたんですけど」と驚かれたことを、まるで昨日のことのように覚えている。

しかしじっさいは、さして旅行好きではない私は荷造りがダルいので基本的に確固たる目的(犬とか○○の○○を買うとか)のないぶらり旅はしない主義。
そして美術史&ファッション史的興味はぼんやりとあったものの、エジプトは一生行くことのない国だとなぜか決めつけていたのに・・・
なんでこ〜なるのっ?!(欽ちゃん跳び

・・・そう、すべては「わたくしめに裁きを!」からはじまったのである。

昨年初頭の初エジプトから数えて、今回ですでに四度目とは、そして9月にまた行こうとしているとは・・・私はけっこうなレベルのバカなのかもしれん。ツアコンでも早稲田のエジプトゼミの学生でもないというのに!
やはり
「萌え」とは人を行動に駆りたてる偉大かつ困った原動力なのね・・・トホホ。

悠久の時を見つめ続けてきたカフラー王のスフィンクス。
21世紀のいま、その視線の先にあるものは・・・

・・・ナウでヤングなギザっ子の憩いの場、
ケンタッキーフライドチキンとピザハット。
(このネタ、「トリビア」でもやってたそうですね)


今回のエジプト旅行がいつもと違うのは、今まではぶらりエジプト一人旅(でもガイド付き)だったのに対して、このたびは「何となく海外へ行きたくなったから」というユルユルな動機で、化粧時間の長さにおいては横綱クラスで、一緒に旅行するといつも、化粧時間5分弱のこの私を気が狂うほどイラつかせる下の妹が同行することに。

エジプト文明に全く興味ないノットオタクが30万も出して大丈夫なんか?不安がよぎる。・・・いや、まぁ、ひょっとすると妹もこれがきっかけでリアルエジプト萌えしないとも限らないよね・・・と私の心のカリムの天秤は激しく揺れ動くのであった。

ともかく、いつもなら13時間の地獄のフライト(エジプトエアーはお情けでも酒は出してくれません)を乗り切るために、そして現地の子供に遊戯王アニメのオープニングを見せてほくそ笑むために、10キロもあるノートパソをヨロヨロと下げて行って、機内でしこしことシャダ子エロ小説など書いてるのだが、この度は機内での話し相手がいて荷物も軽くすんでよかった。

それに加えて、さしもの「銀座ママのような心配りのできるY氏(ガイド)とはいえ、さすがに頼めなかったあれやこれやのオタク羞恥プレイ」ができたという意味で、化粧の長いのはまぁ我慢してやるだけのことはあったというものだよね。

(つ・づ・く)

私が原作で最も好きなシーンはコミックス35巻、「ハゲの王を捜して三千里」。
よって王家の谷は古代エジプト人みならず、シャダマニアの現代日本人にとってもある意味聖域。
崖はこのようにけっこう角度的にデンジャラーなもんで、万一足をすべらせようものなら損保会社のお世話になること必至。

さすがにガイドにもそこらを通りかかった欧米人観光客にも頼めないオタク羞恥プレイ、それは「『ファラオを捜してウロウロ』の現場で遊戯王コミックス35巻を読む」シーンの撮影であった。
座り込んで本を開いた瞬間、気温40度を超える灼熱の谷がいきなりコミケ会場にヘンシーン!
ついでに谷の果てに向かって声を限りに
「萌え〜!」って叫んできたよ。

オタク羞恥プレイその弐。メディネート・ハプでファラオ(ラムセス四世)の玉座に遊戯王風敬礼。え?玉座に近寄りすぎ、不敬罪により城壁から吊してカラスに目ん玉つつかせろですって?
・・・背後に壁が迫っててこれ以上後ろに下がれないんだよっ!(怒)和希チック・エジプトはリアルエジプトの5倍ほどゴージャスなもの。

デルエルメディーナの職人村跡を足を引きずりつつ歩くのは、化粧時間がマリーアントワネット並みに長い妹。
オタク羞恥プレイの記録に一役かってくれた彼女ではあるが、やはり私との間には決定的なモチベーションの差が・・・萌えパワーでテンション最高な私と違って、ノットオタクな妹はあっという間に鬼のような太陽光線と乾燥にバテバテ・・・
どこへ行ってもすぐ泣き入れる妹に、軽い殺意を感じたのはひみつです。