何を隠そう私がエジプトを訪れたそもそものきっかけは、行きつけの中華料理屋でたまたま開いた少年ジャンプ。「遊戯王」の見開きページでイケメンな古代エジプト神官ズがモデル立ちしているシーンで雷に打たれたことによる。

人様からは「リュックにはカレー粉常備、イモムシの丸焼きでも喜んで食べるようなサバイバル系バックパッカー」と見られがちなせいか、エジプトも当然のように体験済みだと思われていたようである。
だがほんとのところ荷造り嫌いの私はさして旅行好きじゃないし、ましてやホコリっぽそうなエジプトなんか、一生行かないだろうとはなから決めつけていたというのに・・・
なんでこ〜なるのっ?!(欽ちゃん跳び)


あれはある爽やかな小春日和の日曜日。インテックス大阪・新年オタク祭りの会場にて。

遊戯王古代エジプト編にはまったばかりの私は、いい男を見ると指紋採りたくて辛抱たまらんようになる手フェチの友人ドクターKと話していた。

「ブッシュさん、本気でイラク攻撃するつもりかなぁ、2月にトルコ行くつもりやのに・・・」と私。
「でも湾岸の時とは違って、今回は戦争になったら旅行中の外国人は見捨てるいうウワサもありますからね。あっちの方角は止めた方がいいかも」とドクターK。
「・・・そう言えばそうやな。やっぱやめとこ。今行かなくてもトルコは逃げへんな」
私は人の言葉には素直に耳を傾けるタイプである。

・・・しかし翌日の月曜日。

恒例のワクワクマンデー行事として、会社そばのコンビニで週間少年ジャンプを開いた瞬間、私の頭からは大量破壊兵器をちらつかせるヒゲオヤジも、そのヒゲを殺る気マンマンのプレジデントも、いやトルコという国名すら一瞬で吹き飛んでいたのである。

「わたくしめに裁きを!」(ファラオの背後にひざまづく神官マハード)

その10分後、私はどえらい勢いで旅行会社に飛び込み、開口一番叫んでいた。

「こ、今週末に出るエジプトツアーくださいっ!!」

え?!今週ですか?」とおののく旅行会社の姉ちゃん。そら驚くわな、そんな計画性ゼロの客・・・

しかし一見計画性ゼロに見えても、煙が出るほど働いた私の脳は「今行かなきゃエジプトに逃げられる!」とあせりまくっていたのだ。
なぜならばプレジデント藪のやる気ゲージから推測して、近日中にイラク周辺で小競り合いになるくらいの可能性大。(←結果的には大競り合いになりましたね・・・)イラクの上を飛べなくて、帰りの飛行機が無期限欠航になったらシャレにならん。
エジプトと共に歩んでン十年のセンセイ方ならまだしも、エジプト初体験でいきなりカイロ空港の砂になるのはいくらなんでも人生あせりすぎというものだろう。

そんなわけで私は、国連査察の最終報告の出る1月27日までに帰国すれば何とかセーフ・・・という、あくまで希望的観測による帰国デッドラインをはじき出したのである。


だが旅行会社で「エジプト一人前!」と大張り切りで叫んだはいいけれど、出発まで残すところあと4日な上に、当時は9.11の記憶もまだ新しく、世界がテロの恐怖におびえていた時期。
加えて飛行機の飛ぶ方向もよりによって方面・・・ときたらこれはまさに
三重苦。エジプトツアーのかなりの数が催行人数不足で中止になっていた。

そんなキビシイ状況下でも、JTBのお姉さんの尽力によって、たった一つだけ空きのあるツアーが見つかったのである。
そう、正月やGWでもないというのに
牛丼が1300個買えるお高いツアーが。

けれどこのさい値段に構ってられない、即答しなきゃ出発できない!
萌えは熱いうちに打て!!!

「そそそそ、そのツアーでいいっス!!」
頭が旅行代金を牛丼レートに換算する前に、体は勝手にクレジットカードをカウンターにぶん投げていた・・・

このような経緯で、初エジプト旅行は火ダルマ萌えパワーでロケットスタートしたのである。

それにしても、同じツアーの人間に「どうしてまたこんなデンジャラーな時期にエジプトに?」とか尋ねられたらどうしよう・・・今からなにか爽やかな答えを準備しておかなきゃな。

少なくとも「週刊少年ジャンプのマンガを見て来ました!」とは口が裂けてもよう言わん。