『ZENBU』




 誕生日だから、って。
 手作りのケーキに、テーブル一杯の御馳走。
 ちょっと軽めのワインで、乾杯して。
 美味しいね、って舌鼓を打って。
 食後に、紅茶を飲んで寛いでいたら。
 急に、とても真面目な顔で。

「君に、あげたいものがあるんだ」
「え、・・・でも、もうケーキも御馳走も作って貰ったし
・・・それに、この時計・・・誕生日のプレゼントだって、
さっき紅葉が・・・・・」
「それは、館長からだよ」
「え、そうなの」
 そう言わなかったくせに、と苦笑すれば。
 ゴメン、と小さく呟いて、でも真剣な表情は崩さずに。
 真直ぐに。
 俺を、見つめて。
「だから、・・・・・僕からのプレゼント」
 見つめられて。
 言われた、のは。

「君に、・・・・・僕を、あげるよ」
「は・・・え、ええええええええええ・・・・・ッ!?」

 今。
 何て、おっしゃいましたか。

「要らない、かい・・・・・なら、捨ててしまおうか」
「ち、違・・・・・ッ、ちょっと待って、紅葉・・・ッお、
落ち着いて・・・」
「僕は冷静だし、ふざけてもいないよ」
 そう、だけど。
 そうなんだ、けど。
「何、言うんだか・・・も、いきなり、そんな・・・・・」
 落ち着いた方が良いのは、どうやら俺の方で。
 でも、あんな真面目な顔で面と向かって、あんなこと。
 言われたりしたら、ねえ。
「・・・・・色々、考えたんだよ」
「え、・・・・・」
「君が、喜ぶものを・・・・・たまたま、今日は如月さんに
用があって店に行ったから、それとなく尋ねてみたんだ。
龍麻は、どんなものを喜ぶだろうか・・・って」
 年の功より亀の甲って言うし、なんて。
 紅葉、それ逆だと思うよ…なんて、突っ込む隙もなくて。
「そしたら、あの人・・・ニコリともせずに、『そうだな、
君自身を贈ったらどうかな・・・頭にリボンでも付ければ、
それらしく見えるかもしれない』なんて、言うものだから」
「・・・・・翡翠・・・」
 一体、どういうつもりなんだか。
 だいたい、紅葉の頭にリボンって。
 …リボン?
「付けてないじゃないか、リボン」
「龍麻は、やはり付けた方が良いと思うのかい」
「・・・・・や、そうでなく・・・」
 生真面目に、そんなこと聞かないで欲しい。
「一応、付けてはみたんだけどね・・・試しに。でも、鏡を
見たら・・・何だか、奇妙な生き物に映ってね」
 その表現も、如何なものだろう。
 でも、紅葉の頭にリボン…見たいような、見たくないような。
「そんな飾りより・・・ようは、中身だろうと思ったから。
龍麻、僕の心からの祝い・・・受け取って貰えるかな」
「っ、・・・・・・・・・・・・・・」
 ゴクリ、と。
 思わず、息を飲んでしまって。
 要らない、なんて。
 言える訳、ないじゃないか。
「あ、有難う・・・・・貰う、よ・・・紅葉」
 だって、紅葉が。
 くれるものなら、何だって嬉しいのに。
 それが、紅葉自身だなんて。
 勿体なくて、どうしたらいいんだろうって。
 ドキドキ、しているのに。
「・・・・・良かった」
 俺の応えに、紅葉はようやく表情を柔らかいものにして。
 そして、俺を抱き寄せて、そっと。
 耳元で、囁いた。

「嬉しいよ、龍麻・・・・・大事にするからね」

 それ。
 何か、ちょっと違う。
 だけど、まあ。
 大事にしてくれるって言うんなら。
 もう何も、突っ込まないでおこう。

「大好きだよ・・・・・僕の龍麻」
「うん、・・・・・大好き、紅葉」

 そんなこんなで。
 紅葉は俺のものになって。
 紅葉の全部。
 貰って。
 受け止めて。
 俺の全部で。
 感じて。

 とても、嬉しくて。
 だから、涙が出るんだから。
 だから、ね。
 もっと。
 きて。





勿論、突っ込まれたのは龍麻です(爽笑)v