【愛しいヒトのしつけ方・2】


 甘やかしたい、好きだから。
 甘やかしちゃダメ、好きだから。

 多分きっと、そんなもんでしょ。


「そこ、間違ってる」
 緋勇龍麻宅、午後1時。
穏やかな、日曜の昼下がり。天気も良くて、絶好の
「勉強日和だよね」
 んなワケあるかい、とツッコミたいのを堪え、京一は指摘された設問に目をとおす。
「・・xがマイナスの場合・・」
「その下。どこ見てんだよ」
 頬杖を付きながら、ボソリと告げられる。
 いっそ殴りてェ・・。
そう思いながらも、出来る訳はないのだと。分かっているから、しょうがない。
「惚れた弱みっつーか・・」
「無駄口叩いてる余裕あるのか」
 ないのである、ちっとも。

 そもそも。恒例の授業中の居眠りの代償として出された課題の山。
週明けまでにやってこなければ、単位はやれんとのお言葉に青ざめつつ、いっそこのまま
遠くへ旅立とうかと現実逃避を計ろうとした京一は。
「逃げんなよ」
 優美に微笑む龍麻に、きっちりと釘を刺され。
ガックリと項垂れ、そのままフラフラと教室を出ようとした背に、
「分からないところは、教えてやるから・・うち来るか?」
苦笑まじりの声とともに、グリグリと拳で小突かれる感触。
「・・ッひーちゃあん!!」
これが愛でなくてなんなのだと。夕暮れの教室で、京一は確かにそう思ったのだ。
が。

 今の現状。
まだプリントは3枚目。明日までに本当に終わるのだろうかと、既に不安で一杯の男子高校生・約1名。
基礎解析の設問に脳みそフル回転中。
「あァ・・ここか。・・・・・・っと、おし!!これで合ってるだろ、ひーちゃん」
 指摘された簡単な計算ミスを直し、どんなもんだと顔を上げると。
「・・ひー・・ちゃん?」
 麗しのお姫さまは、テーブルに頬を寄せるようにして。
「寝て・・んのか・・?」
 いつの間にやら、すやすやと眠りに落ちていた。

「・・ずるいぞ・・おい」
 ペンの背で、柔らかそうな白い頬を突いてみる、が反応はなし。
微かに。笑みを浮かべて寝入るその様子は、さすがに起こすのに忍びなくて。
 それに。
「夕べ、遅かったし・・」
 昨日夕刻。龍麻の部屋に入るやいなや。殆ど条件反射のようにソノ気になってしまった健康優良児。
はやる心を押さえつつも夕食を済ませ、後片付けが済んでリビングに戻ってきた龍麻を、即行で押し倒して
しまって。性急な愛撫に息を乱しながらも、今夜から課題に取りかかるべきだと言いつのる龍麻に。
明日早起きして頑張るからと、欲に染まり掠れた声で耳元に囁いて、京一は。
でもやっぱりと、納得しかねる様子の龍麻の躯を半ば強引に開いて、そのまま。
 明け方まで、みっちり。
「・・ヤっちまったもんなぁ・・」
 ということは、殆ど寝ていないはずである。自分のせいで。
「ゴメン、な」
 艶やかな黒髪を梳くようにして、そっと頭を撫でると。
「ん・・」 
 フワリと。龍麻が微笑んだ、ような気がした。


「・・あ・・れ?」
 ふと。目をさますと、部屋は既に薄暗くて。
肩に毛布が掛けられているのに気付いて、慌てて辺りを見回すと。
「お、目・・覚めたのか」
キッチンの方からペットボトル片手に現れた京一の姿に、龍麻は小さく安堵の息を漏らす。
「ゴメ・・寝て・・た」
 困ったような、ちょっと気恥ずかしそうな表情で見上げてくるのに、京一は軽く肩を竦めながら、
照れたように笑ってみせる。
「いや・・やっぱ、俺のせいでもある訳だし」
「ああ、そうだな。分かってるじゃないか・・って・・ッ課題!!お前、何そんな余裕カマして・・」
 ほんやりとしたムードを吹き飛ばすかのような勢いで詰め寄られ、京一は苦笑を浮かべながらも
そんな龍麻を宥めすかし、
「ほれ」
「・・あ・・あァ!?」
 ポンと。龍麻の手に乗せられたプリントの束には、全てきっちりと解答が記入されていた。

「う・・そ」
「嘘じゃねーよ」
 頑張ったんだぜ?と。腕を組み、顎を反らしてみせる京一を呆然と眺め。
やがて龍麻は動揺を押さえきれないまま、パラパラとプリントに目を通し、
「合ってる・・信じらんない」
「何だよ、それ」
 いくら俺が万年赤点だからって、と唇をとがらせる京一に龍麻は慌てて首を振ってみせる。
「そうじゃなくて。ちゃんと全部やったんだ、一人で。俺、寝ちゃってたのに」
 すごいよ、と。本当に嬉しそうに言うから。
腕組みしたまま、照れたように京一は視線を泳がせる。
 本当は。
目の前で眠る龍麻に。クラリと揺らぐ理性を押さえるために、必死だったのだと。
煩悩を断ち切るには、とにかくひたすらプリントに集中するしかなかったのだとは、言えず。
 でも。
「もっと褒めて、ひーちゃん」
「あはは。偉いね、京一」
 こんな風に笑ってくれるなら、耐え抜いた甲斐はあったのだと。
 それに。
「頑張ったから、御褒美・・あげるよ」
 その笑顔のまま。そっと首に、腕をまわして囁かれて。これで堕ちなきゃ、男としてどうよってなもんで。
「どうする?」
「・・頂きます」

 甘い甘い、キスと。

 もっと甘いコト、しよう? 


続き(笑)。書くことになるとは・・うすうす感じてたケド(含笑)。
でもほんとに書いてて楽しかったのです。強気なひーちゃんも(笑)。
たまには、こういうのもイイわよね・・えっちじゃなくても(ヲイ)・・ふふ。
この続きは、ないです・・多分(目線逸らし)。

by 日下部貢

続きだ(笑)!!即行書いてくれて有難うーん!!!!
いや、あそこで我慢した京一は偉いと思うわ!!その甲斐あって御褒美が!!
なななナニするのかなぁぁぁぁーッ(邪笑)!?
続き、待ってるし(極悪)裏かね・・そうなると(笑)。