『きっと、もっと、ずっと』




 自分でも、分っている。
 どんどん。
 どんどん僕は、深みに嵌っていってるんだって。

 とても分かりやすいようで、君は。
 どこか、つかみ所もなくて。
 ひとつずつ、君という人を知る度に。
 もっともっと、知りたいという欲求に捕われて。
 だけど、でも。
 時々、君のことが分からなくなったりもして。
 困ったり、悩んだり。
 だけど、でもね。
 そんな日常でも。


「・・・・・大きさは、これくらいで良いのかな」
「うん、ふたりで半分こだから、それで充分かなー」
 充分過ぎるくらいだと思う。
 直系18cmの、ケーキのスポンジ。
 焼き上がったばかりのそれを、少し冷まして。
 その間にホイップクリームと、挟み込む果物の用意をして。
 果物は、イチゴ。
 龍麻の大好物。
 2パックも買ったのは、余っても彼が平らげてしまうだろう
から。
「それ、全部上に並べような」
 余らないかもしれない。
「それは、君に任せるよ」
 それぐらいは出来るだろうと、イチゴのパックを龍麻の前に
置けば、満面の笑顔がコクコクと頷いた。
 それにしても。
「どうして、僕がケーキを作ってるんだろうね」
「んー、だって俺は作り方知らないし。紅葉、料理上手だし」
 ケーキの作り方をマスターしたのは、甘いものが好きな彼の
ためだってことは、分っているのだろうか。とはいえ、色々と
本を買って研究しては作っていくうちに、僕自身もケーキ作り
に、しっかり嵌ってしまっていたのだけれど。
 だけど、それはそれ。
 よく分からないのは、今日この日に。
 どうして僕は。
「自分の誕生日に、自分でバースデーケーキを作るというのも
不思議な気分だね、どうにも」
「そう?」
 今日は。
 僕の、誕生日。
 共に祝ってくれると言った龍麻は、強請る口調で僕に告げた。
 イチゴのケーキを作って、と。
 紅葉の誕生日だからケーキで御祝しようよ、と。
 そして僕は、促されるままに材料を買い揃えて、今こうして
ケーキを作っていたりするのだ。
「俺、紅葉の作るケーキが一番好き」
「・・・・・有難う」
 そうだろうとも。
 彼の好みに合うように、色々と試行錯誤を重ねてきたんだ。
 美味しい、と言って貰えるように。
 彼の笑顔が見たい、から。
 そんな、恐ろしく健気かもしれない自分に苦笑すれば。
「ねぇ、紅葉」
「・・・・・何だい」
 ホイップを作る準備をしつつ、呼ばれて振り返る僕に。
「俺の誕生日にも、作ってね」
「勿論・・・君が望むなら、喜んで」
 心のままに答えれば。
「そして、来年の紅葉の誕生日にも」
「・・・・・そうだね」
 真直ぐ見つめてくる瞳に。
 吸い込まれそうに、なるのに。
「また次の、俺の誕生日も・・・紅葉の誕生日も・・・・・」
「龍麻」
 その言葉は。
 君は、何を伝えようとしているの。
「一緒に、・・・・・こうして御祝しよう?」
「・・・・・ああ、そうだね」
 一緒に。
 今年も。
 来年も。
 再来年も。
 そのまた次の年も、一緒に。
「楽しみ、だなー・・・」
「イチゴのケーキが、かい?」
 微笑って問えば、ちょっと拗ねた顔。
 上目遣いに。
「分ってて、聞いてるね。意地悪だ、紅葉」
「ふふ、・・・・・僕も楽しみだよ」
 ひとつ、ひとつ。
 繋いでいく。
 君を。
 僕を、繋ぐもの。
 積み重ねていく、ものが。
 確かに、あるんだ。
「楽しいよ・・・今だって、ね。君がいるから」
 ひとつ、ずつ。
 分っていく。
 知っていく、君のことを。
 知り過ぎることなんて、きっとない君の。
 色んなこと。
 戸惑いながらも、ねぇ。
 楽しくて、仕方がないんだよ。
「そりゃ、俺だって・・・そうなんだけど」
 紅葉に先に言われちゃったな、って。
 ちょっと頬を赤くして言う、君に。
「ケーキを食べたら、もっと楽しいことをしようね。龍麻」
「・・・・・、ッ!?」
 不意打ちに、キスをしたりして。
「紅葉・・・ッ ! 」
「ああ、そんなに赤くなって・・・イチゴよりも、ずっと美味し
そうだね・・・龍麻」
 こんな風に。
 じゃれるように、過ごす時間も。
 教えてくれたのは、君なんだよ。
「紅葉、って・・・紅葉って ! 」
「何?・・・・・ああ、そろそろスポンジも冷めてきたかな」
「・・・・・もう・・・」
 君と。
 積み重ねてきた、時間や沢山のもの。
 それは、ねぇ。
 これからも、もっと。
 増えていくんだよね。

「有難う、龍麻」

 僕を。
 見付けて。
 救って。
 そして。
 抱きしめてくれて。

「愛してるよ、ずっとね」

 また、ひとつ。
 キスを盗んだ唇で囁けば。
 その台詞そっくりそのまま返す、とばかりに。
 君からの、キス。
 その御返しも、したくなったけれども。
 まずは、このケーキを作って。
 ふたりで、半分こにして。

 それから。
 キスと。
 そして。






・・・・・ザラメ吐きそうです(ザザーッとな)。
ああでも!!イチゴたっぶりのケーキ・・・食いてぇ!!
そして、ひーたんも食いてぇ!!と、こっそり叫びつつ。
・・・・・どちらも美味しく壬生が頂くのですね(涙目)v
一足飛びより、着実に一歩ずつ。これからも、ずっとね。
ああもう、お幸せに!!っつーコトで、御誕生日おめでとう
なのよ、壬生紅葉くん!!!!←ヤケ?