『イイ、人』



 例えば。

 アンタの顔を見ると、無条件で嬉しくなったり。
 近付けば、少しだけ鼓動が早くなったり。
 触れれば、それは更に加速して。
 熱を伴い、暴走しそうになっちまう。

 それを。
 何気ない素振りとシニカルな笑みで巧妙に隠しているだけの。

 そんな、只の男。
 結局、そういう人間だったりする訳で。

 なァ、そんな俺を。
 らしくない、と。

 アンタは、嘲笑うかい?


「そういうところに、俺の笑いのツボはないよ。生憎だけど」
「別に、アンタに腹抱えて笑って欲しい訳じゃない」
 フラリと訪れた俺の為に、アルコールの類いは切らしてるんだ
と、それでも何かないかなとキッチンをうろうろする龍麻の。
腕を捕らえ、引き寄せれば。
 身じろぎはしてみせるけれど、逃げようとはしない。
 やれやれ、という風に俺の肩にコトリと頭を預ける。
 そんな仕種も。
 堪らなく愛おしさを感じさせて。
 嬉しくて。
 堪らない、のに。
「・・・・・だいたい、『らしい』ってのが分からないな」
「『俺』らしさってのは、先生には理解出来ないってことかい?」
 腕の中、閉じ込めたまま。
 微かに甘い香りのする髪に顔を埋めるようにして、問えば。
「そういうのとは、また違うな。そもそも、『お前らしい』って
何だ。具体的に決まっているものなのか」
「・・・・・さァて・・・」
 軽く肩を竦めてみせれば、肩口で溜め息をつかれたのが分かる。
「・・・・・お前がどういう評価をされているか、知らない訳じゃ
ないけどな」
 まァ、ろくなもんじゃねェことは、俺自身も知っている。
 なァ、アンタは。
 俺を。
「お前がお前である限り、お前の本質は其処に有る・・・其処に
その『お前らしさ』ってのも、あったりするんじゃないのか」
「・・・・・・・」
「・・・・・祇孔?」
 サラリと。
 至極簡単に、この人は。
 こんな凄ェ言葉を。
 言ってのけるんだ。
「・・・・・やっぱり、アンタ最高にイイ・・・先生」
 歓喜に震えちまいそうな唇を、旨そうな白い首筋に押し当てて。
 熱い吐息で、囁けば。
「・・・・・そ」
 微かに笑った気配。
「アッチの具合も最高だし、なァ、・・・・・龍麻」
「・・・・・そりゃ、幸い」
 クスクスと可笑しそうに笑う唇を。
 吐息を奪うように、重ねて。
 柔らかく濡れた粘膜を、思うまま貪って。
 応えてくる、少し臆病な舌と。
 縋るように背に回され、シャツを掴む手に。
 あァ、もう。
 こんなに熱くさせて。
 なァ、どうするんだ。
「ベッドまで我慢出来そうもねェ・・・・・」
「我慢しなくてイイよ」

 此処、で。

 囁きに、またどうしようもなく昂る身体で覆い被さりながら。
 呆れるくらいの余裕のなさで衣服を乱し、はだけさせた胸元に
むしゃぶりつく。
「・・・・・酒もつまみも・・・必要無かったね」
 徐々に甘い熱を帯びて来る声に、また煽られる。
 こんな、あからさまな俺を。
 アンタには、隠す必要はないんだろう。
「もっとイイものを、頂いているからな」
 なァ、全部。
 剥き出しの俺を。

 アンタの中に。





・・・・・まあ、表だからこの辺で(笑)。
他人からの評価が、その人の全てではなく。
自分が思っているものだけが、本質ではなく。
其処に有る、存在そのものが、その人をその人
たらしめているモノ。何か、ややこしい(苦笑)。
綾月さん宅の、一周年の御祝に捧げますのvvv
村主も楽しいなァ・・・(悦)vvv