『愛恋』



 別れの言葉なんて、聞きたくない。
謝罪の言葉だって、聞きたくはない。
 言わないで。君の口から。

 そんな言葉、僕は聞かない。

「・・・・・聞いて・・・」
「・・・・・ッ」

 耳を塞いで、閉ざして。
 それを、聞かないように。

 でも。

「・・・・・ありがとう」

 スルリと。
 その言葉は、彼の声は固く閉ざした、僕の。
 心に。

「ありがとう・・・・・」

 届いて。
 届けて、君は。


 寂しさなんて、そんな感情は知らない。
 今までも、そしてこれからも。
 きっと。ずっと。

 そう、思っていた。
 なのに。


 君に。
 君に出逢って。

 君の事を、知る度に。
 君に、触れる度に。

 知らなかった感情が、こんなにも胸の内を満たして。
例えば。
 君といる、喜び。
 君に触れて。抱き締めて。

「幸せ、だよ」

 そう言って微笑む君に、僕も笑顔で応えて。

 幸せだよ。
 君と、いること。
 君がいる、こと。

 ねぇ、僕は。
 君に出逢って、たくさんの感情を知ったよ。

 これからも、きっともっと。
 そう、思っていた。
 なのに。


 胸が焦がれる程の、愛しさと。
 胸を切り裂く程の、それは。

 君が僕にくれた、最期の。

「・・・龍麻」

 名を呼ぶ度。
 苦しくて、切なくて。
 でも、君に呼ばれると。
 それは。

「・・・・・紅葉」

 ねぇ、どうか。
 幸福の絶頂と、絶望の淵にある僕を。

「・・・・・あいしてるよ」


 今此処で。
 君の言葉で。
 壊して。


 たくさんのものを、僕に残して。
 僕を、遺して。

 僕の想いだけを、腕に抱いて。
 君は、旅立つから。


 そして。
 君への想いだけを、僕は抱えて。

 
 僕は。
 君を、掴まえに行くから。