『愛しいキミ』




「・・・・・何だ、これは」
 部屋に招き入れるなり、押し付けられた紙袋に訝しげに
問えば。やや憮然とした表情で、ポツリと。
「何って、・・・あなたが欲しいって言ったんでしょう?」
 呟いて、溜息を洩らすのに。
 慌てて包みを開けば、そこには。
 紛れもなく、それは。
「・・・・・チョコレート、か」
「そうですよ」
「え、・・・・・マジで?」
「・・・・・要らないなら、返して下さい」
 和谷にでもあげますから、と。
 奪い返そうとする手を、躱して。
 そして。
「冴木、さんッ・・・」
 紙袋を手にしたまま、目の前のややほっそりとした身体を。
 きつく、抱き締める。
「違う、だろ・・・・・慎」
「ッ、・・・・・」
 今、は。
 ここでは。
 2人だけ、なんだから。
「・・・・・光二、さん・・・」
「サンキュ、慎・・・・・嬉しいよ、マジで」
 嬉しい。
 本当に。
 かなり、恥ずかしがりやというか。
 その名の漢字が示すように、慎ましやかな、彼の。
 恋人からの。
「・・・・・チョコ売り場、女の子ばかりでした」
「そうだろうな」
「・・・・・人波に揉まれて、何で俺はこんなもの買ってる
んだろうって・・・思いました」
「・・・・・慎」


 それは。
 1週間前、たまたま棋院で顔を合わせた時のこと。
「来週、逢えるだろ?」
 その日は、互いに手合いも指導碁も入っていないと知って
いたから。久しぶりの逢瀬の約束を取り付けようと、さり気
なく腰に手なんか回してみたりして、誘い掛ければ。
「・・・・・冴木さん」
 非常階段の、片角。
 人目に付かない場所ではあったけれど、咎めるような瞳が
じっと見つめてくるのに。
 俺は、やれやれと降参の形に手を挙げてみせて。
「慎、最近冷たいな」
「場所を考えて下さいと言ってるんです」
「・・・・・寂しいな」
「・・・・・光二さん」
 やっと、名前を呼んでくれた。
 彼の呼ぶ、その発音が。
 音が、好きで。
 もっと、いつでも。
 そう呼んで欲しいと思うのだけれども。
「とにかく、1週間後。伺いますから」
 そう言って、さっさと立ち去ろうとする、手を。
 捕まえて。
「チョコ」
「は?」
「バレンタインだから」
 そう、1週間後。
 ちょうど、バレンタインデーだというのを思い出して。
「・・・・・何、言ってるんだか・・・」
「お、おい・・・ッ」
 呆れたように、大きく溜息をつかれて。
「じゃあ、俺これから指導碁が入ってるんで」
 失礼します、と。
 あっさりと去っていく、背を。
 項垂れつつ、見送った。


「・・・・・でも、買ってきてくれた」
「・・・ッだから、あなたが欲しいって言うから・・・」
「慎」
 馬鹿馬鹿しいって。
 恥ずかしいって。
 そう、思ってても。
 こうして、ちゃんと。
 俺の為に。
「・・・・・愛してる、ぜ」
 抱き締めた腕に力を込めて、そう告げれば。
 ピクリ、と。
 ひとまわり小さな身体が、震えて。
「・・・・・俺も、・・・好き、です」
 そう言って。
 おずおずと、背に回される腕が。
 堪らなく、愛おしい。
「食っちまいたい」
「あ、じゃあ御茶煎れ・・・」
「ああもう、そういうところが可愛いんだけどな」
「光二さ、ッ・・・・・」
 愛の込められた甘いチョコもイイけれど。
 それよりも。
 何よりも。
 そのもの、を。
「慎、が・・・欲しいって言ってんの」
「な、ッ・・・・・」
 唇に。
 そして、朱に染まった頬に、チュッと音を立てて口付けて。
「寝室まで、抱いて行って良いかな」
「そ、・・・・・ま、待って下さ・・・」
「ん、玄関がイイんだ?」
「そんなこと、言ってないでしょう!!ベッドじゃなきゃ嫌、
・・・・・あ、ッ」
 ああ、本当に。
 こいつ、は。
「慎は可愛いよ、ほんと」
「・・・子供扱い、しないで下さい」
「オトナの扱い、してるだろ?」
 ほら、と。
 もう有無をいわさず、横抱きにして。
「・・・・・もう、あなたって人は・・・」
「でも、好きだろ?」
 軽く聞くような素振り。
 だけど、内心ドキドキしながら、なんて。
「・・・・・好き、です・・・けど」
「嬉しいよ」
 こんなのは。
 お前に対してだけ、なんだって。
 知って、いるか。

 ベッドに、そっと伊角を降ろして。
 衣服を脱ぐのも、脱がせるのももどかしく、その身体に
覆い被されば。
 躊躇いがちに、それでも背に確かに回される腕。
「好きだよ、慎」
「・・・・・はい」
 目元を赤く染めて。
 微笑む、その顔が。
 とても。
「好きだ」
 言葉で。
 そして、足りない分は。
 身体で。
 それでも、足りない分は。
 どうしようか。
 なぁ。





一応(?)初書きの、冴木×伊角ですv
伊角さん、プロになった後っつーコトで。
こう、ピュアなカンジで!!っつーか、もう
私も愛おしくて堪らないのですけど!!
やっぱ、チョコより君をvがお約束(悦)♪