「おかっぱ仮面現る」
「あれ、進藤。散歩か?」
ホテルを出たところで、北斗杯日本チーム団長の倉田さんに声をかけられた。
夜食でも買って来たのだろうか、コンビニの袋を提げている。
「うん、眠れなくて。ちょっと外の空気吸ってくる」
「こんな時間にウロウロしてると悪い奴に襲われるぞ」
「う・・・そんな子供じゃないやい!」
「ふーん、ま、気をつけろよ」
「ちぇ、すぐ子供扱いするんだもんな」
ブツブツ言いながらホテルを出て、ブラブラと歩き出す。
「―――あれ?」
道の反対側に、どことなく見覚えのある人影。
向こうも気付いたらしく、足早に近づいてきた。
「進藤ヒカル!」
「あ―――秀英?うわー久しぶりだなあ」
「会いたかったぞ!」
「オレもだよ!対戦するの楽しみにしてたんだ。へえ、お前日本語上手いな」
「お前を倒す為に勉強したんだ」
「そっか。―――って、今ここで押し倒してどうするんだよ!?」
「言っただろう。お前を倒しに来たって」
「『倒す』の意味が違うだろ!どけよ、こら!」
意外に力のある秀英に戸惑いつつ、必死で抵抗していると。
「×××!××××?」
(人の声―――?助かった!)
「誰かー!って、え、あれ?―――和谷!?」
「ワヤ?××××?」
「え、違うのか?何言ってんだか全然わかんねェ」
「×××××?」
「×××」
和谷もどきの後ろから、もう一人。こちらはひょろりと背が高い。
「もしかして、キミが進藤君か?」
「え、そうだけど。あの・・・誰?」
「ああ、オレは楊海。こっちは楽平」
「和谷じゃねェのか?そういえば少し小さいような・・・」
「××××××!」
「×××××♪」
おそらく邪魔するなと抗議した秀英に、楽平が楽しそうに答える。
「外国語で会話するなよ。うわ、チビ和谷、シャツめくるなって」
「ははは。楽平が、君がデベソか知りたいって」
「ちょっと!えーと楊海さん?笑ってないで助けてよー!」
と、そこへ。
「進藤。こんなところで何しとんのや」
「社、いいところに。ちょっとこいつら離して」
「ん?何や、楽しそうやなあ」
「え、え?ちょっと社、お前まで参加するなよ!」
「進藤、お前がいるから塔矢はいつまでもボクのことを見てくれないんだ!」
「お、越智!?何でお前まで!」
「進藤なんかのどこが良いんだ!?
―――もう何が何だか。
すでにもみくちゃ状態で、どれが誰の手かもわからない。
「ちょ、ちょっと誰だよ、変なとこ触るなって!うわぁー!!」
悲鳴が闇夜に響き渡った、そのとき。
「痛!」
「何だ・・・碁石?」
「誰だ!?」
「お前達のような卑怯な奴らに名乗る名はない!」
街灯に浮かび上がった人影。
黄色い電気ネズミ(笑)のお面で、顔は隠れて見えない。
しかし、そのキューティクルケアの行き届いたおかっぱ頭は。
―――知り合いでは、今のところ一人しかいない。
「進藤の貞操を護るのがボクの使命。おかっぱ仮面、参上!」
「・・・ていうか」
「そのおかっぱ頭は」
「・・・塔」
「おかっぱ仮面だ」
口々に正体を言い当てようとする面々を遮る、自称・おかっぱ仮面(笑)。
(―――どっからどう見ても塔矢だろう・・・)
皆心の中で、同時に呟く。
「ボクの進藤に手を出すからには、当然覚悟は出来ているんだろうな!?」
「お、おい!」
「ちょっと待て!」
「×××!」
「問答無用!おかっぱ仮面奥義、碁石乱れ打ち!!」
「うっぎゃあぁぁぁ」
「ふん、これで少しは懲りることだな」
お面を外し、爽やかに笑う塔矢。白い歯がキラリ☆と光る。
「進藤、大丈夫か」
「ああ。・・・ちょっとやり過ぎじゃねェ?」
「そんなことはない。ボクの進藤に何かあったら大変だからね」
「・・・・・・塔矢(きゅんv)」
「ところで、奴らに何か良からぬことをされたりしなかったか」
「あ・・・ああ。別に何も」
「念の為ちゃんと検査しないと。さあ、ホテルへ戻ろう」
「え?い、いいよ。何もなかったって言ってるだろ!」
「いや、ボク自身の目で確認しないと安心できない。さあ」
「え?うわっ!」
軽々とお姫様だっこで抱き上げられ、脚をばたつかせる。
「おい、降ろせよ塔矢!こんなとこ人に見られたら・・・!」
「別に構わないだろう。さあ、隅々までしっかり調べてやる」
「お前が一番やばいんじゃないのかー!?」
―――合掌。
−END−