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 思わず、手を伸ばしそうになって。
 その衝動に、目眩さえ感じた。


 執行部の裏の任務には、日曜すらないらしい。
 早朝、僕を含め数名が緊急召集を掛けられ、郷の外すぐ近くの森へと
討魔のために向かった。
 我等が役目は、鎮めにある。
 九条さんの言葉どおり、今回の天魔出現の原因となったと思しき岩を
祓うことで、比較的簡単にその任務は終了した。
 ここで解散、各自帰還の後休息を取るようにとの言葉に、皆それぞれ
帰りの途につこうとするのに。
「どうした、飛鳥」
「・・・・・っ」
 その、背に。
 僕は。
「な、んでもない・・・です」
 ふと気付いたように足を止め、振り向いた顔は僕を心配する面持ちで。
 傍らの紫上さんに先に戻るように促すと、立ち尽くしたままの僕の元
へと駆け寄ってくる、その。
 九条さんの真直ぐな視線から、僕は逃れるように俯いた。
「どこか、負傷していたか」
「・・・・・いえ」
「具合が良くなかったとは、すぐに気付けずに・・・済まん」
 下を向いたままポツポツと応える俺に、掛けられる声は柔らかく包み
込むようで。
 だから。
 ますます、顔が上げられなくなる。
「取り敢えず、座れ。少し休んでから・・・・・」
「・・・っ」
 本当に具合が悪いのだと思ったのだろう。
 労るように、九条さんの手が。
 肩に触れた途端。
「・・・・・飛鳥?」
「あ、・・・・・」
 ただ、それだけのことなのに。
 弾けるように身を震わせ、後ずさってしまった僕に。
 九条さんは、呆然とした瞳で立ち尽くしていた。
「飛鳥、お前・・・・・」
「お、驚いた・・・だけです・・・済みません・・・」
 言うな。
 言わないで、どうか。
 それを悟ったのだとしても、御願いだから。
「・・・・・俺が嫌いか?」
「え、・・・・・」
 ポツリ、と。
 呟かれた言葉に、その傷付いたような瞳に、チクリと胸が痛む。
「震えている・・・怖いのか、俺が」
 九条さんが。
 嫌い?
 怖い?
「抱かれるのは、・・・・・苦痛か?」
「なっ、・・・・・」
 微かに熱を帯びたその言葉に、ああまた。
 目眩がしそうになるのに。
 九条さんに。
 抱かれる、のは。
 肌に。
 触れて、触れられて。
 熱い吐息で、何度も名を囁かれて。
 腕の中、抱きしめられたまま。
 果てる、のは。
「・・・・・それでも」
 どうして、そんな泣きそうな貌なんて。
 あなたが。
「それでも、俺は・・・・・お前に触れたい」
 そうして、請うような瞳で。
 一歩、距離を縮められたら。
「・・・・・いやだ」
「飛鳥・・・」
 いや、なんだ。
「こんな、僕は・・・っ」
 こんな。
「あ、すか・・・?」
「あなたに触れられると、おかしくなる」
 僕を、自覚したくなかった。
「たった二晩、触れられなかっただけで、もっと・・・っおかしく、
なる・・・・・」
 いつの間にか、こんなにも。
 あなたを。
「向けられた背に、追い縋りそうになった・・・あなたに・・・・・」
 必要としている、なんて。
 そんな生易しいものじゃない。
 依存、それとも。
「触れたい・・・九条さん、に」
 もしかしたら。
 執着。
「触れて・・・欲しい・・・・・っ」
 その手を。
 腕を。
 肌を。
 温もりを。
 無意識の内に、追っていた。
 求めて。
 いた、なんて。
「・・・・・飛鳥」
 伸ばされた、手に。
 また逃げそうになる身体を、その足を踏みとどめる。
「全部、あなたのせいだ」
「・・・・・ああ、そうだな」
 見つめてくる、その瞳の。
 宿った熱に、また目眩がする。
「おまえを、おかしくしているのは俺だ・・・飛鳥」
 触れられる。
 頬に。
 そして。
「知っているか、飛鳥・・・お前は。お前が、俺をおかしくさせる」
「な、に・・・・・」
 唇が触れる、間際。
 囁くように、それは。
「お前に、触れたくて堪らない・・・飛鳥」
 罪を分け合う言葉。
 飲み込むようにして、重ねられた唇は深く。
 熱く、濡れて。
 溶けてく、みたいに。


 見ているだけじゃなくて。
 触れてみたら、もう止められなかった。
 触れて、もっと。
 欲しいと思った、それは。

「・・・自分だけじゃなかった」

 同じ、言葉。
 同じ、気持ち。

 同じ。
 欲望。





飛鳥たんも男の子ですから!!←でも入れられる方(あ)v