『見ちゃダメだってば』



 青い空白い雲。絵に描いたような、晴天の昼下がり。
 こんな気持ちの良い天気の日に、ねえ何で。
「こんな、こと・・・っ」
「たまには良いだろう?」
「そんなこと言って、この間も・・・、っ」
 昇竜の滝、水の落ちる音がさほど遠くなく聞こえる、やや薄暗い
木立の中。木々の間から覗く空を見上げ、ややしっとりとした草地
を背に、僕は。
「や、・・・九条さんっ」 
 何だか上機嫌の九条さんに、組み敷かれていた。

「逢いたいって言ったら、来てくれただろう?」
「そんなこと書いてませんでしたっ」
 放課後、紫上さんに言付けられた手紙。
 そこには、ただ一言。
「『昇竜の滝で待つ』としか・・・っ」
「行間を読め、という奴だ。いい勉強になったな」
 たった1行なのに、行間も何も。
 いや、だからそういう問題じゃなくて。
「こ、こんな場所で・・・っ誰が来きたら・・・」
「その時はその時だ。・・・ん、見られていた方が良いのか?」
「そんな訳ないでしょう !!」
「まあ、勿体ないし・・・な」
 不敵に笑って。
 シャツを乱し、脇腹を撫でていた手が、ベルトへと掛かる。
「あ、・・・いや・・・っ」
 驚くほど手際良く、ズボンが下着ごと引き下ろされる。
「お前の『いや』は、あてにならない」
「や、やだ・・・あ・・・、っ」
 そりゃあ、確かに本当に本気で全力で、いやな訳じゃない。
 だけど、もう何度もされた行為であっても、僕は恥ずかしくて
恥ずかしいから、抵抗の1つや2つしたって、しょうがないと思う。
「もう、こんなに濡らしてるのに?」
 目を細めるようにして微笑って言うのに、きっと真っ赤になって
しまっているだろう顔だけじゃなく、身体全体が熱くなる。
「それは、っ九条さんが・・・」
「俺が?」
「っ、・・・」
「何だ、言ってみろ・・・飛鳥」
 いやだ、いやだ、いやだ。
 どうして、この人は、こう。
「・・・・・うう」
「まあ、いいさ」
 ひとり勝手に納得して。
 既に勃ち上がって先端を濡らしてしまっているものの、その形を
辿るように手を這わされる。
「や、あ・・・っ、ん・・・・・」
「熱いな・・・」
 柔らかく、下の方の袋まで揉みしだかれて、やがて僕の先走りに
濡れた指が、奥の窄まりへと滑り込む。
「ん、っ・・・んー・・・・・」
「・・・飛鳥」
 入り口を突つかれて、知らず強張ってしまった身体を宥めるよう
に、耳元で九条さんが名を呼ぶ。
 吐息混じりの声に、何だか背筋をゾクリとしたものが走るけれど、
それはいやなカンジのするものじゃなく。
「っ、・・・う・・・ん・・・・・」
 何度か縁をなぞった後、そろりと埋め込まれた指に、咄嗟に上げ
そうになった声を飲み込めば。
「我慢するな」
 声を出せ、と言われるけれど。
 でも、こんなところで。
「や、・・・だって、誰・・・か・・・、っ」
「誰も、・・・いない」
「で、もっ・・・」
「キューン」
「そう、子犬以外は・・・・・、ん?」
「・・・・・子犬っ!?」
 慌てて身を起こそうとすれば、下肢に力が入るから途端、中の指
を締め付けてしまって、その衝撃にまたドサリと背を地面に預けた。
「・・・・・アル・・・」
 まさかと思いつつ、視線を巡らせればそこには、尻尾をフリフリ
ちょこんと座った、子犬のアルがいた。
 どうして、よりにもよってこんな時に、こんな場所に。
 まさか、琴音も一緒なんじゃ。
「・・・琴音は、今日は安倍と遊ぶと、はしゃいでいたな」
「・・・・・」
 その言葉に、あからさまにホッとした顔をしてしまっていたのか、
僕を見下ろす九条さんの表情が、可笑しそうに緩む。
「俺も、邪魔が入るのは好まんからな」
「・・・・・アル、が」
「そのうち、どこかへ行くだろう」
 な、とチラリと子犬に視線を向け、そして僕の中を弄っていた指を
また1本増やすのに。
「ま、待っ・・・いるのに、まだ・・・」
「気にするな」
「そんなこと、言っ・・・あ、あ・・・ん、っ・・・ん・・・」
 まだ、すぐ近くにアルのいる気配がするのに。
 九条さんの指は、容赦なく僕を穿っては中にある一点を、確実に
狙って擦り上げてくる。
「ふ、・・・っあ・・・ああ、っ・・・ん・・・・・っ」
 そこは、いやだ。気持ち良くて、気持ち良過ぎて怖い。指だけじゃ
なく、そこをもっと固くて大きなもので突かれてしまったりしたら。
「・・・欲しそうだな」
「違、います・・・っ」
「もっと欲しがってくれれば良いんだがな」
「ひ、あ・・・っ」
 苦笑しつつ、名残惜しげに引き抜かれた指の代わりに、そこに押し
宛てられたもの。その熱さに、こくりと喉を鳴らしてしまえば。
「・・・・・見せてやるか?」
「え、・・・・・な、に・・・?」
 不意に、その熱が遠ざかるのに。
 思わず、非難するような目を向けてしまって、そんな自分に慌てて
いると。
「・・・ほら」
「や、あ・・・・・っ」
 仰向けの身体が、身体を捻るようにして俯せにされる。
 そのまま、腰だけを高く上げさせられて、その姿勢に目眩のような
羞恥を感じて、泳がせた視線の先。
「う、そ・・・」
「クゥーン」
 目の前、まださっきと同じ様子でこちらを見ている、子犬の姿が。
「や、やだ・・・やだ、っ九条さん・・・」
「見掛けは子供でも、中身はオトナだな・・・あの犬」
「そ、そういうのって、ちょっと違・・・あ、あああ・・・っ」
 平然と呟くのに、ムッとして抗議しようとした声は、だけど。
 掴まれた腰、そのまま背中に覆い被さるようにして双丘の間、熱塊
が押し込まれる。
 奥まで一気に貫かれて、どうしたって声は抑え切れなくて。
「ひ、ゃ・・・あ、ああ、ん・・・っ、ふ・・・あ、・・・んっ」
 すぐ目の前に、アルがいるのに。
 いるのは分かってるのに。
 きょとんとした円らな瞳を見ていたくなくて、僕は草地に縋る腕の
中に顔を伏せて、与えられる律動に、もたらされる快感に流されそう
になる自分を、必死に繋ぎ止めていた。
「見て、いるぞ・・・」
「や・・・、いや・・・あっ」
「何をしているのか、分かっているのかもしれない・・・な」
「うそ、そんな・・・あ・・・いや、・・・だ、あ・・・っ」
 後ろから回された手に、張り詰めたものを包み込まれる。中から外
から、絶えまなく与えられる快楽に、飲み込まれてしまいそうになる。
「ふ、・・・どうだ、アル・・・俺の飛鳥は可愛い、だろう・・・?」
 犬相手に何を言ってるんだ、この人は。
「・・・・・っ、最低・・・」
「たまたま通り掛かっただけなのに、酷い言い草だな・・・アル」
 いや、だから犬じゃなくてね。



 結局、後ろからだけでなく、また仰向けにされて、散々啼かされて。
 気が付いたら、もうアルの姿はなかった。
「・・・・・九条さんのバカ」
「ああ、何だかその言い方も可愛いぞ、飛鳥」
「・・・・・もう、知りません」
 まだ指先を動かすのさえ億劫だったけれど、やっぱりどうにも九条
さんのしたコトを許す気にはなれなくて、背を向けて座れば。
「俺の、・・・・・飛鳥」
「っ、・・・・・」
 背中、から。
 抱きしめられて、そんな風に。
 溜息みたいに、囁くなんて。
「・・・・・もう、いやです・・・から」
「・・・・・飛鳥・・・」
「・・・・・見られるの、は」
「っ、・・・・・そうだな」

 やはり、勿体ないから…と。
 だから、そういう問題じゃないんだけど。
 でも、九条さんだけになら、って。
 これは、妥協なのかな…それとも。





ワンコは見た。←何
・・・・・こんな総代でもイイんですか(聞くな)?