『妬かないで?』



 好きなんだ、と言われて。
 好きなんだ、と自覚して。
 キスもして、それ以上のことだってしてしまったけれど。
 本当の本当に、あの人の気持ちや自分の気持ちが確かなもの
なのか、なんて。
 実のところ、まだよく分かっていないんだ。


 色々考えることが多過ぎて、こんがらがってしまう頭の中を
整理したくて、藍碧台へと足をのばした。
 高台から見渡す景色や、草木を撫でる風の匂いが、絡まった
思考をゆっくりと解いてくれる。
 答えは出なくても、ただ草の上に転がって空を見ているだけで、
気持ちが落ち着く。
 あの人の前では、どうしたって内心冷静ではいられないから。
まして、誰かに相談出来るようなことでもなく。
 こうして、1人で考える。
 自分に向き合おうと思う、から。
「・・・・・いまだに、信じられないんだよ」
 だって、あの人は。

「何か悩みごとでも、おありですか?」
「っ、・・・・・!?」
 不意に。
 頭上から降ってくる、声。
「あ、・・・済みません、驚かせるつもりではなかったんです」
「い、や・・・ごめん、僕・・・ぼんやりしていて」
「ふふ・・・、お隣失礼しますね」
 すぐ傍らに紫上さんが来ていたのに、その気配にちっとも気が
付かなかったなんて、さすがに気を抜き過ぎていたかもしれない。
 それに。
「あれ・・・」
「どうかなさいましたか?」
「紫上さん、ひとりで・・・」
「ああ、・・・申し訳ございません」
「ええ?」
 困ったように謝罪されて、やや焦れば。
「綾人様も御一緒だと思われていたのですね。あの方は、不動庵
の方に呼ばれまして・・・」
「・・・・・そう、なんだ」
 別に、期待していたわけじゃない。
 ただ、いつも一緒に行動していることの多い2人だから、少し
気になっただけで。
 だから。
「・・・・・」
「お寂しい、のですか?」
「・・・どうして」
「それとも、やはり何か・・・気掛かりなことでも?」
 気掛かり、なのだろうか。
 そう言われてしまえば、確かに心に引っ掛かっていることが、
あるんだと思う。だけど、それを口に出して言ってしまっても。
「私で良ければ、お話しして下さいませんか?」
 良い、んだろうか。
 それを。
「・・・・・ずっと、僕・・・ううん、僕だけじゃなくて、多分
みんな確信していたことだと思う・・・んだ」
「はい?」
「・・・・・あ、・・・っ九条さん、と。紫上さんは、その・・・
そういう意味で、お付き合いしてるんじゃないか、って」
「私と綾人様が、ですか?」
「・・・・・」
 もし。
 ここで、頷かれても否定されたとしても、結局は僕の中の小さな
わだかまりは消えないんだろうって、分かっていたけれど。
「・・・・・御冗談を」
 肯定でも否定でも、なく。
 だけどそれは、否定よりも。
「私は綾人様を男性として意識したことはありませんし、綾人様も
私を女性として意識して接しておられるとは、到底思えませんが」
「・・・・・でも」
 いつも。
 一緒にいる、から。
「2人、は・・・」
 ずっと。
 俺より、も。
「・・・・・伊波くん」
 つい、と視線を逸らしてしまえば、微かに笑った気配がして。
「その可愛らしいヤキモチを、綾人様にお伝えしてみては、いかが
ですか?」
「な、っ・・・・・」
 可愛らしい。
 …ヤキモチ!?
「ち、っ違う・・・そんなんじゃ・・・・・」
「まあ、そんなに頬を赤く染めて・・・リンゴのようですよ」
「・・・ああ、実に旨そうだな」
「・・・・・、っ!?」
 そんな。
 まさか、と。
 指摘された通り、きっと真っ赤になってしまっているだろう頬の
熱さを意識しつつ、ふと重なった声に視線を泳がせれば。
「く、・・・・・」
「結、あとは俺が」
「はい、綾人様。・・・・・では、失礼致します」
「紫上、さん・・・っ」
「少し風が出て参りましたので、御風邪等召されませんように・・・
伊波くん」
 そういう気遣いは嬉しいけれど、何だか。
 その笑顔に含みがあるような気がするのは、僕の勘繰り過ぎなん
だろうか。
「さて、飛鳥」
「は、はい」
 紫上さんの姿がまだ視界にあるうちに、ずいと身体を寄せられる。
「結と、何を話していたんだ」
「え、・・・・・べ、別にたいしたことは・・・」
「ふうん」
「僕がここに来て、小1時間も経ってませんし、紫上さんが来たの
だって、ついさっきなんですよ」
 まさか、2人の仲を気にしてしまっていたこと、なんて。
 言える訳がないじゃないか、まして。
 …ヤキモチ、なんて。
「そんな必死に言い訳されても、なあ」
「い、言い訳じゃ・・・」
「・・・・・飛鳥」
 ひそ、と。
 耳元で名を呼ばれれば、トクリと心臓が震える。
「俺を妬かせると、・・・どうなっても知らないぞ」
「や、・・・・・?」
 妬く、って。
 ヤキモチ?
 九条さん、が!?
「まあ、結に攫われる気は更々ないがな」
「な、何・・・」
「取り敢えず、風邪をひかせないように善処しようか」
「っ、・・・・・」
 善処、って。
 何!?
「く、九条さん・・・っ」
「・・・・・こういう時ぐらいは、頼むから」

 綾人、って呼んで欲しいんだが…なんて。
 そんな、こと。

「や、です・・・っ」
「言わせてみたい・・・というか、言わせてみせようか」
「ん、んー・・・・・っ」

 恥ずかしいし。
 何だか、勿体ないから。
 絶対に言わない、って胸の奥で誓ってみたけど。

 …いつまで持つ、かなあ。





ヤキモチですv初々しいものです・・・くくくv
っつーか、結たんも伊波たん狙いですか!?