『始まりは、そんな』



「な、に・・・・・?」
「さあ、何かな」
 フワリ、と。
 それは、こんな時に浮かべるような笑みじゃないと思う。
 そう。
「分かっているんだろう、・・・飛鳥」
 こんな。
 執行部の。
 机の上、背中を押し付けられるようにして。
 この、人に。
 組み敷かれている、なんて。
「ど、うし・・・て」
 何故。
 こんなことになっているんだろう。
 昼休み、紫上さんから九条さんが呼んでいると、耳打ちされて。
 少し離れたところにいた伽月には聞こえないようにしていたと
いうことは、呼び出されたのは僕だけで、僕だけに関係した用件
なのだろうとは思った。
 そして、きっとそれはとても重要な用件だということも。
 だけど。
 あまり無茶はなさいませんように、と言い残して。紫上さんが
執行部室の扉を閉ざし、その場を立ち去ってしまって、それを
見送った僕の肩を、ポンと叩くのに振り返るやいなや。
 こんな。
「どうして、九条さん・・・っ」
「お前が好きなんだが」
 問えば。
 拍子抜けするくらい、あっさりとその理由を告げられる。
 というか。
 今、何て。
「・・・・・好き?」
「でなければ、こんなことはしないと思うぞ」
「・・・っ、待っ・・・・・」
 するり、と。
 制服の裾から入り込む、手。
 中に着ているシャツ越しの、その手の平から伝わる熱に。
 そして。
「あ、っ・・・・・」
 ゆっくりと、身体を辿る感覚に。
 思わず、声を上げれば。
「ちゃんと、言ってくれよ」
 微かに震えている唇に、その人のそれが軽く触れる。
 意外と柔らかいな、なんて。
 そんなことに感心している場合じゃないのに。
「白状してしまうとな。こういった経験は、全くないんだ・・・
だから、良いも悪いも言ってもらわないと分からない」
「な、・・・・・」
 良い、とか。
 悪いとか、なんて。
 そんなの。
「ぼ、僕だって・・・わ、分かりませ・・・ん、っ・・・・・」
「ああ、はっきり言わなくても・・・分かる、かもしれないな」
 くすり、と。
 胸の突起を撫でられて身を震わせてしまった僕の、その反応を
見て、九条さんが微笑う。
「なあ、飛鳥?」
「ん、っ・・・・・」
 胸を弄られ、寛げられた首筋に熱い吐息がかかる。
 熱い。
 身体、が。
「っ、や・・・・・そ、んな・・・っ」
 熱が、集中する下肢の、その。
 ゆるりと昂りを示していた部分を、何の躊躇いもなく手が這う。
 微かな金属音と、衣擦れの音。ひやり、と外気に晒されてズボン
が下着ごと取り去られてしまったことを知る。
「汚すとまずいだろう?」
 汚す、って。
 何。
「あ、う」
 その言葉の意味を考えようとしていた僕の意識は、不意に与え
られたダイレクトな刺激に、一瞬真っ白になる。
「う、そ・・・ダメ、・・・ですっ、九条さん・・・っ ! 」
 手に。
 すっぽりと包み込まれて。
「九条、さ・・・んっ、九条さん・・・っ」
「・・・・・大丈夫」
 初めて与えられる他人の手による快楽に翻弄されて、まるでうわ言
のように九条さんを呼び続ける僕の、唇や頬や額に。宥めるように、
優しい口付けが落とされる。
 目元に口付けられた時に、自分が泣いてしまっていたのを知った
けれど。
 涙を舐め取る舌の感触に、ゾクリと。
 背中を電流みたいなものが走った。
「・・・・・可愛いな」
 呟く声が、やや下方から聞こえるのに、視線を向ければ。
「や、・・・・・っ」
 うそ、だ。
 こんな。
 九条さん、が。
 僕の。
「九条さん、っや・・・めて、下さ・・・っあ・・・あ・・・んっ」
 脚の間に顔を埋めている。
 熱い舌が、僕の。
「や、だ・・・っも・・・も、う・・・っ」
 敏感な部分を舐め、そして口の中へと飲み込んでしまうから。
 もう。
「いや、あ・・・・・、っ・・・・・」
 引き剥がす間も、なく。
 その激し過ぎる快楽に、僕は堪えようもなく。
「・・・飛鳥」
「う、っ・・・う・・・・・ふ・・・」
「・・・・・飛鳥」
 九条さんの口の中、吐き出してしまって。
 コクリ、とそれを飲み下すような音が聞こえて、僕はただ呆然と
して、ポロポロと涙を零していた。
「済まない、・・・飛鳥」
 たけど、もう。
 止められないんだ、と。
 しゃくり上げる僕を抱きしめて、どこか苦しげな声で九条さんが
囁く。
 抱きしめられて。
 どうしてだろう、とても。
 ホッとしたような気持ちになって。
「九条・・・さん」
 その背に、おずおずと腕を回せば耳元、息を飲んだ気配がして。
「・・・・・好きだ」
「・・・・・、っ」
「初めてお前を、お前という存在を認識した時から・・・俺は」
 強く、意識していた。
 いつも、見つめてしまっていた。
 …惚れてしまっていたんだ、と。
 何度も、囁くから。
「・・・九条さん」
 背を抱く腕に、力を込めて。
 サラリとした髪に、鼻先を埋めれば、微かに香の匂いがした。
「・・・・・僕、は」
 僕の気持ちは。
 どうなんだろう。
 九条さんに好きだと言われて、ドキドキした。
 びっくりして、だけど。
 抱きしめられて、嬉しかった。
 嬉しかった、んだ。
 それは、まだとても淡くて朧げな感情だけれど。
「・・・・・好き、です・・・」
 不確かなまま。
 だけど口に出して言ってしまえば、ああそうなんだとストンと胸の
中に収まった、それは。
「僕も・・・きっと、好き・・・なんです・・・九条さん」
「・・・・・飛鳥」
 もっとずっと確かな、もの。
 こんな風に、抱きしめて。
 抱きしめられるなんて、思いもしなかった。
 少し前までは、僕にとっては手の届かないような、そんな存在。
 この人が、僕を見付けてくれて。
 僕を。
 きっと、導いてくれるだろう場所を見てみたい。
 この人、となら。
「・・・・・弱ったな」
 苦笑混じりの吐息が、耳朶をくすぐる。
「止められない、どころか。加速させられた気分だ」
「・・・・・はあ」
 くっくっと笑って揺れる背を、僕は相変わらず抱きしめていて。
 他人の体温や重みが、こんなに心地よく感じることがあるなんて、
思いもしなかったけれど。
「でも、・・・・・嬉しいな」
 嬉しい。
 多分、僕も。
 もっとずっと、この人を知りたい。
「・・・嬉しいよ、飛鳥」
 囁きながら、また落とされる口付け。
 何度も何度も、啄むように触れて。
 そして、深く合わさったそこから、ゆっくりと侵食が始まる。
 イヤじゃ、ない。
 少し怖い、けれど。
 この人がいる、なら。
「っ、・・・・・ん」
 また、微かな金属音。
 それが何なのか認識するより先に、脚の間に押し付けられた。
 酷く、熱い。
「あ、・・・・・」
「飛鳥」
 そういった知識は、きっと僕の方がなかったと思う。
 けれど、何となく分かった。
 僕の中に、入りたがってる。
 繋がりたい、って。
「あ、あ・・・ァ、っ」
「あす、か」
 入り込んで、くる。
 それは、酷く痛みを伴うもので、無理だ無理だという声が頭の中
響くけれど、それでも。
「・・・っ、飛鳥」
 名を呼ぶ声は、掠れがちに。
 だけど、優しくて優し過ぎて。
 また泣いてしまいそうになる。
「ん、っ・・・ああ、ァ・・・・・っ」
 グ、と。
 開いた脚の間に、九条さんの腰が一気に入り込む。
 当たる骨の感触に、ああもう全部奥まで入ってしまったんだと、
ぼんやりと思った。
「・・・・・そんな、風に・・・泣くのは・・・俺の前だけにして、
欲しい・・・な」
「え、・・・・・」
 泣いてしまいそう、じゃなくて本当に涙を零してしまっていたん
だろう。熱い吐息混じりに呟きながら、うっすらとかいた汗に額に
張り付いた僕の前髪を、優しい手がそっと梳く。
「ザワザワ、するから」
「・・・・・ザワザワ、ですか?」
「ああ。だから、泣くのは俺と2人きりの時だけにしてくれ」
「・・・・・はい」
 そのザワザワというのが一体どういうものなのかは、僕にはよく
分からなかったけれど、でも人前でそう泣いたりするのも恥ずかしい
ような気がしたし、今更かもしれないけれど、九条さんの前でなら
良いんだな…って思えてきたから。
「良い子だな」
 くすり、と笑ったその顔は、相変わらず優しい微笑みをしいていた
けれど。
 そこに、ほんの少しだけ。
 知らない男の人の貌を見たような気がして、僕は。
 何だか、胸の辺りがムズムズした。
 それが何なのかも、やっぱり分からなくて。
 でも、きっと多分。
 九条さんが好きだ…って、そういうことなんだろうって。
 揺さぶられ始めた身体を繋ぎ止めるように、背に回した腕に一層
力を込めた。





初めての転生学園SSが、ちょこっとエロにー!?
っつーか、やっぱ総代はイイ・・・(悦)v