『年下のオトコノコ』



「ヤらせて下さいよ、センパイ」

 すらりと出た台詞。
 それでも、内心ハラハラドキドキなのは、とにもかくにも相手に
悟られたりしないよう、押し隠して。
 遺跡探索の後、もう1人の同行者だった怪しげな忍者は、早々に
姿を消してしまっていたから、寮まで2人きり。それじゃあお疲れ、
と自室に入ろうとする葉佩に、ちょっとお邪魔させて貰って良いっ
すか?と尋ねてみれば、何を不審に思うでもなく、あっさりと頷く
ものだから。その常日頃から呆れるほどの警戒心のなさに、今夜は
感謝したいと思った。
 そして、部屋に通され、ガシャガシャと銃やら何やら装備を外す
その後ろから、耳元。
 ゆっくりと囁くように告げたのが、冒頭の台詞であった。

「いいよ」
「・・・・・は?」
 余裕たっぷりと見せ掛けて、そんなもの本当はあるはずもなく。
実のところ、1大決心の言葉であったのだ。
 好きだとか愛してるだとか、そういうこっ恥ずかしい告白よりも、
いっそあからさまでストレートに伝わるはずで。その分、リスクも
覚悟している。笑って誤魔化されるくらいならまだマシで、殴られ
ることぐらい、何でもない。ただ、嫌悪の眼差しで拒絶されるかも
しれないと思うと、らしくなく足が竦む心地になるけれど。
 それでも。
 そうしたいと思ったら、止まらなかったから。
 だけど。
「・・・・・何、そんな・・・あっさり」
 まさに、拍子抜けするくらい。
 にっこりと微笑んで、葉佩は頷いてみせたのだ。
「アンタ、・・・・・オレの言った意味、分かってるんすか?」
「分かってなきゃ、返事出来ないじゃないか」
 呆然と問うてみれば、そっちこそ今更何を聞くんだという態度で。
 分かっている、のだと。
 その意味を。
 夷澤が望んでいることを。
「ッオレは、アンタと寝たいって言ってるんすよ!?」
「うん」
 承知している、のだなんて。
「アンタを抱きたいってコトなんすよ!?」
「そうだね」
 本当に。
 知っているというのなら、どうしてそんな。
「まさか、ただ抱きしめて寝っ転ぶだけだなんて、思ってやしない
でしょうね!?ホント、分かってるんすか!?オレはアンタのそのケツに
ブチ込みたいって言ってるってのに ! 」
「・・・・・随分あからさまに言うんだなあ」
 そんな風に微笑って。
 平然としていられるんだろう。
「うん、ちゃんと分かってるよ、・・・・・凍也」
「ッ、・・・・・」
 そして、そんな。
 こんな時に名前で呼ぶ、なんて。
「・・・・・卑怯っす」
「なんで。俺、逃げも隠れもしてないし、誤魔化したりするつもりも
ないよ?」
「・・・・・ああそうだ、アンタそういう人だよ・・・」
 ズルイ。
 その真直ぐな笑顔で、何げない言葉で。
 懐の中、するりと入り込んでくるのだ。
 温もりを連れて、切なさを植え付けて。
 愛しさを。
「なら、・・・遠慮しないっすよ」
 募らせていく、人。
「ああ、でもちょっとは手加減して欲しいかな」
 初めてなんだからさ、と。
 はにかんで言うものだから。
 そんなの、むしろ。
 かえって、欲情を煽るだけのものなのに。
「本気でいかせて貰いますよ」
「・・・・・じゃあ、本気で受けとめないとね」
 いつだって。
 そうなのだ、この人は。
「凍、也」
 呼ばれるまま近付いて、腕を引く。
 そのまま腕の中収まる身体、その背は夷澤のそれより少し高くて、
それがどうしたって悔しくて。だけど、そのうち追い付き追い抜いて
やるからと固く誓いながら、やや伸びをするようにして唇を合わせる
というよりは、殆どぶつけるような乱暴な所作で。半ば噛み付く勢い
で深く口付ければ、おとなしく夷澤に身を委ねていた葉佩の肩が、
微かに震えた。
「・・・九龍センパイ」
 掴んだ肩、その制服の下の肌の暖かさを知りたくて。
 熱を。
 感じたくて、唇を貪りながら手は慌ただしく衣服を乱していく。
「ま、・・・待って、凍也」
「待たないっすよ」
 待てない。
 どうしようもなくガッついてしまっているのは、百も承知だから。
葉佩が僅かに見せた躊躇を無視するように、乱したシャツの間から
忍び込ませた手で胸元を押せば、不意を突かれた身体はバランスを
崩して後ろに倒れる。
「ッ・・・・・」
 重なるようにして倒れ込んだそこは、お誂え向きにベッドの上で。
スプリングに沈み込んだ肢体にのしかかり、はだけた首筋に唇を押し
当てる。
 トクリ、と。
 跳ねた鼓動を、薄い皮膚の下に感じる。
「九龍、さん・・・ッ」
 これは今は自分のものなのだ、と。
 そう思ったら、もう止まらなかった。
 溢れるもの。
 溢れ出してくるもの、全て。
 注ぎ込んでやりたい。
「凍也、ッ・・・あ・・・ん、・・・・・ッ」
 セックスの知識なんて、聞いたようなことしか頭にはない。性欲が
ないというわけではなかったが、他人と肌で触れ合うなんて、そんな
自分の姿を考えたこともなかった。
 誰かに。
 こんな風に触れたいと思って、願って。こんな、恐ろしく飢えた獣
のような感情があるだなんて、知らなかった。
 しかも、相手は自分と同じ男で。
 だけど、欲しいと思ってしまったら、そんなものは枷にも壁にさえも
なりはしない。
「イイ、・・・っすか?」
 ただ、触れたくて。
 無我夢中で、衣服を乱し、白い肌に唇を這わせる。
 どんな風にすれば良いのかなんて、知らない。
 だけど、分かる。
 それはきっと、本能のようなもので。
「ふ、・・・ァ・・・ッ、・・・・・ん、・・・や・・・ッ凍也 ! 」
 そんな剥き出しの欲を、腰を割り込ませるようにして開いた脚の間、
その奥にある蕾に性急に押し当てれば、押し寄せる快楽に潤んだ瞳が
ぎょっとしたように見開かれた。
「そ、んな・・・ッ無理・・・だ・・・・・ッ」
「往生際が悪いっすよ・・・九龍さん」
 のしかかる夷澤の胸を押し返すように突っぱねる手を払って、腰を
押し進める。
「ダメ、だ・・・ッまだ・・・・・ッん」
「・・・・・煩い」
 この期に及んで抵抗しようとする葉佩の、それでも本当に本気で
抗おうというのなら、自分なんてとっくにブッ飛ばされているはずで。
 だから。
「い、ッ・・・・」
 諦めろと言わんばかりに、狭い器官に自分の滾ったものを捩じ込む。
「ッ・・・・・キツ・・・・・」
 一気に突き込むには、そこはまだ固く。それでも強引に、軽く揺する
ようにして、じわりと侵食を試みるけれど、ほんの先をどうにか潜り
込ませるのが精一杯で。
「少し・・・弛めて下さいよ、センパイ」
「む、無茶・・・ッ、言う・・・な・・・・・ッ」
「・・・・・ク、ソ・・・ッ」
 無茶は承知だ。
 ここまできて、後には退けない。
 相手を気遣う余裕なんて、なくて。
 それでも。
「・・・・・あ、ッ」
 張り詰めた自分のものとは対称的に、痛み故か萎えて震えている葉佩
の性器に、特に何か意図したわけでもなく指を絡めれば、微かに甘さを
含ませた声が上がって、下肢の緊張がやや解ける。
「・・・ナルホド」
 納得したように呟いて。
 また硬さを取り戻してきたものを撫でてやりながら、少しずつ解れて
きた下肢の強張りを見計らって。
「い、・・・・・ッや、ァああ・・・・・ッ」
 グ、と。
 震える蕾を押し広げ、そのまま半ばまでをようやく埋め込む。
「く、ぅ・・・・・ッ」
 一気に奥まで突き入れるつもりでいたのに、だがしかしそれを拒む
ように絡み付いてきた内壁は熱くて。
 溶かされそうに。
「・・・・・、ッ・・・・・」
「ひ、ァあ・・・ッ」
 あまりにも。
 だから。
「く、・・・・・」
 ぶるり、と身を震わせて夷澤が低く呻く。
「と、・・・うや?」
 そのまま。
 覆い被さるように倒れ込んできた身体を、重みを受けとめて。
 肩で大きく呼吸繰り返す、夷澤のその背に何とはなしに手を回そうと
すれば。
「・・・・・くそ、・・・ッ」
 舌打ちと共に、苦々しげな声がくぐもって聞こえる。
「凍也・・・?」
「・・・アンタのせいだ」
「・・・・・え・・・?」
 怪訝そうに首を傾げれば、だが肩口に埋めた顔を上げぬまま、夷澤が
低い声で呟く。
「わざとじゃないっすか・・・あんなのって」
「だから、何・・・」
 何を言いたいのか分からなくて問い返せば、カバリと勢い良く上体を
起こして、葉佩の両脇に手をついたまま、夷澤の悔しげな貌が見下ろして
きた。
「オレが挿れた途端、あんな思いっきり締め付けてくれて ! 食いちぎられ
るかと思ったっすよ ! 」
「そ、んなの・・・ッ知らない」
 身に覚えがない。というか、断じて意識してやったわけではない。そう
訴えてみせるのに、たけど夷澤は聞く耳持たずといったように。
「そのせいで、・・・ッああああ・・・もう」
 不本意そのものの顔が、またボスッと音を立ててシーツの波に沈む。
 どう対応したものかと思案していた葉佩は、ふと。
 下肢を濡らす生暖かい感触に気が付いた。
「もう・・・・・イっちゃった・・・?」
「ッーーーーーーーーーー」
 ぽつりと漏らした言葉は、だが禁句のようなもので。
「わ、悪かったっすね、早漏で ! 」
 やはりくぐもった声が、吐き捨てるように言うのに。
「・・・・・そんなこと言ってないけど」
「それもこれも、アンタのせいっすからね ! アンタの中がキツくて熱くて
締まりが良過ぎるから ! 」
「・・・・・褒めてんのか貶してんのか、どっちなんだかな」
 こそりと溜息をつけば、何を思ったのか。夷澤の手が、するりと太股に
下りていく。夷澤と違って、まだ達してはいない燻ったままの熱が、その
手の動きに応えるように上がろうとしている。
「ッ、凍也・・・」
「これからっすよ、九龍さん」
 そして。
 半ばまで埋め込まれた夷澤の若い雄が、また勢いを取り戻していくのを
生々しく感じ取って。
「え、・・・ッな・・・何・・・」
「あんなのがオレだと思って貰っちゃ困るんですよ。その辺り、きっちり
理解して貰うまで、とことん付き合って頂きますよ・・・センパイ」
「・・・・・マジで?」
「大マジっすよ。アンタが逃げも隠れも誤魔化しもしない人で、有り難い
っす・・・ホント」
 そう言われてしまえば。
 どうしたって、頷かざるを得ないから。
「・・・・・せめて、明日起きあがれるようにしてくれ」
「そりゃ、アンタ次第っすよ」
 くくっと笑いながら耳朶を甘噛みする夷澤の頭を小突いてやりたいような
気分になったけれど、それは零れた溜息に紛れ込ませて。
「・・・・・前向きに考えるかな」
 それは、結構得意だから。
 結果的にカワイイ後輩を誑かしたオトシマエをつける意味でも、今夜は
覚悟して掛からねばなあ、と思いつつ。
「じゃあ、・・・ちゃんと俺もイかせてくれよ・・・凍也」
 背に腕を回し、耳元囁けば。
 それが、またどうやら若い後輩の何かを刺激したらしく。
「・・・・・アンタ、ホントに・・・もう」
 どこか忌々しげでいて呆れたような呟きを聞きながら、見掛けよりずっと
逞しい背を抱きしめた。





初・九龍SSが夷主で、しかも微エロ!?
・・・・・童貞ばんざーい!!早漏ばんざーい!!←凍拳