『…Jealousy?





 見てみろ、と言わんばかりに。
 それは、鞄の中から零れ出た。

 いつものように、啓太は篠宮の弓道部の練習を見学して。
 そして部活が終わると、ふたり一緒に寮へと戻る。
 共に夕食を取って、その日は啓太の部屋へ。
 明日の古文の小テストの勉強を見てやる、ということになっていた
から、啓太を先に戻らせ。篠宮は自分の部屋に、1年の時に使って
いた参考書を取りに急いだ。
「ああ、これだな」
 本棚に綺麗に並べられた参考書の中から殆ど迷う事無く、その1冊
を見つけだすと満足げに頷き、部屋を後にする。
 そして、辿り着いた啓太の部屋のドアをノックしようと、して。
「っ、うわ・・・篠宮さん!?」
 その前に、突然開かれたドア。
 中から飛び出して来た身体が、その勢いのままぶつかってくるのを、
どうにか受け止めて。
「・・・・・どうした」
 何があったのかと怪訝に思いながら、努めて冷静に問えば。
「あ、の・・・っ済みません。今日中に、西園寺さんに渡しておいて
くれ…って、中嶋さんから預かっていた資料があって・・・」
「・・・・・すぐに届けてやれ」
「は、はいっ」
 啓太にしては珍しく、うっかり失念してしまっていたのだろう。
その慌て振りに、咎める気にもなれず。篠宮は、肩に添えていた手を
そっと外し、苦笑混じりに啓太を促した。
「中で待っているから、早く行ってこい」
「はいっ、すぐに戻ります・・・っ」
 そうして、駆け出そうとする背に。
「・・・廊下は走るな」
「ご、ごめんなさい・・・っ行って来ます ! 」
 そう、付け加えて。
 大股で歩いて行く啓太を廊下の角を曲がるまで見送り、篠宮は既に
勝手知ったる様子で啓太の部屋へと足を踏み入れた。
「・・・・・」
 途端目に入る、ベッドの脇に投げ出された鞄。
 それだけ焦っていたのだろうとは伺い知れるものの、やれやれと溜息
を、つきつつ。身を屈め、鞄を拾い上げようとすれば。
「っ、と・・・」
 中身を出してから、きちんと閉められていなかったのだろう。中から
教科書の類いが、バサバサと床に落ちてしまって。
 済まない、と心の中で啓太に謝りつつ。それらを拾い上げ、鞄へと
元通りに入れていくうちに。
 ふと。
 ノートの間から零れ落ちた、それを。
 目にしてしまって。
「・・・・・」
 そのままノートに挟み込んで鞄に直してしまえばいい、と思いながらも
篠宮の手は、それを裏切って。
 床の上に舞い落ちた、その。
 1通の白い封筒を拾い上げ、目の前に翳した。
「・・・・・伊藤啓太様」
 表書きの宛名を小さく声に出して読み、自然な所作で裏返せばそこには、
やや小さく書かれた、差出人と思しき男の名前。
 どちらにも住所はなく、切手も貼られていないその手紙は、手渡しされ
たのか、それとも。
 それはともかく、それは。
 この手紙は。
「・・・・・恋文、か」
 まさに、直感とでも言うもので。
 手紙を目にした瞬間から、そうなのだろうと篠宮は悟ってしまっていた。
 啓太、に。
 啓太を想う、誰かが。
「・・・・・」
 封を切られた跡は見られない。
 ということは、啓太はこの中身を未だ読んではいない。
 これがどういうものか、知っているのだろうか。
 直接手渡されたのなら、その時に相手から何か告白めいたことを言われ
たのでは、ないのだろうか。
 啓太は、どういう反応を返したのだろう。
 この、手紙を。
 啓太は、どうするつもりなのだろう。
 伊藤啓太様。
 そう書かれた文字を、食い入るように見つめて。
 手に。
 グ、と力を込め掛けた、時。
「お、お待たせしました・・・っ」
 前触れもなく、ドアが開いて啓太が飛び込んでくる。
「あ、・・・・・ああ」
 その音に、あからさまに驚いて肩を揺らしてしまって。
 とはいえ、そもそも自分の部屋に入るのに、わざわざノックをする必要
も、ないだろうと納得しながらも。
 だが、さすがにタイミングが。
「え、っと・・・あ、走ったりしてませんから! 早足で歩いて来ただけです
から、・・・・・っ、あ・・・」
 酷く驚いた様子で自分を凝視する篠宮に、啓太はやや困惑しつつ。
 勢い良く飛び込んで来たのを、急いで走って戻って来たと取られた、と
でも思ったのか、言い訳のようなことを口にし始めた、啓太の。
 視線が、篠宮の手元に移り。
 手にしたものに、気付いて。
 言葉に詰まるのに。
「・・・・・鞄の中身を散らかしてしまった・・・済まない。片付けている
時に、拾って・・・・・」
「あ、・・・ちゃんと閉めてなかった、から・・・」
 何となく。
 互いに、気まずげに言葉を繋いで。
 やがて、篠宮がゆるりと首を振って、その封筒を持った手を。
 啓太へと、差し出す。
「ちゃんと読んで、返事をしてやるんだな」
「え、・・・・・」
 啓太が見上げた貌は。
 いつもと変わりなく、柔らかい微笑みを向けていて。
「篠宮、さん・・・これが、ラブレター・・・って・・・・・」
「中を見た訳ではないが、・・・どうしてだか分かるものだな。宛名の文字
から・・・伊藤を想う気持ちが、伝わって来・・・・・」
「っ、分ってて・・・!? 」
 不意に。
 啓太が、声を荒げるのに。
「いと、・・・・・」
「俺へのラブレターだって、分っていて ! その上で、篠宮さんは・・・そう
言うんですか !?」
 握り締めた拳が。
 声が、震えている。
 憤って、いるのか。
 それとも。
「・・・啓太」
「それだけ・・・なんですか・・・? 篠宮さんは・・・っ何も感じ・・・」
 何も感じなかったのか、と。
 そう問おうとしたのかもしれない。
 何も感じなかったのだ、と。
 そう取られたのかもしれない。
 俯いてしまった、顔。
 その表情は、篠宮には見えなくて。
 それ、が。
「返事は、・・・しました。それ、直接渡されて・・・っその時に、告白も
されて。でもっ、俺・・・断りました。好きな人がいるからって・・・・・
その人と、御付き合いしてるから、って・・・ちゃんと、俺・・・・・っ」
「・・・・・なら、何故手紙をまだ持っているんだ・・・」
 もどかしいのか。
 何なのか、ただ。
 呟くように洩らした声は、妙に。
 渇いた響きで。
 その感情を押し殺したような声色に、啓太が驚いて顔を上げる。
 今にも泣きそうだな、と。
 ぼんやりと、そんなことを考えた。
「俺に、・・・俺の手で破り捨てて欲しい・・・って。頼むからって・・・
言われて・・・」
「ならば、そうしてやればいい」
「っ、篠宮・・・さ、ん・・・・・?」
 どうしてそんな残酷なことを言うのかと、まるで咎めるような目をした。
 突き放すような冷たい言葉を、まさか篠宮が口にするなどとは思っていな
かったのかもしれない。
 見上げてくる、悲痛な貌。
 いっそ、こちらが。
 泣きたいくらいに、胸が。
 苦しい、と。
 なのに、涙は出ることはなく。
 篠宮の喉は、酷く渇いた笑いを洩らした。
「伊藤は優しいからな・・・出来ないのなら、俺が」
「っ、止めて下さい・・・・・! 」
 静かに微笑みを浮かべつつ、封筒に両手を掛けた篠宮に、ハッとしたよう
に啓太が取り縋る。篠宮が手にした封筒を取り戻そうとするけれど、叶わず
それは。双方の手を離れ、舞うように床へと落ちた。
「あ、・・・・・っ」
 慌てて拾おうと伸ばした、啓太の手は。
 封筒を掴む寸前、篠宮の手に強い力で引き寄せられる。
「い、・・・・・」
 痛い、と。
 訴えようと、上げた視線の先。
 啓太を見据える篠宮の瞳は、燃えるような熱情を孕んで。
 なのに、酷く。
 冷たい、輝きでもって。
 啓太は言葉もなく、身を震わせた。
「・・・・・啓太」
「や、・・・・・っ」
 こんな篠宮は、知らない。
 怖い、と。
 逸らそうとした顔、だがそれは許されずに。
 頬を両手で捕らえられ、そのまま。
 噛み付くように、口付けられる。
「っ、・・・ん、っふ・・・・・」
 いつもの優しいキスでは、ない。
 剥き出しの熱情を、ぶつけるかのように。
 角度を変えては、啓太の口腔に深く忍び込む舌は、熱く。
 なのに。
 頬を捕らえた手の平は、酷く。
 冷たく感じた。
「い、・・・・・やァ、・・・っ」
 違和感。
 ただ、感じる恐怖のままに、啓太は篠宮の腕から逃れようと、身を捩る
けれども、逆に強い力で抱き込まれて。
 抱き締められて。
 その温もりに、一瞬安堵のようなものが感じられた、と。
 身体の力を抜いた途端。
「っ、篠宮さ、ん・・・っ」
 重なった身体ごと、傍らのベッドに倒れ込むように。
 その衝撃に、軽く咳き込みながらも翳る視界の中、目を開けば。
 薄らと微笑む貌は、いつものように優しい篠宮のものなのに。
 その瞳だけが、冴え冴えとした輝きで啓太を射抜いていた。
「な、に・・・・・」
 怒っている、のとは違うような気がした。
 何か啓太に落ち度があるのなら、いつも篠宮はきちんとそれを説明して
理解させて、そして最後には赦してくれた。
 今日は。
 これ、は。
 何、なのだろう。
 やはり、あの手紙のことが原因なのだろうというのは、啓太にも分って
いた。「返事をしてやれ」と言われた時、啓太がラブレターを受け取った
ことにも、篠宮は特に何も感じてはいないのだろうと思って、その無関心
な様子に、啓太は憤りすら感じた。
 なのに、この状況は。
 何も感じてなどいなかった、なんて。
 そんな、はずは。
「し、のみやさんっ・・・俺、篠宮さんが好き、なんです・・・っ」
「・・・・・ああ」
 分っている、と。
 肯定するように、首筋に唇が寄せられて。
「い、っ・・・・・」
 不意にきつく、吸われて。
 快感に勝る痛みに、思わず声を上げる。
「っ、篠宮さん・・・だけ、なんです・・・っ篠宮さんが、1番・・・」
「俺だけ、か・・・だが、2番も3番もあるのだろう、啓太には」
 淡々と、呟きながら。
 ゆっくりと唇が肌を辿り、時折強く吸い上げるのに。強い痛みと快感に
啓太は身を震わせては短い悲鳴を上げた。
 いつもは、啓太を気遣ってか、普段見えそうな場所にはキスマークなど
付けない、のに。
 耳の裏にも、首筋にも。
 きっと、そこには紅い跡が幾日も消えずに残るのだろう。
「や、・・・篠宮さん、しか・・・・・っ」
 肌を弄る、篠宮の手。いつも、啓太を暖かく包み込み、癒しすら与えて
くれる手が、今は。
 探り出す快感と、熱とは裏腹に。
 どうして、こんなに。
 冷たい。
「ああ、・・・・・っん・・・ん・・・っ」
 それでも確実に煽られる、動きに。
 下着の中に忍び込んだ手が、もう慣れた手付きで啓太の半ば勃ち上がった
欲を捕らえ、親指が先端をヌルリと撫でる。
「あ、・・・・・っ篠宮、さ・・・ん・・・」
 感じてしまう。
 生理的なもの、だけでなく。
 だってこれは、篠宮の手で。
 状況がどうであれ、篠宮に触れられて身体は歓びを訴えている。
 どうしようもなく。
 好きだ、と。
「ん、っ・・・・・あ、あああァ・・・・・っ」
 嬉しい、と。
 感じるままに、その手に促されるままに精を吐き出せば。
 弛緩した身体から、ズボンだけを下着ごと抜き去られて。
 外気に曝され、微かに震える脚を大きく左右に割り開かれ。
「っ、・・・・・待っ・・・・・」
 吐精のぬめりが僅かに潤しただけの後孔に。
 押し当てられた、切っ先が。
 まだ堅い蕾を抉じ開けるようにして、侵入してくる。
「や、・・・篠宮さん、こんな・・・・・っ、あ・・・」
 痛みと衝撃に込み上げてくる涙で潤む瞳で、呆然と見上げれば。
「・・・・・啓太」
 ポツリ、と。
 名を呟いた唇。
 ポツリ、と。
 啓太の頬に落ちた。
 篠宮の。
「・・・・・どうし、て・・・」
「・・・・・啓、太」
 呆然としてるのは、篠宮もまた同じで。
 見開いた瞳から、ひとつ。また、ひとつと。
 啓太の頬に落ちては、濡らす。
 涙。
「啓太」
 眉間に刻まれた、苦悩の証し。
 こんなにも、何が。
 篠宮、を。
「・・・・・俺は」
「篠宮さ、ん・・・」
「潔い人間であろうと、・・・思っていた」
 追い詰めたのは。
「なのに・・・このざまは、・・・・・っ」
 それは。
「・・・・・不様だな・・・嫉妬に駆られて、お前を・・・こんな」
 嫉妬。
 はっきりと、それは。
「・・・・・酷い、男だ・・・」
「ちが、・・・違いますっ・・・篠宮さんは」
「違わない、・・・・・啓太。これもまた、俺なのだから」
 抑え切れない。
 情動。
 こんなにも。
 あっさりと箍が外れる。
 認めたくはなかったけれど、それでも。
 目を逸らしてはいけない、これも。
「この醜い姿も、俺なんだ・・・啓太」
「・・・・・篠宮、さん」
「・・・・・済まない」
 紛れもなく、自分自身。
「お前の前では、いつも・・・清廉潔白でありたかったよ」
 一番見せたくなかった、者に。
 曝け出してしまったのに。
「・・・・・どうして、ですか」
「・・・・・っ啓太」
 割り込ませた身を退こうと、して。
 啓太の腕が、脚が。
 咄嗟にそれを阻む。
「そりゃあ、・・・怖いけど、怖かった・・・けれども・・・でも
っ俺は、・・・・・嬉しかった」
「け、・・・いた?」
 乱れる息を何とか整えながら、言いつのる。
 ちゃんと、言わなければと。
 伝えておかなければと、ただ。
「篠宮さんが、嫉妬・・・してくれた。それが、嬉しかったんですっ
・・・俺、そんな・・・狡い人間なんです・・・っ」
 手紙を手にした篠宮を見た時。
 こっそり、期待していた。
 この中身を知ったら、もしかしたら。
 ささやかなヤキモチでも、垣間見せてくれるのではないかと。
「人の気持ちを利用して、篠宮さんを試して・・・っ俺、どうしようも
なく、嫌な人間なんです・・・っ」
 それが。
 こんなに、大切なものを傷つけることになるなんて。
 予想出来なかったなんて、今更。
「ごめんなさい・・・っごめんなさい、篠宮さん・・・」
 だけど。
 どうか。
「・・・・・俺の、こと・・・嫌いにならない、で・・・」
「・・・啓、太」
 困惑したような瞳が、見下ろしてくる。
 その貌が、微かに歪んで見えるのは。
 溢れ出したもので、視界が揺れてしまっているから。
「っ、・・・・・ごめ、んなさい・・・っ」
「・・・・・啓太、啓太・・・」
 頬を伝って流れ落ちる、雫。
 それを、するりと拭ったのは。
 篠宮の、指。
「・・・・・あ」
 暖かい。
 手。
「それは・・・俺の台詞だ」
 躊躇いがちに、そろりと。
 頬を包み込む、温もり。
「俺は、・・・・・こんなにも嫉妬深い男、なんだ」
「・・・・・、っ」
「啓太に見せてきた、今までの俺とは・・・違うようで、それでも
これも・・・俺自身、なんだ」
「篠宮さん・・・」
「・・・・・虫の良いことを、言っているのは分っている・・・でも」

 どうか。

「俺は、篠宮さんが好きです」

 御願い、だから。

「篠宮さん、だから・・・好きなんです」
「・・・・・俺も、啓太が好きだ・・・そんな言葉では、おそらく全て
言い表せないくらいに、俺はお前が愛おしいよ、啓太」
「・・・・・あ、あの・・・じゃあ・・・えっと」
 甘い囁きに、くすぐったそうに身じろぎしながら。
 啓太が、やや躊躇いがちに。
 ポツリ、と。

「して、・・・・・下さい。続き・・・その・・・」
「・・・・・あっ、・・・ああ」

 中途半端に繋がれた身体を。
 煽られた熱を。

「だが、続き・・・では、ないからな」
「っ、・・・・・」
 先端だけ潜り込ませていたものが、ゆっくりと引き抜かれる。
 その刺激に、ビクリと身を震わせれば。
「やり直しだ・・・・・始めから」
 宥めるように、額に。
 落とされる、優しいキス。
「俺が啓太に伝えたいのは、あんな憤りに任せた情動ではなくて・・・
愛おしむ気持ち、だから」
「・・・・・はい」
 応えるように。
 絡めた腕で、引き寄せる。
「俺の、嬉しいって気持ちも・・・篠宮さんに、伝えたい・・・です」
「ああ、・・・感じさせてくれ」
 触れ合う吐息。
 そして、唇。
「伝わって、ますか?」
「・・・・・そうだな、もっと」
「もっと、ですか」
「・・・・・欲張りかな、俺は」
「そんなことないです、俺だって・・・」
 微笑いながら。
 繰り返す、キスが。
 吐息が、ゆっくりと。
「・・・俺の前では、いっぱい我が侭になって欲しい、・・・です」
「あまり俺を甘やかさないでくれ」
「・・・・・篠宮さん、こそ」
 熱く。
 甘やかに。

 溶けて。
 溶け合って。

 ココロとカラダを、そっと。
 繋いだ。






鬼畜未遂(ぐは)v
先っぽ挿れたまま会話続けないで・・・(頬染め)。
篠宮、初めてのジェラシー・自覚編v←何じゃそれゃ
ああいう御堅い人ほど、そういう時はコワイかと(震)。
でも、基本的に甘やかす人なので・・・はいv
雨降って、地固まるですvガッチガチ(何)v