『狂わせたいの』



「や、・・・っあ・・・・・」
 こんな、時に。
 こんな状況で口走ってしまう、「いや」なんて。
 本当の本当にイヤだと思って、口にしてしまっている訳じゃないのに。
 むしろ、その逆。
 もう何度も何度も数え切れないくらい、こうして身体を重ねて繋げて、
これ以上ないくらいに近くにいるのに。
 なのに、どうしていつも。
「・・・・・イヤ、か・・・?」
 そんな、こと。
 聞くんだろう。
「っ、ち・・・が・・・・・」
 ふるふると首を振ってそれを否定してみせても、何だか少し困惑の表情。
 どうして、いつもそんな。
 聞かなくても、聞かなくったって分かっているはずなんだ。
 だって、こうして素肌を重ねていれば、俺の鼓動が嬉しくてドキドキ
しているって、気付くはず。
 それに。
 篠宮さんの、大きな手の中。
 包まれて、煽られて。
 もうトロトロになってしまって、キモチイイって訴えている俺の、恥ず
かしいところも。
 なのに、そんな風に。
 真面目な顔して、俺の表情を覗き込んで。
 そんな、心配そうに。
 聞かないで。
「・・・・・啓太?」
 そろり、と。
 名を呼んでくるのに、ただ俺はコクコクと頷いて。
 だって、今ここで口を開いたら。
 きっと、とんでもないことを俺は口走ってしまう。
「啓太・・・」
 イイともイヤとも言わなくなった俺に、やはり篠宮さんは困ったように。
 それでも、伺うようにゆるりと。
 俺の下肢に添えられていた手を動かすから。
「あ、っ・・・・・ん」
 再び与えられ始めた愛撫に、やはり漏れる声は抑え切れなくて。
「・・・ふ、ぁ・・・っ、・・・・・」
 自分でもびっくりするくらい、甘く濡れた声。
 恥ずかしくて、耳を塞ぎたくなるけれども、喘ぎを噛み殺していれば
いつも篠宮さんが、ひそりと囁く。
 我慢しなくていい、隠さなくていいから、って。
 その声だけで、昇りつめてしまいそうになるのに。
 篠宮さんの、声が手が身体が。
 全部が、俺を気持ち良くしてくれているんだ、って。
 分かってくれている、はずなのに。
「ん、んっ・・・・・」
 もどかしい。
 躊躇いがちに絡まる、指が。
 戦慄く唇を宥めるように落とされる、羽のようなキスが。
 もどかしくて。
「や、・・・・・っも・・・っ、と・・・・・」
「え、・・・・・」
 堪え切れずに、一度口をついて出てしまえば、もう。
「して、下さ・・・い、もっと・・・・・キモチイイ、から・・・っ、
篠宮さ・・・んの・・・全部、俺に・・・・・っ」
 止まらない。
 求めてしまう。
「篠宮、さん・・・中、・・・・・っきて・・・俺、の・・・っ」
 欲しい、って。
 もっと、篠宮さんが。
 キモチイイ、から。
 篠宮さんも。
 キモチイイって、そう思って欲しいから。
 全部を。
 全部、で。
「・・・・・啓太」
 あからさまな欲に掠れた、声。
 そして、俺の脚に当たる、熱を帯びた篠宮さんの。
「・・・・・ダメ、だな・・・」
 ふ、と。
 苦笑混じりの言葉に、そろりと表情を伺い見れば。
「いつも、もっと・・・ちゃんと、優しくしようと・・・思っている、
んだ」
 そんな、こと。
 いつも、いつだって篠宮さんは優しいのに。
「最初の内は、・・・・・だが・・・その・・・つい、・・・・・」
 夢中に、なる。
 溺れてしまうんだ、と。
 最後の方は、小さくなってしまった声は、でもはっきりと俺の耳にも
届いていて。
 そう、だっただろうか。
 言われて、記憶を辿ってみれば。
 そういえば…途中から、すっぽりと記憶が抜け落ちてしまっている
ことが多い、ような。
「だから、そんな風に・・・俺を甘えさせてしまったら・・・・・」
 知らないぞ、と。
 確かめるように、囁くのに。
「・・・・・それでも、良いんです・・・」
 不安げに、だけど。
 請う、響きだから。
「それが、良いんです・・・っ」
 沢山、俺を。
 いっそ、がむしゃらに。
 欲しがって。
 満たして。
 篠宮さんで。
 いっぱいにして。
「俺も・・・欲しがります、から・・・」
 欲しい、から。
 いっそ、我が侭なくらい。
 篠宮さんの。
 本気の。
 全部。
「・・・・・全く・・・」
 これ以上、俺を本気にしてどうするんだ…と。
 苦笑しつつ落とされたキス、今度はそのまま離れることなく。
 深く、深いもので。
 そして、俺がさっき吐き出したものに濡れた指が、窄まった奥へと
滑り込む。
「ん、っ・・・・・」
 そこ、に。
 そっと圧し宛てられた指先を、ヒクリと震えた部分はまるで。
 早く、と。
 せがむようで。
「・・・・・ああ」
 すぐに、と。
 篠宮さんの唇が、微かな音を伴って動いて。
 馴染ませるように、指が中を探る。
 篠宮さんの、長くてところどころ皮膚が固くなった、指。
 その太さも感触も、とうに覚えている。
「あ、・・・んっ、・・・・・ふ」
 いつしか増やされていた指が、やがて濡れた音を立てて離れていく。
 それを追うように締め付けてしまうのに、篠宮さんが微かに笑った。
「わ、ざとじゃない・・・です・・・っ」
「ああ、・・・・・知っている」
 無意識に、だけど。
 むしろ、そっちの方が恥ずかしいんじゃないだろうか。
 でも。
「欲しがってくれているんだろう、・・・・・だから、嬉しい」
 そう言って、少し照れたように。
 そして、本当に嬉しそうに笑うから。
「・・・・・分かってる、なら・・・」
 それなら。
 もっと。
 早く。
「嬉しくて、図に乗ってしまいそうなのが怖いよ、・・・俺は」
「・・・・・また、そんな・・・」
「だが、・・・・・お許しは貰ったから」
「え、・・・・・っ」
 呟いた顔は、何だか悪戯っ子のよう。
 だけど、それはすぐに。
「っ、あ・・・・・あァ、っ・・・・・ん」
 オトナ、の。
 男の人の。
 貌。
「け、いた・・・・・、っ」
 きっとまだ狭い、俺の中。
 一息には入り切らなくて、軽く揺さぶりながら、ゆっくりと。
 奥へ、少しずつ。
 篠宮さんの、大きな。
「あ、う・・・・・っ、ん・・・」
 俺を穿つ。
 繋がる、篠宮さんの一部。
 深いところで1つになる、それがどうしようもなく幸せで、擦り上げ
られる粘膜を意識してしまえば。
「っ、・・・・・こら」
「あ、・・・ご、ごめんなさ・・・い、っ」
 何かを堪えるように、篠宮さんが顔を顰める。
 多分、不意打ちで力が入ってしまって、だから。
「・・・・・今のも、わざとじゃ・・・」
 ちょっと、きつく。
 …締め付けてしまっていたみたいで。
「分かっている、・・・・・気持ち良過ぎて、どうしようかと思った」
 くすり、と。
 笑いながら、そんな…そんな、ことを。
「し、のみやさ・・・・・っん、あ、あァ・・・・・、っ」
 言った、その一瞬。
 狙い澄ましたように。
「・・・・・っ」
「ふ、・・・・あ、ァ・・・・・」
 グ、と。
 半ばまで収めかけていたものが、一気に奥まで届いて。
 篠宮さんの腰骨が、俺の柔らかい皮膚を押し上げる、その感触にすら
溜息が零れそうになる。
「・・・・・啓、太・・・」
「ん、っん・・・あ、・・・ふ、ァ・・・ん、・・・っ」
「け、いた・・・」
 名前を呼ばれるのが、好き。
 篠宮さんの、熱い吐息混じりに、掠れたその低く響く声で。
 揺さぶられて、ゆらゆらと。意識が半透明になるけれど。
 呼ばれて、酷く安心する。
 篠宮さんに、抱かれているんだ…って。
 嬉しくて、だからよけいに気持ち良くって。
「・・・・・篠宮、さん・・・っし、のみや・・・さ・・・ん」
「ああ、・・・・・もっと」
 呼ばれれば、きっと。
 篠宮さんも、嬉しいんだって。
 だから。
「す、き・・・です、っ・・・・・」
 俺も。
 嬉しい。
 キモチイイ。
 …大好き。
「・・・・・大好き、・・・っ紘司、さん・・・」
「っ、・・・・・」
「ひ、ぁ・・・・・っ」
 こっそりと、胸の中で何度か呼んでは照れてしまっていた、それを。
 俺は、口走ってしまっていた、ようで。
「・・・・・ん、・・・っ・・・・・」
「・・・・・啓太、・・・・・」
 途端、グイッと一番深いところを突かれ、篠宮さんが低く呻く。
 その衝撃に、俺が達してしまったのと、ほぼ同時。
 奥に、熱いものが広がって。
 今。
 篠宮さん、も。
「・・・・・ずるい、ぞ」
「・・・え・・・」
「本当に、・・・・・お前は」
「ふ、ぁ・・・・・、っ」
 イッたんだ、と。
 そのことに何だかホッとして、射精後の脱力感に身を任せていれば、
不意に。
 困ったように、でも薄らと微笑みながら。
 すぐに勢いを取り戻したそれを、ついさっき吐き出したものを奥に塗り
付けるように、強く。
「どうしようもなく・・・・・俺、を・・・」
 狂わせるんだ、と。
 荒い息の元、呟かれた言葉。
 だけどそれは、嫌な感じのする響きは伴っていなかったから。
「篠宮さん、だって・・・」
 俺のこと。
 いつだって。
 こんな、に。
「・・・・・めちゃくちゃ、に・・・して・・・っ」
 そう、して。
 欲しいんだ、って。
 その願いは、いつだって叶えられてる。
 熱い、瞳で。
 吐息で。
 言葉で。
 身体で、俺を。
 そして、あなたを。

「・・・・・狂わせ、たい・・・」

 覚束無い口調で、それでもその声は届いたんだろう。
 一瞬、泣きそうな。
 だれど、とても嬉しそうに微笑って。

「もう、とっくに・・・」

 囁く吐息が、唇に触れて。
 強請る舌を、絡め取られて。

 もっと。
 狂わせたい。
 ココロもカラダも全部。
 ありのままの、あなたを見せて。





リンダちゃん?←え
取り敢えず、ガツガツと!!遠慮なく(何)!!
メロメロでイイよね・・・くそう(メラリ)。