『I miss you




「ほら啓太、これも食えよ」
「え、・・・・・あ、うん」
 昼時の、賑わう食堂。
 久し振りに和希と昼食を共にとることになった啓太は、向かいに
座る和希が啓太の皿へとよこした好物のポテトサラダを、フォーク
で掬おうとして、だがまたすぐにフッと気が抜けたように手を止め、
そしてゆっくりとフォークを皿の端へと置いた。
「・・・・・啓太」
「ごめん、和希・・・」
 食欲が、ない。
 今の今まで、その自覚すらなかった。
 昨日は1人だったけど、食堂に来てちゃんと御飯を食べたつもり
でいたのに。というより、気が付いたら食堂にいて、食べ終わった
皿を返しているところだった。空腹も、満腹感もなかった。
「寂しいのは、分かるけどさ」
 和希が、ポツリと言う。
 寂しい。
 そう、なのかもしれない。
「明日には戻るんだろ」
「・・・・・そう、言ってた」
 5日後には。
 4日後には。
 いってらっしゃい、と精一杯の笑顔で見送った日から、心の中で
指折り数えていた。
 明日には、帰ってくる。
 会える。
「だったら、しっかり食べて元気な顔で出迎えてあげないと。あの
人、ちょっとでも啓太が痩せてたりしたら、それこそ監禁してでも
付きっきりで食事やら諸々の世話をしそうだ」
 それも、良いなぁ…と思ってしまったことに、啓太はこっそりと
赤面する。それでなくても、世話焼きの激しい人であるのだけど、
でも離れている時間の長さに、いつもは窮屈に感じてしまう面倒見
の良過ぎるところも、今は堪らなく恋しかった。
「それに、さ」
 頬杖をついて啓太を見つめる和希の眼差しは、酷く優しい。
 それだけ心配してくれているのだろうと思うと、申し訳ない気持ち
にもなる。
「きっと、寂しいのは・・・啓太だけじゃないさ」
「・・・そう、かな」
 宥めるように告げられた言葉に、啓太は苦笑混じりに応えた。
「そうだよ」
 寂しいと。
 感じているんだろうか。
 会いたいと。
 思ってくれているんだろうか。
「俺だって1日啓太の顔見れないだけで、寂しくてしょうがなかった
んだから」
「・・・・・和希」
 悪戯っぽい表情で告げられて、啓太は沈みがちだった気持ちが少し
浮上したような気がした。途端、軽い空腹を感じる。
「和希、そっちのサラダも食べないんだったら、ちょうだい」
「お ! 良いよ、全部やるよ」
 啓太の言葉に、和希は嬉しそうに自分のサラダをいそいそと啓太の
皿へと移していく。
「いただきまーす」
 山と盛られたポテトサラダを、啓太はさっきとは打って変わって
軽快とも言えるスピードで平らげていく。
 久し振りに、美味しいものを食べてるな…という気がした。
 明日。
 篠宮が、帰ってくる。


 弓道部が他校との交流試合も兼ねての遠征に出掛けたのが、5日前。
 5日間会えないと思うと、やはり寂しくて。
 だから、和希には言わなかったけれども、実は夜もあまり眠れては
いなかった。
「・・・・・篠宮さん」
 もう、5日。
 顔を見ていない。
 触れて。
 触れられて、いない。
 毎晩肌を合わせていたわけではなかったし、朝の軽いキスだけの日が
数日続いたこともあった。その時も、寂しいなという気持ちにはなった
けれど、それとはまた違う。
 空虚。
 心にポッカリと穴が開いたような、ってのはこういう感じなんだ…と
薄やみの中、天井を見上げて思う。
 明日、帰ってくる。
 明日には、会えるのに。
 待ち遠しくて、焦がれて。
 早く、会いたい。
 抱きしめて欲しい。
 キスして欲しい。
 そして。
「っ、・・・・・」
 トクリ、と。
 鼓動が跳ねる。
 もうすぐに、それが与えられるのだと、そう思った途端に、酷く身体
が渇きを覚えた。
 欲しい、と。
 渇望する想いが、激しく脈打つのを感じる。
「や、・・・・・」
 じわりと熱を帯びた下半身に、その疼きに啓太は戸惑い、狼狽えた。
 自分で触れてもいないのに、そこがゆるりと勃ちあがっているのが
分かる。
「ウソ、・・・・・っ篠宮、さん・・・」
 信じられない、と首を振りながら、その名を口にした途端。
 また、トクリと鼓動が高鳴る。
「し、のみやさ・・・っ篠宮さん・・・・・」
 止まらない。
 恥ずかしいのか何なのか分からずに、ただポロポロと涙を零しながら
啓太は篠宮の名を呼び、そして震える手でパジャマ越しに下肢の昂りに
そっと触れた。
「ん、・・・・・っ」
 自ら与えた刺激に、啓太が息を飲む。
 感じる、だけど。
 それだけでは足りないということも、もう分かってしまっていた。
「・・・・・は、・・・」
 手、を。
 躊躇いがちに、それでも。
 もっと、と刺激を求めて震えるものに、今度は布越しにではなく。
 下着の中、滑り込ませた手で。
 やんわりと、包み込んだ。
「あ、・・・あァ・・・・・っ」
 手の中で、熱を持ったものが固さを増す。
 自慰の経験が、皆無というわけではなかったけれど、でもまるで
初めてそれに触れるように、ぎごちない手付きで。
 啓太は、自分の性器にゆるゆると指を這わせた。
「・・・・・あ、・・・」
 ダイレクトに与えられる刺激に、確実に快感は得られていた。
 それでも。
 …違う。
 そう感じて、啓太は手を止め、呆然と目を見開いた。
 違う、のだ。
 いつも与えられる、快感とは。
 いつも、は。
 そう。
 篠宮が。
 篠宮の、大きな手が。
「っ、・・・・・く」
 与えてくれる、その感覚を追おうとするけれども、篠宮の手の感触
を、動きを、温もりを思い出そうとすると、殊更にその違いを身体が
気付いてしまう。
「や、だ・・・篠宮、さん・・・・・」
 どうしよう。
 どうしたら良いんだろう。
 中途半端な熱を抱え、ベッドの中で。
 啓太は途方にくれて、また涙を零す。
「・・・・・助け、て・・・」

 ふと。
 ベッド脇に置いたままのカバンの中から、微かにカタカタと音が
聞こえた。
「・・・・・あ」
 携帯。
 確か、消音のバイブレーションにして、入れたままに。
 慌てて手を伸ばし、カバンを引き摺り上げると、その中を探る。
 焦る指の先に、震える冷たい金属が、触れた。
「・・・・・っ、はい」
 着信の相手を確かめる余裕もなく、通話ボタンを押す。
 携帯を押し当てた耳に、それは。
 声は、ゆっくりと確かめるように流れ込んで来た。

『・・・・・啓太?』

 息が。
 止まりそう。
「・・・・・、っ」
『啓太、・・・・・済まない、寝ていた・・・んだろう』
 申し訳なさそうな声に、啓太は相手に見えるわけでもないのに、
フルフルと首を振る。
「し、のみやさんっ・・・・・篠宮さん」
『・・・・・ああ、啓太の声だ』
 呼べば、嬉しそうに。
 微笑んだ気配が、声から伝わった。
「起きて、ました・・・・・っから、だから・・・」
『そう、か・・・』
 やや、溜息をついたような。
 そして、少しの沈黙の後、篠宮はポツリと告げた。
『寂しかった』
「え、・・・・・」
 寂しかった。
 そう、言った。
『明日、・・・・・ああ、もう今日か。帰れば会えると分かっていた
のに、・・・・・我慢出来なかった』
 堪え性がないな、と苦笑する声を、啓太は泣き笑いの表情で受け
とめていた。
「寂しかった、です」
『・・・啓太』
「俺も、・・・もうすぐ会えるのに、でも寂しくて・・・俺、俺っ」
『・・・・・そうか』
 同じ気持ちだったと。
 伝えれば、何処かホッとしたような吐息が耳をくすぐる。
『早く、会いたい・・・啓太』
「俺も、です・・・・・っ」
 囁くような声が、渇いていた何かを潤していく。
 そして。
『・・・・・抱きしめたい』
「っ、・・・・・」
 その言葉に。
 燻っていた熱が、また。
 恥ずかしい程に、下肢を支配してしまう。
「・・・・・っ、篠宮さん」
『啓太、早く・・・・・お前に触れたい』
 そんな、言葉を。
 聞いてしまったら、もう。
 抑えられないのに。
 何度も躊躇い、宙を彷徨っていた手は。
 やがて、観念したようにゆっくりと。
 既に先端を濡らしている、それに触れた。
「あ、・・・・・」
『・・・・・啓太』
「っ、篠宮さん・・・・・声、もっと・・・っ何か、話して・・・」
『・・・泣いているのか・・・啓太』
 戸惑ったような、その声も。
 酷く。
 感じる。
「篠宮さんの声、・・・・・聞きたい・・・ですっ」
『・・・・・泣いているのなら、今すぐその涙を拭ってやりたいよ』
 優しい、言葉にも。
 こんなにも、感じてしまう。
『もどかしいな・・・本当に』
「・・・篠宮さ、ん・・・・・会いたい、早く・・・・・」
 止まらない。
『ああ、そうだな・・・啓太、早くお前に会いたい・・・抱きしめて、
キスをして・・・・・そのまま、離せなくなりそうだ』
「・・・・・あ」
『抱いて、・・・・・朝まで離さない。それでも、良いか・・・啓太』
「い、・・・・・っ篠宮さん・・・・・」
『・・・・・啓太?』
 名前を呼ぶ声が。
 心地良い。
「あ、・・・・・ずっと、抱いてて・・・下さ、い・・・っ」
『・・・・・ふ、覚悟しておけよ。じゃあ、・・・そろそろ、寝た方が
良い・・・な』
「は、い・・・・・あの、おやすみなさい・・・篠宮さん」
 名残惜しいと感じたけれど。
 でも、篠宮の声に、言葉に。
 満たされた、から。
『ああ、・・・おやすみ、啓太』 
 おそらく、ほぼ同時に通話を切った携帯を、啓太はそっと胸元に抱き
しめた。
「篠宮さん、・・・・・ごめんなさい」
 頬が、上気して赤い。
 やや乱れた吐息で空気を揺らしつつ、暫くそのままベッドに横たわって
いた啓太は、やがてポツリと呟くと、ゆっくりと身体を起こした。
「・・・・・シャワー、浴びなきゃ」
 篠宮が帰ってくるまでに、洗濯も済ませないと…と苦笑しつつ、手に
放った白濁を、しっとりと汗ばんだパジャマで拭う。
 手を添えてはいたけれど、殆ど篠宮の声だけで昇りつめたようなものだ。
 少しの罪悪感。
 だけど、それに勝る幸福感。
「篠宮さん・・・・・大好き、です」
 幸せの余韻に浸りながら、啓太はバスルームへのドアをそっと開けた。

 早く。
 会いたい。






TELえっち未満・ひとりえっちv←微妙な
声でイっちゃうなんて・・・ッvvvvv愛い奴めvvv
とっとと帰って来て、引きこもりで励んで下さい!!
あ、篠宮は抜いてませんよv←言わんでも