『明日晴れたら』




「よし、・・・っと。こんなもんかな」
 ベッドの上、まっさらのシーツを広げて。四隅をきっちり引っ張って
伸ばし、整えていく。
 我ながら上出来、と満足してメイキングを終えたばかりのそこへ、
跳ねるように腰を下ろせば。
「伊藤、ベッドメイクは出来たのか」
 そのタイミングを見計らったように、ノックがして。
 ドアの向こうから、篠宮さんが顔を見せる。
「はい、出来てますよ。ほらっ」
「・・・・・皺が寄っているな」
「・・・・・それは、今俺が座ったからです」
 そうなのか、と苦笑混じりに篠宮さんがシーツの皺を丁寧に伸ばして
いく。ピン、と張り詰めた肌触りの良さそうな、コットンのシーツを
見ていると、またそこにダイブしてしまいたくなるけれど…我慢、我慢。
「上手に整えられるようになったな」
 念入りに皺を伸ばし終えた篠宮さんが、フワリと微笑みながら、手を
俺の頭にそっと乗せる。
「・・・・・」
 いつものように、優しく撫でられて。
 良い子良い子、とは言わないけれど、まさしくそういう感じで。
 もう、とっくに慣れてしまっているコト、だけれど。
 そうされて、嬉しいのも本当の気持ちだけれど。
 それでも、まだ。
 少し、恥ずかしかったりもするし、それに。
「・・・・・また、そうやって・・・」
「伊藤?」
 そうされると、とても気持ち良いんだけれど、だけど。
「俺のこと、子供扱い・・・」
 まるで、お母さんが子供にするみたいだな、って。
 そう思うと、どうにも胸の中がモヤモヤする。
 篠宮さんに、そういうつもりはないのは、俺だって分かっている。
 けれど。
「子供扱い、しているつもりはないぞ」
 そう、なんだ。
 分かっているのに、そんな風に考えてしまう俺が。
 俺自身に、苛ついてしまって。
「してますっ、・・・いつもいつも、篠宮さんは俺を」
「伊藤」
 こんな風に。
 感情をぶつけてしまう行為が、いかにも子供っぽいことも。
 分かっている、から。
 余計に。
「俺、子供じゃありませんっ」
「ああ、そうだな」
 投げ付けた言葉を、篠宮さんはあっさりと肯定で返す。
 その声は、怒っている様子でも、呆れている様子でもなくて。
「子供なんかじゃない、・・・俺はちゃんと、知っている」
 ただ。
 柔らかく包み込むように。
 そして。
「っ、・・・・・」
 俯いてしまっていた俺の顔を上げるように、頬に添えられた手は。
「・・・啓太」
 親指が、ゆっくりと唇をなぞって。
 その感覚に、じわりと沸き起こるむず痒い熱に、そろりと視線を
上げれば。
「知っている、から」
 子供じゃない、こと。
 子供として、なんて。
 扱えやしない、って。
「ふ、・・・・・っ」
 触れる。
 唇から、伝わって来るから。
 ゆるりと重なって、そして熱と深みを増す、それは。
 こんなの、子供にするキスなんかじゃない。
「篠宮、さ・・・っん」
 震える指先が、篠宮さんのシャツに縋る。
 呼吸が乱れているのは、それはキスの余韻だけじゃない。
 キスで煽られてしまった、俺の。
「啓太、・・・・・っ」
 欲しい。
 篠宮さんが、欲しいから。
 だから。
 縋り付いた、そのままに身体を強く押し付ける。
 分かり、ますか?
「篠宮さんの、せい・・・です、っ・・・・・」
 もう、こんなに。
 熱い。
 訴えるように見上げれば、俺を真直ぐに見つめ返す瞳。
 ああ、ここにも。
 同じものが、在る。
「・・・お互い様、ということにしてくれないか」
 少し、照れたように微笑う。
 この顔も、大好き。
 さっきより、ずっと熱を帯びた手の平が、俺の頬を包み込む。
「好き、です・・・っ大好き、篠宮さん・・・・・」
「ああ、俺もだ・・・・・好きだ、啓太」
 目を閉じたのは、きっと同じタイミング。
 互いの熱を確かめるように、もっと煽っていくように、何度も角度
を変えて、沢山のキス。
 そのまま。
 壊れものを扱うように、そっと静かにベッドに横たえられる。
 真新しい、シーツ。
 まだここには俺の匂いも、そして篠宮さんの匂いもないけれど。
 これから。
 そう、これから。
「しのみやさ、ん・・・っ」
 はだけられたシャツの隙間から忍び込んだ手が、肌に触れる。
 大きくて、男らしい、篠宮さんの手。
 弓を扱う指は、ところどころ硬くなっていて。
 以前、篠宮さんはそのことを気にしていたけれど。
 その指に触れられると、とても気持ちが良いんです…って。
 告げたら。
 きっとまた、照れてしまったりするんだろうな。
「・・・・・どうした」
「え、・・・あ・・・何でも、ない・・・です、っ・・・」
 つい、笑ってしまっていたんだろうか。
 欲を敷いて、やや濡れた瞳が怪訝そうに問い掛けてくる。
「くすぐったかった、か・・・?」
 苦笑混じりの問いに、俺はゆるゆると首を振ってみせる。
「いいえ、・・・・・気持ち良い、です・・・」
「っ、・・・・・そう、か・・・」
 ああ、やっぱり。
 目元がフワリと朱に染まっている。
 この顔も、とても好き。
 大好き。
「もっと、ずっと・・・気持ち良くしてやりたいと、思う・・・から」
 もっと、ずっと。
 気持ち良くして。
 篠宮さん、の。
 篠宮さん、で。
 そして。
「篠宮さん、も・・・」
「・・・・・ああ」
 一緒に。
 気持ち良くなりましょう、って。
 伝えたくて、自分からキスを仕掛ける。
「そうだな、一緒に・・・・・」
 伝えられたのが、嬉しくて。
「し、のみや、さ・・・ん」
 触れてくる、手が。唇が。
 心地よくて、嬉しくて、愛おしくて。
 下肢から聞こえる、濡れた音も。
 恥ずかしくて恥ずかしくて堪らないはずなのに、でも篠宮さんの手の
中で、こんなに歓んで。
 もう。
「も、う・・・っ、・・・・・」
 塞き止めるものなんてないから、一気に。
 溢れ出してしまう。
「・・・・・啓太」
 篠宮さんの手を濡らした雫が、長い指に絡められて奥へと塗り込め
られる。入り口の襞に指先が触れるだけで、そこからジン…と痺れる
ような感覚が這い上がってくる。
 ゆっくりと。
 撫でるように、優しく入り口を探っていた指が、少しずつその内へと
侵食を始める。
 痛いのは、ほんの少しの間だけ。
 それよりも強烈な快感を、俺はもう知ってしまっているから。
 身体が、覚えてしまっているから。
「あ、・・・・・っあ、ァ・・・」
 侵される、というより。
 俺の方が、きっともっとと強請って。
 内壁が、篠宮さんの指を咀嚼するように、ヒクヒクと蠢いているのが
自分でも分かってしまう。
「は、やく・・・・・」
 欲しくて。
 浅ましい言葉を、口にしてしまっても。
「・・・・・啓太」
 困ったように、でもどこかホッとしたように頷いて。
 ちゃんと。
 くれる。
「ひ、ァ、・・・っ・・・ん、っあああ、ァ・・・・・っ」
 篠宮さん、の。
 篠宮さんが、俺を欲しがってくれている。
 その、証し。
 熱くて、大きくて、俺の中いっぱいに入り込んでくる。
 その確かなものか、嬉しくてしょうがなくて。
「篠宮、さんっ・・・篠宮さん、っ・・・あ、っ・・・んっ」
 腕を、脚を絡めて。
 俺の、全部で。
 篠宮さんを、全部を抱きしめたくて。
「けい、た・・・っ、・・・・・」
 抱きしめられたくて。
 肌を。
 唇を。
 吐息を、重ねる。
 ひとつに、混ざりあうくらいに。
 決して、ひとつにはなり得ないけれど。
 だからこそ、こうして。
 ピッタリと、寄り添うように。
 繋ぎ、合わせて。
「一緒、に・・・、っ・・・・・」

 溶けて。
 しまいそうなくらいに。





「・・・・・済みません」
「いや、・・・俺が・・・・・その・・・・・」
 熱情のままに、求めあって。
 その余韻を纏った身体を横たえた、ベッド。
 …シーツ、は。

「雨続きで、替えがなくなったから、今日・・・新しいの買ってきた
ところだった・・・のに、・・・・・」
「・・・・・済まない」
「いえ、俺が・・・あの、・・・・・」
 また。
 …汚してしまった。
「ま、また・・・買いに行きましょう、ねっ・・・」
「あ、ああ・・・・・」
 こんなにシーツばっかり買って、どうなんだろう…俺たち。
 でも、それでも。
 きっと明日は、晴れるから。
 また一緒に、洗濯したら良い。
 恥ずかしい、けれど。
 同じくらい。
 嬉しくて。
 …幸せ、だから。
 
 …ね。






篠宮紘司くん、御誕生日おめでとうです!!
・・・・・プレゼントは、シーツが良いような気がして
きました!!や、もうどんどん汚してイイから!!