『ever since』


 時間が。
 ない。

「し、のみや・・・さん、っ・・・・・」
 触れて。
 もう少し、だけ。
 もっと。
 ずっと。
 これ以上ないってくらい、奥のもっと深いところまで。
 埋め込んで。
 欲しい。
「あ、っ・・・ん、ん・・・っあ、ああああ・・・・・、っ」
「・・・・・く、っ・・・・・」
 熱いものが、俺の中で弾ける。
 お腹の中が暖かいもので満たされる、不思議な感覚。
 胸の中まで、いっぱいになる。
 篠宮さんで。
「・・・・・大丈夫、か」
「は、・・・い」
 ほぼ同時に俺も達した後、互いに息を乱しながら。しばらくの間
ぼんやりと篠宮さんのふわりと上気した顔を眺めていれば、気遣う
言葉と共に篠宮さんの大きな手が、撫で上げるように額に貼り付いて
いた前髪を梳いていく。優しい仕草とその心地よさに、うっとりと
目を細めながら、背に回した手にまた力を込める。
 離したく。
 離れたく、ない。
「・・・・・啓太」
 やや困ったように微笑みながら、俺を気遣う所作でゆっくりと腰を
退こうとするのに。
「や、・・・・・」
「こ、ら・・・っ」
 腕で。
 そして、腰を挟み込んでいた脚を絡めるようにして、その動きを
阻む。
 縋る。
 ように。
 そんな俺に、篠宮さんはやっぱり苦笑混じりに。
「啓太」
 名を。
 呼んでくれる。
「綺麗に・・・しないと」
「こ、のまま・・・っ」
 優しい。
 愛おしい人に。
 ぎゅっと、しがみついて。
「このままで・・・」
「・・・・・しかし」
 それは、俺の我が侭に過ぎない。
 さっきから、ずっと。
 こうして、繋がったままでいることを強請っている。
 繋がったままで。
 いたい。
 もっと。
 ずっと。
 離れずに、いたい。
 だって。
「お願い、です・・・から・・・・・」
 ここで。
 こうして。
 こんな風に。
 触れて。
 触れ合って。
 いられる、のは。
「・・・・・啓太・・・」
 もう、あと。
 何日?
「・・・・・篠宮さん」
「・・・ん?」
「・・・・・篠宮、さん・・・」
「・・・どうした?」
「・・・・・紘司、さん・・・っ」
 考えたくないのに。
 数えたくなんてないのに。
 気が付けば、近付くその日に怯えている自分がいる。
 大好きなこの人が。
 俺の傍から、いなくなってしまう日を。
 その時まで、あと何日。
 あと、どれだけ。
 こうしていられるんだろう。
「・・・・・不安、か」
「っ、・・・・・」
 そうだ。
 不安で不安で仕方がない。
 この人の想いを疑うわけではないけれど。
 ただ。
 その距離と時間に、酷く怯えて。
「・・・・・ごめん、なさい・・・っ」
「何を謝ることがあるんだ」
「だって・・・俺、我が侭・・・言って・・・」
「・・・・・ああ」
 ふ、と。
 微笑った貌は、やっぱり少し困ったような。
 だけど、どこか。
「・・・・・それでも、俺は・・・嬉しいんだ」
「え、・・・・・」
「その我が侭は、俺にだけ・・・だろう?」
 嬉しい。
 なんて。
「困った奴だなと。そう思いながらも、それが俺だけに向けられて
いて、それを聞いてやれるのが俺だけだと・・・そう思うと」
 嬉しいと思ってしまう。
 困った奴なのは、俺の方だな。
 なんて。
「・・・・・もうすぐ・・・」
「・・・・・ん?」
「もうすぐ・・・卒業、だから・・・・・」
「・・・・・ああ」
 そうか、と。
 全部言わなくても、それは伝わったようで。
「この、・・・ひとときが」
 1分1秒が。
 惜しくて。
 そして。
「愛おしい、な」
 慈しむような声で。
 ふわりと、笑みをたたえながら。
「今も、・・・・・これからも」
「これから・・・・・も?」
 そう、それは。
 卒業というのは、1つの区切りであって。
 確かに、篠宮紘司という1人の生徒はこの学園から巣立っていく
のだけれど。
 それは。
 終わりではない。
「大切にしていこう・・・今も、これからも。俺たちの育む時を」
 笑って。
 少し、照れたように目元をうっすら朱に染める。
 ああ、なんて。
「・・・・・紘司、さん」
 愛おしい、んだろう。
 様々な想いが溢れそうで、それは全てこの人に向かって。
「ん、・・・・・」
 名を紡いだ唇が、ゆっくりと篠宮さんのそれに塞がれる。
 優しいキス。
 暖かいそれが、少しずつその温度を上げて。
 そっと唇を開けば、躊躇うことなく忍び込んで来た熱い舌にホッ
とする。
 繋がったままの下肢も、飲み込んだままの篠宮さんのその部分も
熱を帯びてくるのが嬉しくて。
 思わず口元を綻ばせれば、同じように微笑った吐息が濡れた唇を
くすぐる。

 時間は。
 ある。
 きっと朝まで抱き合えるのだろうことを予感しながら。
 これからも。
 離れている間だって。
 いつだって、互いを感じあえるのだということを。
 言葉にしなくても、もう。
 分かっている、から。





ちと時期を外してしまいましたが、またしても卒業(間近)ネタ!!
啓太の世話焼きが出来ない分、篠宮の方がヘコみそうな!?