『証明/確認』



 きっと。
 誰にだって、どう見たって「そうなのだ」と分かること、
なのに。
 そのはず、なのに。
 どうして、この人は。
 こんなことを、言うのだろう。

「君が、好きです」
「っ、・・・・・ん」

 こんな風に。

「愛しています、・・・伊藤くん」
「七条、さん・・・・・っ」

 囁いて。
 耳元、その吐息の熱っぽさに震えが走る。
 触れてくる指先が、微かに震えているように思えるのは。
 気のせい、なんだろうか。
 それとも。

「何度でも、言います・・・僕は、君を」
 愛しているんです、と。
 繰り返し、繰り返し。
 その度に、固く強張ってしまう俺の身体を宥めるように、解き
ほぐすように。
 撫でてくる手は、優しく。
 そして、大胆に。
 いつしかはだけられた胸元、その素肌の上を。
 スルリと撫で上げて。
 それだけでも、初めての感覚にどうしていいのかも分からず、
途方に暮れてしまうのに。
 その手が、意識的にだったのかは分からないけれど、胸の突起
を掠めた途端。
「あ、・・・・・っ」
 自分が上げてしまった、声。
 そこに含まれた、奇妙な甘さに。
 その響きに、俺は戸惑いと。
 怯えを、そう。
 知られてはいけない、のに。
 こんな。
 こんな、俺の。

「違い、・・・ますっ」
「何がですか」
「こんな、の・・・・・は、・・・嘘・・・・・っ」
 そうだ。
 そんなはずが、ないんだ。
 だって。
 この人は。
「だって、・・・・・西園寺、さん・・・が」
「・・・・・郁が、どうしました」
「七条さん、は・・・西園寺さんが、好き・・・で」
 知っている。
 誰でも。
 俺も。
 知っている、から。
「だから、・・・・・こんなのは、違う・・・っ」
 愛してる、って。
 俺を。
 そんなの。
 違う、んだから。
 だから。

「・・・・・僕が、郁に好意を抱いているというのは否定は
しません」
「っ、・・・・・」
 分かっていて。
 その言葉に、どうしたって。
 チクリと、痛む胸。
「だけど、・・・その好意の類いが、君に対するものとは
あからさまに違うのだということを、君は・・・気付いて
いないのでしょうね」
 違う、ということ。
 知っている、そんなこと。
 だから。
「だから、・・・・・こうするしか、ないんです」
「ひ、ャ・・・・・んっ」
 不意に。
 胸の突起を、舐めあげられて。
 濡れた舌が這う、その感覚にゾクリと。
 それ、は。
 痺れるような、これは。
「何度、僕が愛を囁いても、・・・・・君は、それを違うのだ
と、言う。嘘だと、・・・否定して、しまう」
「あ、ァ・・・・・やめ、っ・・・・・あ」
 止めて欲しい、のだと。
 なのに、与えられる刺激に。
 唾液に濡れる突起を、甘噛みされ。そして、吸い上げられて。
 洩れる声を、抑え切れない。
「否定、しないで下さい・・・」
 ああ、どうして。
 そんな、切ない声で。
「僕の想いを、・・・・・どうか」
「あ、・・・・・っだ、だって・・・・・」
 そんな、こと。
 そんな。
「言葉にすれば信じられないと言うのなら、・・・・・だから、
僕は僕自身でそれを証明するしか、ないのでしょう」
 七条さん。
 自身、で。
 何、を。
「・・・・・分かり、ますか」
 手を、取られる。
 押し退けるためか、無意識に縋ってしまおうとしてか。
 七条さんの制服の袖を握りしめていた手を、そっと取られて。
 ゆっくりと、それは。
 七条さんの。
「な、・・・・・っ」
「分かり、ませんか・・・?」
 下肢。
 布越しにも、はっきりと。
 その存在を、熱を。
 昂りを知らしめている、ものへと。
 手の平を、押し付けるように。
「こんなにも、あからさまに・・・僕は」
「あ、・・・あァ、・・・・・っ」
 その、脈打つ鼓動さえ。
「君が、・・・・・欲しいのに」
 そう、なのだと。
 主張、して。
「こんなのは、・・・・・君にだけ、です」
 そして、ベッドに押し付けた俺を見下ろす目は。
 いつものように微笑んでいた、けれども。
 どうして。
 そんなに。
 哀しそう、なんだろう。
「こんな、あからさまな欲を・・・・・僕を、こんな風にして
しまうのは、君だけなんです」
「・・・・・しちじょ、う・・・さん・・・」
 組み伏せた俺を、尚も。
 見つめる瞳は、優しく。
 哀しく。
 狂おしく。
「怖がらせてしまうことは、分かっているんです」
 ああ、確かにどうしようもなく震えてしまう身体は、この
状況に、戸惑いと。
 怯えとを、感じてしまっているのだろう。
 だけど。
 悟られては、いないだろうか。
 隠し切れて、いるだろうか。
 俺の内に、密やかに存在する。
 この。
「分かっていて、それでも・・・・・知って貰わなくては、
そうでなければと。君だけなんですよ、・・・ここまで僕を
追い詰めるのは」
 俺は。
 俺、は。
「他の、誰でもない」
 それは。
「伊藤くん、・・・・・君を、愛しています」
 もう。
「君しか、・・・・・いないんです」
 隠せない、ものだと。
 それは、きっと。
「・・・・・七条、さん」
 きっと、俺だって。
 そう、なんだ。
「・・・・・好き、です」
 溢れる。
 言葉。
 感情。
 零れる。
 涙。
「好きで、好きで、好きで・・・・・っでも、・・・絶対に
知られたくなかった・・・っ」
 知られては。
 いけないと、思っていた。
「七条さんが想う人は、・・・・・西園寺さんの、はずだった
・・・から」
「・・・・・想いの種類が、違います」
「でも、ずっと・・・・・好き、だった・・・っ」
「伊藤、くん」
 頬を伝う涙を拭うのは、七条さんの唇で。
 優しくて、それは。
 また、涙が零れてしまうのに。
「もう一度、・・・・・言って下さい」
「え、・・・・・」
「君の、・・・・・気持ちを」
 もう。
 隠さずに。
「・・・・・好き、です・・・」
 言っても。
「七条さんが、・・・・・好き、なんです」
 良い、のなら。
 何度だって。
 言葉に出来る、のに。
 言葉では、もう。
 足りないくらいに。
「・・・・・伊藤くん」
 ペロリ、と。
 濡れた頬を、七条さんの舌が舐めあげて。
 極、至近距離。
 見つめる瞳は、その微笑みは。
「嬉しい、です」
 見たこともない。
 こんな。
 鮮やかな。
 彩。
 こんな、綺麗な。
「好きです、伊藤くん・・・・・愛して、います」
 笑顔。
 七条さんの。
 俺に向けた。
 俺、だけに。
「俺も、・・・七条さんが好きです。あ、・・・・・愛、
して・・・います」
 向けられた、もの。
 そう、なんだと。
 思っても、良いんだって。
 ちゃんと、分かったから。
 だから、俺も隠さずに。
 七条さんに。
 見せるんだ、全部。
 まだ、少し。
 いや、すごく恥ずかしいけれども。
 それでも。
「ふふ、じゃあ・・・・・」
 もう遠慮はしませんから、なんて。
 遠慮なんて、していたんだろうかって。
 そう、思う間もなく。
 下りて来た唇を、そっと。
 受け止めて。
 受け入れて、俺も。
 いつしかシーツの上、投げ出してしまっていた手を、
持ち上げて。
 七条さんの背に回す。
 ああ、そうだ。
 ずっと、こうしたいって思ってた。
 触れられて、嬉しいって。
 思ってた、ずっと。
「っ大好・・・・き、・・・あっ、・・・・・」
 声に。
 ならない。
 もう。
 言葉に。
「確かめましょう、ね」
 お互いに。
 こんなに。
 求めていることを、ほら。
 触って。
 感じて。
 分かる、から。
 きっと。
「ん、っ・・・・・あ、ふっ・・・・・」
 重ねて。
 手も。
 身体も。
 肌も。
 気持ちも、みんな。
 繋がって、いくんだって。

「好きです、・・・・・愛していますよ、伊藤くん」
「七条、さん」

 頷いて。
 微笑えば、同じように。
 返される笑顔は、こんなにも。
 俺の心を、震わせる。

 好き。
 大好き。

 素直に、受け入れられる。
 素直に、告げることが出来る。

「七条さん、が・・・・・欲しい、です・・・・・っ」

 快楽に震える唇で、どうにか紡いだ言葉に。
 七条さんは、君のその言葉が欲しかったんです、と。
 少し掠れた声で囁いて、そして。

 俺の脚を。
 開いた。





・・・・・こんなところで終わるなよ(自分で書いといて)。
臣ルート、なかなか啓太に懸想しているところは感じさせて
くれなかったのですが、でも「下心ありで」と奴が白状した
途端に、ああアレもコレもそうだったのか!!と、地団駄踏んだ
ものですよ、ええ(何)!!
・・・取り敢えず、押し倒してみました(取り敢えずかよ)v
何だかんだと、両想いなのですよ、こんちくしょうめv