『Happy together』




 七条さんが、俺の部屋のドアをノックしたのは、ちょうど
きっかり午前零時。それまで、アナログな時計の短針と長針
が重なるのを、瞬きすら忘れて見つめてしまっていた俺は、
そのノックの音を待ち詫びていながらも、やはりコンコンと
ドアを叩く音、そしてそのすぐ後に「伊藤くん?」と尋ねる
ように呼ぶ声を、それを聞いてしまえば。
 鼓動は、一気に跳ね上がって。
 一度、大きく深呼吸。
 そして、ドアへと向かうのが、どうしても駆け足になって
しまうのに苦笑しながら、努めてゆっくり。
 ドアを、開けば。
「こんばんは、伊藤くん」
 七条さんの、柔らかな笑顔。
「こ、こんばんは・・・、っ」
 俺も、自然浮かんでくる笑みでもって、まだ治まり切らない
鼓動を誤魔化そうとすれば。
 不意に、伸ばされた腕。
 しっかりと、その広い胸に押し付けるように抱き締められて
しまって。
 耳元。
 ホッと、溜息のような空気を揺らす、七条さんの吐息。
「同じ、ですね」
「え、・・・・・」
「香り、僕と・・・同じだなぁ、って思ったら、何だか嬉しく
なってしまって」
「あ、・・・・・」
 その、香りは。
 七条さんが使っているボディソープの。
 同じものを、以前プレゼントされたのを、でも何だか勿体
ない気がして、使えずにしまい込んでしまっていた。
 だけど、今日は。
 今日なら、良いかな…って。
 七条さんが来る前に、ちょっとドキドキしながら手に取った
それは、やはりとっくに馴染んでしまった七条さんの香りが
して。
 バスルームいっぱいの、その香りに。
 それだけで、のぼせそうになったりして。
「し、七条さんも・・・おんなじ香りがします」
 胸元、顔を埋めれば。
 漂う香りは、自分から仄かに匂うそれと同じ。
 全身、包まれて。
「ここに来る前に、念入りに磨き込んできましたから」
 ふふ、と。
 微笑う吐息に、ドキッとする。
 俺だって、いつも以上に長風呂になってしまった、ことに。
 気付かれてしまいそうで。
「あ、あの・・・取り敢えず、中に・・・」
 まだ、ドアも開かれたまま入り口のところで。
 こんな風に、抱き合ってたりして。
 夜も遅いから、出歩いてる人もいないかもしれないけれど、
だけどどうにも落ち着かない。
「ふふ、・・・そうですね」
 促せば、にっこりと笑って。
 そろりとドアを閉めようとする俺の傍らをすり抜けようとした
七条さんの、手が。
 後ろから、腰を引き寄せる、から。
「っ、な・・・・・」
「待ち切れなくて」
 済みません、と。
 耳の後ろ、押し当てられた唇のくすぐったさに、思わず息を
飲めば。
「そういうつもり、で訪れたのは確かなんですけれど・・・でも
こんな性急に求めるつもりは、なかった・・・はずなんです」
 言い訳みたいですけどね、と。
 また、微かに笑う。
 吐息が、熱い。
「僕と同じ香りのする君を目の前にしたら・・・堪らなくなって
しまいました・・・こんなに」
 こんな、に。
 熱を帯び始めた、身体。
 押し付けられる、その布越しにもはっきりと感じられる昂った
ものに、俺の中の熱だって、すぐに煽られて。
「君が、欲しくて・・・堪らない」
 こんなに。
「っ、俺も・・・です」
 熱くて。
 なのに、もっと熱いものが欲しくて、どうしようもなく。
「・・・七条さんっ、俺も・・・・・」
 言い終わらない内に、貪るように口付けられて。
 そのまま、倒れ込むようにベッドへと互いの身体を投げ出す。
 こんな風に抱き合うのは、確かにいつものことなのに。
 でも、何だか今日は。
 何かが、違うような気がするのは。
「七条、さん・・・っ」
 何度も、何度も。
 繰り返されるキスの合間、上がった息のままに。
 そう、これは。
 顔を見たら、すぐに告げようと思っていた言葉。
「お誕生日、おめでとうございます・・・」
「・・・・・伊藤、くん」
 有難うございます、と。
 額を擦り合わせるような、至近距離。
 目を細めて、嬉しそうに。
「幸せです、とても・・・生まれてきて良かったと、そう心から
思える日になりそうです」
 俺、だって。
 今日、七条さんがこの世に生まれてきた、日。
 生まれてきてくれた、この日が。
 俺にとっても、特別の日。
 有難う、ございます。
「17才の、七条さん・・・ですね」
「ええ、なりたてのホヤホヤですよ、どうですか・・・伊藤くん」
 すぐに。
 味わってみますか、なんて。
 赤面するようなセリフだって、何だか酷く甘ったるく。
「・・・頂きます」
 つられるように、呟けば。
 くすり、と微笑った表情に、少しだけ悪戯っ子のような貌が。
「全部、君のモノです・・・・・沢山召し上がれ」
 浮かんで。
 熱い吐息と共に囁かれた言葉に、またどんどん。
 火照る、全部。

 明日。
 朝、起きられるかどうか分からないけれど、とにかく目が覚めて。
 きっと隣にいる、七条さんに。
 あげたいものは、沢山あるけれど、でも。

 Happy Birthday , to you.
 So happy day …for me …

 七条さんが、一番欲しいものを。
 あげたい、から。
 ずっと、ずっと。

 一緒に。





ナニはともあれ、おめでとう・・・臣!!
啓太をくれてやりますですよ、コンチクョウv
持ってけドロボウ!!←ちょっと悔しい・笑