『make me,make you …』



 相変わらず、王様は猫が苦手だ。
 この間、ちょっとした思いつきで、トノサマに協力(?)
して貰ったりして、何とか克服させてあげようと試みた
んだけれど、結果は…。
 というか、やっぱり狡いやり方はダメだと思う。
 ちゃんと。
 いつか、王様が自分から猫嫌いを直したいって、そう
考えるようになったら。
 その時は、俺はどんなコトだって手伝ってあげようと
思っている。

 大好きな、人のために。
 してあげられる、こと。



「何だ、随分と着込んでんだな」
「・・・王様が、薄着過ぎるんです・・・」
 良く晴れた日曜の午後。
 ちょっとした日用品の買い出しに行こうと思って寮を
出たところで、王様とバッタリ出会った。何処に行くの
かと尋ねられて、買い出しに出掛けることを伝えれば、
荷物持ちになってやるよ、と。いつの間にか、ふたり
連れ立ってバスに乗っていて。
 そのまま一緒に商店街近くのバス停で降りて、川岸の
公園沿いに少し歩けば、真冬の冷たい風が結構強くて。
 マフラーを巻き付けた首を竦めるようにして、プルリ
と震えれば、すぐ隣を歩く王様が俺の格好をマジマジと
見つめて苦笑するのに。
 道行く人の完全防寒な姿に比べ、この人は。
 …革ジャンは羽織ってるけど、前は全開だし。
 ……中に着ているセーターは、すごく薄そうだし。
 寒く、ないんだろうか。
「歩いている内に暑いくらいになってくるって」
 そう言って笑う顔は、まるでお日様のよう。
 真夏の、熱い太陽。
 だから。
 この人の傍に居ると、眩しくて。
 熱くて。
 それが、嬉しい。

「で、何を買うんだ?」
「あ、メモして来てるんです。えっと、・・・・・」

 日用雑貨の店で、一通り買い揃えて。
 元々1人で来るつもりだったし、そうたいして大きな
荷物にはならなかったけれど、でも全部王様が俺の手から
奪うようにして持ってくれて。
「行くぜ」
「あ、っ・・・は、はいっ」
 大股で歩き出す背を、追い掛けて。
 追い付いて。
 並んで歩けば、王様の歩調が自然とゆっくりになる。
 もしかして、俺に合わせてくれているのかな。
 そんな、ちょっとしたことも。
 すごく、嬉しい。

 すぐに買い物が終わってしまって、このまま真直ぐに
学園島に帰るのかな…と、ちょっと残念に思っていたら、
王様はさっき通り掛かった川岸の公園へとフラリと足を
向けた。
「ちょっと散歩して行くか」
「はいっ」
 寒いからか、人影はまばらな小道を、ふたり並んで。
 たわいないことを喋って、笑いながら歩けば。
 ホコホコと、身体中が暖まってくるのが分かる。
 風の冷たさにも、もう震えることはなくて。
 王様のお陰です、とその貌を振り仰いだ視線の、先。
「あ、・・・・・」
「ん?どうした、啓・・・・・っ」
 それ、を。
 俺の目線を追って視界に入れた途端、王様の表情が
あからさまに強張る。
 そう、王様の苦手な。
 猫、が川面に張り出した、大木の枝の上に。
 だけど。
「おい、啓太・・・お前なァ・・・・・」
「王様、でもあの猫・・・何か様子が・・・」
「大方、跳ねた魚でも狙ってんだろうよ」
「そうかもしれないですけど、・・・・・あ、っ」
 王様の言ったように、その猫は時折水面を跳ねる小魚を
狙っていた、のかもしれない。
 だけど、でもそれこそ川にでも飛び込んでいかない限り
捕まえるのは無理だろう、って思っていたら。
「う、そ・・・・・っ」
「な、・・・・・」
 俺達の目の前で、その猫は。
 ヒラリと宙に舞って、そのまま。
 冷たい水の中へ、大きな飛沫を上げて落ちてしまった。
「・・・・・やるなァ、アイツ・・・」
「か、感心している場合じゃありませんよっ ! 猫って確か
水が苦手で泳げないんじゃ・・・」
「そうなのか?」
「っ、あああ・・・・・流されてる・・・っ」
 そう速い流れではなかったけれど、猫はフギャーと凄い
鳴き声を上げてもがきながら、どんどん下流へと流されて
行く。
 このまま、じゃ。
「あ、おいっ・・・・・啓太 ! 」
 溺れてしまう、と。
 咄嗟に駆け出し、水の中に飛び込もうと。
 した、のに。
「これ、持ってろ ! 」
「王様、っ・・・・・!?」
 グイ、と強い力で腕を引き戻されて。
 押し付けるように預けられた荷物を慌てて抱え直し、訳が
分からずに呆然とする俺の、目の前で。
 革ジャンを脱ぎ捨て、川に飛び込んだ王様が。
 やがて、濡れそぼった猫を抱え上げて、こちらを振り向く
姿が。
 スローモーションのように、映って見えた。


 丁度買い出しの品物の中にあったタオルで猫をガシガシと
拭いてやって。幸い、殆ど水も飲んでいなかったようで、
すぐに何事もなかったように、元気よく鳴いて走り去って
行くのを、ぼんやりと見送って。
 ふと振り返れば。
「・・・っ、お・・・王様も、ずぶ濡れじゃないですかっ」
「ん、ああ・・・まあ、寮に着くまでには乾くだろ」
「それじゃ、風邪ひいちやいますっ」
 慌てて、別のタオルを引っ張り出して。
 頭からすっぽりと被せるようにして、拭くけれども。
 こんなのじゃ、全然。
 こんなに、全身冷たくなってしまってる、のに。
「・・・・・どうして・・・王様、は・・・猫・・・・・」
 苦手なのに。
 どうして。
「・・・啓太、お前・・・飛び込むつもりだっただろう」
「そう、です・・・っだって、溺れそうだったし・・・」
「だから、だ」
「え、・・・・・」
 タオルの影から覗く、顔。
 少し、目元が赤く染まって見えるのは。
 寒い、から?
 それとも。
「だから、・・・・・俺が」
「王、・・・様」
「・・・・・猫を、助けたかったとか、そういうんじゃ
ねぇんだよ、・・・そんな理由じゃ、ねぇんだ」
 それ、は。
「俺、の・・・・・」
「あんな冷たい水の中に入ったりしたら、お前・・・即効
風邪ひいて熱出して寝込んじまうだろうが」
「そん、な・・・・・」
 俺の、ため。
 だから。
 だからって。
「王様だって、・・・・・こんな、冷たく・・・っ」
「ははっ、お前とは鍛え方が違うって。このくらいで風邪
なんざひかねぇから・・・・・っおい、離れろって啓太。
お前まで濡れちまうだろうが」
 ギュッ、と。
 まだ濡れた服にしがみつく俺を、王様は慌てたように
引き剥がそうとするけれども。
 それでも、掴んだ服だけは離さずに、俺は。
「ここじゃ、・・・・・ちょっと無理です、けど・・・」
「啓、・・・・・」
「寮に帰ったら、・・・・・俺が」

 王様を。
 暖めてあげます、から。

「・・・啓、太」
 そんな、顔から火が出る程恥ずかしい言葉が。
 すんなりと、口に出来るなんて。
 俺、どうかしちゃったのかもしれない、けれど。
 だけど、今。
 本当に、心の底から。
 この人を、俺自身で暖めてあげたいって。
 思う、から。


 お互い、それっきり妙な気恥ずかしさに黙ったまま、
怪訝そうなバスの運転手の視線を受け流しつつ、学園島
に辿り着いて。
 そのまま、真直ぐに向かった、王様の部屋。
 本当なら、すぐに熱いシャワーを浴びて暖まるのが、
一番良いんだろうって。
 きっと、お互い分かっているんだろうけれど。
「・・・・・冷たい」
 何かに急かされるように、衣服を脱ぎ捨てて。
 ベッドに倒れ込むようにして、素肌を合わせれば。
 すっかり冷えきった逞しい胸が、何だか切なくて。
「お前は、・・・・・あったかいな」
 やや照れたように、そっと頬を押し包む手も。
 まだ、冷たくて。
 でも。
 すぐに。
「暖めて、・・・・・あげます」
 ベッドに横たわった王様の広い胸の上に、覆いかぶさる
ようにして。その冷えきった肌に、そろりと手を這わせ、
口付けを落とす。
 手の平から。
 唇から。
 触れ合う、全てから。
 俺の温もりを、この熱を。
 伝えたくて。
 分けてあげたくて。
 そして、この冷たい皮膚の下に潜む、あの熱を。
 沸き起こしたくて。
「・・・・・啓太」
 黙って、俺の思うようにさせてくれていた王様の手が、
そっと俺の髪を梳く。応えるように一旦顔を上げ、微笑み
かけて。
 そして、そっと手の中に包み込んだ、まだ中途半端な
熱を抱えたものを、ゆっくりと。
 唇で、その形を辿りながら、舌を這わせる。
 こんな、こと。
 自分からするのは初めての、この行為も。
 恥ずかしさは、確かにあるけれども。
 躊躇いは、殆どなかった。
「啓太、お前・・・・・っ」
 戸惑いと、驚きと。
 そして、確かな快楽の兆しに上ずった、その声に俺は
煽られるように。次第に固く、熱く漲ってくる王様の欲の
証に舌を絡め、先端を口腔に含んでは、溢れる先走りを
舌先で拭って。
 口でする、正しいやり方なんて分からない。
 けれど、王様の荒い吐息と。
 そして、確実に熱を帯びてくる日に焼けた逞しい身体が。
 俺の身体にも、同じように快楽の火を灯す。
「もう、いい・・・・・から」
 極限に近いくらいに張り詰めたものを、このまま自分の
口の中で弾けさせても良いと思っていたのに。その愛撫を、
やんわりと押しとどめられて。
「でも、まだ・・・・・」
 名残惜し気に、顔を上げれば。
 欲を敷いた瞳が、何処か困ったように微笑んで。
「・・・・・お前の、中で・・・暖めてくれるか」
「・・・っ、・・・・・」
 俺の。
 中、で。
「・・・・・はい、分かりました・・・」
 ゆっくりと身体を起こし、王様の腰の上に跨がって。
 すごく、恥ずかしい姿勢。
 だけど。
 やはり、躊躇いはなくて。
 俺の舌で、存分に濡らしていた王様自身を、そっと。
 手を添え、下から宛てがって。
「あ、・・・・・っああああ・・・っ」
 ズ、と。
 先端が潜り込んで、張り出した部分がゆっくりとそこを
押し広げていく感覚に、やはりまだ慣れたとは言い切れない
痛みがピリリと走るけれども。
「んっ、・・・は・・・・・あ、ァ・・・っ」
 そこを通り過ぎてしまえば、あとは。
 重力に任せ、そのまま奥まで。
 根元まで、しっかりと飲み込んでしまって。
「あ、・・・・・熱い、です・・・すごく・・・王様、の」
 粘膜から伝わる、激しい熱の脈動に。
 震える溜息を、そろりと漏らせば。
「ああ、・・・啓太の中も・・・・・熱くて、・・・マジで
溶かされちまいそう、だ・・・」
 そして、大きな手が。
 熱い手が、しっかりと俺の腰を掴んで。
 ゆっくりと、下から突き上げられ、揺さぶられれば。
「あ、っ・・・王様、・・・ふ、・・・・・ああァ、っ」
 擦れ合い、溶け合うような。
 熱、が。
「・・・っ啓、太」
「ひ、ゃ・・・っ、ああァ、・・・・・っ」
 弾けて。
 トロリと。
 混ざり、合う。
「ふ、・・・・・んっ」
「おっ、・・・と」
 性急に昇り詰めて、強張った四肢がゆっくりと弛緩すれば。
 そのまま崩れ落ちそうになる身体を、上体を起こした王様
の腕が捕らえ、そのまましっかりと胸に抱き込んでくれて。
 …ああ。
 ……もう、冷たくなんかないよ。
「暖かい、です・・・・・」
 むしろ。
 熱い、くらいの。
 腕も、胸も、そして未だ繋がりあった部分。
 肩口に押し当てられる、唇も。
「お前が、暖めてくれたから・・・な」
「・・・はい」
 大好きな、温もり。
 熱。
 与えて。
 与えられる。

「いつだって、・・・・・俺は王様に、暖かくして貰ってる、
から・・・」
「そう、だっけか」
「そうですよ、王様が知らないだけ、です・・・」

 いつだって。
 この人の傍にいるだけで、俺は暖かいと感じる、から。
 だから、この人にも。
 俺の温もりを感じて貰えれば、嬉しいって。

 そう、思う。





王様×啓太でーす(爽笑)vまたしても、猫絡み(ヲイ)♪
「エロSSなら何でも」という高瀬なす嬢の御誕生日の
御祝ブツとして、頑張ったのですケド。
・・・・・微エロで済まぬ(項垂れ)。
王様としては、猫が溺れようがどうでもイイコト(酷)
だった模様ですが、啓太が凍えるのはイカンと!!
男らしく・・・・・・・男らしい・・・?←微妙
ナニはともあれ、なすさん御誕生日おめでとうなのよv