Real




「俺の欲しいものは、分かっているな」

 そう囁いて。
 冷たい指先が、頬を撫でる。

 分かっていたら。
 こんな風に、胸が苦しくなったりすることも、ないんだろうか。



「・・・っ、く・・・ぅ・・・・・ん、っ」
 息苦しい。
 喉が詰まる。
 口一杯に頬張ったものを、唇で。舌で。そして、指も使って、
俺は。
 もう既に、含み切れないくらいに大きく張り詰めた、その肉塊
を。更に、大きく育てるために。
 どうして。
 命令された訳でも、ないのに。
 どうして俺は、こんなことをしているんだろう。
 自問自答を繰り返す。
 答えは、いつも。
「・・・・・余計なことを考えるな」
「っ、・・・・・」
 落とされる、冷ややかな声。
 全てお見通しだ、とでも言うように。
 いつも。
「お前が考えることは、・・・・・ひとつだ」
 そう。
 この人、の。
 中嶋さんのこと、だけ。
 考えて。
 なのに。
 分からない。
 こんなに、触れて感じているのに。
 分からずに、ただ。
 それでもこうして、その長い脚の間に跪いて。
 以前教えられたように、ファスナーを咥えて下ろして。
そして、取り出した未だ中途半端な熱を抱える欲に。
 口付けて。
 舐めたり、しゃぶったり。唇で挟み込むようにして、口腔から
出し入れしては、また。先端の窪みから溢れる先走りを吸い上げ
たり。
 その間、中嶋さんは何もしない。ただ、俺の施す行為をその銀の
フレーム越し、冷たい瞳で見下ろすだけ。
 それなのに。
 触れられてもいないのに、俺の下肢は既に反応を示していて。口
に含んだ中嶋さんの、その張り出した部分が上顎の粘膜と擦れる度
に、ヒクリと。頭を擡げ始めたものだけでなく、双丘の奥の恥ずか
しいところまでもが。
 せがんでいるように、浅ましく震えて。

 中嶋さんに教えられるまで、こんな行為の経験なんてなかったし、
一生懸命に奉仕しても「相変わらず下手くそだな」と呆れられること
ばかりで。それでも、こうして愛撫を続ければ少しずつ形を変え、
大きく膨らんで。固く熱く、俺の口を犯す確かな存在が。
 それが、嬉しいだなんて。
 それを、悦びだと感じてしまう自分は。

「・・・・・啓太」
「・・・・・、っ」
 名を呼ばれる。
 その低い声色の中に、僅かにでも含まれた欲情の震えを感じ取って
しまって、思わず。
 息を飲めば。
 引き攣るように収縮した喉の奥が、咥え込んだ先端部分を引き込む
ように強く締め付けて。
 途端。
 口腔で、それはピクリと跳ねて。
 熱い飛沫が、ねっとりと口の中を苦く染める。
 未だ慣れそうにもない独特の味に、嘔吐感に襲われつつも俺は、
教えられた通りに。
 言われるまでもなく、その濃い体液をコクリと飲み下す。
 どうしても喉に絡まるそれを、何度か咳き込みながらも、ようやく
全て嚥下してしまって。
 確認するように、そろりと。
 視線だけで、中嶋さんの貌を伺えば。
「・・・・・それで終わりか」
「え、・・・・・あっ」
 淡々とした声に、ハッとしたように。
 やや勢いを落としてはいるものの、まだ十分に質量を保ってそそり
立つ、その先端。僅かに残された白濁を認めて、それに引き寄せられ
るように。窪みを舌先で突つき、軽く咥え、吸い上げるようにして。
今度こそ、残滓をも残さず飲み込んで。
「・・・まだまだ合格点は、やれんな」
「っ、・・・はい・・・・・もっと、頑張り、ます・・・」
 どうすれば。
 この人は、どうしたら満足してくれるんだろう。
 どうしたら、この人を。
 充たすことが出来るんだろう。

 欲しいものは。
 何なんだろう。

「中嶋、さん・・・」
「自分で考えろ、・・・・・分かるまで、な」
 どんなに。
 中嶋さんのことを考えても。
 見つからない。
 それは、何処に。
 あるんだろう。



 促されるまでもなく、自分から下着ごとズボンを脱ぎ捨てる。
 下着を引き降ろした時に、僅かに引いた先走りの糸を見られたのか、
中嶋さんの口元が微かに笑みの形に歪んで。フェラ…しただけで、こんな
にも感じてしまう、いやらしい奴だって。そう言われているようで、羞恥
に全身が火照ってしまうけれど。
 身に付けているものは、それ一枚だけになったシャツのボタンを全部
外し、前をはだけて。ずっと座ったまま動かない中嶋さんの、その膝の上。
跨がるようにして。
 キスは、まだ。
 軽く腕組みされていた中嶋さんの腕を、解いて。俺がするのに任せて力を
抜いたままの、その右手を手首を両手で支えるようにして持ち上げ、自分の
目の前に翳す。その向こう、中嶋さんはやはり何も言わずに。
 ただ、見ているだけ。
 見ているだけ、なのに。
 酷く。
 身体が、熱い。
「・・・・・ん」
 中嶋さんが見ている、そのことを強く意識しながら、俺は。
 持ち上げた右手、その長い指を。
 まずは中指だけを、そっと口に含んだ。
 チュ、と吸い付くように。
 そして、唾液を塗り付けるようにして、しゃぶれば。さすがにこれが形を
変える事はないけれども、それでも俺は夢中で舌を絡めて。そして更に、
また1本。人さし指を、中指に添えるようにして、一緒に。
 丹念に、濡らす。
 この指で。
 俺は。
「ふ、・・・・・」
 しとどに濡らした指を、そろりと下ろしていきながら、やや前屈みに上体
を中嶋さんの方に傾けつつ、腰を浮かせた体勢で。
 2本揃えたままの、濡らした指を。
 ゆっくりと、双丘の狭間へと導く。
「ん、っ・・・」
 その窄まりに触れさせた途端、腰が退けそうになるけれども。
 だけど、それ以上に。
 きっと、期待してしまっている。
「あ、・・・・・っ」
 何度か馴染ませるように入り口の周囲を滑らせていた指を、ゆっくりと。
 見えなくても分かる、そのヒクヒクと物欲しげに震える、後孔へと。
 突き込んで。
「あァ、・・・・・ん、っ・・・」
 瞬間、どうしても慣れぬ痛みと。
 そして、同時に。
 粘膜を刺激される、その何とも言えない感覚に。
 俺が上げた声は、苦痛のそれではなく。
 情けないくらいに甘い、悦楽の声。
「ふ、・・・っ、ん・・・・・あ、・・・っ」
 ゆるゆると、抜き差しを繰り返しつつ、時折少し回すようにして。だけど
それは、このまますぐに快楽を得るためにではなく。
 こうして、しっかりと馴らしておく、のは。
 指なんかより、もっと凄いものを。
 俺は、ここに。
「んん、・・・・・っ」
 こんな体勢では、指だけでは届かない、場所。
 そこに刺激が欲しくて、欲しがって。
 揺れてしまう腰を、抑え切れなくなるから。
 ある程度寛げたところから、名残惜しげに纏わり付く粘膜を振り切るよう
に、引き抜いて。
「中嶋、さん・・・」
 確認するように呼んだ、声は。
 切なげに震えて。
 呼び掛けに、眼鏡の奥の瞳がスッと細められた。
 それを合図とするように。
 中嶋さんの下肢で、もう既に天を仰いでいた太いものを。
 手を添え、導きながら。
 その上に、ゆっくりと。
 腰を落とす。
 先端が、馴らしていたとはいえ、やはりまだ狭い入り口を押し寛げて、
グッと。
 入ってくる、リアルな感覚。
「あ、・・・・・あァ・・・っ、・・・ん」
 詰めていた息を、何とか吐き出しながら、そろりと。
 少しずつ体重を掛けつつ、何とか張り出した一番太い部分を内に収めて
しまえば、あとは重力に抗わなければ自然に。
 飲み込まれていく。
 中嶋さん、の。
「く、・・・んあ、・・・ァ・・・・・っ」
「・・・・・入ったな」
 全部。
 根元、まで。
 圧倒的なその存在に、熱に。脈打つ生々しさに、未だその全てを快楽と
して受け入れることは出来ないけれど。
 それでも。
「な、かじま・・・さ・・・っん」
 繋がっている。
 そのことが。
 悦びとして、俺の中を充たす。
 中嶋さんの肩に、やや遠慮がちに手を置いて。
 それを支えに自ら腰を揺らめかせる、それは。
 自身の快感を追う、それよりも。
 中嶋さんに。
 気持ち良くなって貰いたい、から。
 そう思って、腰を動かしてはみるものの、伺い見た中嶋さんの表情は、
哀しくなるくらいに冷静沈着なもので。俺を深々と貫く肉は確かに大きく
育って、内壁を犯しているのに。
 もっと。
 感じて欲しいのに。
「もっ、と・・・」
 欲しいのに。
「もっと、・・・俺を・・・・・っ」
 半ば悲鳴のように。
 叫んで、そのまま。
 ぶつけるように、唇を合わせて。
 舌を差し入れ、中嶋さんのそれと絡めては、夢中で吸う。
 もっと。
 この人が、欲しい。
 そして、きっと。
 欲しい、って。
 この人にも、俺は。
「・・・下手くそにも程があるな」
 息が上がる程に口付けて、銀糸を名残惜しげに引きつつ唇を離せば。
互いの唾液に濡れた、薄い唇から微かな溜息混じりの声が洩れる。
「全く、・・・・・見てはいられない」
「ん、・・・・・っ」
 キスの余韻で、薄らと赤く染まった酷薄そうな唇の端が。
 やや吊り上がったと思った、瞬間。
「ふ、っ・・・・・んん、・・・・・っ」
 噛み付くように、唇を奪われて。
 口腔を深く犯され、敏感な上顎を舐め上げられて。
 今日、初めて中嶋さんから与えられた愛撫、そのことだけでも十分に
俺は感じてしまって。それでも、もっととせがむように背に腕を回して
縋り付けば。
「あ、・・・っや・・・ァあ、・・・あっ・・・・・ん」
 何の前触れもなしに、尻を鷲掴みにされ、そのまま。
 グ、と突き上げられて。
 衝撃に、俺はフルフルと首を打ち振りながらも、紛れもなく歓喜の
声を上げて、身を震わせた。
「ひ、ゃ・・・・・っん」
 不意に。
 腰を掴んだまま、中嶋さんが椅子から立ち上がり掛けて。
 驚いてバランスを崩しかけた俺の背は、すぐ後ろにあった机の上へと
押し付けられるような形で。シャツ越し、少しヒヤリとしたその感覚も
中嶋さんがのしかかるように身を進めてきた熱に、掻き消されるように。
「や、・・・っ、そ・・・・・こ、ぉ・・・っ」
 反り返った先端が、激しい抜き差しを繰り返す度に、内壁の敏感な
その部分を抉るように突く。触っていなくても、もう既にギリギリまで
張り詰めた俺の下腹部のそれが、強烈な射精感にヒクリと震え、そして。
 そのまま達してしまいそうななる、寸前。
 太股を掴んでいた中嶋さんの手が、スルリと。
 先走りにトロトロになった、ものを。
 根元を戒めるように、キュッと包み込んで。
「い、やァ・・・・・っ中嶋、さ・・・・・んっ」
 直接触れられた刺激と、そして行き場を失った熱とが体内を逆流して
くるようで。気を失いそうなくらいの快楽の淵で、どうすることも出来
ずに。霞む視界の中、どうして…と。尋ねるように、中嶋さんの瞳を
覗き込めば。
「・・・・・なんだ、その目は」
「っ、・・・・・」
「俺をイかせたくて、啓太は頑張っているんだろう」
「そ、うです・・・」
 熱い吐息が。
 頬に掛かる。
「ならば、もっと・・・俺を悦ばせてみせろ」
「あ、・・・ああァ・・・・・っ」
 射精を留められたまま、激しく腰を打ち付けられて。
 苦しくて、それでも。
 荒い、息。
 微かに上気した、目元。
 俺の内で。
 感じてくれて、いる。
 こんなに。
 大きく、して。
「・・・・・イけ」
「ひゃ、う・・・っあああァ・・・・・っ」
 耳朶に囁く低音。
 根元をきつく戒めていた指が、滑る先端に向かって擦りあげるように
動かされた、刹那。中嶋さんの手の中、俺は一気に昇りつめて。自分の
腹から胸元までを、生暖かい白濁で汚す。
 そして、それから数瞬遅れて。
 中嶋さんの雄が、俺の内を熱く濡らすのを感じた。
「・・・・・ふ、・・・ァ・・・・・っや、あああァっ」
 射精後の気だるさに、意識がゆっくりと沈みそうになる。
 けれども。
 俺の内の中嶋さんは、達しても未だ尚その固さと熱を漲らせていて。
十分に強度を保ったまま、濡らされたばかりで更に滑りと感度を増した
粘膜を、ゆるゆると擦りあげる。
 その刺激に、落ちかけていて意識は一気に覚醒して。
「あ、ああ、っ・・・ん、あァ・・・・・っ」
 高く抱え上げられた両脚は、いつしか中嶋さんの肩に乗せられ。身体を
折り曲げるようにして、深く。
 奥迄、捩じ込むように。
 入ってくる。
「や、っ・・・ああ、・・・も、っ中嶋、さ・・・・・」
「・・・・・嫌、なのか?」
「っ、違・・・・・あああ、んっ・・・イイ、・・・・・っ」
「・・・・・そうか」
 フ、と。吐息だけで笑って。唇が熱で乾いたのか、ペコリと舌で潤す
仕草にも。
 ゾクリと。
「お前だけ、愉しんでも・・・な」
「っ、・・・な、かじまさん、・・・は・・・・・」
 感じていない?
 気持ち良く、ならない?
「・・・・・どうだと思う?」
「ひ、ぅ・・・っ・・・・・あ、ァ・・・」
 喉の奥で、忍び笑いながら。
 強く突き込まれれば、息が詰まる程に。
 気持ち、良くて。
 思考が、まとまらない。
「わ、かり・・・ません・・・っでも、でも・・・・・っ」
 感じて欲しい。
 気持ち良くなって欲しい。
 俺の、中で。
 いくらでも。
 好きなだけ。
「して、下さい・・・っもっと、沢山・・・・・中嶋さんの、好きな
ように、・・・だから、このまま・・・・・」
 だから、いっそ。
 壊れるくらいに。
 強く。
「・・・・・壊されても、いい・・・」
 抱き締めて欲しくて。
「・・・やはり、お前は分かっていない・・・・・」
 溜息混じりの、声に。
 呆れられてしまったのかと思ったのに。
 涙でぼやけた視界の中、見下ろす貌は。
 どうして。
 微笑っているんだろう。
「壊すのは、・・・簡単だ」
「あァ、・・・っふ、・・・・・あああ、っ」
 掠れた低い声。
 響く。
 耳に。
 身体に。
「だが、・・・・・壊さない」
「ん、っ・・・あああァ・・・・・っ」
 そして、また。深いところを貫いたものが、勢い良く跳ねながら、
内を濡らしていく。体内に広がる熱が、どうしようもなく嬉しい。
 中嶋さんが、俺に。
 与えてくれるもの、なら。
「く、・・・・・んっ・・・」
 注ぎ込まれた余韻が、まだ燻っている。
 ズルリと抜き出される感覚に、名残惜しさすら覚えて。
「・・・・・啓太」
 呼ばれて、落ちかけた瞼を上げれば。
 不意に、反転する視界。
「な、・・・・・っ」
 身体を裏返され、机に腹這いになるように。
 腰だけを、突き出すような姿勢で。
「終わりだとは、言っていないだろう」
「っ、ん・・・あああァ・・・・・っ」
 2回、中で出されてトロトロに解かされたそこに、また。
 押し当てられる熱塊に。
 飲み込む内壁が、それを待ち望んで震えるのが分かる。
 こんなに。
 俺は、欲しがっているんだって。

 でも。
 分からないんだ。
 中嶋さんは。
 中嶋さんが、欲しいものは。



「ん、・・・・・っああ・・・・・ん」
 濡れた音が。
 止まない。
 もう何度、貫かれただろう。
 何度、中に出されただろう。
 片手の指では、もう到底足りないくらいに。
 受け入れて。
 中嶋さんのもので。
 いっぱいに。
 充たされて。
「・・・・・啓太」
 呼ぶ声も、もう。
 遠くにいるみたいで、何だか。
 少し寂しくて、でも。
 のしかかる、熱い身体。
 汗も、吐息も。
 ちゃんと、判るから。
 それだけは。
「俺は、・・・・・言わない」
 何、だろう。
 何を、言っているんだろう。
「お前に告げることは、ないかもしれない」
 もう。
 言葉の意味すら、考えられなくて。
「だが、・・・・・分からなくても、お前は知っている、んだろう」
 沈む、意識。
「俺が、・・・・・欲しいものは」

 それは。
 何。

 教えてくれなくても。
 分からなくても、ねぇ。
 俺は、ずっと。
 中嶋さんの側に、いるから。

 ずっと。


「啓太」

 唇に、触れた暖かいもの。
 キス、してくれたんだ。
 そう思うと、とても嬉しくて。
 そのまま俺は、ゆっくりと意識を手放していた。

 抱き締めてくれている、腕の力強さに。
 酷く、安心して。

「・・・・・好き・・・」

 囁いたのは。






・・・・・言えよ、中嶋(あ)。
っつーか、やっぱり苛めっ子です。天然に。
・・・可愛がってるのか・・・(彼なりに)。
絶●vを目指していたのに、ナニやら微妙な
カンジ(苦笑)。
啓太は、無意識に「知っている」のに、
それを「分かっていない」のです。
・・・・・もどかしい・・・ッvvv