『夢じゃ、なく』



 たった、数日。
 会わずにいた、だけなのに。

 夜明けには、まだ早い時刻。
 寝入る直前にエアコンのタイマーが切れた部屋の空気は
静かに、そして冷たく。
 ベッドの中は暖かかったけれども、急激に覚醒した瞬間
感じた、快と不快との落差に。夢と現実との、その狭間で。
 余韻、に。
 啓太は、ブルリと身を震わせた。
 熱い。
 下肢が。

 年末年始、当たり前のように啓太は寮を離れて、この自宅
へと帰省していた。何かを置き忘れて来たような、微かな
不安にも寂しさにも似た感傷は、久し振りに会う家族との
暖かい団欒の中、薄れて。
 忘れてしまったように、思えていた。
 なのに。
 風呂の後も、深夜まで娯楽番組を見ながら談笑し、やがて
妹の欠伸を合図とするように、それぞれ居間を出て。啓太も
自分の部屋へと戻り、すぐにベッドへと身を潜り込ませて。
 前もって空調で暖めていた部屋は、すぐさま眠りの淵へと
啓太を誘う。
 枕に顔を埋め、睡魔に逆らうことなく目を閉じて。
 そして。
 夢を、見た。

「ーーーーーーーー、っ」
 まさか、と思った。
 乱れる息に、まだ暗い部屋の空気を白く染めつつ、啓太は
小刻みに身を震わせながら、ゆっくりと辺りを見回した。
 ここ、は。
 確かに、自分の部屋だ。
 家族と暮らす、家だ。
 なのに、あの。
 生々しい。
「あ、・・・・・」
 夢現のまま快楽の燻る身体と、そして下肢を濡らす感触に、
啓太は信じられない思いで天井を仰いだ。
 夢に、見た。
 夢に、存た。
「な、かじま・・・さん・・・・・」
 夢の中で、いつものように。
 その視線で。
 笑みで。
 言葉で。
 そして。
「・・・・・っ」
 つい今し方まで、本当にその腕に抱かれていたような。
 そして、追い上げられていた、ような。
 夢なのだと、分かっている。
 なのに、その体温や息遣いさえ感じていたような、リアル
な感覚。
 追い上げられ、追い詰められて。
 墜ちた、証が。
 恥ずかしい程に、下着を濡らしていた。

「ど、して・・・・・」
 そして、それから。
 毎晩のように、夢を見た。
 吐息を乱し、触れてもいないのに昇り詰め。
 情けない思いで、家族に隠れて下着を洗った。

 明日。
 三が日が明けるのを待たずに、啓太は寮に戻る意を家族に
伝えた。当然、皆訝し気に。そして、名残惜し気に引き止め
ようとしてくれたが、あれこれと適当に理由を付けて、半ば
逃げるようにして家を後にした。
 何から逃げるのか。
 むしろ、自分を縛り付ける、ものに。
 囚われに行くようなもの、なのに。


 年末年始にも帰省せずに寮に残る学生も何人かはいるのだと、
寮長を務める篠宮から聞いていた。だが、何日か振りに戻った
学園島には、殆ど人の気配は感じられず。バス停から寮までの
道を、啓太はぼんやりと歩いていた。
 寮に戻ったからといって、どうだという訳ではなく。
 それに。
 あの人が居るとは限らないのに、と溜息を零しながら。
 それでも、どうしても。
 無意識の内に、歩調が早くなってしまうのは。
 …期待、している?
 まさか、そんな。
「そんな、ことは・・・・・」
 ポツリと、呟いて。
 俯き加減に歩いていた、その視線を。
 ゆるりと、上げれば。
「どうした、啓太」
「・・・・・っ」
 そこに。
 いるはずの、ない。
「随分と、・・・物欲しそうな顔をして歩いているじゃないか」
「な、・・・中嶋、さん・・・・・」
 どうして、と問いかけて、それは言葉にならず。
 奇妙な気不味さを感じて、視線を逸らしてしまえば。
「何故こっちを見ない。何か・・・後ろめたいことでもあるのか」
「そんな、っ・・・・・」
 ない、と。
 言い切れるのだろうか。
 その動揺を見透かしたように、中嶋はゆっくりと2人の間の距離
を縮めると、怯えたように立ち竦む啓太を、悠然と見下ろした。
「啓太は俺を、忘れなかっただろう」
 フ、と。
 吐息で笑って。
「俺を思い出して・・・熱くなった身体を持て余して・・・だから
戻って来たんだろう」
「俺、は・・・っ」
「それとも、もう・・・独りで抜いたのか、散々」
「あ、・・・・・っ」
 不意に、密着させられる身体。
 腰を抱き寄せた手が、ゆっくりと衣服越し、双丘を撫で上げる。
 触れられた、そこから。
 沸き上がる熱を、否定することは出来なくて。
「どうやって慰めた・・・言ってみろ、啓太。扱きながら、何を
考えていた。イく時、どんないやらしいことを、口走った」
「や、ァ・・・・・っ、そんな、こと・・・っして、な・・・」
 双丘を撫で回していた手が、するりと腰を辿って下腹部に回さ
れる。コートを捲り、デニムパンツの上から、既に熱を帯びた
そこに触れられて、啓太はコクリと喉を鳴らし、それでも中嶋の
言葉を否定するように、ゆるゆると首を振った。
「嘘つきなのは変わらんな。ここを、俺に触れられる前から固く
させていたんだろう」
「っ、く・・・・・」
 布越しに触れる、もどかしさに。
 それでも確実に煽られる、快楽に。
 震えてしまう膝は、立っていられないくらいで。
「ふ、ァ・・・・・」
 ガクリ、と。
 膝を付きかけた、刹那。
 軽い舌打ちと共に伸ばされた腕が、崩れ落ちる身体を引き上げ、
その肩に。
「な、・・・降ろして下さい・・・っ中嶋さん ! 」
「じっくりと聞かせて貰おうか、・・・お前の部屋でな」
「・・・・・っ」
 軽々と担ぎ上げられて、そのまま。
 足早に通り過ぎた寮の玄関にも廊下にも、人影がなかったのは
幸いだったと言うべきか。
 やがて辿り着いた部屋の前、当たり前のように中嶋の手にある
のは、啓太の部屋のキーで。いつの間にかスペアを作られていた
ことに、抗議すらも出来なかったことを思い出す。
「な、かじまさ・・・・・んっ」
 部屋に入り、鍵を閉めて。ドサリ、と投げ出すようにベッドに
降ろされ、そのすぐ傍ら。ベッド脇に腕組みをして立つ、その姿
にさえ。どうしようもなく、身体が。
 震える、のは。
 怯えから、ではなくて。
「さあ、ここでなら啓太も全て話せるだろう。どんな恥ずかしい
ことでも、この口はベッドの中でなら、いつも素直に俺の要求に
応えてくれるからな」
 譲歩してやったんだ、と言わんばかりの態度にも。
 溢れるのは、憤りでもなく。
「・・・・・な、にも・・・俺は、して・・・ません・・・っ」
「・・・・・啓太」
「本当、です・・・っ俺、自分でなんて、そんなこと・・・」
「俺が見ていないと、自慰も出来ないのか」
「そうじゃ、な・・・・・違い、ま・・・ああァ、っ」
 不意に。
 伸びてきた手が、ベッドの上に投げ出されたままの啓太の脚の
間、デニムパンツを押し上げていた昂りを、強く握り込んで。
 突然与えられた衝撃に、啓太が上げた悲鳴は、苦痛と。
 そして。
 確かに滲む、快楽の色と。
「や、・・・・・あァ、・・・・・っ」
「素直に従え、快楽に・・・・・この、俺に」
「・・・っ、ゆ・・・・・夢を、見た・・・だけです・・・っあ」
「夢、だと」
 握り込んだ手の力が、少しだけ緩められたことに微かな安堵の
溜息をもらしたのも束の間、ゆるりとその形を浮き上がらせるよう
に包み込まれ、扱き上げる動きに。
 熱が、一点に集中するけれども。
 極めてしまうには、まだ足りない。
 もどかしさに、涙すら浮かんで。
「中嶋さん、の・・・夢を・・・」
 もっと強い刺激を求めて、自然と中嶋の手に擦り付けるように
腰が揺れてしまうのを、止める術など知らず。自分の浅ましい姿を
思い、それでも逃れることも出来ず。
 逃げるのでは、なく。
 求めてしまうのだと、もう。
 分かってしまっている、から。
「どんな夢だか、言えるな」
「っ、・・・はい・・・・・夢、の中で・・・中嶋さんは、俺に
・・・・・いつも、みたい・・・に」
「それだけでは分からんな。いつものように、・・・どうしたのか
ちゃんと俺にも分かるように説明してみろ」
 そう、だ。
 そうしないと、この人は赦してはくれない。
 恥ずかしい言葉も、全部。
 曝け出してしまわないと。
「俺の、・・・っシャツをはだけさせて、・・・・・ここ・・・を」
「ここ、とは何処だ」
「っ・・・胸、を・・・・・ち・・・乳首、を・・・手で・・・っ
指、で・・・摘んで押しつぶして・・・舐めて、・・・っあ・・・」
 啓太の股間を弄っていた手が、不意に胸元に伸び。
 器用にコートを剥ぎ取り、中に着ていたセーターをたくし上げ、
露になった肌に、這わされる。
 そして、啓太の告白通りに。
 長い指が、既に固く色付いた胸の突起を摘まみ上げる。
 その刺激に、啓太は四肢を強張らせ、シーツに深い皺を刻む。
「こう、か」
「あァ・・・・・っ、・・・そう・・・です」
 敏感になった胸の飾りに微かに笑いを含んだ吐息が触れ、そして
熱い舌がそこを転がすように舐め上げれば。痺れるような快感が駆け
昇り、中嶋の問い掛けに啓太はコクコクと何度も頷いた。
「それで?」
「そ、・・・れから・・・・・ここ、を・・・」
 布越しにもはっきりと見て取れる、その昂りを。触れる寸前で、
啓太は手を留めて。熱く濡れた目で震える唇で、訴えるように。
「直接、・・・触って・・・・・っ口で・・・」
「随分と都合の良い夢を見たものだな」
「・・・・・っ」
 確かに。
 夢の中での中嶋は、自分がして欲しいと思う通りに、啓太の身体に
触れ、そして快楽を与えてくれた。
 望んだ、とおりに。
「・・・まあいい」
 軽く唇の端を吊り上げる、笑みで。
 やがて、啓太の話す夢のままに。
 中嶋の手が下肢に這い、一気にジッパーを引き降ろして。そのまま
下着の中に潜り込ませ、いっそ乱暴な程の勢いで啓太の勃ち上がった
欲を扱きあげる。
「や、・・・っあァ、・・・・・そんな、に・・・っ」
「もっと優しくしてくれたとでも言いたげだな」
「違・・・っ、同じ・・・・・だか、ら・・・ァ、・・・」
 強い刺激に跳ね上がる啓太の下肢から、中嶋は器用に下着ごと全て
下げ降ろし、脱がせてしまって。
 露になった脚の間で中嶋の手の中で濡れた音を立てて煽られている
そこに、やおら。
 中嶋の唇が。
 舌が触れ、先端を咥えられた。
 途端。
「ひ、ゃ・・・っあああァ・・・・・っ」
 それだけで。
 張り詰めていたものが弾け、震えながら吐き出された生暖かい白濁
が、ゆっくりと中嶋の唇を伝い、零れ落ちていくのを。
 啓太は、絶頂に身を震わせながら。
 呆然と、見つめて。
「・・・・・あ、・・・」
 ペロリ、と。
 中嶋の舌が、啓太の欲の名残りを舐め取る。
 視線は強く真直ぐに、啓太を見据えたままに。
 その所作、さえ。
「・・・・・夢、と・・・同じ・・・でした・・・」
「こんなに早くイったのか」
「・・・・・そう、です」
 夢の中。
 中嶋に触れられて、ただそれだけで。
「それで、・・・目が覚めて・・・・・っ」
「俺にイかされる夢を見て、啓太は下着を濡らしたんだな」
「・・・・・っ、はい・・・」
「そういう、いやらしい子には・・・・・どういった罰が与えられる
のか、分かっているな」
「は、・・・い」
 コクリと力なく頷く啓太に、中嶋は酷薄とも言える笑みを敷いて。
「怯えて、震えているのに・・・お前の目は、期待に潤んでいるぞ。
どんなお仕置きをされるのか、考えただけで興奮するんだろう・・・
ここ、も・・・イったばかりだというのに、もうこんなに固くして」
 半ば勃ち上がりかけた根元から、ゆるりと撫で上げられて。
 もどかしい刺激に、自然と腰が揺れてしまうのを。
 恥ずかしいだとか、そんなことはもう。
 どうでも良くて。
「・・・・・いけない、子だ」
 低く、耳元に。
 落とされた言葉に、溜息が溢れる。
「中嶋、さん・・・」
 会いたくて。
 声を聞きたくて。
 触れられたくて。
 それが、どんなに。
 不埒な想い、でも。
「だが、見た夢の中身を隠さずに俺に話せたんだから・・・その
褒美を、やってもいい」
「中嶋さん、が・・・くれるものなら・・・・・」
 何でも。
 どんなこと、でも。
「そうだ、俺が与えるものを・・・全て受け入れろ」
 下りてくる、唇。
 触れ合わせるのも、もどかしく。
 自ら口を開いて、深く。
 舌を招き入れ、絡めて。
「こちらの口にも、な」
 微かな金属音と、そして。
 先程放った体液に滑る後孔に押し当てられる、熱塊。
 入り口がヒクヒクと蠢いて、誘うのを。
 もう、恥ずかしいだなんて感じる余裕も、なく。
 縋るように、中嶋の腰に脚を絡めて。
「・・・・・いい子だ」
 囁かれ、そして。
「あ、・・・っああァ・・・・・っ」
 押し込まれる。
 圧倒的な質量と、熱をもった楔を。
 打ち込まれ。
 それだけでも、意識を手放してしまいそうになるのに。
 だけど。
「夢、じゃ・・・・・ない」
「そうだ」
「中嶋さん、が・・・いる」
 体奥に。
 脈打つ、もの。
 泣きたくなるほどに、リアルな感覚。
「・・・・・嬉し、い・・・」
 深々と貫き、揺さぶられ。
 何度も遠ざかりそうになる意識を、どうにか繋ぎ止めて。
 全部。
 受け止めたくて。

 夢、じゃなく。
 ちゃんと。
 感じたくて。

 離したくなくて、背に縋った手に。
 力を、込めた。





・・・・・本番が短い(ボソ)。
や、実際は延々ガシガシと、5,6発は(絶倫←伏せない)!!
すっかり中嶋にハマって(っつーかハメられてますがな)
しまった、伊藤啓太くん♪離れられないんです、ええ。
・・・・・頑張れ(ポンと肩たたき)v