『溺愛』




 別段甘やかしているつもりなど毛頭ないというのに、そんなに甘やかしてくれるなと彼は時折困ったように笑う。
 けれど、したいと思う事の半分程も出来ているかどうかという俺は、言われるまま今以上に差し出す手を堪えなければいけなくなるなら、絶対どこかへ余波が行くのだ。
 触れたい、干渉したいと思う欲求が積もり積もって。




 深夜の食堂に人気があるはずもなく、ましてやそれが調理場というのなら尚更。
 何を思ったのか突然に料理を教えて欲しいと言い出した伊藤と、寄り添うように並んでいるキッチン。
「あまり最初から上手にやろうと思わなくていい、伊藤。ゆっくり…ああ、ほら危ないぞ」
「っと、へへ、大丈夫でした」
「こら、余所見をするな、危ないだろう」
「あ、はいっ」
 包丁など滅多に握った事すらないという言葉通り、その手つきは危なっかしくてしょうがない。今すぐにでも包丁を引っ手繰ってここから出てしまいたいが、そう思うのが恐らく過保護やら甘いやらと言われる要因なのだろう、と流石に自覚して仕方なく見守る。
 まな板の上で細かくなって行く玉葱。
 目指すはハンバーグ、なのだそうで。
「うー…涙が…」
「よく冷やしておいて、素早く調理すると涙を出させる物質は発生しにくいんだが」
「素早く…うう…無理ですね…」
「まあ、堪えるしかないな」
 涙の滲む目が気になるのか、玉葱を抑えていた手で目を擦ろうとするものだからそれは慌てて止めにかかる。
「すみません」
「気にするな。ほら、あともう少しだ」
 照れたように笑う伊藤に、意識せずともつられて笑顔になる。
 こうして一緒にいられるというだけで、俺にはそれが本当に特別で充実した時間となって。誰より愛しく大切な恋人の時間に、自分が関われるという事実がこの上ない幸福を呼ぶ。
 これで、したいように思う存分甘やかす事が出来たらもっと言う事はないのだが。
 なんて、たどたどしく包丁を操る伊藤の横顔をぼんやり眺めていると。

「い、てっ」
「!!」

 もう玉葱を刻み終わろうかというその時、刃先が伊藤の指を掠めた。
「あー、切っちゃった…」
「大丈夫か!ほら、水で傷口を洗って」
 幸い傷口はそう深くはなかったとはいえ、水に晒されながらも血は絶えず滲む。
 それを我ながら痛々しげに見やりつつ、こうして調理場で怪我をする人間は専属の調理員にも多いためか、棚の脇にいつでも常備してある瘍創膏を探し当てると。
「応急処置だ。…後できちんと消毒しないとな」
「すみません…」
「謝らなくていい。ほら、指を出すんだ」
 しゅんとする伊藤に笑いかけて、おずおずと出された指先を取る。
 途端にぷくりと血の玉が浮くから、咄嗟に俺の取った行動は全くの無意識だった。
「───し、篠宮さんっ…?」
 瘍創膏を貼り易いようにと、その浮かんだ血をぺろりと舌で舐め取れば。微かにびくりと指先が跳ねるから、どうしたのかと顔を見るとその頬は一瞬にして赤く染まっている。
「あ、ああ…すまない。血が───」
「い、いえあのっ…すみません、俺こそ…」
「いや…」
「………………」
 何だか奇妙な沈黙が落ちた中、しっかりと瘍創膏を貼る。
 触れ合う指先が、何故か互いにふわりと熱くて。
「………………」
「………………」
 く、と伊藤が小さく息を飲む音が聞こえると。
「───」
 それを合図のようにして、じわじわと滲みつつあった欲求が一気に膨れ上がってぱちんと弾けた。
「っ?し、のみやさ……、っ」
「…、………」
「んんっ…!」
 それでもなるべく乱暴にはならないように、無防備だった伊藤の唇へ角度をつけて噛みつくようなキスを仕掛ける。
 びくりと跳ねた指先が、咄嗟の動きで俺の二の腕辺りのシャツを掴む。
「ふ、ぁっ……、び、っくりし、た……」
「……伊藤」
「な…」
 すぐに離れた唇の合間、乱れた呼吸を整える隙も与えないまま。
 また。
「んっ、ぅ……、っふ…ぁっ」
「………、っ……」
「どうし…、篠宮さ、っ…、……!」
 驚いてはいるものの、どうやら抵抗する気はないらしい伊藤の腰を引き寄せて、ぴたりと身体を触れ合わせる。
 突然に沸き起こった衝動。
 どうしようもなく、触れたい。
「し…篠宮さん…っ…?」
「……すまない」
「そんな…あ、謝ったりなんて。その…嫌とかそういういうんじゃないし。でも、ただ、ちょっとびっくりして」
「ああ。俺もだ」
「えっ?」
「俺も、驚いてる」
 身も心も丸ごと好きなのだから、欲情する事自体には今更驚いたりする事はなくても。こんな突然な欲しがり方は滅多に経験する事がないものだから。
「…お前に言われて、なるべく構いすぎないようにと心がけた結果がこれ、か」
「え?え?あの…」
「余波はどこかへ行くだろうとは思っていたがな。…こんな形で、とは」
 予想外だった、と一人ごちればキッチンと俺との間に閉じ込められたままの伊藤が、漸く察したのかますます顔を赤くして。
「あ、の…し、篠宮さん」
「…ん?」
「その……したい、んです…か?」
「───」
 何を、なんて問い返すまでもなく。
「…ああ」
 したいのか、なんて言われてしまえば容易に口に出来る肯定の言葉。
 俺はやはり、どうかしている。
「っ…」
 頷けば困らせるだろうな、と思えば伊藤はやはり困ったように少し俯いて。まだ落ち着かない呼吸に少し肩を上下させていたかと思うと、ふ、と顔を上げた。
 そして。
「あのっ…し、ましょう!」
「……伊藤?」
「しましょう!ちゃんと!」
 妙に意気込んで言われては、何だか申し訳ない気持ちにすらなる。
「おい、無理は───」
「してません!無理は、してません、からっ…」
 だから、しましょう。
 なんてまた俯かせた顔で、胸元辺りに囁かれてしまって、俺はもう。
「………俺は、本当に…どうしようもないな…」
 愛しくて、嬉しくて、どうしたって笑顔になって、今度は熱に浮かされたような勢いではなく、ゆったりとその細い肩を抱きしめた。



 どうしたものかと苦心しなくともオイルを探し当てる事の出来るキッチンという場所は、こうして触れ合うには不釣合いな場所だとわかっていながらも、それでいて便利な場所だと妙に感心しつつ。
「っ…、ぅ……」
 キッチンの縁に手をついて、こちらに背を向ける格好になっている細い腰をしっかりと捕まえてぬるりと指先を忍ばせる。
 いくつも落としたキスと愛撫のせいで、抵抗らしい抵抗を見せずにそこは指先を受け入れて。
「痛まないか、伊藤…」
「ぁ…っ、は、いっ……だい…じょ、ぶ…」
「しっかり捕まえているから、力を抜いていていい」
 熱くて柔らかい粘膜を探るような指先を、様子を見ながらもうひとつ増やすと耐え切れないように伊藤の膝が震え出す。
 宥めるように肩甲骨の辺りへキスをして、舌先でちろりと舐める。
「んっ、ぅ…っ」
 もうすっかりと覚えたイイ箇所を指の腹で引っ掻くようにすると、びくんと跳ねた身体の熱が増すから堪らなくなる。
 自分の体温もあからさまに上がって行くのが感じられても、せめてそれを押し付ける事だけは避けようと息を詰めると。まるでそれを察知したかのように、キッチンの縁へ無意識に爪を立てながら、肩越しに何とか振り向いた伊藤は。
「し、のみやさ、っ……も…っ」
「……伊藤?」
「一緒、にっ…」
「───」
 熱を含んだ涙を敷いた目元も露に、見えているのかどうかも怪しい目に、しっかりと俺を映して。
「俺ばかりじゃ、なくて…っ、篠宮さんも、ちゃんと…───」
「……こら…」
「気持ちよ、く」
「…啓太」
 こうしている時に一番呼ばれる回数の多い「名前」で呼べば、違う触れ方をしたわけでもないのにまたその身体がびくりと跳ねる。
 一緒に、なんて。こうして呼ばれるだけで快楽を与えてくれる、なんて。そんな事実をいちいち隠さず晒されては、元よりひどく募っていた欲が抑え切れるわけもなく。
「知らないぞ…煽ったりして」
「だ、って、っ」
「そんなに悪い子だったか、お前は」
「ん…、っ」
 ゆるりと内から指を引かせると、その感覚に細い腰が微かに揺れる。
「篠宮さんに、だけ…ですっ…」
「───…ん?」
「悪い、コなのはっ…篠宮さんにだけ、だから…」
「っ…」
 熱に浮いた掠れる声でそんな科白を囁かれれば、背筋にぞくりと痺れるような感覚が走る。そのまま勢いで噛み付きそうになったうなじをそろりと舐めて。
「ふ、ぁっ…、っ」
「…ゆっくりする、から」
「…っ」
「力を、抜いて」
 気を抜けば急いた動きをしてしまいそうになる自分を叱咤しながら、手を添えずとも構わないくらい角度と硬さを持っているそれを、しっかり慣らした場所へと宛がう。
 先端をぴたりと当てれば、溢れていた先走りの露でそのまま促されて。
「ぁっ、あ……、っく……、ぅん…」
「…っ……」
 じわ、とゆっくり昂ぶった熱を柔らかな内へ穿つ。
 無防備なそれをぴたりと包まれる感覚に、根元まで全て納めただけで達してしまいそうになるのを何とか堪えて、強張る内に俺のものが馴染むのを待つ。
「動く、ぞ」
 耳元で囁けば竦む肩へ、宥めるためのキスをして。小さく何度か頷いたのを確認すると、ゆる、とゆっくり腰を引く。
「もう限界…だ、俺も」
 半ばまで引いた腰をぐ、とまた収める。
「ぁっ、…っ!」
 そうして動いてしまえば、もうどうしようもなくて。
「…っゃ、く…っ、んっ」
「…く…」
「んっ、ぅ…っ、ぁっ」
 辛うじてキッチンの縁についている手で身体を支えている伊藤の、その細い腰を左手で一層深く引き寄せる。同時、それとは反対の掌でしっかりと快楽を示している伊藤のものへと絡ませれば。
「ゃっ、そ…れっ、ぁ…、駄目っ…!」
「…ん…?」
「触っちゃ、だ、めです…、っ…俺…っ…イ、っちゃ…」
「……触ると、イきそう、か?」
 制御できずにどんどん強くなる突き上げに、互いの声が淫らに跳ねる。
 動きにつられるように耐えない濡れた音は、二人が繋がっている箇所からか、それとも今俺の手によって翻弄されている伊藤のものからか、それとも両方か。
 互いに飛びそうになる意識で交わす会話は、声まで熱を含んで濡れていて。
「あ、っぁ…っ、ゃ……っ…」
「一度…イく、か?」
「や…っ」
「…啓太」
「っ…!」
 耳元の薄い皮膚に軽く歯を立てながら、絶えず露を零す鈴口を引っ掻くようにすると、呼吸を引き攣らせた後小さく息を詰めて、脈と同じリズムで無防備に伊藤のものからは欲が放たれた。
 途端、がくりと崩れた上体に慌てる。
「───啓太、っ」
「っ…だ、いじょうぶ、ですっ……ま、だ…」
「……啓太」
「無理、とかじゃなく、て…そうじゃなくて、俺」
 震えるような声で何とか言葉を伝えようとしながら、また肩越しに俺を振り向くから。とてつもなく愛しく思う気持ちのままに、濡れた目元へキスをする。
 そうされながら伊藤は、乱れる吐息で、掠れる声で。
「もっと、…して、欲しいですっ……」
「……っ」
 奥に留まったまま、まだ達していなかったそれが更に熱を増した気が。
 した。
「───ぇ、な…んっ、篠宮さ…、っ!」
「っ……啓太」
「…っく、ふ、ぁ…っ……」
 衝動に駆られるまま、けれどそれでも、出来るだけ乱暴にはならないようにとなけなしの理性で気を付けながら大きく揺すり上げる。
 抜けるぎりぎりまで引き抜いて、そのまま躊躇いなく突き上げれば熱の篭った粘膜に擦られる感覚に目が眩む。同時、伊藤の細い腰が綺麗に反れて、子犬が鳴くような甘ったるい声が漏れる。
「ぅ、んっ…ぃ…っ、おかしくなっ…ちゃ、……っ…」
「…啓太」
「俺っ…ゃ、篠宮さ、んっ…」
「大丈夫」
 恐らく、もう自分の言っている事だってしっかりとは把握出来ていないであろう伊藤が、乱れる自分を嫌がって首を振る。シンクにぱたぱたと音を立てて落ちる雫は、もしかしたら汗だけではなく涙かもしれなくて。
 むずかるように緩く振られる首筋に、宥めるようにキスをする。
「啓太」
「っぅ…んっ…、ふ…」
「…好きだ」
「……っ」
「好きだ」
 自身を追い上げるように、そして伊藤を追い詰めるように、がっつく勢いだった動きを意図して緩める。
 円を描くようにゆるゆると動くと、今度はその緩い快楽が焦れったいのか、縋るように捕まっていたキッチンの縁へ爪を立てようとするから。そうする前にその手を取って、上から重ねるようにして指を絡める。
「おかしく出来るなら、…してみたい」
「っゃ、っ…ぅ」
「おかしいのは、俺だ」
 浅く、深く、緩く、きつく、どこまでも入り込みたいし、出来るならこのまま溶け合って混ざり合ってひとつのものになってしまいたいけれど、でも。
「っ…、啓太」
「く…ぅ、んっ…ぁ、あっ…」
 そうなってしまえばもう抱き合えないと、知っているから望めない。
「俺には生涯、お前だけ、だ」
「っふ……、っ」
「どうするんだ、こんな───」
 こんな。
 いつだってひたすらにたった一人の人間をどうしようもなく想っているような。こんな、おかしいくらいの執着を知ってしまった男を、許して、受け入れて、欲しがったりするなんて。
 どうするんだ。
 もう、逃がしてなんてやれない。
「っ……啓太、逃げるな」
「ゃ…、だっ…て、っ」
 また限界が近いのか、俺のものに絡みつく粘膜がぎゅうっと収縮したかと思うと、ほぼ同時に引こうとする腰を片手で容易に捕まえる。
「逃げないで、くれ」
「…っ!」
 おかしいというのならどうしたって俺で、滅茶苦茶なのも、どうしようもないのも全てきっと俺で。
 与えられる快楽に無防備な姿を晒すのが嫌だと逃げられても、それを一番見たいのも俺で。
「俺を許してくれる、なら…、っ」
「───」
 熱に霞む思考で呟いたこんな科白は、もしかしたら後になっても思い出せるものではないかもしれないけれど。
「し、のみやさ…、っ……お、れ…っ」
 でも。
 きっと。
「俺もっ…、す、き…っ」
 ぐちゃぐちゃで、きっと泣きそうで、どうしようもなく羞恥心でいっぱいだろうし、とてもじゃないけどまともに喋る事の出来る状態ではないだろう伊藤が。
 こんな風に、一生懸命に。
「好きです、っ…っん、ぅ…、っ…篠宮さん、だけっ…」
「っ…」
「ずっと、ず…、っと……、っ」
 肩越しに濡れた目を俺に向けて、しっかりと言ってくれたこんな言葉だけは。どんな事をしてでも覚えていようと、思わず息を飲みそうになるのをやり過ごしたぼやける頭に刻み付けた。
 際限なく沸き起こる愛しさを散らばすように、唇で触れられる個所全てにキスをしながら悦い所ばかりを狙って擦り上げれば。
「ふ…っぁ、ゃ……、っ………、ん…───!」
 前を然して弄らないまま、小さく身を震わせて伊藤が再度達した。
 そして、一層きつくその内に締めつけられて、俺もまた。
「っ…く……、…」
「…ゃ…っ…」
 一番奥へと潜り込み、薄い背をしっかりと抱えるように抱きしめて全ての欲を放った。



 常でもその細い腰には負担がかかる行為だというのに、立ったままだったのだからそれは尚更で。
 キッチンへ押しつけられるように立っていた伊藤が放ったものを、手近にあった布巾で始末していると。ぐったりと座り込みながらも、至極申し訳なさそうにして、どうやら言葉が見つからないらしく無言で見やっている伊藤の頭をゆるりと撫でる。
「…大丈夫か」
「ぅ…は、はい。あの…すみません…」
「気にしなくていい。俺のせいなんだから、これは」
「…うう」
 涙すら浮かべて赤くなるのが可愛らしくて、俯いてしまった額にキスを落とす。
「それより。…放り出したままだったな」
「え?」
「料理」
「あ!」
 もしかしたら何故キッチンにいるのかと、それすら忘れてしまっていたのではないかという伊藤が情けない顔をする。
「どのみち、指を怪我してしまったからハンバーグはよしておいた方がいいな」
「そうですよね…手で材料を混ぜないといけないですしね…」
 まだ情事の余韻が残る、艶を含んだ顔がしょんぼりと曇る。
「しょうがないさ。怪我が治ったら、また練習すればいい。他の料理でもいいなら、明日にでも何か練習してみるか?」
「えっ、本当ですか?!」
「ああ。……しかし、伊藤。突然料理の練習なんて、どうしたんだ、一体」
「え?あ…言ってなかったですか?俺」
 何やら意気込んでいた伊藤に気圧され、聞こうにも聞けないままだった質問をしてみれば、目を丸くした後少しだけ顔を赤くした伊藤は。
「あの…今度、練習試合があるって言ってましたよね、弓道部の」
「ああ」
「俺、応援に行きますって」
「ああ。言っていたな。楽しみにしている」
「はい。…あの、それで、その時に……お弁当、作って行けたらなって思って」
 最中、達する間際に言ってくれた可愛らしい告白とはまた別の、そんないじらしい科白を言ってくれたりするものだから。
 俺は、もう。
「料理なら成瀬さんが教えてあげるよって言ってくれたんですけど、それは危ないからって和希が言うから…だから、本当は篠宮さんには内緒でこっそり頑張りたかったんですけど、………あの…篠宮さん…?」
 愛しい以上に愛しくて、これはもう、とても言葉では表す事の出来ないような。
 そんな想いに駆られてしまって。
「う、わっ、えっ、あのっ、篠宮さんっ?」
「───伊藤」
 未だぐったりと力の抜けている身体を、ぎゅうっと強く抱きしめて。
「ありがとう」
 きっと、無防備に今の感情を表してしまっているような顔なんて到底見せられないから、その細い肩へ擦り寄るように額を埋めて。
 低く囁く。
 想いと熱と欲を込めて。
「嬉しいよ。…俺に向けてくれるお前の気持ち、全てが」
「し…篠宮さん…」
「これが、愛しているという事なんだな。…いつだって、お前といるといちいち思い知らされる」
 このまままた素肌のまま抱き合いたいような衝動は確かにあっても、そうしてまた、わけもわからず欲ばかりに支配されてしまうのは勿体ないから。
 ひたすらに抱きしめて、このどうしようもない熱が静かに引くのをじっと待った。
「あ、あの……俺だって、好きです、篠宮さん。篠宮さんが嬉しいと、俺も…嬉しいです」
「………頼むからこれ以上煽ってくれるな…」



 こうして、構いたいのに構えずに積もり積もった欲求の余波は、確かにその対象へ返ってしまったけれど。
「ほら、まだ足元が覚束ない。もう誰もいないんだから、気にせず手を取れ」
「うう…はい、すみません…」
「今夜はどちらの部屋で寝る?無理をさせてしまったからな、一人にはしておけない」
「えっ?」
「ああ、その前に一緒に風呂へ入ろう、伊藤。身体が辛いだろうから、ただじっとしていればいい」
「あのっ」
 困ると言うならこれからだって、過保護と呼ばれる程に干渉するのは自粛するから。
「お、俺、大丈夫ですからっ…シャワーくらいなら、一人で…」
「駄目だ。何かあったらどうするんだ。風呂場で転んで亡くなる人間だっているんだぞ」
「いや、あの…」
 ほんの少し、こうして手を伸べるくらいなら。
 許して欲しいんだ。
「俺の部屋で構わないか?今日、お前の分の洗濯物を取り込んでおいたから、着替えには困らないぞ」
「ああ…またそんな事を…。駄目ですよ、そんなに俺を甘やかしちゃ…!」
「?甘やかしてなどいないぞ。したい事の半分以上は我慢しているんだからな」
「……!?」
 心底不思議に思ってそう言えば、何だか目を丸くした後言葉を失ってしまった伊藤は、あきらめましたと言わんばかりにその後は大人しくされるがままになっていた。
 こうして、したい事のせめて半分くらいはさせてくれると嬉しいんだが、なんて思いつつ。
「ほら、シャツを脱ぐぞ伊藤。腕を抜いて」
「シャツくらい脱げますよ〜っ」
「さあ、反対の腕も」
「うう…っ」
 今日も今日とて、目の前の恋人への愛情を知らしめられる事となった一日だった。
 今度の練習試合は負ける気がしない、なんて。そう思ってしまう俺は、自分で思っていたよりずっと単純で手軽な人間であるのかもしれない。





南サマの、篠啓エローーーーーーーッ(悦)vvvvv
あああ・・・アレでまだ、半分ですか!!奴め!!全力投球で
甘やかされたりしたら、もう・・・どうなっちゃうん
だろう、啓太!!や、望むところで(笑)!!
拙宅の2周年の御祝に頂戴致しましたv
南サマ、有難うございますです・・・ッ(愛)vvvvv