『in my dream』



「ん、・・・・・」
 トロトロ、と。
 激しかった熱情の余韻と、そしてまだそれが燻る身体を、やはり
同じように汗ばんだ腕に抱き寄せられれば、そのまま眠りの淵に
すとんと落ちてしまいそうになる。
「おやすみなさい・・・伊藤くん」
 額に口付けながら、そう囁かれて。
 ああ、眠ってしまっても良いんだ…と。
 安心、して。
「・・・・・おやすみ、なさ・・・い・・・七条さ・・・ん」
 心地良い抱擁に身を委ねながら、訪れた睡魔に促されるままに、
目を閉じる。
 そして、意識がコトリと落ちる間際に。
「夢の中でも・・・君に会えることを」
 祈るように囁かれた言葉に。
 どうしてだか、不意に。
「っや、・・・・・です」
 浮上した、意識。
 咄嗟に口にしたのは、まるで拒否するような。
「・・・・・伊藤くん・・・?」
 そんな、響きだったから。
 極至近距離、目の前の七条の顔は、不意打ちを食らって半ば呆然
としてしまっていて。
「え、・・・・・あ、っ・・・・・」
 それを見て、やっと。
 啓太は自分の放った言葉に気付き、慌てた。
「あの、俺・・・そういう意味じゃ・・・・・」
「いや、ですか?」
 微笑っている、けれど。
 だけど、その瞳は何処か傷付いているように見えて。
「夢の中でも、君に会いたいと願うことは・・・君の不興を買って
しまうことなのでしょうか」
「ち、っ・・・違います、そうじゃない、んです・・・ただ、俺は」
 七条の言葉を聞いて。
 咄嗟に、思ってしまったのは。
「・・・・・ずるい・・・な、って・・・・・」
「ずるい、ですか?」
 繰り返す七条の言葉に、やや気恥ずかしげに頷く。
「だって・・・俺じゃ、ない・・・でしょう?」
「・・・・・君の夢を見たいと言ったつもりなのですが、僕は」
 怪訝そうに問われて、それはそうなのだけれど…とコクコクと頷く。
「えっと、七条さんが見たいと言ってくれる、その夢の中の俺って、
・・・・・今ここにいる、俺じゃない・・・から・・・・・」
 どうにも、説明し辛い気持ちがグルグルと回るばかりで。
 伝わっている、だろうか。
 この、じれったさや、それから。
「・・・・・君が言おうとしていることについて、僕なりに解釈した
ものが、間違っていないのを祈るばかりですが」
 どうしたら、分かって貰えるのだろう…と困惑する啓太に、七条が
そろりと前置きをして。
「僕が夢の中で出逢うであろう『君』は、僕の・・・言ってみれば、
意識なり記憶なりの産物であって、今ここにいる君自身ではない、と」
 そういうことなのですか、と。
 小首を傾げて問う七条に、啓太はコクリと頷いてみせた。
「だから、俺じゃないんです・・・だから、俺は・・・・・」
「ずるい、と。そう言ったのですね」
「・・・・・はい」
 それは。
 自分、じゃないから。
「俺じゃない、のに。七条さんが、夢の中で・・・いつも俺にする
みたいに、って・・・思ったら・・・・・」
「・・・・・ふふ」
「っ、・・・・・」
 ふと、笑い声が漏れるのに。
「な、・・・っどうせ、俺・・・くだらないことでこんな・・・っ」
「ああ、済みません・・・可笑しくて笑った訳じゃないんです。ただ
・・・・・・幸せで。つい、口元が弛んでしまいました」
 許して下さい、と。
 布団の中に潜り込もうとしたのを制され、そして取られた手、その
手の平に唇を押し当てられる。
「ヤキモチを焼いて頂けたということは、それだけ伊藤くんに愛され
ているんだなあ・・・と。そう自惚れてしまっても良いんですよね」
「あ、・・・・・っそんな、今更・・・・・あ、う・・・・・」
 そう、今更。
 自惚れも何も、真実ほんとに。
「僕も、伊藤くんをとても愛していますので。ですから、焼けたお餅
が爆発してしまう前に、食べてしまいましょうか」
「た、食べる・・・って」
 一体どうするんだろう、と。
 覆い被さる七条を、おずおずと見上げれば。
「解決策としては、・・・君自身が僕の夢の中に遊びに来て下されば」
「・・・・・っ、そんなこと・・・」
「不可能、とは言い切れないと思いますよ。実は先日、興味深いお話を
小耳に挟んだのですが」
 にっこり、と。
 笑う七条の背後に、あまり見たくなかったモノが揺らめいたのは、
決して気のせいじゃなかったのだと、啓太は後々思い知ることになる。

「繋がったまま眠ると、その2人は全く同じ夢を見るのだそうですよ。
ということは、お互い夢で出逢う相手は、正真正銘お互いだということ
になりませんか?」

 そう、だろうか。

「っ、それ・・・何だか、ちょっと・・・おかしくないですか!?」
「そうでしょうか」
「・・・って、七条さ・・・・・ん、っ・・・・・」

 そう、なのだろうか。

「夢の中でも。・・・繋がっていましょうね、伊藤くん」
「ま、待っ・・・・・あ、・・・・・」

 取り敢えずは。
 お試しあれ?





結果はどうだったんでしょう・・・ブルブル。
臣たんの言ってた「繋がったまま云々」の話は
私の大好きな某下ネタ4コママンガより(何)v