『全部反則』
反則だ、と思う。
その辺の女より、綺麗な顔。
瞳は、吸い込まれそうに、深い色。
細いけれど、決して脆弱ではない肢体も。
肌も、やたら触り心地は良いし。
容姿だけでは、なく。
柔軟でいて、それでも1本筋の通った性格は、側に居て
とても心地よく。
とにもかくにも。。
反則、なのだ。
今、だって。
目の前で、蕎麦を啜っている、その。
唇。
撥ねた汁を、ペロリと舐めあげる。
舌も。
「・・・・・京梧」
俺の名を呼ぶ、穏やかな声も。
全部。
「京梧、ってば」
「・・・・・ひーちゃん」
見蕩れていた、なんて。
言える訳もなく。
へへッ、と笑って誤魔化せば。
しょうがないな、と苦笑する。
そんな顔も。
どうしたって。
「蕎麦食べてる時に、考え事なんて珍しい」
蕎麦屋からの帰り道。
夕日を背に。
並んで歩く。
ポツリと呟いた言葉に、僅かに視線を落とせば。
どうしたの、と。
問いかけるような、瞳に。
そこに映る、自分自身は。
極まり悪げに、それでもどうにか笑みを返して。
「・・・・・何でもねぇ、よ」
そう。
言うしか、ないだろう。
まさか。
目の前で蕎麦食ってる姿に。
欲情した、だなんて。
ひかれるか。
殴られるか。
嫌われたら。
どうしたら、良いんだろう。
どうして、こんなに。
いつの間に。
こんなに。
こいつに。
「・・・・・そう?」
小首を傾げ、また歩き出すのを。
半歩、遅れて。
追いかけて。
あの角を曲がれば、龍泉寺。
水風呂にでも入って頭を冷やせば。
とりあえず。
一時しのぎには。
「京梧」
不意に。
立ち止まり、振り返る貌。
トン、とぶつかってしまう胸に。
一瞬触れた、温もりに。
驚いて。
後ずさろうと。
すれば。
「ひー、ちゃ・・・・・」
何処か。
憮然としたような、そんな顔。
それさえも、綺麗だなと。
見入って、しまって。
ゆっくりと近付いて来る、それに。
動けずに。
突っ立った、まま。
「・・・・・な、・・・」
羽根のように、掠めたものが。
何なのか。
認識、すれば。
「な、な・・・・・ッ」
途端。
その柔らかさや、温度。
吐息さえ。
全ての感覚が、急激に襲ってきて。
「何、を・・・・・ッ」
口元を押さえて。
多分、今。
自分の顔は、真っ赤になってしまっているはずで。
仕掛けた方はといえば。
そんな、俺の反応に。
クスリと。
笑って。
「したかった、んだろう?」
そんな。
見透かしたような、台詞を。
「な、な、な・・・・・」
たかが、接吻。
されど、接吻。
初めてでもあるまいに。
見苦しい程に、動揺してしまって。
いや。
初めて、なのだ。
彼、と。
唇を、合わせるのは。
「・・・・・なんて、ね」
狼狽えてしまって。
まともに言葉がつげない、俺に。
微笑んだまま、クルリと背を向けて。
「俺が、・・・・・したかったんだ」
悪かった、と。
呟きを、残して。
走り去ろうとする。
その、腕を。
「ま、てよ・・・・・ッ」
捕らえ、引き寄せれば。
驚いたように振り返った、貌。
薄く開いた、桜色の。
唇。
「京、梧・・・ッ」
「黙れ」
何か言いたげに、揺れる。
花弁のように。
柔らかな。
「・・・・・ッ」
掠めて消えた、その感触を。
自分で。
確かめたくて。
ゆっくりと。
自分のそれを、重ねれば。
抱いた肩が、一瞬ピクリと震えて。
それでも。
逃げる素振りは、見せないから。
そのまま。
少し、頭を傾けるようにして。
深く。
合わせた其処から、忍び込ませた舌で。
捕らえ、絡めて。
角度を変え、何度も貪れば。
高鳴る、鼓動。
熱くなる、身体。
極上の酒より。
酔わせる、もの。
「・・・・・は、ァ・・・」
「・・・へへッ」
俺も。
したかったんだと。
額を、龍斗のそれに擦り寄せながら。
京梧が、告げれば。
何処か、悔しげな瞳を。
そろりと落とした、龍斗が。
「・・・・・ッ」
不意に。
ギョッとしたように息を飲み、肩を揺らすのに。
「ん?・・・・・あァ、コレか」
「コレか、って・・・お、まえ・・・ッ」
頭を掻きながら、何でもないことのように振る舞う京梧に。
一歩ずつ。
後ずさり、頬を朱に染めて。
それでも、そこから。
視線は、外せずに。
「ま、勃っちまったもんは、しょうがねぇよなァ・・・」
「な、ッ・・・・・」
ニヤリと笑った、京梧の瞳の。
あからさまな、欲の色に。
思わず、立ちすくんでしまえば。
喜々として、その腕を捕らえ。
そのまま、歩き出すのに。
「京梧、ど・・・こ、ヘ・・・・・ッ」
「寺は目の前だろ、とっとと帰って、そんで・・・」
まずは。
風呂だな、と。
何やら、含みのある。
笑みを、向けて。
「勿論、付き合ってくれるよなァ・・・ひーちゃん」
「ひ、ひとりで入・・・れッ」
「やなこった」
門を潜り。
急ぐ足は、まっすぐに風呂場へと。
「したかったんだろ?」
「違うッ・・・俺は、ここまでは」
「たいして、違わねぇよ」
そう。
触れて。
唇を、合わせてしまえば。
もっと。
もっと。
欲しがって。
求めてしまう、心は。
「今、逃げても・・・・・明日も、明後日も・・・もう
逃げらんねぇよ、ひーちゃん」
だから。
観念しちまえよ、と。
囁く、声は。
熱く。
驚く程。
真摯で。
身体が、震えてしまったのは。
怯え、だけではなく。
「・・・・・」
「なァ、・・・・・」
とうとう、脱衣所に連れ込まれて。
その壁に、押し付けられるようにして、耳元に。
吹き掛けられる。
熱い。
熱い、吐息。
「・・・・・しようぜ」
熱が。
伝染る。
「・・・・・俺・・・」
何だか。
掠れた声しか出せなくて。
それでも、目一杯。
相手を。
睨み付けるように、して。
「こういうの知らない、から・・・・・」
どうにか、それだけ。
告げれば。
一瞬、唖然と見開いた瞳は。
すぐに、嬉しげな。
なんとも言えない。
甘ったるい、ものに。
「・・・・・俺が、教えてやるよ」
スルリと、帯を解く手付きは、慣れを感じさせて。
それが何だか悔しくて、龍斗が唇を噛めば。
宥めるように、舌先で舐め上げられる。
「それも、反則」
「な、に・・・・・」
「全部・・・・・反則」
問答無用で。
始めっから。
とうに。
やられてしまっているのだと。
この際、全部。
洗いざらい。
「ひーちゃん、俺な・・・・・」
ぶちまけて。
しまう、から。
「一目惚れ、だったんだぜ」
あの日。
茶屋で。
声を掛け、振り向いた龍斗と。
目が合った、瞬間。
落ちたのだ。
多分、『恋』というやつに。
囚われてしまったのだ。
この、『緋勇龍斗』という、人間に。
「・・・・・すげー、好き・・・」
熱っぽく、囁きながら。
抱き締めて来る、腕に。
小さく、溜め息をつきながらも。
その、広い背に。
そっと。
龍斗は、腕を回した。
・・・・・裏未遂(ぐは)。
続きは間違いなくアレなんですけど(笑)v
そして、私から言わせて貰えば、京梧も反則(笑)。
それにしても、お盛んですな・・・くくく(邪笑)v
や、元気なのは良い事です!!この調子で、裏も(悦)v
茶屋で一目惚れ&ナンパは、オフィシャルだもの(笑)♪
某所にて、ちょこりとお近づきになれた、某Hサマに
コソコソと捧げますのです(熨斗)vえへへv