望んだのは。
 どちらだったのだろう。


「・・・・ふ、ッ・・・」
 熱は、急速に広がって。
 肌に。
 触れただけで、吐息を乱し。
 口付けを落とせば、それだけで掠れた声をあげて。
「あ、あァ・・・・ん」
 恐ろしく、敏感な。
 元々、そうであるのか。
 さもなくば、あの。
「・・・眠り薬、だけではなかったか・・・」
 嵐王が、龍斗に飲ませたという酒に混ぜられたもの。
 その中に、あるいは。
「天、戒・・・・」
 それでも。
 請うように腕を伸ばして。
 縋り付き、求められれば。
 もとより。
 拒めるはず等なく。
 むしろ。
 こうして、彼が求めてくれることを。
 きっと。
 望んで、いた。
「・・・・・全て思惑通りか」
 あの男の意図は定かではなかったが。
 だが、こうなることは。
 おそらくは。
「・・・・構わぬ、それでも」
 確かに、龍斗は。
 自分の意志で。
 欲しいと、そう囁いていたから。
「何よりも、お前を・・・・信じる」
 自ら。
 望んだのだと。
 それは、確信。
「龍、お前を・・・・・」
「・・ッあ、・・・・ん、ふ・・・・」
 誘われるままに、唇を重ね。
 これまでの、飢えていた何かを、満たすように。
 思うままに、貪って。
 その性急さに。
 それでも、龍斗は応えてくるから。
 胸元を、開いて。
 覗く、鎖骨に指を這わせ。
 ほんの僅かな刺激にも身を震わせるのに、忍び笑いを漏らし
ながら、胸の飾りを摘むようにすれば。
「や、・・・・あァ・・・」
 跳ね上がる、肢体。
 すぐに固くなり色を濃くしたそれに、舌を這わせ舐めあげて。
 その度に、ヒクリと反応を示す、身体。
「・・・・・龍」
 吐息にさえ。
 従順に快楽を感じて。
 下肢に目を遣れば、すっかりはだけたそこには。
 濡れて勃ちあがる、龍斗の快楽の証が。
 ここに、触れれば。
 一体、この敏感な身体はどうなってしまうのだろう。
 それが。
 見たくて。
 そろりと、手を添え。
「・・・・・ッ」
 身体をずらし、そこへ。
 滴を、掬うように。
「ひ、ッ・・・・や、ァ・・・天、戒・・・・ッ」
 舌先を、這わせて。
 咄嗟に脚を閉じてしまおうとするのを、己の上体で阻んで。
「・・・・見せてくれ、龍」
 お前の、乱れる様を。
 俺が、お前を乱れさせる、その様を。
 囁いて、ゆっくりと。
 熱を帯びたそれを、口腔に含めば。
「ッ天戒・・・・い、や・・・だめ、そ・・・んなァ・・・ッ」
 上げた悲鳴は。
 掠れたそれには、明らかに愉悦の色が滲んでいて。
 それに煽られるように、早い脈をうつ龍斗の半身を。
 執拗なくらい、丹念に。
 もっと。
 声を、聞きたいと。
「いや・・・ァ・・・ん、ふ・・・あァ・・・あ」
 その望み通りに、絶えまなく溢れる喘ぎに。
 天戒は、満足げに口元を歪め。
「その声だ・・・」
 どうしようもなく、煽られるのは。
 龍斗だけではなくて。
 天戒自身も、もう。
 多分、限界で。
「・・・・て、んか・・い・・・」
 顔を上げ、覗き込めば。
 不安げな瞳が、涙をその淵に溜めて。
 天戒を映していて。
 それは。
 龍斗自身も、まだ未知の感覚で。
「聞かせてくれ・・・・龍」
 声を。
 もっと。
「・・・・・あ」
 先走りの体液に濡れる指を、そろりと滑らせ。
 密やかに息づく、その。
 これから、拓かれる。
 蕾の入り口を。
 確かめるように、撫でれば。
「・・・・・ふ、・・・・ッ」
 それを、意図してか。
 一瞬強張りかけた身体を、弛緩させるように。
 そろそろと息を吐いて。
 僅かに綻びかけたそこに、少しずつ。
 滑りに、導かれるように。
 忍び込ませた指を、途端締め付ける内壁を。
 宥めるように、擦り上げて。
「・・・・は、ッ・・・・ん・・・ん」
 刺激に。
 天戒の二の腕を掴む手の力が増して。
 絹織りの着物に手を滑らせながらも、何度も掴んで。
 その様に。
 空いた方の手で、帯を器用に解いて。
 衣擦れの音を立てて、夜着を肩から落とせば。
 剣を揮う男の、逞しい身体がそこに現れて。
「・・・・・天、戒・・・・」
 その、腕に。
 おずおずと手を伸ばして。
 触れれば暖かい、その体温に。
 安心したように、微かに笑みを浮かべて。
 縋り付いてくる、から。
「・・・暫し、堪えてくれ」
 気が、そちらに逸れたのを。
 それを逃さずに。
「え、・・・・ッや、あ・・ッあァァァア・・・・ッ」
 裾を払い、押し当てた、ものを。
 ようやくほぐれかけた、後孔へと。
 気取られ、強張らせぬよう。
 一息に。
「・・・・く、ッ・・・」
 全て収めてしまえば。
 その狭さに、目が眩みそうになるけれども。
 痛みは、強烈な快感へと。
 それは。
 龍斗もまた、同じで。
「・・・・・あ、・・・あァ・・・」
 萎えかけた自身も、やおら勃ちあがり。
 一瞬血の気を失った貌にも、赤みがさして。
 何よりも。
 天戒を見つめる目に。
 その濡れた瞳に宿るのは。
 明らかに、欲を含んだ彩で。
「・・・・・やっぱ、り・・・」
 夢なんかじゃない、と。
 フワリと笑んで、呟いた言葉に。
 天戒も。
 笑いを含んだ吐息で、肯定して。
 夢で。
 抱き合った、感覚とは。
 比べ物にならない、凄まじい悦楽。
 繋がった場所から、駆け昇ってくる。
 それは、あまりにも鮮明で。
「・・・・・ずっと、こうしたかった・・・・」
 どちらともなく、そう囁いて。
 唇を会わせれば。
 そこからも、また。
 沸き上がってくる、もの。
「・・・・龍」
 愛おしくて。
 名を、口にするだけで。
 どうしようもなく、心がざわめいて。
「てんか、い・・・」
 呼ばれれば。
 それだけで、もう。
 胸の内に、生まれてくるもの。
 どうしてこんなに。
 こんなにも、彼が。
「早、く・・・」
 動こうとしない天戒に焦れたのか、戸惑いを滲ませた瞳で。
 言葉で。
 そして、身体で訴えれば。
「共に快楽を追うか・・・」
 天戒を飲み込む肉の鞘が震え、淫らに誘うのに。
 合わせて。
「あ、ん・・・・ふッ・・や、ッあ・・あァ、んッ」
 更に脚を押し開いて。
 打ち付けるように、最奥を犯せば。
 絡み付く内壁のきつい締め付けに、そのまま埒を開けそうに
なるけれども。
 まだ。
 もっと、彼を。
「龍、・・・・」
 その欲に。
 果ては、なくて。
 何度も激しく穿ち。
 その度に嬌声をあげ、しがみついてくる身体に。
 仰け反る、喉に。
 噛み付くように、口付けを与えて。
 痕が残るな、とぼんやりと思いながらも、衝動のままに歯を
立て、淡い桜色に染まった脈打つ薄い皮膚を、吸って。
 散らした花弁は、夜目にも鮮やかに、その白い肌にくっきりと。
 いっそ鮮烈なほどに、映えて。
「て、んか・・い・・・ッ天、戒・・・・」
 激しく揺さぶられながら、乱れる息の元で。
 浮かされたように、名を。
 呼ぶから。
「・・・・・そう、急くな・・・」
 それは性急に求めてしまう自分にも、言い聞かせるように。
 ゆるやかに円を描くように、内壁を探りながら。
 いつしか啜り泣いていた龍斗の、目元に。
 伝う、涙を舌で拭って。
「まだ、夜は・・・・・これからだ」
 やんわりと耳朶を嚼みながら、囁きかけて。
 それにさえ感じて震える身体を、抱き締めながら。
「・・・そして」
 夜は。
 また来る。
「俺が望み・・・お前が求めるなら、何度でも」
 それは。
 夜毎の秘めやかな、宴を。
 ふたりだけの。
「こうして、お前を」
「ッあ、あァ・・ッふ・・・ん、ん・・あァ・・ッ」
 緩やかな動きを、再び。
 激しいものに摺り替えて。
「お前を・・龍・・・・・ッ」
 細い腰を掴み、そのまま。
 しなやかな身体を、折り曲げるようにして。
 その、奥へと。
 打ち据え。
「ひ、・・・・やァ、・・・・あァァァ・・・ッ」
「く、ッ・・・」
 導かれる、ままに。
 深く飲み込んだ内へと、熱く迸って。
「・・・・・た、つ・・・」
 全て、注ぎ込んで。
 残らず与えた、のに。
 尚も、ヒクヒクと未だ誘うように震える、そこに。
 すぐにまた、勢いを取り戻す雄を。
「・・・・欲、深いな・・・・・」
 それは。
 自分に向けた言葉であったのか。
 それとも。
「・・・・・ま、だ・・・・夜は明けない、よ・・・・」
 汗ばんだ、肌は。
 互いに、しっとりと吸い付くように。
 こんなにも、馴染むから。
「・・・そうだ、な」
 背に、腕を差し入れて。
 ゆっくりと、身体を抱き起こしてやって。
「・・・あ、ッ・・・・」
 組んだ脚の上、座す形で。
 繋げたままに、またその熱を。
 煽れば。
「・・・・・そう、だ」
 ゆるりと、自ら。
 腰を揺り動かして。
 快楽を求めるのに。
「・・・ふ、・・ッ・・・んん、・・ッ」
 不安定な身体を支えるようにして、その波に合わせるように。
 乱す、ように。
 先刻放った体液も手伝って、痛みが薄れた分、あからさまな。
 快感だけが、支配するから。

 夜が、明けるまで。
 こうして。

 互いに、溺れるままに。

 望んだのは。
 自分だから、と。
 そうして、ふたり。

 現の薄闇の中に。
 溶ける。

 この、ひとときだけは。
 触れる、その。
 互いだけが、全て。




御屋形様、御誕生日おめでとうございます(愛)!!
ホワイトデーそっちのけで、祝ってみました(笑)。
とうとう裏に・・・ふふ(悦)。
きっかけを作ったのは嵐王ですが、乗せられたのではなく
自ら選んだのです。天戒も、龍斗も。
ようは、中身です(微笑)。