『酔わせてみたい』




「俺、弥勒が酔ってるところ、見たことないんだよね」
「確かに、彼は顔には出なさそうだな」
 如月骨董品店。
 幾つかの未鑑定の品を持って、訪れた龍斗は。
 鬼道衆の仲間であり、この店の主人でもある奈涸に、
美味しい御茶が入ったから、と誘われて。
 縁側で、のんびりと。
 良く手入れされた庭を眺めながら、芳香漂う熱い茶
を啜りながら。
 ふと、思い出したように呟けば。
 奈涸も、湯気を揺らしながら頷き。
「だが、顔に出ないだけで酔いは十分回っているのかも
しれないがね」
「そうかなー・・・言動とかも、全然変わらないよ。
元々、あんまり喋る方じゃないから、酔ったらすごい
饒舌になったりするのかなー、って一寸期待してたのに」
 ブラブラと。
 脚を交互に蹴るように揺らしながら。
 それを、目の端で見て留め。
 行儀の良いとは言えない、その所作には触れず。
 ただ。
 その素足の白い滑らかな肌に目を奪われて。
「・・・・・奈涸?」
 ふと。
 怪訝そうに、掛けられる声に。
 我に返り。
「あァ、・・・・・饒舌な弥勒というのも、面白そうだ」
 思わぬ失態を誤魔化すように。
 茶を啜って。
「・・・・・そうだ、良いものがある」
 紛らわすように、巡らしていた思考の片隅から。
 そういえば、と。
 意に留めた、品。
「暫し、待っていてくれ」
 音もなく、立ち上がり。
 店の方へと消える奈涸を見送り。
 急須の茶を注ぎながら。
 しかし、大して時間も掛からずに奈涸は何か包みを手に
戻って来て。
「・・・・・それが、良いもの?」
 包みの中を気にすれば。
 フ、と笑みつつ。
 勿体振る事なく、包みを開いて。
「・・・・・何?」
 見たこともない曲線を描く、瓶に。
 入っているのは、透明の液体で。
 小首を傾げ、奈涸を見上げれば。
 その笑みを、濃くして。
「先日、馴染みの客から頂いたものだ。舶来の、酒だよ」
「・・・・・お酒」
 もしかして、と。
 伺うように、見つめ返せば。
「あァ、君に進呈しよう」
 もう一度、瓶を包み直し。
 龍斗に差し出して。
「慣れぬ、異国の酒なら・・・・・或いは」
「・・・・・貰って、良いの?」
「構わないさ・・・・・その代わり、今度俺と此処で
月見酒に付き合ってくれるのならばな」
 そろりと。
 白い頬に手を滑らせ、微笑みかければ。
「そんなこと、・・・良いよ、喜んで」
 にっこりと。
 邪気の欠片もない笑顔で、返されて。
「じゃ、早速試してみるよ。有難う、奈涸」
 一瞬、毒気を抜かれてしまって。
 唖然として見下ろせば。
 大事そうに包みを抱えながら、ヒョイ、と庭先に飛び
下りて。
「御茶、美味しかった・・・・・また、ね」
 手を振り、裏口へと駆けていくのを。
 見送る奈涸の貌には、微かに苦い笑いが浮かんで。
「どうせなら、君を酔わせてみたいんだがな・・・俺は」
 苦笑混じりに呟きつつ。
 龍斗の湯飲みに注がれたばかりの、茶を。
 グ、と飲み干した。



「弥勒ー」
 鬼哭村に戻り。
 そのまま、まっすぐに弥勒の工房を兼ねた民家に飛び
込めば。
 丁度、仕上がったばかりの面を。
 目の前に翳し、出来上がりを確認している様子の弥勒
が、いて。
「・・・・・龍さんか」
「こんにちは、弥勒」
 勝手知ったるとばかりに、上がり込み。
 弥勒の隣に、腰を下ろせば。
 ふと。
 感情を表に出さぬ、ままに。
 視線が、龍斗の足元に移されるのに。
「あ、これね・・・・・お酒なんだ。弥勒と飲みたくて」
「・・・・・昼間からか」
「もう夕暮れ時だよ」
 のそりと、弥勒が頭を巡らせれば。
 小窓から、傾いた茜色の陽が差し込んで。
「面を彫っていると、本当に時間を忘れるんだね」
 クスクスと、微笑いながら。
 包みを解き、瓶を取り出せば。
「・・・・・これ、は・・・」
「舶来ものだって・・・・・楽しみだねー」
 嬉しそうに説明しながら。
 取りあえず湯飲みを2つ、用意して。
「これで良いよね・・・・・うわ、綺麗な色」
 栓を開け、液体を注げば。
 琥珀色の。
 不思議な香りの、酒で。
「さ、飲んで飲んでー」
「・・・・・む」
 やたらと機嫌が良さげな龍斗に。
 もう既に酔いが回っているのかと、訝しげな視線を
送りながらも。
 手渡された湯飲みに、波々と注がれた異国の酒を。
 ぐびり、と。
「・・・・・ど?」
「・・・・・悪く、ないな」
 一息にあおいで。
 まじまじと、湯飲みを眺めながら言うのに。
「じゃ、どんどんいこうー」
「ちょ、・・・龍さん」
 その勢いに、一瞬躊躇を見せたものの。
 間髪入れずに再び湯飲みに満たされた酒に。
 やれやれ、と溜息をつきつつも。
 促されるまま、飲み干して。
「良い飲みっぷりだねー、弥勒」
「龍さん、は・・・・・」
「ほら、まだまだあるよー」
 自分ばかりでは、と龍斗の分の湯飲みを伺うのに。
 それを、きっぱりと無視して。
 弥勒に、だけ。
 酒は、どんどん注がれて。
 しまいには。
 無言で。
 注がれるまま、湯飲みをあおぐ弥勒と。
 その様子を伺うように、酒を注ぐ龍斗が。
 延々。
「・・・・・」
 さすがに。
 もう、瓶の残りも尽きようというのに。
 弥勒の様子に、全く変化は見られず。
 黙々と、酒を飲み干すのに。
 やはり。
 異国の酒でも駄目だったかと。
 ふ、と。
 溜息を漏らすのに。
「・・・・・どうした」
「え、いや・・・何でもないよー、あはははは」
 企みを悟られまいと。
 満面に笑みを敷いて顔を上げれば。
 何やら。
 考え込むような、弥勒の顔に。
 ちょっと怪しかったかな、と。
 それでも、笑顔は崩す事なく、見つめ返せば。
「・・・・・龍さんは、飲んでいないな」
「え、や・・・・・俺は、別に」
「・・・・・俺が、飲ませてやろう」
「は、え・・・・・ッ」
 コクリと。
 酒を含みながら、見据えて来る弥勒の視線に。
 知らず、身体が強張ってしまって。
 それでも、口移しというのなら。
 別に。
 嫌じゃないし、と。
 逃げる素振りすら、見せない龍斗の。
「・・・・・ッ」
 身体を。
 軽く、押すようにして。
 コロリと、倒れてしまった無防備な身体を、器用に
転がして。
 俯せの、姿勢。
 何、と。
 半ば、呆然となすがままになってしまった龍斗の
腰を引き上げ。
 スルリと。
 下肢を覆う布を取り去るのに。
「な、ッ・・・・・」
 腰を高く上げるような、形で。
 弥勒の前に。
 秘所を曝すような己の姿に、慌てて肩越し振り返ろう
とすれば。
「ッ・・・・ふ、あァ・・・・・ッ」
 そこ、に。
 生暖かいものが、触れ。
 濡れた、その感触に。
 身を震わせた、瞬間。
「い、やぁ・・・・・ッ」
 まだ固い蕾に。
 注ぎ込まれる、のは。
 弥勒の口腔内で、暖められた。
 先程の。
「・・・・・旨い、か」
 酒、だと。
 気付いてしまって。
「嘘、ッ・・・・・あ、・・・・」
 じわり、と。
 内壁を濡らす液体が。
 その敏感な粘膜を。
 更に。
 煽って。
 染み入る、そこから。
 灯る。
 熱い、もの。
「ふ、ッ・・・・・やァ・・・・・ッん」
 酒精の早い吸収に。
 白い肌を、ほんのりと色付かせて。
 やがて、全身に巡る恍惚感に。
 甘い、吐息を漏らせば。
「まだ、欲しいか・・・・・?」
 弥勒、も。
 やや掠れた声色で。
 耳元に寄せた唇で、囁くのに。
 吐息にさえ、身を震わせながら。
 床に押し付けた頭を、ゆるゆると振って。
「お酒、は・・・・・も、要らな、い・・・」
 酒、ではなくて。
 そんなもの、より。
 もっと、熱くさせるもの。
「・・・・・弥勒、を・・・・・挿れ、て」
 無意識に、腰を揺らめかせて。
 強請れば。
「・・・・・ふ」
 微かに。
 笑ったような、気配と。
 すぐに。
「あ、ああああ・・・ッ」
 更に、熱く。
 押し当てられ、震える入り口をゆっくりと拓いて。
 圧倒的な熱と質量で。
 埋め込まれる、もの。
「あァ・・・・・ッん、ふ・・・・・くぅ、ん」
 ろくに慣らされもしないままに。
 それでも、酒精に熟れた内壁は、太い肉塊を容易く
受け入れ。
 ヒクヒクと痙攣しながら、熱く絡み付いて。
「弥勒、弥勒ぅ・・・・・あ、あァ・・・んッ」
 それを、躱すように擦りあげ。
 煽るように、突き下ろして。
「ん、ッ・・・はァ・・・や、・・・・・あ、ッ」
 激しい揺さぶりに。
 何かに縋るように、空を掻いた龍斗の手が。
「・・・・・ッあ・・・」
 ゴトリ、と。
 酒瓶を倒して。
 底に僅かに残っていた琥珀色の液体が、床に流れ。
 すぐ鼻先に、伝うそれを。
「・・・・・ん、ッん・・・・・」
 ピチャリ、と。
 舐め取れば。
 口の中に広がる芳香と。
 そこから、また新たに広がる熱に。
 うかされたように、夢中で舌を這わせ。
 弥勒の雄を銜え込んだ下の口からも、また。
 同じように、濡れた音が。
 絶えまなく、続くから。
「あ、ァ・・・み、ろく・・・・・早、く・・・頂戴」
 響く、音に。
 感覚が、麻痺させられたように。
 ひたすら。
 貪欲なまでに。
「濡らし、て・・・ッ弥勒、の・・・注い、で・・・ッ」
 精、を。
 強請って。
 背をしならせ、触れられぬままに、張り詰めさせていた
自身を解放してしまえば。
 その瞬間、強い締め付けに。
 弥勒も。
 龍斗の、望みのままに。
 熱い白濁を、最奥に叩き付けるように。
「く、・・・・・」
 注ぎ込めば。
 ゆるりと弛緩した身体が、床に崩れ落ちて。
「み、ろく・・・・・」
 まだ潤んだ、熱っぽい瞳で。
 弥勒の放ったものが、トロリと溢れ出る、そこを。
 仰向けに転がったまま。
 脚を広げ。
 惜し気もなく、曝して。
「零れ、ちゃった・・・・・から」
 手を。
 差し伸べて。
 何処か、無邪気に。
 微笑みながら。
「もっと、・・・・・俺の中、いっぱい濡らして」
 淫らに。
 誘うから。
 覆い被さるように。
 その脚の間に、身を押し進め。
「あ、ッあァ・・・・・・」
 濡れた、音と。
 嬌声は。
 夜半過ぎまで、止む事はなかった。




「良い酒を貰った・・・・・感謝する」
 昼時前に。
 此処、如月骨董品店を訪れ、口元に微かに笑みらしき
ものを浮かべ、礼を述べた弥勒の。
 その、顔にも振る舞いにも。
 宿酔いの気配は、なく。
「口に合ったのなら、幸いだ」
 企みは失敗だったのかと、こっそりと溜息を漏らせば。
「龍さんも、気に入ったようだ」
「・・・・・彼、も・・・飲んだのかい?」
 怪しませないために、仕方なかったのかと。
 首を傾げるのに。
「・・・・・酔った龍さんは、可愛いな」
 薄い唇が。
 笑みを濃くして。
 目、だけは鋭いままに。
 奈涸を見据えてくるのに。
 それ、は。
 龍斗を、酔わせるのは。
 それが、許されるのは。
 自分、だけなのだと。 
 奈涸に対する、牽制と。
 ある意味、惚気のようなものを。
 含ませつつ。
「・・・・・堪能、したようだな」
「・・・・・ふッ」
 どうやら。
 龍斗の企みは。
 違う方向で。
「せいこう・・・・・」
「何だ」
「いや、ではこの鑿は下取りと言う事にさせて貰おう」
 漢字が違うがな、と。
 妖しげな考えは、片隅に追いやって。
 すぐに、店主としての顔に戻るのを。
 弥勒は、興味深げに眺めつつ。
「宜しく頼む」
 油断は、ならぬと。
 胸の内で、呟き。

 そして。
 龍斗は、といえば。
 やはり、ひどい宿酔いに。
 布団から、起きあがれず。
 看病を申し出る者が、殺到したとかしないとか。

 何事も。
 程々に。





・・・・・エロですかね(目線逸らし)。
っつーか、うちの弥勒・・・ムッツリス●ベ決定。
・・・・・・・・・・ああああああ(頭抱え)。
奈涸さん、相変わらず暗躍中。
・・・・・忍者め(苦笑)。