『常夜』



「あ、あァ・・・ッん」
 緩やかに押し寄せる波のようだった動きが、次第に
打ち付ける激しいものとなる。
 繋がりあった部分も、触れあう肌も、濡れて。
 内も、外も。
 熱くて。
 とろけそうな程に。
 甘く。
 狂おしく。
 愛おしい、熱が。
 支配する。
「龍、龍・・・・・ッ」
「・・・天、戒ッ・・・あ、あああァ・・・ッ」
 名を呼ばれ。
 グ、と。
 最奥を穿ったものが。
 弾け、ドクリと。
 この日、初めての精を放つ。
 数瞬、遅れて。
 龍斗も、昇り詰め。
 残滓を搾り取るように、内壁を痙攣させながら。
 自分も腹に、欲を吐き出して。
 身体の奥に広がる、自分のものではない熱と。
 射精後の、恍惚とした浮遊感に。
 そろりと、息を吐きながら。
 きっと、すぐに訪れる。
 新たな、波を待てば。
「・・・・・?」
 だが、しかし。
 それは、訪れることなく。
 龍斗の内に放った後、覆い被さるようにして、荒い息を
整えていた男は。
 やや勢いを削いだものの、まだ十分に固くそそり立つ自身
を、柔らかな肉鞘から。
 気遣うように、ゆっくりと抜き出し。
 その隣に、ゴロリと身を横たえると、まだ半ば放心状態の
龍斗の頭を抱え、己の腕を枕代わりにして。
 そのまま。
 眠りに落ちようとするのに。
「・・・・・天戒?」
 情交の余韻を滲ませた、掠れた声で。
 呼べば、閉じていた瞳がゆるりと開き。
「・・・・・眠れ」
 囁くように告げて、また目を閉じようとする。
 何処か。
 目を合わすのを、躊躇うような。
 それ、が。
「天戒・・・ッ」
 どうにも、苛ら立ちを覚えさせて。
 まだ気だるさを残す身体を、どうにか起こして。
 横たわる、天戒の上に。
 のしかかるようにすれば。
「・・・・・龍」
 咎める、というより。
 困惑したような、瞳と。
 ぶつかって。
「・・・・・どうして?」
 そろりと、下腹部に手を這わせれば。
 その昂りは、龍斗を翻弄するに十分に。
 これ、を。
 いつものように。
 また、挿し入れて。
 思うまま、揺さぶってくれればと。
 思う、のに。
「して、くれないのなら・・・・・」
 自分で、と。
 天戒によって濡らされたばかりの、双丘の奥に。
 猛る肉塊を、導こうとするのに。
「・・・・・待て」
 やんわりと。
 それを、押しとどめて。
 困り切った、表情のまま。
 やがて、溜め息をつきつつ。
 ボソリと。
「程々に、・・・・・するようにと、な」
 呟いて。
 視線を彷徨わせるのに。
「・・・・・誰に、・・・・・桔梗?」
 問いかけて、すぐに浮かんだ名を口にすれば。
 微かに、口元を歪めて。
「・・・・・そう、だ」
「何て、言ったの・・・?」
「離したくない気持ちは分かるが、程々にしておかぬと
・・・・・お前、を壊してしまうと・・・」
 それは。
 つまり、夜毎の睦み合いを。
 しかも、明け方まで冷めやらぬ、熱情を。
 知って。
 知られて、いての。
 その上での、気遣いで。
「それ、に・・・」
「ッまだ、何か・・・・・?」
 龍斗の身体を慮っての言葉は有り難いのだが。
 それにしたって。
「尚雲、にも・・・・・な」
「・・・・・程々に、って?」
 出て来た名に。
 思わず、声をあげれば。
「『いや』と言っても『いい』と取ってしまうのだろうが
加減してあげないと、と言っていたな・・・あァ、奈涸にも
同じような事を・・・それから、壬生も含みのある・・・」
「もういいよ、天戒・・・」
 どんどん連ねられそうな、仲間の名に。
 うんざりした様子で、それを遮って。
「つまり、みんなに忠告されて、それで今夜は控えめにして
くれたってこと、なんだ?」
「・・・・・」
 やはり、困った顔で。
 無言のままではあったが、それは肯定で。
「・・・・・余計なことを」
 舌打ちさえしかねないような、口調で。
 眉間に、うっすらと皺を寄せるのに。
 呆れとも不機嫌ともつかぬ、その様に。
 宥めるかのように、そろりと龍斗の頬に手を這わせて。
「皆に言われなければ、・・・気付かぬまま、お前を・・・」
「壊すところだった、とか言うわけ?そんなヤワじゃないよ
俺は」
 とは言うものの。
 天戒の目に映る、龍斗の肢体は。
 こうして衣服を取り去ってしまえば。
 本当に。
 格闘術を使いこなす男とは、思えぬ程に。
 細く。
 脆弱さこそ、感じさせはしないものの。
 白く。
 ともすれば、儚げにも見えて。
 連夜の、激しい求めに。
 耐えうるのが、いっそ。
 不思議なくらいで。
「しかし、龍・・・・・」
「何か、勘違いしてない?」
 しかし、真直ぐに天戒を見下ろす瞳は。
 何処までも。
 深く。
 強く。
「別に、俺は天戒に流されて、こういうことをしてるんじゃ
ない。求められて、身を投げ出してるなんて・・・・・ただ
おとなしく抱かれてるだけだなんて、思われるのは心外だ」
「た、つ・・・・・」
 吸い込まれる。
 囚われて、しまう。
「きっと、天戒だって知らないくらいに・・・俺は、天戒を
求めてる・・・いつだって、欲しくて欲しくて堪らない」
 囁き、とは言えぬ。
 強い口調ではあったけれど。
 それは、深く。
 甘美な、響きでもって。
「俺が、欲しいものを・・・天戒は、くれるから・・・・・
沢山、くれるから・・・・・それが幸せだと思いこそすれ
・・・加減だなんて、そんな優しさは要らない」
 だから。
 いつだって。
 その全てでもって。
「殊、お前に対しては・・・・・俺は、欲が深いぞ」
「うん、・・・俺も天戒には貪欲だよ」
「いつか、本当に・・・壊してしまうかもしれぬぞ」
「壊れないよ・・・・・でも、壊れる程、抱きしめられたら
・・・・・嬉しい」
 そして。
 誘うように、ゆっくりと。
 下りて来る、唇を。
 受け止めて。
 捕らえて。
 貪る、ように。
「ん、ッ・・・そう、もっと・・・・・天戒」
 互いを。
 深く、求めれば。
「挿れる、よ・・・」
 更に、より一層の繋がりを、と。
 浮かせた腰を、口付けに煽られ充実した、そこに。
 宛てがい、性急ではなく、その形を。
 熱さを、確かめるように。
 落とし。
 じわじわと、飲み込ませれば。
「あァ・・・・・ん、すごい、・・・ね」
 内を充たす、熱塊に。
 うっとりと、目を細め。
 背をしならせれば。
 無防備に曝された、白い喉元に。
 誘われるように、上体を起こし。
 薄い皮膚に、歯を立てて。
「ならば、・・・・・遠慮は、せぬ」
 滑らかな肌を、唇で舌で味わいながら。
 雄を突き立て。
 沸き上がる、衝動のままに。
 絡み付く、情動のままに。
 揺さぶり。
 与え、与えられる激しい快楽に。
 その裏側で、静かに生まれる。
 安堵にも似た、心地よい穏やかな淵に。
 身も、心も。
 沈めて。
「龍、ッ・・・・・」
 仰け反る背を、褥に押し当てて。
 脚を高く抱え上げ、今度は。
 上から、突き下ろすように。
 深く、浅く。
 折り曲げられた身体は、どこまでも柔らかくしなって。
 その言葉通り、貪欲なまでに。
「天戒、天戒、・・・ッあァ・・・、もっと・・・ねぇ」
 強請り。
 雄を、迎え入れ。
 悦ぶ。
 その、様を。
「・・・・・ふふ」
 喘ぎながらも、口元に。
 ゆるりと笑みを浮かべた龍斗が、見上げる天井。
 気配は。
 掻き消すように、去って。
「・・・・・意気地なし」
 気遣う心は、おそらく偽りなどなく。
 だけど、半分は。
 手に入れたい。
 手に入らない、ものへの。
「あいつだけじゃ、・・・・・ないけどね」
 欲しいならば。
 正面から。
 そう。
 この、男のように。
 その、手で。
「ッ何、を・・・・・考えている」
 欲に掠れた声が。
 荒い息遣いが。
 張り詰めた、欲望が。
 絶頂を、予感させる。
「ふ、・・・・ッ天戒、の・・・ことだ、け・・・・・」
 乱れる吐息で、告げて。
 燃えるような、紅い髪をかき抱けば。
 身体の奥に。
 打ちつけられる、灼熱の。
「そう、俺のことだけ・・・・・考えていれば、良い」
 迸りを、受け止めて。
 そして。
 また。
「そう、させて・・・・・」
 誘い掛ければ。
 応える、口付けと。
 下肢を支配する、熱に。
 まだ。
 夜明けは。
 遠い。




御屋形様もさることながら、ひーたんも(頬染め)。
周囲のアレコレなど、聞く耳持たぬアレっぷりは
如何なものか・・・・・(遠い目)。
まあでも、やはり程々にな(親心←誰)。
そして、屋根裏に潜む影(っつーか、亀)。