『水恋』



 夢、を。
 見ていたのだと。

 暖かな、水。
 穏やかな、流れに。
 漂う、小舟のように。
 身を委ねて。
 包み込むような、柔らかな感触が心地よく。
 伸びをするように、四肢を解けば。
 くすぐるように。
 寄せる、波が。
 肌を、滑るのに。
「あ、・・・・・」
 掠めるような、刺激に。
 思わず、溜め息が零れ。
 やがて。
 ゆるりと。
 押し寄せる波が。
 その流れでもって、誘うがままに。
 両足を、開けば。
 それを待っていたかのように。
 スルリと。
 滑り込んで来る、水は。
 少し、その温度をあげて。
 自分の、身体と。
 同じ、その熱に。
 取り巻く、波に。
 溶けてしまいそうな程に。
「・・・・・ん、・・・」
 開いた脚の奥にまで入り込んで来る、柔らかな水に。
 与えられる、ゆるやかな快感に。
 微かな、羞恥は。
 夢見心地に、消えて。
 敏感な部分を、愛撫するような濡れた感触にも。
 うっとりと。
 全てを委ね、されるがままに。
「・・・・・もっと、・・・・・」
 恍惚として。
 知らず、強請るような言葉を、漏らせば。
 快楽を引き出すような、ねっとりとした動きが。
 次第に、その勢いを増して。
「あ、あァ・・・・・んッ」
 導かれる、ままに。
 自身を解放してしまえば。
 ピチャリと、濡れた音がして。
 水の中、なのに。
 変なの、と。
 微かに、笑みを漏らせば。
 その唇を波が、くすぐるから。
 誘われるように。
 薄く、開けば。
 すぐに。
 忍び込み、上顎を撫でるように。
 やがて、しっとりと舌に絡み付く。
 まるで。
 意志を持っているような、水の動きに。
 その間も、肌を滑る感覚に。
「・・・・・ふ、ッ・・・」
 もっと、ずっと。
 このままで、いたいと。
 感じた。
 次の、瞬間。
「あ・・・ッや、あァァァ・・・・・ッ」
 突然。
 波は、激しい動きで。
 脚の間に押し入り。
 信じられぬ程、熱い塊となって。
 その奥を。
 貫いて。
「いや、ァ・・・・・あ、ッ・・・」
 裂かれる、痛みに。
 そこ、から逃れようと。
 身を捩るけれども。
 ここ、は。
 何処、なのだろう。
 身体の中心に突き刺さったものは、ゆるやかに。
 そして、激しく。
 内を侵し、突き上げる動きで。
 波、に。
 揺れて。
 流されて。
 何処へ。
 行ってしまうのか。
「は、ァ・・・・・んッや、・・・あ・・・」
 身体を貫いていた、痛みは。
 いつしか、痺れのような。
 不思議な感覚に、摺り替えられて。
 溢れる吐息に混ざる、声も。
 その、甘い喘ぎも。
 自分のものではない、ようで。
 自分が何処にいるのか。
 どうなってしまうのか。
 怖くて。
 何か。
 誰か。
 縋るものを、求めて。
 手を。
 伸ばせば。
「・・・・・あ、・・・」
 触れる。
 布の、感触と。
 その下に、確かに存在する。
 人、の。
 体温に。
「たす、けて・・・」
 しがみ付くように。
 腕を回せば。
 微かに、笑ったような気配がして。
 それにすら。
 安堵、すれば。
「たす、け・・・・・あ、ァ・・・ッん・・・」
 いつしか。
 取り巻いていた水の感覚は、潮が引くように消えて。
 それでも、揺れる。
 揺さぶられる、波の。
 貫いた熱は、そのままに。
「んッ・・・・・、ふ・・・あァ・・・ッ」
 辺りは、闇に包まれて。
 自分が、今縋っている相手も、黒い。
 黒い、闇色の装束を、身に着けているのだろうか。
 布越し、感じる体温に。
 荒い、息遣いに。
 早い、鼓動に。
 そして、己を貫いた、確かな。
 熱い肉の、生々しさに。
 夢から、覚めて。
「ああッ・・・・・ん、ッ・・・や・・・」
 より一層。
 強く深く。
 全身を支配する、甘い疼きに。
 快楽に。
 抗うことすら、忘れて。
 ただ。
 目の前の、男に。
 全て。
「ひ、ゃ・・・ッああァ・・・ッ」
 絡め取られるままに。
 グ、と。
 最奥を突いた、そこから。
 灼熱の。
 迸りが、広がって。
 衝撃に引き摺られるように、自分もまた達し。
 内に、外に。
 支配する、熱に。
 意識を、奪われそうになるけれども。
「だ、れ・・・・・?」
 力強い、腕で。
 自分を抱く、男の。
 貌は、闇の中。
 顔半分を覆う黒布から、覗く。
 瞳、が。
 それだけが。
「・・・・・誰・・・?」
 再び、問えば。
 ス、と。
 瞳が細められて。
「・・・・・いずれ、知ることとなる」
 初めて。
 聞いた、声は低く。
 やや、掠れ。
 それだけで。
 まだ、内に燻るものを。
 熱く。
 震わせる。
「・・・・・あ、ッ・・・」
 知らず、まだ中に残る雄を締め付けてしまって。
 途端、背を駆け昇る快感に。
 溜め息を漏らせば。
「・・・・・忘れるな」
「あ、ッ・・・・・あああァ・・・ッ」
 耳元に。
 囁いて。
 言葉ごと、刻み付けるように。
 果てても尚、充分な固さを持つ、それを。
 期待に震える、内壁に。
 捩じ込むように、突き入れて。
「これ、を・・・・・忘れるな」
「や、ッあァ・・・んッ・・・ふ、ァ・・・ん」
 忘れる、ことなど。
 出来るはずない、と。
 伝えたくて、でも。
 言葉に、ならずに。
 嬌声だけが、口をついて出るのが。
 もどかしくて。
「ね、・・・ッお・・・しえ、て・・・・・」
 せめて。
 どうか。
 呼ぶべき。
 名前、を。
 聞かせて。
「・・・・・、だ」
 熱い吐息と共に。
 耳朶を、震わせた、それは。
 やはり。
 水、を。
 思わせる、響きの。

   ながれ

「・・・・・な、がれ・・・」
 呼んで。
 縋れば。
 引き降ろした布から、覗いた唇が。
 下りてきて。
 それが。
 嬉しくて。
 自ら唇を開いて。
 招き入れた舌に。
 自分のそれを、絡め。
 下肢から与えられる快楽に、合わせて。
 ゆるりと。
 自分から、腰を揺らめかせて。
「ながれ、ながれ・・・ッ」
 深く。
 もっと、深くに。
 刻み込みたくて。
 教えられた、その名を。
 呼んで。
 ひたすら。
 呼び続けて。



 水の。
 匂い。
 誘われるように、重い瞼を開ければ。
 そこは。
 この寺で、自分に与えられた、部屋。
 布団の上。
 昨夜、寝入った時のように。
 横たわって。
「・・・・・ゆ、め・・・?」
 呟いた、声が。
 掠れていたのは、寝起き故か。
「・・・・・あ、ッ・・・」
 それとも。
 まだ、僅かな火種のように。
 下肢に燻る。
「・・・・・あれ、は・・・」
 夢、では。
 夢、などでは。
「・・・・・ながれ」
 耳に残る、声を。
 辿るように、名を。
 唇に、乗せれば。
 酷く。
 懐かしい。
 それ、は。
「ながれ・・・・・」
 薄暗闇の中。
 そっと、目を閉じれば。
 濃密な、水の香。

 雨が。
 降る。




叙情的・エロ(何)。
本家本元、水と言えば奈涸さんてコトで(悦)。
水の夢を見ると、おねしょというのが定番ですが
・・・オトナだから、違うもの出ちゃった(待て)v
っつーか、誰かこの夜這い野郎、しょっ引いて下さい。