『その理由』
「どうして俺を、好きになったの?」
突然、そう問い詰められて。
答えに惑えば、君は少し拗ねたような表情で。
畳の上に、ころりと転がって。
上目遣いに、俺を見るものだから。
「・・・・・だーめ」
誘われるように、その肢体に覆い被さろうとすれば、
それをやんわりと拒まれて。
悪戯な輝きを帯びた瞳が、笑いながら告げる。
「俺の質問に、ちゃんと答えないと」
お預けだよ、と。
そんな憎らしいことを、言ってのける君、に。
後で覚えておくんだな、と渋々身を起こして。
そして考えて、みる。
俺が。
君を、好きになった、その。
理由を。
「・・・・・」
半時程、そうして答えを探していただろうか。
君は相変わらず、畳の上に寝そべり、子猫のように
好奇に満ちた瞳を輝かせて。
俺を見上げて来るのに。
「どうしたの、奈涸」
クスクスと笑う声に、思考を掻き乱され。
でも。
どうしたって。
答えは、見付からなくて。
否。
どんな些細な事も、全部当て嵌まるようで。
何もかもが、君に繋がっていて。
いっそ、答えが溢れているようなものなのに。
これ、といった決定的なものが、見付からない。
「・・・・・困ったな」
「んー?」
「どれもこれも、・・・・・全てが理由だ」
何それ、と。
不思議そうな顔で。
腹這いのまま、擦り寄るようにして。
正座をした俺の膝の上に、ちょこんと頭を乗せて。
答えを、促すのに。
「いや、・・・理由なんて、在って無いようなものかも
しれない・・・・・気がつけば、いつのまにか君を好きに
なっていた・・・どうしてなのか、分からない・・・ただ
今、理由を探そうとすると・・・何もかも、こじつけて
しまいそうになる」
「・・・・・よく分からない」
「・・・・・俺も、よく分からない」
溜め息と共にそう告げて、苦笑すれば。
彼も、フワリと笑みを返して。
「同じだね」
「・・・・・なに?」
「俺も、そう・・・・・奈涸を好きになった理由を、考え
ようとしても、答えなんて出て来ない・・・というか、
どれもこれも理由になりそうで」
理由なんて、分からないし。
きっと、理屈でもないんだね。
そう言って、微笑って。
くるりと仰向けになって、目を閉じてしまうから。
「・・・・・それで、良いのかい?」
囁くように問いかければ、応えはなく。
また逃げられてしまうかもしれないと思いつつも、そろり
と身を屈めて。
額に。
そして、鼻梁を辿って。
唇に。
己のそれで、掠めるように触れれば。
ゆっくりと、瞳が俺を映して。
くすぐったそうに笑う、君。
「ね、・・・・・ずっと考えててよ」
「理由を、かい?」
「そうじゃなくて、ね」
俺の、こと。
ずっと、考えてて。
そう、吐息で告げられて。
身体を走る、甘い痺れに狂わされそうで。
「・・・・・正直だね、奈涸は」
「な、・・・・・ッ」
含みのある笑いでもって、彼はゆるりと。
後頭部を、膝の間に押し付けるようにするものだから。
きっと、悟られてしまっている。
この、あからさまな欲を。
「ずっと、考えててよ・・・俺のこと」
今度は、はっきりと告げられて。
込み上げてくる、ものを。
どうしてたって、抑えることなど。
「俺はもう、君のことしか考えられないよ」
理由も理屈も、なく。
ただ、君が愛おしい。
それだけ。
それだけ、なのだ。
「君も、・・・俺のことしか考えられなくしてあげよう」
「・・・・・ふふッ」
微かに朱に染まった、頬に。
唇に。
首筋に。
鎖骨に。
胸元に。
ゆっくりと、口付けを落としながら。
そろりと畳の上、横たえた彼の身体に身を重ねれば。
すぐに背に、腕が回されて。
「お預け、撤回・・・・・来て、奈涸」
ペロリと舌を出して、笑う君に。
どんな、君にだって。
どうしようもなく、溺れてしまう。
理由も理屈も、なく。
そういうもの、なのだ。
愛おしくて
君が、どうしようもなく愛おしくて。
ただ、それだけなのだ
奈涸さんの御誕生日記念SS・・・の
つもり(ヲイ)。珍しく(??)エロでなく。
愛おしいと思う気持ちに、敢えて理由だの
理屈だのを付ける必要はなく。