『その色に』



 彼を初めて見た印象は、『白』だった。
 無垢、という訳ではない。
 綺麗な事だけではなく、汚いと言われるような物事だって、
きっと彼は知っている。
 だけど、彼は。
 どこまでも、白く。
 触れれば、思うままの色に染まる。
 彼、を。
 自分の色に、染め上げてしまいたいと。
 強く。
 強く、願った。


「・・・・・綺麗な、肌だな」
 月の光の中で。
 夜目にも鮮やかな、肌理を辿るように、手を這わせれば。 
 伏せられた睫毛が、微かに震える。
 促すように、そこに口付ければ。
 ゆるりと開かれる、瞳が。
 捕らえて。
 離さない。
「・・・・・京梧」
 名を呼ばれて。
 それを合図に、唇を滑らせて。
 薄く開いた彼のそれに、触れ。
 吐息に誘われるように、深く深く侵入して貪れば。
 ゆっくりと絡み付き、応える舌。
 教えたのは、他ならぬ自分で。
 その間にも、はだけた着物の間から忍び込ませた手でもって
滑らかな肌を撫で上げてやれば。
 熱を帯びる、身体。
 早い、鼓動。
 やがてしっとりと汗を浮かび上がらせて、手に吸い付いてくる、
肌理の細やかさに酔いしれながら。
 庭の木を背に立たせたままの龍斗を幹に押し付けるようにして。
 首筋に。
 胸元に。
 白い肌に、紅い所有の証を刻んで。
 幾つも。
 それはまるで、新雪に散らした色鮮やかな血痕。
「ッ、・・・あァ・・・・・」
 与えられる刺激に、甘やかな溜め息を漏らす。
 唇で、手で。
 触れる部分は、確実にその熱を高めていくから。
 触れればすぐに、溶けて消えゆく雪では、ないと。
 半ば、安堵したように。
「あァ、でも・・・」
 ここは、溶けそうだと。
 跪き、既に覆う布を取り去った下肢に、顔を埋めて。
 震えて勃ち上がる、龍斗の欲に唇を寄せ。
 先端を舐め上げ、そのまま口に含んで。
 軽く吸い上げれば、肩に触れる太股がピクリと痙攣したように。
「ん、ッ・・・や、ァ・・・・・ッ京、梧」
 掠れた声に、煽られるように。
 やや性急に愛撫を与えれば。
 京梧の頭を押し退けるように。否、導くように添えられた両手が
明るい色の髪を、掻き乱す。
 膝が、ガクガクと震え。
 幹に身を預けて立っているのが、やっとという様は。
 限界が近い事を、知らしめて。
「も、ダメ・・・ッ出、・・・ちゃう・・・よ、ォ・・・ッ」
 常の彼らしからぬ、何処か甘えたような、声が。
 それを聞くのが、自分だけだという愉悦が。
 堪らなく、身体を熱くさせる。
「いいぜ・・・・・出しちまえよ」
「ひ、ッや・・・あ、あああァ、ッ・・・」
 かかる熱い吐息に、声に。
 そして、与えられた強い刺激に促されるままに、龍斗は埒を開け。
 小刻みに震え、緊張を解いてゆるりと弛緩し、崩れ落ちそうになる
身体を、立ち上がった京梧が押し付けた自分の身体でもって木へと
縫い止めて。
 孕んだ熱は、抑えようもなく。
 既に充実した昂りが、布越しにもあからさまに、その存在を主張
して。
 押し当てられる、堅さに。
 龍斗は、余韻に濡れた瞳を、そろりと上げて。
「挿れ、て」
 声色も、濡れた艶を帯びて。
 まっすぐに強請る囁きに、誘われるままに。
 立ったまま、脚を割り開き、下肢を潜り込ませるようにして。
 今しがた放ったばかりの龍斗の体液で濡らした蕾へと。
 張り詰めた欲を、宛てがって。
「ん、ッ・・・・・あァ、ッ・・・・・」
 滑りに導かれるままに、一気に突き上げれば。
 喉をついた微かな悲鳴にも、艶めいた響きが混ざって。
 痛みを訴えるばかりだった、この行為に。
 いつしか、慣れ。
 すぐに快楽に摺り替え、溺れるように。
 そうしたのは、やはり自分で。
「凄ェ、ひーちゃん・・・・・」
 締め付ける熱い粘膜に酔わされながら、更なる快楽を与え求めて
何度も揺さぶり上げれば。
 浮かされた脚が、京梧の腰に絡み付き。
 腕は、爪を立てんばかりに背をかき抱いて。
「京梧、ッ・・・イ、・・・ッ京梧、・・・」
 密着する、身体。
 繋がりあった、下肢が。
 揺れて。
 擦れて。
 新たな熱と、欲を生み出し。
 溢れ出しそうな程に、いっぱいに満たし満たされながらも。
 飽く事無き激しい熱情に、ただ。
 互いを、貪りあうように。
「す、きだ・・・好きだ、・・・・・龍斗」
 うかされたように、耳朶に囁く。
「このまま、・・・俺の・・・俺だけのものに、なっちまえよ」
 絶対に。
 離さない、から。
 熱く。
 甘い声に。
 龍斗は、ゆるりと。
 首を、左右に振った。
「・・・・・いや、だ・・・」
「た、つと・・・?」
「こんな、・・・時に・・・言わない、で・・・・・」
 忘れる、から。
 情欲に突き動かされたままの、言葉は。
 いつか、きっと。
「そうじゃねぇ・・・龍斗、・・・俺は本当に・・・・・」
「・・・・・ッ」
 動きを、止めて。
 まっすぐに。
 瞳を、見据えて。
「お前を、愛おしく思っている・・・・・俺の、龍斗」
 告げられる。
 言の葉。
 それは、ゆるりと。
 身体を、心を。
 縛る。
 言霊。
「・・・・・京梧」
 捕らえられた、心が。
 密やかに上げた、悲鳴は。
 歓喜か、それとも。
「愛、して・・・・・俺を、もっと・・・」
 そして。
 いっそ。
 壊して。
 その呟きは、声にならず。
 口付けに。
 溶ける。



 身も心も。
 貴方の色に、染め上げられて。
 そして、いつか。
 貴方しか見えなくなった、私は。
 何処へも、行けずに。
 此処に。
 此処に、眠る。





白は花嫁さんの色で(微笑)v
京梧の望み通り、ひーたんは彼の色に
染め上げられてく訳なのですが。
・・・・・責任取って頂かねばなのです(真顔)。
ちょこりと、以前書いたSS『解放』と繋がる
ようなカンジでv
甘々も大好きですが、こういうのも微妙に(何)。