『初心』





 告白した、その日。
 初めて、手を繋いで。
 抱き締めたのは、翌日。
 唇を重ねたのは、それから3日後のことで。

 本当に、一歩ずつ。
 少しずつ近付く、彼との距離。
 少しずつしか、近付けない。
 その距離を一気に跨いでしまいたいと思うのは。
 贅沢な、望みなのだろうか。

「ほんまは、すぐにでも押し倒して、本懐遂げさして貰いたい
んやけどなぁ・・・」
 昨夜は、同衾を許して貰えた。
 ただし。
 ひとつ布団で。
 寝る、だけ。
「・・・・・生殺しや・・・」
 同じ布団で、寄り添うように。
 相手の吐息も、体温も。
 手を伸ばさなくても、触れる距離。
 というより、動けなかった。
 なけなしの理性を総動員して、ようやく。
 何事も無く、朝を迎えて。
 フワリと目覚めた龍斗が、すぐ隣に横たわっている們天丸を
見つめて。
 はにかんだような、貌で。
 おはよ、と。
 それが、嬉しくて。
 少し、切なくて。
 おはようさん、と。
 額に口付けるのを。
 龍斗は、くすぐったそうに笑って受け入れてくれた。


「們天丸ー」
 足元で、声がした。
 見なくたって判る、彼の。
「・・・おかえり、龍斗はん」
 腰掛けていた枝をバサリと揺らしながら、大木の下に立って
いた龍斗の前に飛び下りる。
「ただいま」
 們天丸の顔を見ると、龍斗は嬉しそうに、その胸へとまるで
体当たりでもするように飛び込んでくる。それを、腕を広げて
しっかりと受け止め、綺麗な黒髪に唇を寄せた。
「ん?もう、ひとっ風呂浴びて来たんかいな」
 微かに漂う水の香に、伺うように顔を覗き込めば。
「偵察の任務の途中で、一騒動あってね・・・随分、埃まみれに
なったから・・・」
「さよか、・・・お疲れさん」
「們天丸も、来るかと思ってた・・・」
 コツリと額をぶつけるようにして、呟いた龍斗の貌は。
 少し、拗ねているかのようで。
 胸に込み上げるくすぐったげな感覚に、們天丸は自然口元を
綻ばせた。
「・・・堪忍、わいは今日は御山の見回り担当やったさかいな」
「知ってる、・・・・・ごめん」
「わいかて、あんさんと一緒におりたかった・・・」
 それは、本当で。
 離れたく、ない。
 離したくは、ないのだと。
 その想いを込めて、唇を重ねれば。
 微かに震えながらも、応えてくる素直さに。
 このまま、彼をこの場に組み伏せて何もかも思うままに貪って
しまいたいと急く、狂暴な欲と。
 この清廉さを大切に護っていきたいと思う、穏やかな慈しみの
感情とが。
 同時に、們天丸を襲って。
 酷く、心が乱れるのに。
「・・・・・ね、今夜も・・・一緒にいよう?」
 その言葉が。
 更に、心を乱すのに。
「また、一緒の布団で寝るんか?」
 肌で触れ合えないもどかしさに、気が狂いそうな夜を、また。
 それでも、龍斗が望むのなら、と。
「・・・・・今夜、は・・・」
 覚悟を決めた們天丸の、目の前で。
 まっすぐに隻眼を見つめ返していた龍斗の瞳が、微かに潤んだ
ように、揺れる。
「・・・・・えっと、どう言えば良いのか分からない・・・けど」
 目元を、うっすらと朱に染めて。
 艶を帯びた、その貌に。
 トクリ、と。
 鼓動が、高鳴る。
「龍斗、はん・・・?」
 薄紅色の、唇が。
 戸惑いながらも、はっきりと。
 それを、告げた。

「・・・・・俺を、抱い・・・て」




 どうやって、部屋まで戻って来たのかさえ分からない。
 性急に敷き詰めた布団の上に、龍斗を横たえて。
 しなやかな身体を、縫いとめるように覆い被さる。
 震える吐息を奪って。
 口腔をなぞり、ねっとりと舌を絡め吸い上げれば。
 強張ってしまっていた身体が、ゆっくりと弛緩して。
 おずおずと背に回される腕に、昂揚する気持ちを抑えることなど
出来るはずも、なく。
 慣れた手付きで着衣を剥ぎ取り、あらわにした白い肌に唇を寄せ
音を立てて吸い上げては、ひとつひとつ己の印を刻んでいく。
「ッ們天丸・・・」
 口付けを降らせる度に、ヒクリと震える肌が。
 愛おしくて。
 薄く色付いた胸元の飾りを舐め上げ、軽く甘噛みすれば。
「や、ッあァ・・・・・」
 掠れた嬌声が、増々雄を煽るから。
「ここ、・・・・・弱いんやなぁ・・・」
「あ、・・・やッ・・・ん、あァ・・・ッ」
 片方を舌でくすぐるように突つきながら、もう片方の突起を指の
腹で押しては、転がすように撫でてやれば。
 おそらく、初めての刺激に。
 全身を、ほんのりと桜色に染め上げて。
 欲を、掻き立てるのに。
「ほんま、・・・可愛いなぁ・・・龍斗はん」
「ッや、・・・・・」
 空いた方の手で、ゆっくりと脇腹を辿り。
 既に屹立している龍斗のそれを、包み込むように指を絡めれば。
 初めて、怯えたような視線を向けて、ゆるゆると首を振る。
「嫌、やない・・・やろ」
 あからさまな拒絶では無いと、見て取って。
 先端からトロリと零れ落ちる先走りの体液を、親指で拭うように
して。その滑りでもって、張り詰めた幹を撫で上げてやれば。
「ッ・・・や、ァ・・・んッ、ふ・・・あァ・・・」
 瞬きをした刹那、瞳から零れ落ちた涙を。
 們天丸は、舌でもって掬い取り、目元に宥めるように口付けを
落として。
「怖いこと、あらへん・・・」
 舐め取った涙は、甘露のようで。
 頬に、首筋に。
 半ば恍惚としながら、唇を這わせて。
「わいに、・・・・・全部、任しとき・・・」
 一旦身を起こし、指に絡んだ体液を舌で舐め上げると。
 龍斗の息を飲む気配を感じながら、そっと膝を押し開き。大腿の
内側にも口付け、紅い印を幾つも散らしながら。やがて辿り着いた
そこに、頭を埋めるようにして。濡れて勃ち上がり、心細げに震える
龍斗自身に。
 唇を寄せて。
「や、・・・ダメぇ・・・・・ッ」
 そのまま、熱を帯びたそれを、すっぽりと口腔で包んでやれば。
 半ば悲鳴のような声が上がるけれども。
「ダ、メ・・・ッん・・・あ・・あァ、・・・ん」
 先端の窪みに、舌先を掠めるようにして。じわじわと、刺激を与え
追い上げれば。
 初めて与えられる、快感に。
 すぐに、甘い喘ぎを漏らして。
 それでも、押し寄せる快楽を。漏れる声を、どうにか押し殺そうと
する、それが堪らなく。
 愛おしさと狂暴さを、煽って。
 性を同じくする者だから、快楽の糸口を見つける事等、們天丸には
容易く。伝う体液を後孔に指で円を描くように塗り付け、ゆっくりと
解して。その刺激にも反応し震えるそれに、唇と舌と手でもって。
丹念に愛撫を施せば、あっけなく。
「ッや、・・・あああァァ・・・ッ」
 快楽の波に流されるまま、龍斗はその精を吐き出し。
「・・・・・ッ、な・・・」
「ごちそうさん・・・」
 当然の事のように、口で受け止めた白濁を飲み下し、ニッと笑う
們天丸を。
 濡れた瞳が、呆然と見上げて。
「な、に・・・飲ん・・・」
「龍斗はんのもんやったら、・・・なんでも欲しい」
「だ、からって・・・」
「ほんまに、全部甘いんやなぁ・・・龍斗はんは」
 うっとりと。
 隻眼を細め、開かせた膝の間に自分の腰を割り込ませるようにして。
「あ、ッ・・・・・」
 己の昂りを、押し付ければ。
 その、熱に。大きさに。
 表情に、明らかに怯えが過るのに。
「そんな顔、せんといて・・・すぐ、気持ち良くしたるさかい・・・」
 宥めるように、額に口付け。
 初心のそこを傷つけることのないよう、慎重に身を押し進めれば。
「や、いや・・・・・ッ嫌だ、們天丸・・・・・ッ」
 熱い杭に、蕾が拓かれる瞬間。
 のしかかる們天丸の肩を押し退けるようにして、龍斗が。
 身を捩り激しく抵抗し出すのに。
「龍斗、はん・・・・・ッ大丈夫や、わいが全部・・・」
「だ、から・・・・・ッ嫌、・・・そんなこと、言う・・・のは」
「・・・・・龍斗はん・・・」
 強張る身体を、無理矢理拓く事など出来ようはずは、なく。
 突き入れかけたそれを、離し。
 身を起こして、龍斗を見遣れば。
 子供のように身を丸め、時折しゃくりあげながら。
 ポロポロと、大粒の涙を零すのに。
 そんな、恐ろしい思いをさせてしまったのかと。
 胸が、締め付けられる。
「・・・・・堪忍・・・」
「・・・ッ、ちが・・・そ、じゃ・・・ない・・・們天丸、が・・・」
「わい、が・・・・・何・・・?」
 上手く紡げぬ言葉で。
 それでも、何かを伝えようとするのに。
 怯えさせないかと、躊躇しながらも。
 そろりと、髪を梳いてやれば。
「・・・・・們天丸、は・・・慣れてる・・・から・・・」
「・・・・・慣れてる、て・・・」
 少し、落ち着いて来たのか。
 四肢の強張りを、ゆるりと解いて。
 まだ止まらぬ涙をたたえた澄んだ瞳が、それでもまっすぐに們天丸を
見上げてくるのに。
「こういう、こと・・・們天丸はきっと何度も経験して・・・、ッ全部
知ってて・・・でも、俺は・・・・・何も知らない・・・全部が初めて
のことで、どうしたら良いのか分からないのに、們天丸は・・・こんな
時でも、大人で余裕で・・・」
 震える手が。
 們天丸の腕に、縋るように。
 触れて。
「一緒に、いたくて・・・なのに・・・置いてかれそうで、・・・・・
怖かった・・・」
 ああ。
 そうなのだ。
 きっと、先走っていた自分。
 己の欲もさることながら、初心の龍斗を自分が導いてやるのだと。
 自覚のない、驕りのようなものが、きっと。
 龍斗に快楽を与えてやりたい気持ちの裏側にある、それを。
 敏感に、感じ取って彼は。
「・・・・・あかんなぁ、わいは・・・」
 龍斗の言う、余裕なんて。
 彼を前にすれば、無きに等しいものなのに。
「でも、な・・・・・ほれ、ここ」
 投げ出された龍斗の手を、そっと取って。手の平を、着物のはだけた
自分の胸元に、押し当てるようにすれば。
「な、・・・・・」
「・・・・・どや」
「・・・凄、い・・・早い、・・・・・ね」
 伝わる鼓動の早さに、龍斗はやや驚いたような視線を向けて。
「わいかて、・・・ドキドキや。好きで好きでしょうがない龍斗はんが
こんな近くにいて、こうして肌を触れ合わせてるんやから、・・・・・
ほんま、余裕なんてないけど・・・ガッついて、怖がらせとうないから
・・・・・せやけど、そういうもんでもないんやなぁ・・・」
 離しかけた身体を、ゆっくりとまた沈めて。真直ぐに自分を見上げて
来る濡れた宝玉に見愡れながら、睫毛を掠めるようにして額に口付けを
落とす。
「ただ、気持ち良うすればええ、だけやない・・・からな」
「ん・・・・・」
 目尻に溜まった涙を、そっと吸い上げ。零れた軌跡を辿りながら頬に、
そして唇に触れるだけの口付けを、して。
「好きやで、ほんま・・・・・好きで、どうしようもない」
「俺も、お前が好きだよ・・・・・だから、ね」

   一緒に

「・・・・・きて、・・・お前が欲しいよ、們天丸」
「わいも、・・・・・欲しい」
 熱く囁いて、浮かべた笑みの。その、あからさまな欲を敷いた雄の貌
に、龍斗は身体の芯が疼き震えるのを感じる。
 恐怖では、ない。
 この男が欲しいのだと、心も身体も訴え求めていた。
 ゆっくりと背に回した腕が、引き寄せるままに掛かる重みに、触れる
肌の熱さに、自分でも驚く程昂りを覚えて。
 強請れば、降りて来る唇を夢中で合わせ、貪って。
 いつしか下肢を辿り始めた手の動きに、溜め息ともつかぬ喘ぎを漏ら
して、無意識に腰を揺らせば。
 そろりと圧し当てられる、熱いもの。
「龍斗、はん・・・・・」
 名を呼べば、欲に潤んだ瞳が們天丸を映して。
 フワリと微笑む唇が、吐息と共に囁く。
「・・・・・挿れ、て」
「ッ、堪らん・・・・・わ」
 その言葉だけで、達してしまいそうな程の、強い衝動。
 突き動かされるままに、丹念に解したそこに。
 待ちかねたように、震える蕾を拓いて。
 己を、埋め込む。
「あ、ああァ・・・ッい、・・・・・ん、ッ」
 散々指で慣らしていたとはいえ、始めて雄を迎え入れるそこは、狭く
仰け反る喉は掠れた悲鳴をあげるのに。それでも、額に頬に唇に。宥める
ように唇を押し当て、痛みに萎えかけた龍斗自身に手を添え、撫で上げて。
「もう、ちょっと・・・・・や」
 ヒクヒクと震えながら、時折柔らかく解ける内壁の隙をつくようにして
その、最奥。根元まで、飲み込ませて。
 拒むような、縋るようなきつい締め付けに、們天丸も痛みと目眩のする
ような快楽とを感じながら。強烈な射精感を散らすように、そろそろと
息を吐くと、固く目を閉じてしまった龍斗の顔を覗き込んで。
「・・・・・しんどい、か・・・?」
 汗で額に張り付いた前髪を梳きながら、そっと問えば。
 それを否定しようと、ゆるゆると首を降り。ゆっくりと開かれた瞳が
們天丸の隻眼と、かち合って。
 途端、頬が朱に染まり。
「・・・龍斗はん」
「ちょ、っと・・・痛いし、・・・恥ずかしい、けど・・・」
 そして。
 今まさに、花開くように。
 綺麗な、貌で。
「俺の中・・・們天丸が、いっぱいで・・・・・嬉しい」
 微笑う、から。
「・・・・・わいも、龍斗はんに全部受け入れて貰うて・・・嬉しい」
 愛おしさに、胸が詰まりそうで。
 しなやかな肢体を、きつく抱き締める。
「あ、ッ・・・」
 グ、と突き上げてしまう形になって、思わず龍斗が漏らした声は。
 微かな戸惑いと、滲む快楽の欠片。
「あァ、わいも・・・・・気持ちええで」
 零れた声の甘やかさに、困惑する龍斗に微笑みかけて。
「な、・・・一緒に、気持ち良うなろ・・・」
 そう、誘うように。
 ゆるりと、肉襞を擦りあげるようにして揺すれば。
「あ、ああッ・・・や、・・・・・ああ、ッん」
 じわじわと、広がる熱い感覚に。確かな、悦楽の響きに。
 共に、煽られて。
「ええで、・・・最高や・・・・・」
 その動きを、次第に早く激しいものに変えて。絡む粘膜を、思うまま
擦り上げ、退いてはまた捩じ込んで。
「ふ、ッ・・・あァ、ッ・・・ん、いい・・・あ、ァ」
 絶えまない喘ぎには、あからさまな欲と愉悦。
 しがみつき、背に立てられる爪の残す傷と痛みさえ、愛しい。
「も、・・・一緒、に・・・・・ッ」
「あァ、・・・・・一緒や、から・・・」
 ギリギリまで退いたそれを、一気に奥まで突き込む。
 一番深いところで迸り、その情欲の全てを余すところ無く注ぎ込んで。
 それとほぼ時を同じくして、最奥を穿たれた衝撃に、龍斗も達して。
 身体の内と外で、吐き出した互いの熱を分け合う。
「・・・・・ふ、・・・ッ」
 気だるげな身体を、重ねあったまま。
 乱れる呼吸も、どちらともなく重ねれば。
 まだ燻る熱が、若い雄を煽る。
「ま、た・・・大き・・・・・ッ」
 勢いを取り戻したそれを内に感じ、困ったように見上げれば。
 ややバツが悪そうな、それでも明るく笑う顔が龍斗をじっと見つめて。
「も一回、ええ?」
 一応お伺いは立ててくるものの、ここまで大きくしてしまっては、
どうしたって。
「・・・・・元気だね」
「そやかて、龍斗はんの中・・・ほんま、気持ちええもん」
「な、ッ・・・・・」
 恥ずかしげもなく言われて、言葉に詰まれば。
「安心、するし・・・・・」
 何処か、ホッとしたように。熱い腕に抱き締められ囁かれれば、龍斗
にしたって、どうしたってもう。
「・・・・・そうだね」
 ゆるりと、腕と。
 そして、脚を腰に絡めて。
「・・・・・ええの?」
「俺も、・・・・・欲しいの」
 そっと、強請れば。
 また勢いを増す、あからさまな欲。
「一緒、やな」
「そう、一緒・・・なんだよ」
 クスクスと笑い合う吐息が、また触れ重なりあって。
 混じりあって、ゆっくりと溶けていく。

 初めての、夜。
 ふたり、甘く溶けていく。





5回は確実です(何)。
以前書いた『初歩』の続きのようなカンジの
初々しいカップル(笑)な、們天丸と龍斗でv
初心の相手をリードする心構えはイイのですが
・・・・・初心だけに、色々と心の中は複雑で
あるのです・・・ええ。
カウンターキリ番30000のニアピンを踏んで
下さった、高瀬なす嬢のリクエスト物件♪
愛とエールを込めつつ、捧げますのvvv