『贖罪』



 想うことは、罪ですか?
 人を。
 愛することは。



「ーーーーーーーッ ! 」
 声にならぬ、悲鳴を。
 上げて、目を覚ます。
「・・・・あ、・・・・」
 じっとりと、全身に汗をかいて。
 それ、が。
 夢だと、分かっていたけれども。
 夢で、なければ。
 赦されぬ、それは。
「・・・・・また、懺悔をしなければなりませんね・・・」
 独り、呟いて。
 そろりと、布団から這い出る。
 身を浄めてから、とは思えど。
 早く。
 早く、この罪を。
 神に、と。
 手早く着替えだけをして、礼拝堂へと向かう。
 ひんやりと、清浄な空気が漂う、そこで。
 神の前に跪き。
 頭を垂れ、ひたすらに。
 罪を。
「・・・・・私は・・・」

 夢の、中で。
 あの美しい人を。
 
 汚しました。



 御神槌、と。
 名を呼んで、微笑む彼に。
 手を、伸ばして。
 頬に触れれば。
 しっとりと、滑らかなその感触に。
 それだけで、目眩すら感じて。
 両の手で、包み込めば。
 目を、閉じるのに。
 額に。
 そして、瞼に口付けて。
 御神槌、と。
 また、名を紡ぐ。
 その、美しい唇に。
 自分のそれを、そっと重ねれば。
 急速に高まる、熱。
 触れるだけだったものを、いつしか。
 舌先を薄く開いたそこから、忍び込ませて。
 探り当てた、舌を。
 夢中で追い、捕らえ。絡めて。
 息苦しさ故にしがみついてくる、身体を。
 抱くようにして、横たえた其処は。
 桜の。
 褥。
 何処からともなく舞い落ちる、花びらが。
 白い肌に。
 散って。
 それを辿るように、唇を這わせ。
 その度に震える身体を、開いて。
 花弁よりも濃い、紅を。
 幾つも、幾つも。
 首筋に。
 胸元に。
 そして、大腿の内側の敏感な皮膚へ。
 与える刺激に、そろりと勃ち上がった彼の欲望の証も。
 とても尊いもののようで。
 恭しく、口付けて。
 溢れる滴すらも。
 全て。

 御神槌、と。
 掠れた声で、呼ばれて。
 それを合図に。
 既に先走りに滑る、自身を。
 彼の純潔とも言える、そこに。
 宛てがって。
 禁断の扉を。
 じわりと、拓いていく。
 狭さに目の前が揺れるような、感覚。
 それでも、抵抗はなく。
 やがて、全てを収めてしまえば。
 あとは、もう。
 
 み、か、づ、ち
 
 請うような、その声に。
 誘われるままに。
 強烈な快楽を、ひたすらに貪って。
 
 ふと。
 クスクスと。
 笑いさざめく声に、顔を上げれば。
 恐ろしく、艶めいた貌で。
 微笑む、彼が。

 ねぇ、御神槌
 知ってるよ
 ずっと、お前は
 涼しい顔をして
 心の中で
 俺を
 犯し続けていた


「・・・・・・ッ」
 いつも
 そこで、目が覚める。
 快楽と畏怖に。
 身を震わせて。

 ああ、神は。
 この魂を、赦して下さるのでしょうか。
 この狂おしい想いを。
 捨てることすら、出来ない。
 私を。

「龍斗、さん・・・・」
 名を呼ぶことすら。
 もしかしたら。
 罪なのかも、しれないのに。


「・・・・・御神槌」
「・・・・・ッ!?」
 ここに。
 いるはずの、ない。
 聞こえるはずのない、それは。
「・・・・・俺を、呼んだ・・・ね」
 驚愕に震えながら、振り返れば。
 果たして、そこには。
 彼の。
 夜着のままの。姿が。
「・・・・・こ、ないで・・・下さい・・」
 祈るように。
「私は・・・・ッ貴方を・・・・・」
 どうか。
 この醜い欲望を。
 神よりも。
 きっと、貴方に。
「貴方を・・・・愛している、から・・・・・ッ」
 これ以上。
 汚すことなど。
「・・・・・綺麗なものばかりじゃないよ」
 声は。
 降り注ぐ、ように。
「愛することは・・・・・美しいことばかりじゃ、ないよ」

 だから
 人、は
 人、なんだと
 
「お前が思ってるほど・・・・・俺は、綺麗じゃないし」
 ふと、遠い目をして。
 ゆるりと、首を振って。
「神に祈れば、全ての汚れが消えるなんて、思わない」
 見つめる瞳は。
 どうして。
 そんな、切なげに。
「・・・・・お前は、何を悔いているの・・・?」
 揺れて。
「貴方、を・・・・夢の中とはいえ、貴方を・・・陵辱、した」
「・・・・・」
「それ、は・・・・・罪ではないのですか・・・?」
 泣きたいのは。
 むしろ。
「想いは、・・・・・誰にも裁けないよ」
「・・・ッ」
「俺を、・・・・・愛してると言ったことを・・・その気持ちを
誰が裁くの・・・・?」
 神、に。
 裁けぬと言うのなら。
「・・・貴方、が」
 どうか。
「貴方が・・・・・私を、裁いて下さい」
 その権利は。
 ある、はずだから。
「・・・・・罰を、与えろと?」
「はい・・・・・貴方の、手で」
 愛しい者の手で。
 この、罪を。
「・・・・・覚悟は、出来てるんだ?」
 購うことが。
 ああ、今すぐ私を。
 貴方自身が。
「・・・・・ここ、へ」
 呼ばれて。
 ゆっくりと立ち上がり、彼の。
 元へ。
 その前に、立てば。
「・・・・・ここ、で」
「ッ・・・・・」
 そろりと、持ち上げられた腕が。
 背に。
 回されて。
「・・・・た、・・・・・」
 耳元で。
 囁かれた、それは。

 今、ここで。
 俺を、抱け。

 決して。
 逃れることの出来ない。
「・・・・・・それ、が」

 私への。
 貴方が、くれた。

「・・・・・そして、俺の想いを知ると良い」

 ならば。
 もう。

「御神槌」

 呼ばれる、声。
 それに、導かれるままに。

 彼、を。
 汚すのでは、なく。

 愛する、ために。
 私は。

 その唇に。
 貴方、に。
 誓いを。





御神槌、御誕生日おめでとうッ(愛)!!
ナニやら苦悩ばかりですが、でも一応両想い、の
ハズです(笑)。ええ、そうなんです。
宗教上、男とヤっちゃアカンらしいですが、
でも好きになったもんは・・・ねぇ。
求めるものは、快楽だけではナイはずなのです。
安らぎや、沢山の暖かいもの。
綺麗なコトばかりじゃないのは、異性間でも一緒。