『煽情』



 足元に脱ぎ捨てられた、衣服。
 それを、一瞥し。
「・・・・・何をしている」
「見て分からない?」
 僅かに眉を顰め、問いかければ。
 パシャリと、水しぶきが暮れかけた陽に散って。
 濡れそぼった前髪の間から覗く、黒い瞳が。
 可笑しそうに、見上げて来るのに。
「・・・・・水遊び、だとでも」
「そうだよ」
 今日は、天気も良く暖かな気候であったけれども。
 滝から落ちる水は、真夏であれど冷たい。
 間もなく陽が落ちてしまえば、山の気温は一気に
下がる。
 まさか、という思いで口にすれば。
 あっさりと、肯定されて。
「・・・・・龍」
 やや、咎める口調で。
 名を呼べば。
 相変わらず、楽しげな笑みを浮かべたままで。
「さっきまで、鍛練してたから汗かいちゃって・・・
それに何だか、誘われてるみたいでさ」

   水、に

「何、・・・・・」
 『水』という言葉に。
 ふと過った、男の涼しげな貌に。
 眉を顰めれば。
「・・・・・気持ち、良いよ・・・」
 肩口まで、水に身を沈めて。
 己を、抱くようにして。
 うっとりと。
 目を閉じ、呟くのに。
「・・・・・ッ」
 恍惚とした表情に。
 目を奪われながらも。
 チリリと。
 胸を、焦がすのは。
「・・・・・霜葉」
 知らず、村正の柄を握ろうとしていた手を。
 ハッと、押しとどめて。
 見遣れば、ゆるりと立ち上がって。
 裸の上体を、晒し。
 こちらに、手を差し伸べる、ものだから。
「・・・・・全く・・・」
 そろそろ身体も冷えてきたのだろうと。
 手を取り、引き上げようと。
 した、のに。
「ふふッ」
「な、ッ・・・・・・」
 掴んだ、その手を。
 不意に。
 引かれて。
 グラリと傾いた身体は、そのまま。
「ッ・・・・・」
 派手な水しぶきを立てて。
 冷たい、水の中へと。
「・・・・・ッ龍 ! 」
 底は浅く、溺れる事はないものの。
 ろくに受け身も取れずに落ちてしまったから、全身ずぶ濡れ
の有り様で。
 水の滴る頭を、軽く振り。
 この事態の張本人を、睨み付ければ。
「・・・・・ふふ」
 濡れた頬を、拭うように。
 手、が。
 そろりと触れ。
「今、何考えた・・・・・?」
 冷えきった指先の、その感触に。
 否。
 この、ゾクリと背を駆け上がったものの正体は。
「『水』、だから・・・・・奈涸?」
 濡れた髪から、唇に伝う水滴を。
 ペロリと。
 紅い舌が、舐め取るのを。
 半ば、呆然と眺めながら。
「奈涸、か・・・・・あいつに抱かれたら・・・やっぱり、
こんなに気持ち良いのかな」
「・・・ッ」
「ねぇ、霜・・・・・ッ」
 クスクスと、笑いを零す。
 ゆるりと弧を描く、濡れた唇を。
 噛み付く、ように。
 奪い。
 反射的に、逃げようとする身体を抱き寄せ。
 深く重ねたそこから、忍び込ませた舌でもって。
 息を、奪い尽くす程に。
 上顎を辿り、冷たい唇とは裏腹に熱く濡れた舌を、絡め。
 思うまま、貪って。
「ふ、ッ・・・・・」
 やがて、ゆっくりと応え始めたそれを、躱すように。
 唇を離し。
 顎を捕らえ、顔を覗き込めば。
 欲に。
 染まった、瞳が。
 やはり、うっすらと。
 笑んで。
「・・・・・霜葉の、その目・・・」
 スルリと。
 しなやかな腕が、首に回されて。
「冷たくて、・・・でも・・・燃えるみたいに・・・ねぇ、
それは誰のもの・・・・・?」
 いつの間に。
 胸元で結んでいた紐を解かれていたのだろう。
 背の刀が、その戒めの鎖の硬質な音を響かせて。
 脱ぎ捨てられた、龍斗の着物の傍らに。
 放り出されて。
「・・・ッ龍・・・・・」
「これ、は・・・・・この熱は、誰のもの・・・?」
 擦り寄せられる、肢体に。
 滑らかな、肌に。
 艶めいた、光を帯びて誘う、瞳に。
 いつしか昂らせていた、ものを。
「・・・・・霜葉」
 押し付ける、ように。
 一糸纏わぬ身体を、かき抱き。
 冷えた、肌を。
 熱をもった、手が辿り。
 それ、を。
 分け与えるように。
 そして、新たな熱を。
 引き出す、ように。
「あ、ッ・・・・・」
 白く、透き通るような首筋の皮膚に。
 噛み付くように、口付けを与え。
 きつく、吸い。
 幾つも幾つも。
 紅い、印を刻めば。
 それを、待ち望んでいたように。
 甘い、吐息が。
 零れ。
 更に、雄を煽るから。
 後孔を慣らす動きも、おざなりに指を引き抜き。
 立ったまま、両足を抱え上げるように己の腰に回させて。
 持ち上げた、身体を。
 既に漲らせていた、欲の証へと。
 ゆっくりと、下ろして。
「ッそう、は・・・ァ・・・ッ」
 纏う、冷水に。
 震え、閉ざそうとする蕾を。
 強引に、圧し開き。
 捩じ込む、ように。
「や、あァッ・・・あああ・・・ッ」
 突き入れ。
 衝撃に慣れるのも待たずに、奥まで。
 押し進め、収めてしまえば。
 着衣のままの霜葉の背に縋り付く、手が。
 ギリリと爪を立て。
 白い、羽織に。
 ゆっくりと、朱を染めあげる。
「・・・・・お前の、ものだ・・・」
 背に走る痛みに、一瞬眉を顰めたものの。
 細腰を掴む手は、力を緩める事無く。
 揺さぶり。
 自らも、突き上げながら。
 探り当てた、龍斗の快楽の源を擦り上げ。
 締め付けに、自身も愉悦に酔いしれて。
「これ、は・・・お前のものだ・・・龍、・・・お前が
お前だけが、俺を・・・・・」
 悦ばせる、のも。
 狂わせる、のも。
 全て。
「んッ・・・あ、ァ・・・ん・・・ふ、霜葉ァ・・・ッ」
「それを、・・・・・知っていて、煽ったな・・・」
「・・・ちが、ッ・・・・・ああ、んッ・・・」
「・・・・・お前だけ、なのだから・・・な・・・・・
この責任は、取って貰うぞ・・・龍」
「ひ、ァ・・・・・ッん」
 グ、と。
 抱え上げた身体を落とすようにして、最奥を抉り、
そこに激しく迸れば。
 仰け反り、一層高い嬌声を上げながら。
 霜葉との間に挟まれ、固く勃ち上がっていたものを。
 解放させ、そのまま。
 絶頂の余韻に、身を小刻みに震わせ。
 ゆっくりと、意識を闇に沈めようとする、のを。
「は、ぅ・・・・・ッん」
 一度放っても尚、その屹立を留めた霜葉自身が。
 感度を増した内壁を、擦りあげるのに。
 一気に引き戻された意識で、男を仰ぎ見れば。
「全部、お前のものだと言っただろう・・・?」
 だから。
 全て。
 受け止めて、くれねばと。
「・・・・・霜、葉・・・ッ」
 囁いて。
 微笑む、貌は。
 紛れもなく。
 愛しいものを抱く、歓びに。
 尚も貪欲に求める、飢えに。
 支配された。
 男のもので。
「・・・・・ふ、ッん・・・」
 落とされる口付けを受け入れ、吐息を分け合いながら。
 うっすらと。
 笑みを。
 浮かべた、のは。

「・・・・・全部」

 自分のもの、だと。
 嬉しげに。
 背に腕を回して。
 顔を埋めた、首筋に。
 そっと。
 歯を立てた。




・・・えきべん・・・・・(目線逸らし)。
誘い受けモード全開の、ひーたんと
ちょこりとジェラシーな絶倫・霜葉(待て)。
・・・・・誰かに覗かれてても文句は言えまい(誰)。
っつーか、風邪ひく前に、お家に帰りましょうネ(爽笑)♪