「逢瀬」

 
 
  
 京梧が馴染みの蕎麦を出た頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
「やっぱり蕎麦はここのが一番だな」
 満足げに呟き、腹ごなしにと道を漫ろ歩く。
 暫く行ったところで、一人の男が柳の木に寄りかかっているのに気付いた。
 
 闇の中に白く浮かび上がる細い姿は、妙に儚げで現実感が無い。
 かといって、鬼や妖怪の類とも違う。
 
 興味をそそられて、京梧は思わず足を止める。
 
 男が顔を上げ、長い前髪越しに鋭い視線が京梧を射抜いた。
 夜の闇のように黒く、深い瞳。
 
(ん・・・?確か、あいつは―――)
 
 先日、王子稲荷で会った男だ。
 九桐とかいう風変わりな破戒僧と一緒にいたのを覚えている。
 確か、名は。
 
(―――緋勇龍斗、と言ったか・・・)
 
 その男―――緋勇は身動ぎもせず、じっと京梧を見ている。
 敵意は無いようだが、その瞳からは感情を読み取ることが難しかった。
 
(―――俺に、何か用でもあるのか?)
 京梧が自分から声をかけようとした、そのとき。
 
「蓬莱寺」
 緋勇が口を開いた。
 柔らかい、しかし感情を表に出さない声。
 
 その唇から発せられた名前に、微かに覚える違和感。
 ―――よそよそしい―――。
(―――?)
 
 彼と会うのは2回目の筈だ。
 何故、よそよそしいなどと思ったのか。
 
「ちょっと―――付き合ってよ」
 抑揚を抑えた声。
 返事を待たず、くるりと背を向け歩き始める。
「―――あ、おい。・・・ま、いっか」
 京梧はぼりぼりと頭を掻き、小さく肩を竦めて、それからその後を追った。
 
 
 
 何故、自分がここにいるのかわからなかった。
 京梧がいるのは、茶屋の一室。
 小さな行灯が照らす薄暗い部屋には、一組の薄い布団の他には家具らしい家具もない。
 緋勇は窓枠に腰掛け、無言で外の景色を眺めている。
 そんな彼の横顔を眺めながら、京梧は先刻のやり取りを思い出していた。
 
  緋勇が足を止めたのは、一軒の茶屋の前だった。
 「ここは―――」
  その意図に驚いた京梧が思わず呟く。
 「こういうのは、嫌いか?」
  尋ねられ、嫌悪感がないことに京梧は驚いた。
 「―――いや・・・」
  ただ、男は経験がないので戸惑っているのだと告げると、相手は微かに笑った。
  馬鹿にしたような笑いではなく、どこか寂しい微笑み。
  京梧の胸が、何故かツキンと痛んだ。
 「やっぱり・・・覚えてないんだ・・・」
 「―――何?」
  聞き取れずに聞き返したが、緋勇は視線を逸らしてしまった。
 「何でもない。―――こっちだ」
 
  ―――あの微笑みが、先程からずっと引っ掛かっている。
 
 
「緋勇」
 戸惑いがちに声をかけると、緋勇の肩が揺れた。
「やっぱり・・・やめておく?迷惑、だったよな」
「いや―――そうじゃねぇが・・・」
「―――良かった」
 ゆっくりと振り返った緋勇に、京梧は思わず息を呑んだ。
 
 濡れたように煌く、黒い瞳。
 艶やかに光る、異様に紅い唇。
 それは、先程までとはまるで別人のような妖しい光を放っていた。
 どんな男の情欲をも掻き立てずにはいられないような、強烈な色香。
 
 するりと身を滑らせて、彼は京梧の首に腕を回した。
「お、おい・・・」
「黙って」
 重なってくる唇は甘く、拒むことができなかった。
 唇の隙間から忍び込む舌が、歯茎の裏をなぞる。
 舌を軽く噛まれ、強く吸われ、弄ばれて背筋に甘い痺れが走る。
「―――っ」
 思うさま貪られた後で、漸く離れた唇が、透明な細い糸を引いた。
 
 
 緋勇は、巧みだった。
 舌と指を駆使して、的確に京梧の良い場所を探り当てては、煽る。
 硬く屹立した京梧自身を手で優しく撫で、扱き、口に含む。
「―――うっ」
 強く吸われて、京梧の眉根がきつく寄せられた。
 反応を確かめながら、緋勇は京梧を次第に高みへと追い上げて行く。
 その一方で、空いた手を伸ばして、自分自身を慰め始める。
「―――はっ・・・あ」
 唇で深々と京梧を捉えながら、腰を揺らして自慰に耽る―――その、痴態。

 皮膚から、目から、耳から。
 あらゆる感覚器官から、流れ込む淫らな刺激。
 
「―――くっ」
 突き上げてくる解放への衝動を、京梧は天井を仰いで堪えた。
 
 
「う―――あ・・・ああっ」
 突然、悲鳴に近い声を上げて緋勇が唇を離した。
 一瞬動きが止まり、次の瞬間、迸り出た精が布団の上にぽたぽたと零れた。
「―――っ」
 肩で荒く息をつき、呆然と自分の濡れた手を見つめる緋勇。
 憑き物が落ちたかのように表情が変化し、不自然な妖艶さは消え失せていた。
「お―――俺っ・・・」
 みるみる羞恥に顔を染め、怯えたように布団の上で後ずさる。
「―――!」
 その様子に、京梧の中に芽生えた新たな感情。
 ―――先程までの単なる欲望とは違う、もっと温かくて嬉しくなるような、何か。
 京梧は素早く起き上がると、白い腕を捕らえて引き寄せ、身体の下に相手を組み敷いた。
「―――あ・・・」
 見上げる黒い瞳に滲む、驚きと怯えの色。
(―――綺麗な色だ・・・)
 それが「愛しい」という感情だと気付かないまま、京梧は緋勇の首筋に唇を近づけた。
 
 
 薄暗い行灯の灯りに、白い肌が光る。
 一糸纏わぬ姿で横たえられた緋勇が、火照る身体を持て余して身動ぎする。
 先程から、指一本触れることなく、ただ見下ろされているのだ。
 羞恥に瞼を閉じても、ちくちくと刺さるような視線を感じる。
 
 痛い。
 熱い。
 そして―――。
 
 長い睫毛が揺れ、黒い瞳が不安そうに京梧を見上げた。
「―――」
 何かをねだるように、唇が微かに動く。
 ふっ、と優しく微笑みかけて、京梧はそっと心臓の上に指を這わせた。
「―――あっ」
 軽く触れただけで、全身が過剰なくらい反応する。
 肌触りを確かめるようにゆっくり指が動くと、時折、押し殺した悲鳴が漏れる。
「―――いやぁ・・・っ!」
 胸の飾りに触れると、しなやかな身体が海老のように跳ねた。
 
 
 散々嬲られ、翻弄されて、緋勇は荒い息をついていた。
 ぎりぎりまで張り詰めた自身の先端から、透明な液が涙のように零れ落ちる。
「も、もう―――」
 切羽詰った声で限界を伝え、緋勇は強引に身体を離した。
 京梧の上に跨り、その屹立を自らの秘所に導くと、少しずつ体重をかけて身を沈める。
「―――はっ・・・」
 眉を寄せ、息を吐きながら徐々に京梧を飲み込んでいく。
「くっ・・・」
 きつい締め付けに、京梧の唇からも声が漏れた。
 
「んっ―――ふぅ・・・」
 根元まで飲み込むと、緩やかに腰を動かし始める。
「ふっ・・・」
 ゆっくり、焦らすように揺れる腰。
 しばらくその動きに任せていた京梧だったが、突然両手で腰を捕まえると、激しく突き上げた。
「あっ」
 突然のことに、緋勇が支えを失い京梧の上に崩れ落ちた。
 それを抱き寄せ、くるりと向きを変えて布団に縫い付ける。
 そのまま脚を高く抱えて、京梧は衝動のままに激しく責め始めた。
「あっ―――ああ・・・っ」
 緋勇の唇から、せわしなく喘ぎ声が紡ぎ出される。 
 
「―――イク、ぜ」
「あ―――あ―――あ・・・」
 限界まで追い詰められ、責めたてられて。
 きつく閉じた緋勇の目尻から、喜悦の涙が零れた。
 
 そして。
 
   
「・・・京梧・・・っ」
 
 堕ちる瞬間、唇から、掠れた声が漏れた。
 
 
 
 小さな窓から差し込む朝陽で、京梧は目が覚めた。
(一体、あれは―――)
 夢だったのかと疑いながら身体を起こす。
 部屋の中には緋勇の姿は無く、昨夜の痕跡は何一つ残っていない。
 ただ一人、きちんと敷かれた布団で寝ていただけのようだった。
 
 ―――本当に、夢だったのだろうか。
 思わずそう疑うほど、表情も、肌の感触も曖昧で、はっきり思い出せない。
 ただ。
 
(京梧)
 一度だけ、呼ばれた、名前。
 ―――それだけが、妙に鮮明だった。
 
 
 ふと、枕もとの小さな包みに気付いた。
 手に取り、開けると、中から出てきたのは―――。
 
(―――団子の串?)
 それが何を意味するのか、今の京梧には全くわからなかった。
 
(緋勇龍斗―――か)
 変わった奴だ。
 まだ数回しか会っていない筈なのに、気になって仕方がない。
 謎めいていて、得体の知れないところがあって・・・。
 
(―――そのうち、また会うこともあるだろう)
 また、必ず会える。
 何故か、そう確信していた。
 わからないことは、そのときに聞けばいい。
 京梧は、その串を丁寧に包み直すと懐にしまった。
 
 −終−
 


 


えー、わかりづらいので少し補足を。陽→陰で再会した直後の話です。
龍斗は前の記憶があるけれど、京梧は記憶リセットされた状態。
京梧、ひーたんの虜になったようです(笑)相性良かったらしい…ってアンタ(^^;
大変遅くなりましたが、キリ番10000GETの浅生霞月様に捧げます〜。
リクの「エロエロv」ではなく「小エロ」くらいにしかならず申し訳ないのですが、
今はコレが精一杯(殴)



弘樹さんーーーーーーーーーvvvvvvvvvvvv
京梧主です!!エロですーーーーーッvvvvv
弘樹さん宅のキリ番10000を踏ませて頂いた
時の、リクエスト物件を頂戴しましたv
・・・・・ひーたん・・・vvv大事に持ってた
のね、あの串・・・あああンv
後々のラヴっプリを期待させてくれるステキSS
なのです・・・ッ有難うございました!!!!